69話 仕上げ(5)
私は命令をかける。
「戦闘準備。駆け足始め。」
命令をかけてから少し迂闊だった後悔する。もしかしたら道の左右に敵兵が潜んでいるかもしれないことを考慮せずに命令を出してしまった。もちろんしっかりと偵察の兵がいないことを確認しているとは言え、敵の潜伏がうまい場合偵察の兵がきずかない可能性がある。しかしここで一度出した命令を翻せば将として信頼されなくなってしまう。もちろん我が家の軍だけならばそんなことは気にする必要はないのだがこれは合同軍である。今までのようにはいかない。ならば我が家の軍だけでも左右の警戒に当たらせよう。私は左右に控えている偵察から戻ってきている兵に指示を出す。
「お前たちは敵とぶつかり合っても私の元を離れるな。」
いざという時はこの兵たちで伏兵の攻撃は食い止める。敵の軍が近づてきて来る。この勢いでぶつかれば前にいる志願兵の部隊は壊滅するだろう。仕方ない。最初の報告を受けてから200メートルほどの場所で敵にぶつかる。正面からの単純な力の押し合いが始まる。私が命令を出すまでもなく、盗賊たちは自分たちの中の上役が指示を出している。さすが元傭兵だ。動きは文句のないものだ。敵はしばらくすると敗走を始める。私は伏兵を警戒し深追いをせぬように止める。しかし興奮状態にある兵達には命令が届かない。仕方ないから後ろから志願兵たちを呼び寄せる。ほんとは私の兵だけで何とかしたかったが念のためにすぐに使える兵力を増やす。しかしその間に前の兵たちとかなりの距離ができる。しかし詰めないでいい。前の部隊が何かあったときに我々が巻き込まれないようにするためである。前の部隊より少し遅いくらいで行軍する。本当は同じくらいの速度で動きたいのだが志願兵がその動きについていけない。しばらくの間、敵は退却したりとどまったりしたりする。最初の衝突から500メートル進んだ場所あたりで敵の伏兵がついに現れる。予想通りだ。しかし残念ながら予想していながら前の部隊に何も準備させていない。だから前の部隊は総崩れしかける。ただ後ろにいる私の部隊がしばらくすると支えに入る。囲まれてしまった味方を救出に行く。その間は志願兵によって総崩れしないようにする。しかしどんどん志願兵はやられていく。やはり志願兵は頭数だけか。盗賊を救い出すと志願兵の近くに下がる。さらにそのまま部隊を全部後ろに下がる。しかし頭数だけを多くそろえたので指示が通りづらく引き下げるのに苦労する。何とか敵と距離を置く。敵の数は伏兵の分、増えたはずなのに最初よりも減った気がする。どうやら盗賊の部隊がとんでもない数を殺して回ったのだろう。しかしその盗賊たちもかなり死んでいる。私は盗賊たちが思ったよりも弱かったことに軽い失望を覚えつつ、後ろの志願兵の陣を整える。さらに伏兵をもう出し切ったのだからもう一回伏兵が出てくる可能性を完全に排除し、志願兵を完全に盗賊の後ろにくっつける。こうすることで盗賊は後ろに下がることができなくなり、より強い力を発揮できるようになる。そしてもう一度力任せに攻め込む。小細工の可能性を完全に捨てきった今はまっすぐにただ愚直に進むだけでよい。もともと私の軍の力に怯えて傘下に下ってきただけの奴らなど殺してしまいたいくらいなのだ。だからここでなんの疑問も抱かせず先鋒として消耗しつくしてしまえばよい。そして私の考えどうりついに前の盗賊たちは味方と敵の間に挟まれ前に行くことしかできず全滅に近い状態になる。その時にようやく私は直属の部下たちに指示を出し戦闘を始めさせる。しばらくの間は敵の兵の疲れているのに対して私の兵は温存されていたため簡単に進む。そのまま勢いに乗った先鋭達が敵軍を破り散らかす。敵は一斉に逃げ始める。私はすぐに自分の軍を引き下げ一つに小さく固め、後ろにいる志願兵を前に出す。そしてそいつらに追撃戦を任せる。




