65話 仕上げ
私は首都占領まであと一息のところまで来ている。もともとは大きく分けて三つの勢力に分かれていたこの土地ついに一つの勢力を壊滅させ自分たちの地位を築き上げ、さらにもう一つの勢力も崩壊に追い込み、最後の一つを弱体化させていっているのだ。別に弱体化といっても私が直接何か手を下しているわけではない。何もせずとも裏切りなどによって最後の一つの勢力が弱まり、そしてその勢力を吸収しているだけだ。これが時世の勢いというものであろう。私の軍によって今まで拮抗状態にあった勢力図を書き換えてきたのだ。しかしもともと私の直属の部下であった一団を除いて他は面従腹背である。だからこちらについているのはいいがいざという時に頼れるかというとかなり怪しい。もちろん中には黒田のようにもともとが自警団なのでここらをまともに支配できている間は裏切る可能性が低いものもいる。しかしそうでない勢力のほうが多い。そうではない勢力とは盗賊団や身元の分からない自称傭兵集団などだ。そういった者たちは怖い。
私の勢力に少しでも陰りがあればすぐに裏切る。もちろんそれを承知でこちら側に引き入れている。しかしここらで私の力強さを見せつけなければならない。
「中野と黒田を呼べ。」
私は近くで控えているものに向かい言った。すぐにその兵は命令を復唱する。そして自分で伝令に向かった。現在、中野と黒田は先の戦いの戦功で私が持っている砦のうち、最初に奪ったほうの砦付近の支配を任せている。なので連絡を取るのにもこのようにいちいち手のかかることをしなければならない。しかしあちこちの勢力が裏切ってくれたおかげや支配地のいくつかを捨てたおかげで小さい飛び地はなくなり領土は町の真ん中に敵地を残すだけであとは完全に繋がった。しかし広い町の上に治安が悪いところのほうが多いくらいなのだから連絡を取るのに町の反対から人を呼び寄せるのに時間がかかる。結局はその日中には黒田も中野も到着せず次の日の正午になるまでやってこなかった。
私は黒田と中野が到着すると少し広い部屋に通した。私は言った。
「中野、部屋の鍵を閉めろ。軍議をやる。」
中野が鍵を閉め、私の座っている机の前に立つ。中野が動き終わったのを見て話は始める。
「よく来てくれた。今回は最後の敵である王宮内に居残る敵に対して軍事作戦を行う予定だ。お前達二人を呼んだのにはこの作戦の立案を二人でやってほしいからだ。」
中野が答える。
「分かりました。しかし二人でというのはどういうことでしょうか。岩田様は立案に関わらないつもりでしょうか。」
「違う。二入が立てたものを修正する。しかし私抜きで今後軍事作戦を遂行しなければならないときに備えて大本はお前たちで作ってもらう。」
今度は黒田が言う。
「私はこの軍に付き従い続ける気はありません。」
私は話を遮るようにして言う。
「かまわない。中野の補助のために必要だ。私も中野ももともとはここらの人間ではない。だからこそ土地の事情に精通したものが必要だ。そのためにお前を呼んだ。」
「分かりました。」
ここまで私が言うと中野は切り替えが早く、作戦を立て始める。二時間後何とか作戦の骨となる部分ができ始めた。しかしここからが長いのである。別に中野が悪いわけではない。大骨を作った後にそれを成功させるのにはとてつもない量の小骨を作らなければいけないのだ。簡単に言うと作戦に支障が出るようなことが起きた場合どのように対処するのか、もしくはそもそもそれを織り込み済みの作戦にするためにはどうするのかといったことを考えていくのだ。対応が甘いところは私が指摘し、さらに黒田の知っている情報を聞いたり実際に兵に偵察に行かせたりして情報を集めてから考えさせる。このようなことを繰り返しているうちに3日ほど過ぎ去った。そしてついにその作業が終わった。そして中野がうれしそうな顔をしていった。
「ついにすべて終わりましたね、岩田様。」
「いや、まだ終わっていないぞ。ここからそれぞれの特性を踏まえたうえで誰をどこの部分に当てるのかを決めなければならない。」
中野の笑みが消え去った。同時に黒田がこれ以上の質問は勘弁してくれと露骨な表情で表した。それを見て私は言った。
「ここが作戦立案の中で一番大切な場所だぞ。人選を間違えると作戦はうまくいかない」




