57話 潜入(4)
僕が一言いいきるとゆっくと吉田がほかの男たちを見回す。ほかの男はなにも反応しない。そしてしばらくして吉田が男たちの顔を見ていった。
「合格でよいかな。」
「はい。」
周りにいた男たちが答える。僕は少し間をおいてだが状況が読めてくる。しかし完全にわかる前に吉田が話し始める。
「佐藤、今日から俺につかえろ。その知能と心意気を買った。俺の本当の名は藤田 悠希だ。元清国皇帝という肩書もある。これから俺は大規模な農民反乱を起こしここらに新たな国を打ち立てる。お前にはその時に法律に関する役所を担ってほしい。後ろにいる者たちはすべてそれぞれの専門を持っている。そこらの領主の正規の兵にも負けないような兵もいる。あとは決起の時をうかがいながら待つだけだ。」
そういうと僕のほうを問題ないかという風に見る。その視線に気づき僕は答える。
「問題ありません。私は私の力を発揮させてくれる主人のもとにつかえることを夢としています藤田様、あなたのことを見込み私はあなたにつかえるにします。」
「そうか。」
吉田、いや藤田は満足そうにそういうと今度は後ろの男たちに向かい言った。
「すまんが俺は昨日のことやら今日のことやらで疲れ切ってしまった。夜で休ませてもらう。その間にお前は佐藤に現状を説明してやってくれ。」
そう言い残すと藤田は去っていった。
俺は兵に諸々を頼んでから5日目、古参の兵に頼んでいた大麻草を受け取ると食事を用意しそのまま城の地下にある牢獄に行く。今ではここの牢獄は使われていない。昔はここに敵の捕虜などを捕まえ入れていたらしいが長い平和の間に捕虜がいないので使わなかったり、牢獄の老朽化が進んだり、そもそも城が使われなくなったりといろいろな理由で人から忘れられている。かくいう俺もこないだ城を守るにあたり、遠藤と見取り図を改めて見直してみたところ地下牢があり二人で驚いたものだ。しかしそのおかげで人に言えないようなことや人が来ると邪魔になるようなことをやるにはもってこいという訳だ。俺は地下牢に行きその奥に入っていく。地下牢の真ん中あたりにある座敷牢の中には一人の男が胡坐をかきながら座っている。その男は俺がきても構わずに同じ体制を崩さない。俺は話しかける。
「すいませんね。こんなところしか用意できなくて。本来ならもっといい部屋を与えたいのですがあなたが死にたがるのでここしか用意できなかったんですよ。」
そういいながら俺はこいつの口に食べ物を流し込む。とは言っても食べ物の量も生きるのに最小限の量だ。この男は俺の師匠の助手をしていたあの男である。しばらく食事をさせるのに翻弄しそれからすべて流し込み切ると口に布をかませる。舌を切って死なないようにだ。それから俺は帰るふりをする。座敷牢から出てしばらく歩くと俺は持ってきた大麻草に火をつける。そしてぎりぎり座敷牢の中に匂いが届く位置に置くと俺はすぐに地下牢の中から出る。この行動を毎日繰り返す。それから5日たつ。師匠の声に似たものを連れて兵が帰ってくる。俺はその兵とその声の持ち主、さらに大戦の生き残りの兵をすべて集める。そして計画の内容を伝える。
私があの作戦を終了させてから、三週間が経過した兵たちを一人づつ私の部屋に呼んだ。しかしその配慮の必要はなかったようで結局のところ兵たちはこの仕事をしてくれるといってくれた。そう決まると私はすぐに兵たちに小刀など屋内用の武器の扱いを教える。とはいえ私自身そこまで詳しいわけではないのである程度まで教えたらあとは独学になるだろう。
私はこの三週間にやったことは隣の領主と協定を結んだことである。隣の領主とは私たちが殺した領主の後釜という意味である。協定の内容は私の軍を向こう側の領土を通過させる代わりに、関税をかけないで貿易をすることである。向こう側の思惑としては食糧を大量にこの支配地に輸出し我々の胃袋を抑えることでこちら側を裏から操ろうという魂胆だろう。
今回は少し長くなってしまいました。




