54話 潜入
僕は使用人のような男の後ろを歩きながら建物の中の様子を見て回る。建物の中は戦に耐えられるような構造になってはいない。外見を見たときはまだ準備が終わってないだけだと思っていたが今、歩いていると実際はそこまで暗殺を恐れていないだけの気がする。そんなことを言っていると部屋の中で二人の男が話し合っている声が聞こえる。使用人がその前で止まり戸を叩く。すると中が静かになり中から男が一人出てくる。その男は僕のほうを向いて声をかけてきた。
「どうぞ中に入ってください。奥にいるのがこの屋敷の主人です。どうぞごゆっくりしていってください。」
そういうと部屋の隅のほうに行った。先ほどの使用人は音もなくどこかに去っていた。さっきまでは考え事をしていたせいで気がつかなかったがあの使用人は腕が立つ。今、部屋の隅に向かった男は先ほどの使用人ほどではないが僕よりも強い。たぶん大野よりも強いだろう。動きが完全に武術をおこなっているものの動きだ。さっき暗殺に警戒していないと感じたが完全に間違っている。暗殺を警戒していないのではなくここにいる人だけで防げると思っているのだ。実際にそれは間違いではないだろう。向こうにいる男が話しかけてくる。
「私の名前は吉田 耕司だ。旅のもの名前は何という。」
「佐藤 太一というものです。ここより北東に行ったところにある小さな城の城下町にて塾を開いています。」
さらに向こうが質問を続ける。
「ここには何をしに来た。とても観光目的で来るような場所ではないしこのご時世だ。ふらふらと渡り歩く時世ではないだろう。」
僕は間髪を入れずに返す。
「塾といっても確かに平時は子供に字を教えたりしていますが年に一度ほど城に招かれ城主に政治について教えています。ですが今の状況は平時と大きく変わってしまったため書物だけで学んだ自分の知識に自信がなくなり勉強のために各地を回っています。」
向こうが言う。
「そうか。どのくらい諸国を回っている。」
「そろそろ半年になるころです。」
「そうか。しばらくゆっくりとして言ってくれ。明日もう少し話しが聞きたい。」
そういうと後ろにいる男が近寄ってきて僕を今晩泊まるための部屋
に連れて行ってくれた。
俺はでっかい荷物を抱えて自分の城に戻る。さてこの優秀なる人材をどうしようか。その前にこいつと俺たちの関係について少ししゃべらないといけない。いや、別に深い話はない。というよりもこいつとの関係はほとんどない。というのも師匠はただの傭兵でありうちの人間ではない。そして師匠は大野家につかえる気は皆無であった。しかし俺の父親としては何としてでも欲しい人材であった。別に人材不足であったわけではないがあまりの優秀であるため欲したらしい。しかし出ていくといって聞かない。ということでとりあえず俺と遠藤の教育のためということで6年間無理やり縛り続けた。仕方がないので師匠は俺たちを教え続けてくれた。しかしそれでもすぐに縁を切れるように助手や兵といった者たちとは俺たちを合わせないようにしていた。そのせいで俺はこいつの名前も知らないのだ。しかしそれはしょうがないこと。今からはこいつを説得する方法を考えよう。
来週以降連載ペースが乱れるかもしれません。頑張って乱さないように気を付けます。1月以降はまた元に戻ると思います。




