53話 別れた後
僕は大野のもとを出発した後、目的地を目指しひたすら南下する。いくつかの関所を超えたがほとんど問題なく通過できる。ただし本当の身分である大野家臣下の遠藤でなく松本家の領地内で小さな塾を開き普段は子供たちに字や計算などを教え、たまに小さな領地をもつ領主などに政治を教えたりしていて、今は諸国を回り見聞を深めるための旅をしている佐藤太一という名で関所を通過するためどこかでばれてしまわないかと戦々恐々としている。しかし誰にもばれることなく進むことが四か月以上かけ大野に言われた南部の漁村に着いた。本来なら一か月もあればだれでもここに到着することはできるし僕は金を多く持っているので本来なら2週間もあればつく。ただしそれでは後で調べられたときにもっともらしく勉強をしていたということができない。だからこそ実際に勉強しながらのんびりとここまで来た。大野にはいつまでに戻って来いと言われていないのと小林家の情報を考えると半年くらいは反乱に時間がありそうだと判断したためゆっくりとここまで来た。漁港に着くとまずは近くにある漁村をゆっくりと調べて回る。それから村で一番大きな屋敷を周りからよく観察する。慌ててつくった感じはあるが戦に耐えられそうなつくりになっている。たぶんここに僕が会おうと思っている人物はいるのだろう。そう考えると僕は夜になるのを待つ。そして夜になると建物の戸をたたく。ここらでは旅人を村で一番の金持ちが止めるのは普通のことだ。中から人が出てくる。
「旅のものなのですがしばらくの間、泊めてもらうことはできませんでしょうか。」
中から出てきたものが言う。
「しばらくお待ち下さい。私の一存では決めることができませんので主人に聞いてまいります。」
そういうと屋敷の奥に入っていった。しばらくするとまた門の前に出てきて俺にこういった。
「どうぞ中にお入りください。」
「ありがとうございます」
「ただし今すぐに主人が会いたいといっていますのでお疲れかもしれませんがそちらのほうに来ていただけませんか。」
「分かりました。こちらも泊めてもらうのですからそれくらいしないと。」
そういうと僕は奥に入っていった。
俺は中に入るとまず師匠の助手である男に思いっきり水をかける。すると目を覚ましたのかこちらのほうを見る。それからしばらくすると俺のことをようやく認識したのかこちらに向かい話しかけてくる。
「今さら俺のもとに尋ねてきて何をしたい。俺はあの人のもとでしか働くつもりはない。たとえそれがお前であったとしてもだ大野」
「そんなこと言っていると思いましたよ。俺たちに名前も伝えないでひたすら師匠の陰にいただけの人ですからね。しかしですね。俺はその人から元傭兵の面倒をまとめてみるように言われているのですよ。それでも来ませんか。」
「俺は傭兵ではない。あの人に金のためについていたわけではない。」
俺は言い返す。
「じゃあ忠義のためとでもいうのですか。だとしたら忠義のために死ぬというのですか。」
「当たり前だろ。あの人のためだけに生きてきてあの人のおおかげでここまで生きてこれたのだ。あの人がいなければとうに野たれ死んでいただろう」
「しかしその人のために今、死んだら元も子もないだろう。」
「それでも忠義を尽くす必要がある。」
「そうか。わかったよ。」
そういうと俺はやつの首に向かい手刀を振り下ろす。後ろを向いて松本に向かい言う。
「こいつはこのまま持って帰る。俺たちでたぶん何とかする」




