52話 暗殺者(3)
私は事前に見つけた道を使い、侵入する。確かに見張りの死角を的確につき奥に入っていく。実際に一度兵たちが試したことがあるらしい。その時も誰にも出くわすことなく領主のいる奥の部屋まで侵入することができたらしい。今回もうまく事が運び奥の部屋に到達しそうになった。しかしここで問題が発生した。見張りはいなくても通行人はいるようで一人の女と出くわしてしまったのだ。女が私たちのことを敵だと認識して声を出そうとする前に切り殺す。残念ながらこれはすでに建物の中に入ってからのことであったから死体は隠すことができなかった。だが切り口を隠しそれからあたりに巻き散っている血をふき取り、それから物陰に置くことで発見を少しでも遅らせようとした。その間に兵たちには何もやらせずその様子を見させていた。それから奥の領主の部屋へとあるきだす。奥の領主の部屋の前に着くと兵士たちに刀を抜くように合図を出す。全員が抜いたのを確認すると扉を蹴破り中に入る。中では旅装の領主、ある程度身分の高そうな家臣と10人ほどの兵がいる。敵の兵が動き出そうとする前に領主と私たちの間にいる敵兵を私と何人かの兵で突き飛ばし、残りの兵が領主の体を刀で刺す。そしてその刀をそのままにしてもう一本持っていた刀を抜き出し走って逃げ出す。他のものも一緒に逃げ出す。追いかけてくる敵兵は瞬時に殺せるようならば殺しそうでない場合は足元を切りつける。先ほど来た道をそのまま走り、街に出る。街に入るとすぐにばらばらになり合流地点まで行く。そして合流地点で馬に乗り自分たちの支配地まで逃げかえる。そして支配地に戻ると私の部屋に今回の作戦に参加した兵を集めてこういった。
「お前たちはこの作戦でわが軍の多くの兵を救ったことになる。このような部隊は今後、関らず必要性が高まってくる。しかしお前たちがいくら活躍してもこの部隊にいる限りは表立った名誉が与えられることはないだろう。さらに言うとこの部隊は死傷者も多くなるだろう。今回のような被害がまるで出ない作戦なんてありえないと思え。今回、私が女を殺したのを見ただろう。あのようにまるで関係のない人間を殺すことも多く起こるはずだ。それがお前たちの家族になるかもしれない。しかしお前たちがこの仕事をやることで多くの戦友が命を救われるだろう。そう言うことを頭に入れてよく考えろ。答えは三週間後に聞く。」
それだけ言うと兵士たちを部屋から追い出した。兵士たちの苦悩する顔を横目に見ながら私は少しいいすぎたかもしれないと思った。
俺は松本によって奥の地下牢に連れてこられた。そこには見たことのある男がすわっていた。しかし俺の知っている姿よりも痩せこけている。いや、死にかけているといっていいだろう。しかしそれでも寝転がったりせずに牢の真ん中に堂々と姿勢よく座っている。俺は松本に言った。
「捕虜の状態はどうなっている。すべての捕虜を生かしておくと会議で決めただろ。」
松本が答える。
「食事は出している。しかし一切、口にしようとしないのだ。他の捕虜にしたものと一緒に最初は牢に入れていたのだがこいつだけ様子がおかしいと見張りの兵に言われて、一人だけこちらに移したのだ。こいつが何者かは知っているか。それが聞きたくてここに呼んだ。」
「知っているよ。こいつは俺の師匠の助手といったところかな。断食している理由もよく考えたらわかる。さっきは捕虜の扱いでせめて悪かった。確かにこれは死のうとしてる。もしかして動かすのも危ない状態なのか。」
俺の質問に松本が答える。
「その通りだよ。医者の話だとこの断食と戦での怪我が相当、体力を消費しているらしい。倒れていないのが不思議なくらいといっていた。そしてほかの兵からの聞き取りで分かった話と照合するに岩田家がこの間、吸収したところのものなのだから勝手に殺すわけにもいかないし、それにこんな人材殺すのは惜しいだろ。」
「分かった。ありがたくうちの配下にさせてもらうよ。」
そういうと俺は牢の扉を開けて中に入っていった。




