49話 暗殺者
私は頭の中では計画ができていたが一つだけ足りていないものがあった。それは実行者になる暗殺者である。もちろん少し探せば怪しげな暗殺組織をうたっている者たちは見つけることができる。しかしそれではいけない。試しに何ヶ所かの暗殺組織に黒田を暗殺するように依頼してみたのだがそもそも来ないところが何件かあり来たところも雑魚が何人か来ただけでほとんど使い物にならないことが分かった。黒田にも聞いてみたがさすがにその手のものとの繋がりはないとのことだった。こうなると自分の兵の中から何人かを選びそれを暗殺者にしていくしかないようだ。今後、松島家に行った後のことまで考えるとそのような人を何人か抱え込んでおくのも悪くはないだろう。暗殺者として適当な人材は第一条件として信頼できる。次に刀や槍といった戦場での得物の扱いとはまた別に小刀や飛び具の扱いも心得ていなければならないだろう。さらに毒なども使いこなせればいい。第一条件の信頼できる者は私に最初からついてきたものであればかまわないだろう。しかしそのほかの条件に関して言えばあてはまるものはいない。今回はあきらめるとしよう。つまり強引に暗殺をおこなうのということだ。そのほかの条件に関してはこの暗殺がすんでから覚えさせていけばいいだろう。そう考えると私は兵の中で特に容量の良い奴らの顔を思い浮かべる。そして執務室代わりに使っているこの部屋の棚の中に入っている資料を取り出しそいつらが現在どこの守備にまわっているのかを探し出す。そしてそいつらにこの建物に来るように指示を出す使者を派遣する。しばらくすると10人ほどの兵士たちがやってくる。俺はその兵士たちに要件を伝える。するとしばらく考えた様子を見せてからその中のうちの一人が質問してきた。
「今後は通常の戦闘にはもう出れないということですか」
私はこう返した。
「戻りたいようなら戻っても構わないということにしようと思う。しかし一か月の間は命令として働いてもらおう。」
それを聞くと少し安心したような顔を全員した。今回の戦がだいぶ精神にきたのだろう。だから暗殺という訳のわからない仕事をして心を壊すような真似を死ぬまでしなければならないかを判断しようとしたのだろう。そして一か月だけなら仕事が大変でも我慢することができるという判断したのだろう。それから話を少しして別れた。
俺は夜、遅くまで遠藤と飲み続けた普段なら戦のあとは疲れているのですぐに寝ることになるのだが自分の手で戦の中でとは言え切ってしまったことに後味の悪さを少し冷静になった今、感じ始めてしまったからだ。こういう時は何も感じなくなるまでやけ酒を続けるのが一番いい。遠藤には悪いが付き合ってもらうとしよう。
僕は大野のやけ酒に付き合いながら夕食をとった。本人は長々と飲んでるつもりなのかたいてい次の日に付き合わせたことを謝ってくるが大野は下戸である。確かに大野は飲んでいるときの記憶が飛ぶまで飲むが一時間もかからず終わる。別に飲む速度もそこまで早くないので本当に酒に弱いのだろう。大野は酔いが回るともともとよく動く口がさらに回るようになり、突然寝る。大野が眠った後とりあえず人を呼び大野を布団に運ばせた。僕は少し夜風に吹かれたくなり外に出る。ふと今回、大野が師であるあの人から言われたと酔っ払いながら言った言葉を思い出す。(大野の名誉のためにいっておくが本当は明日酔っていないときに話すつもりだったんだろう。)
「人間的な部分を捨てろ、武人には必要のないものだ、か。」
わかってはいる、そんなこと。しかしそれでも僕はそこを捨てられないでいる。そのことは大野は見透かしているのだろう。実践においては全くの使い物にならないということを。部下のことを自分の指揮で殺すのを恐れて、いやそれすらもいいわけかもしれない。本当は自分が死ぬのがただ怖いだけかもしれない。




