46話 野戦(7)
俺は久しぶりに師匠の姿をまじかにこの目に見た。その姿は俺が記憶している姿とものすごくやつれてしまい大きくかけ離れていた。敵兵は大将がいるこの付近には三人ほどしかおらず残りは前線のほうに行ってしまっていた。こちらの兵は俺一人だ。向こうが話しかけてくる。
「大野やはりここまで来たな。お前はいつも無理をする。」
「分かっていてここをがら空きにさせたのか。」
「ああ、もちろんだ。お前のやり方はよくわかっている。ここ何度かの戦の模様はしっかりと調べさせてもらった。お前が決闘を申し込んでおきながらほかの奴に打たせたのもな。」
「悪かったですね。あの時は余裕がなかったもので。今回はしませんよ。」
「そのこともわかっている。この私が誰だと思っている。傭兵は領主よりも情報が大切になってくる。教えたとは思うがな。」
「さてここで本題に入らせてもらいます。決闘の申し込みをさせてもらいましょう。」
「断らせてもらおう。」
そう来たか。問題はない。ここから先は死ぬのを覚悟で殺しあえばいい。そんなに難しい話ではない気がする。なぜならここらにいる数少ない敵兵は見た感じ弱い。さらに一番の問題の師匠はやつれ具合から考えたぶん俺の圧勝だろう。一気に動き出す。師匠に向け動くとさすがに近くにいる兵が動き俺の攻撃を防ごうとする。しかし三人ともほとんど連携の取れていない動きをする。敵をばらばらにするように大きく動きまわっていたがしかし連携の取れない相手と戦うのならひきつけて同士討ちを狙うように動くのが得策だろう。そう考えると敵をひきつける。敵の兵は連携が取れていないなりに俺を囲うように動く。しかしほとんど調練を受けていない兵の動きは簡単に読める。囲われないようにしながら敵と戦う。敵の槍をかわし俺は切りつける。ついに敵、三人を殺す。しかしその間に師匠は何一つとして指示を出さない。いくら俺に指示を聞かれてしまうとはいってもいろいろ言っていればもう少しましな戦いになっただろう。俺が顔をあげ師匠のほうを向くと向こうが声をかけてくる。
「どうだ。良家の次期当主の腕は。これでも私が三か月かけて槍を教えたものだ。今回は私の見張りとしてきたそうだよ。」
「何が言いたいのですか。」
「私はこの戦は負けると正直に思うよ。」
「だから何が言いたいのですか。」
「ここから先の戦は私が教えたものは何も役に立たないということだ、大野。」
「話が飛びすぎています。」
俺はそう言いながら師匠の首に向かい刀をかける。
「大野、ここから先はそうだな、私の授業の補講だと思って聞け。そして首にかけた刀はそのままにしておけ。それが敵と話すときの正解の格好だ。傭兵は何だったかは覚えているよな。答えろ。」
「商人であり利益を主眼に考えているものです。」
「あっている。そしてちゃんとした商人というものは店じまいをするときに従業員をどうするかを考えるものだ。だから今回、私は従業員である兵士をお前に預ける。問題ないか。」
「わかりました。」
俺が言葉を続けようと遮りまた話し始めた。
「私の今まで体験したことから考えるに今回の騒動はただ古くなった体制が壊れただけではない。たぶん大きな陰謀が混ざっている。しかしそれは関係ない。その中で天下を取ってみろ。お前の夢はそれだろ。そのためにはお前はもっと兵力をあげろ。それから兵站をもっと考えろ。遠藤に任せすぎだ。用兵そのものに関しては申し分のない状態だ。それから遠藤にいえ。お前の持っている人間的な部分は人としては大切にするべきものではあるかもしれないが軍人としては無用のものだ。切り捨てろとな。」
「分かりました。いくつかよろしいですか。」
「なんだ。言ってみろ。先生の助手はどこに行ったのですか。」
「覚えていたのか。あいつのことも。確かに私たちはいつも一緒にいた。しかし今回は城の中に行きお前たちの相手をしていたよ。今頃たぶん自害しているのではないかな。」
「そうですか。ではもう一つ。なぜ俺を相手に戦っている間、手を抜いていたのですか。」
「お前にはまだわからないか。簡単な話だ。戦で人を殺すのに私はもう疲れた。心が削り取られたよ。しかし簡単に殺されてたまるかという気もありここまで生き延びてしまった。今回ようやくまともな相手に殺してもらうことができたよ。」
そういうと師匠は素早く自らの首を俺の刀にあて、自分から切り飛ばした。
今回は本当は回想を入れる予定だったんですが入れ損ねました。




