131話 転戦
私は軍を進める。物資の補給も終わるとすぐに軍を普段よりも早い速度で進軍させる。今回の作戦には農民軍はおいてきてある。城攻めを短期決戦で肩をつけるという無茶をこなすために建てた今回の作戦には農民軍の出番はない。いれば行軍速度をどうしても落とさなくてはならなくなるので、すでに松島領に向けて帰るように命令を出してある。たぶん追いつくだろうし、そうでないのであればどこかで休ませればいい。今回の作戦は黒田以外と相談せずに実行に移した。しかし出陣前に書いたいくつかの命令書と概要書を指揮官級の者たちに送っているので戦場付近につき次第、すぐにでも作戦を開始できるようになっているはずである。街道を通らないようにすることで敵の支城を避けながら前に進んでいく。本来であれば背後に脅威を残すことなるので使わない手ではあるが今回のように電撃作戦の時ならば話は別だ。軍の速度をさらに上げるように指示を出す。
しばらくすると敵の港町を覆っている城壁が見えてくる。私は一度、軍を止める。部隊の配置を整えると少しの間休ませる。今は昼であるから向こうは気がついているだろう。例え一気に攻め込んでも対処されてしまうだろうし休ませても問題ない。部隊の息が整ったであろうころ私は一番前の部隊に指示を出す。一番前の部隊の動きを見て、後ろも動き出す。正面には飛び具を専門にする部隊が配置される。次に突撃部隊が海のほうにまわっていく。中野の情報ではそちらの方が防御が薄いとのことだ。積極的に裏切りに動いてくれるのは城内に入ってからだとのことなのでとにかく中に入ることを目指す。突撃部隊以外はひたすら正面に圧をかける。
「岩田様、中野というものから伝令が来ました。」
「そうか、ここに連れてきてくれ。」
後ろのほうで戦況を見ていると声をかけられる。しばらくすると見覚えのある男が連れられてくる。
「岩田様、お久しぶりです。中野殿から託された手紙です。」
「久しぶりだな。手紙を渡された時になにか言われたか。」
「伝令する内容はございません。」
「そうか。」
伝令の男の家系は何代にもわたってつかえている男である。私は男から受け取った手紙に目を通す。手紙によるとこの男がかく乱の合図を城の中に向けて出すから時機を見て頼んでほしいとのことだ。どのかく乱かわからないが二度目はないようなので大事に使わせてもらう。海のほうにまわった部隊から攻撃が始まったという伝令がやってくる。こちら側に攻める十分な火力がない正面の戦いは膠着状態になっている。向こうも門を開いて打って出てくるという愚は侵さない。出てきてくれれば盾兵が構えているので飛び具部隊に被害が及ぶこともない。私は盾兵の指揮を執っている荻野にこの場の指揮を任せると突撃部隊のほうに向かう。
私が突撃部隊のもとに着くと城壁の上で戦いが繰り広げられていた。しかしなんとかこちらが城壁に拠点を作ったという状況である。その拠点もすぐに潰されかねない状況である。私はこちらで状況を見続けることを決める。中野の伝令の男に聞いた。
「ここからでも合図を出せるか。」
「問題なく出せます。」
「頼むかもしれないから準備しておいてくれ。」
「分かりました。」
城壁の上の戦いの様子を見続ける。徐々に城壁の上に拠点をつくりあげる。城壁の上での戦いは激しくなってくる。戦いの様子は膠着状態になってくる。ここで使うべきなのだろうか。中に入れさえすれば大丈夫だと信じるのならここで使うべきなのだろう。少し迷うが、時間を使いすぎるわけにはいかないと考え男に指示を出す。