130話 三勢力(5)
私は小坂からの指示を見てため息をつく。そろそろ撤退の時期だというのだ。私はもう少し時間をかけて作戦を進めたかったが残念ながらもう貿易港の攻略作戦をしなくてはならない。事前に打っていた裏切り工作はまだうまくいっていない。しかしここの土地を放っておけば必ず小国連合の占領下におかれ後々の面倒にとつながる。しかたがない。ここはもう強行するしかない。私は敵城にいる部隊に向けて連絡を出す。それから率いている軍の行軍路を地図を見ながら考える。急な行軍路の変更になるだろうから兵站部隊の対応が追い付かないであろう。小坂に報告が届くのも戦闘中もしくは戦闘後になる可能性が高い。次の大規模な補給部隊の到着予定は明日である。例の貿易港と物資の一時集積所の距離は遠い。また補給に来る部隊は私の管轄の外にある部隊なので使うことはできない。今回の攻略戦はかなり強引なものになるので全軍を投入したい。つまり集積所から物資を前線に運んできてもらうことができないのだ。私は一度外に出て、太陽の位置を見る。まだ日は頂点を回ったばかりといったところか。ならばすぐに号令をかけて集積所のほうに戻るとしよう。そう決まると近くにいる伝令兵に指示を出す。私も準備を整え、軍全体が集積所に向けて動き出す。
私は集積所に着くと頭の中にあることを紙に書き込みながら整理していく。作戦は二つほど出来上がる。一つは、裏切りを全くあてにしない作戦。もう一つは敵の中にいる内通者が動く可能性を考慮に入れるものだ。最初の作戦では失敗の可能性もあるし、どんなに低く見積もってもこの軍の半分は死ぬ。ただし失敗するにしても犠牲の数にしても私の力量次第で何とかできる。二番目の作戦はうまくいけば犠牲は四分の一程度で済む。しかし内通者の数次第では失敗する。つまり私に関係のないところで勝敗が決してしまうのだ。何度も作戦を検討しなおすがどちらのいいところも取るというような妙案は思い浮かばない。しばらく考えてから天幕の外にいる伝令兵をやって黒田を呼ぶ。少しだけ待つと黒田がやってくる。私は黒田にいった。
「明日の作戦について少し相談したい。」
黒田は少し驚いた顔をした。
「どうした。そんなに珍しいか。」
私の問いかけに黒田は答えた。
「中野殿がいない今、外様の私にそのようなことを言うとは思いませんでした。」
「外様といってもここにいる中ではお前が一番長い。それに指揮官級はお前だけだ。」
「そうでしたね。わかりました。ところで作戦の相談とは何でしょうか。」
「二つ、立案したのだがどちらがいいか迷ってな。とりあえず説明する。もしほかにも思いついたら最後に言ってくれ。」
そういうと俺は作戦の説明をする。一通り聞いて黒田は言った。
「内通者の存在を想定しての作戦でよいと思います。」
「その理由は。」
「中野殿との付き合いは岩田様ほど長くはないですがその仕事ぶりは信用していいものですし、その分析力間違いないと思います。」
「つまりはやつの裏切り工作の報告は信用していいと。」
「はい。それだけでなく当日に行うであろう仕事も、です。」
「なるほどな。」
私は黒田を下がらせる。私は中野の報告を鵜呑みにせずに差し引いて評価していたが、中野の言葉を鵜呑みにして信じてみることにする。そうするとどちらの作戦を取るべきかははっきりしている。