129話 三勢力(4)
俺は吉岡の城に着くと二、三日かけ物資をまとめ、人を集めて前に落とした食糧庫まですべて運ぶ。吉岡家ではもう前線との距離が遠すぎるため物資運搬の中間拠点としては不適になってきていた。そのため少し前から拠点を移そうと準備を進めていたのだが遠藤の急な帰国やそれに伴う同盟の話などで実行できないでいたのだ。しかしその一件に片が付いたの突然ではあったが移動を行うことにしたのだ。もともと先に行ったように準備はできている。実行が無期限延期になっていただけなので多少の混乱はあるだろうが大枠としては問題ないはずである。荷物を運んでいるのは民間の業者だ。集めるのにやや強引な手をつかったが金はしっかり払うので問題ない。周りに俺の兵を配置し、護衛する。食糧庫に着くといくつかの指示を出す。それがすむと俺の仕事はなくなる。小林が持ってくる情報や前線からくる補充すべき物資の一覧を見るといまだに貿易港の占領には着手していないことがわかる。大きな犠牲を払ってでも攻め込む価値はある場所なのにと思っているが前線で兵を率いていない関係から言うことはできない。資料から目をあげるとふと遠藤のことを思い出す。あいつはいつから煙草を吸うようになったのだろうか。俺が嫌いであることは知っているからあいつは俺の前では吸わなかったのだろう、匂いにも気を付けていたのだろうが服に着いた匂いは簡単にとれるものではない。南に行く前は確実に吸っていなかったから、南で何かあったのだろうか。向こうで誰かに影響されたのだろうか。いや、慣れぬ潜入生活が原因だろう。あの任務から早く解いてやり、こっちでゆっくりさせてやりたいもんだと一人ぼんやりと考える。
僕は藤田に手紙を書く。不戦条約ならすぐに結ぶことができることを書き、次に何を書くかを考える。正確には何を書くかではなくどこまで書くかである。七ヶ国の内情をどこまで藤田に伝えていいものかとしばらく考える。あまり情報を多く与えてしまうと藤田が七ヶ国同盟に対して優位な立場をもってしまう結果になる。対等とは言えない立場になることは大野は確実に好まないだろう。大野に相談するか迷うが今は戦場に戻るための準備をしているのだろうし、余計なことに頭を使わせるのはよくないと考えやめる。しばらく考え続ける。気分転換に持ち物の中に残っていた煙草を吸いながら考えていると考えるのが馬鹿らしくなってきた。別にどこの家が藤田との同盟に反対してようと賛成してようと問題ない。大野としてはこの同盟に賛成なんだし、反対派がどうなってもかまわないだろう。さすがに殺したりはしないはずだ。せいぜい七ヶ国同盟内に藤田の影響力が少し入るだけであろう。確かに大野は喜びはしないだろうがそれで同盟の中身を深められるなら悪くはない。そう思うと僕は大野が話した内容をほとんどそのまま藤田の手紙に書き込み、吉田の配下の者に渡す。
私は小坂から送られてきた手紙を読む。この戦が終わった後、この軍はすぐに南との戦争に使われることが決まったらしい。なんとなくではあるが察してたので驚くことはない。しかしこれで今まで以上にこの軍から出る損害を抑えるように気を付けなければならない。ため息をついてから主要な傭兵の部隊配置と裏切り工作の成果が書かれた地図を見る。裏切り工作はあまり芳しくない。前線の私が示せる額が小さいことが大きい理由であるが長いこと市川家に雇われていたため、市川家の部隊なのか傭兵なのか怪しいような奴らも少なからずいることも起因している。しかし裏切り工作に失敗した傭兵の部隊を中心に裏切りの噂を流しているので城内の雰囲気は少しづつ悪くなっているらしい。しかしそれはあくまでも兵士たちの間だけで上層部はどうなっているかわかっていない。本軍は近くの小城を順番に攻めていき敵の防衛能力を少しづつ削いでいく。後、一つか二つの部隊が裏切りを約束してくれれば攻めることができる。裏切者は基本的に日和見だ。裏切るといって裏切らないことだってある。ある程度の数がいなければ裏切りが起こることを前提に作戦を組見立てるのは危険だ。