127話 三勢力(2)
俺は言い切ると周りの様子を伺う。最初に口を開いたのは松本だった。
「不戦条約程度ならとりあえず結んでもいいんじゃないか。そもそもこの同盟は支配地域の距離的なことも考えるとあまり意味はないような気がするのだが。」
俺は言った。
「そんなことはない。現状、兵力の大きさで言えば松島家が最大だが農民をそのまま戦力として利用できる南の軍は潜在的な力が大きくそのことを考えると今後の展開次第では松島家を抜く可能性も大いにある。そうなればこの国を二分するのは松島家と南の勢力だ。その時になって条約を結ぶよりも今のうちに両勢力と同盟関係を結んでおいた方が先々のためであると思う。」
「しかしそれでは吉田家に対して示しがつかない。」
浜野が言った。そのまま言葉を続ける。
「吉田家は現在、宗教反乱との戦争中である。そんな中、不戦条約はまだしもそれ以上の内容を結んでしまうのは問題だと思う。」
吉田家は統制派の軍の捕虜を送り返すとき手伝ってもらった恩があるので確かに表立ってその敵と同盟を結ぶことはできない。俺は少し考えてから言った。
「吉田家は反乱を鎮圧することはできそうなのか。」
「それは」
「ならば吉田家が崩壊した後に表立って同盟を結べばいいのだろう。それまでは密約という形で結んでおけばよいのではないか。」
少し考えてから浜野は言った。
「それならばかまわない。」
要は見栄の問題である。見栄の問題で自国を危険にさらすような馬鹿な領主はいない。なんとなく同盟自体は結ぶ流れになってきている。他にも現実問題として処理しなければならない問題やどの程度の同盟関係にするかなどの問題はあるが同盟を結ばないという結論にはならないだろう。
「松島家との関係はどうするのですか。」
小林が言った。
「松島家は現在、市川家以外に直接的に戦っているところはないはずだから何も問題ないと思うが。」
「いえ、現在松島家では南の元皇帝一派に対し戦争を仕掛ける準備を進めていると思われます。確定した情報ではないのでまだ皆さんにはお伝えしていませんが可能性は高いかと思われます。」
「だとしても、公式に我々に伝えてきていないということはこの段階でむすんでしまえば問題ないのではないか。」
「しかし松島家と元皇帝の戦争が開戦した後の我々の立場はどうするのですか。」
「どちらにもつかず離れず。我々は近くの小国を切り取ることに専念すればよいと思う。」
先ほど傾きかけた流れが少し悪くなる。横から野村が口をはさむ。
「小国の切り取りというがそんなことをしている余裕が本当にあるのか。もし大野殿の読み通りに事態が動けば、小国の我々が自由に動けると考えるのは無理があると思う。巨大勢力同士の戦いになれば小国はどちらかの庇護を受け戦後に備えるのが常道であろう。」
「我々の国は小国の中ではすでに大きいほうである。それに七ヶ国あつめてみれば決して大国とは言えないが小国とまで卑下するような大きさではもうないと思う。どちらかの勢力が勝ちそうになればもう片方の勢力を裏で助力しつつ事態を長引かせ、我々が力を蓄える時間とすれば庇護を受けなくても済む。」
俺の答えを聞き、やや納得した顔をする。その後も議論は続いたが何とか同盟を結ぶことで話がまとまった。小林は最後までこの同盟に反対し続けた。
私は小坂から送られてきた手紙を読む。どうやら小国の連合との不戦条約の話は成立したらしい。当初の予定では市川家との戦いまでだったそうだがさらに延長することを向こうから願い出てきたらしい。小坂には受けない方が良いと思うと話したのだが東海林から言われる南の情勢をかんがみて政治家にこの話をあげることに決めたらしい。あの小国連合は早いうちに叩かなければさらに勢力を拡大し厄介な敵になる。