122話 市川家の滅亡
私は自分の軍団を率いて味方の本隊に合流する。本隊は敵の大軍との戦闘に備え、近くにいる別の隊をまとめるため行軍を停止している。予定戦場は見渡す限りの平野である。本来ならこちらは少数であるし、山岳地帯などの策を凝らしやすいところで戦うべきであるのだが敵の領内であることを加味し、複雑な作戦は取れないとの結論になり、戦場は平野になった。私は本隊に合流すると案内役の兵に誘導され、野営地に行き兵たちに野営の準備をさせる。その間に私は司令部に行く。司令部に着くと前に出会った盾兵の総括をしている荻野と歩兵の突撃部隊の総括の森久保が話をしていた。他にも何人かの人がいる。僕が司令部に使っている天幕の中に入ってきたことに気が付くとこちらを姿勢を正して言った。
「総司令官、お疲れ様です。」
「階級が隊長未満の者はここを即座に出ろ。そしてこの建物からに二十歩以内に立ち入らないように兵に伝え見張れ。」
私が命じると兵たちがすぐに出ていく。テントの中には私を含め三人が残る。完全に誰もいなくなったことを確認するといった。
「楽にしてもらってかまわない。兵の手前ゆえ規律が乱れないように命令を出したことは許してほしい。」
荻野と森久保は今まで踵を引き、直立不動の態勢だったがすぐに普通の姿勢になる。荻野が言った。
「別に我々に対する命令でもないし、私たちも軍人だ。そのくらいのことはわきまえている。」
森久保も「そうだ」というようにうなずいている。私は近くの椅子を指さし、座ることを促しながら言った。
「後の二人の隊長はどうした。」
森久保が言った。
「騎兵隊長は馬の世話に行っている。もう一人の飛び具のほうは支配下の組の状態を確認しに行っている。兵に命じて呼びに行かせようか。」
「そのうち帰ってくるのか。」
「騎兵長のほうは一時間以内に戻ってくるだろう。ただ飛び具のほうはいつ戻ってくるかはわからない
。」
「なら飛び具のほうだけ帰るように伝えてもらえるか。」
「承知した。」
森久保はそういうと外にいる兵に伝えに行く。残っている荻野に私は現状の説明を頼む。話を聞く限り、わたしの想像以上に戦力の集中はすすんでいる。特に今回の戦いで重要になるであろう農民軍はそろっているのでこの段階なら陣の組み立てを始めても問題はない。荻野の話を聞き終わると地図に作るべき陣形を書き込む。しばらくすると飛び具の隊の隊長が来る。
「飛び具関連の隊を率いている田中 流星だ。」
私も名乗り返す。
「今回、総大将を務めさせてもらう岩田 響だ。」
名前だけ言い合うとお互いに自分の世界に入り込む。戦前なのだ。余裕は一切ない。しばらくして騎兵隊長が戻ってくると軍議が始まる。
俺はひたすら小城を落とし続けている。市川家は完全に拠点防御に切り替わっているため、小城にほとんど兵は残っていないので当然ともいえる。ちなみに食糧庫は落ちた。小林家が動き、内通者を作ることに成功したためらしい。援軍はもはや来ることはないという情報を吹き込んだらしい。あながち間違えではないが西の大国が決戦で敗れれば援軍がくる可能性もまだ捨てきれない段階ではあるので小林家がかなりの工作を施したのだろう。食糧庫を落としたことにより兵站の自由が大きくなり今は破竹の勢いで市川家の内部に入り込んでいる。