119話 西と東(3)
俺は小林家が持ってきた松島家の戦線に目を通す。情報は距離の関係でだいたい一週間ほど遅れたものだ。しかし松島家の戦争は激しい。西の大国は補給線の確立以外に作戦を縛るものは無いのだろう。潤沢な兵力と装備で戦略的な要地を手際よく押さえていく。市川家では我々に向ける予定であった大軍の方向を転換して松島家との戦争に当てているらしい。おかげでこちらは大軍に備える必要がなくなった。しかし問題は食糧庫内にこもっていた敵の数を小林家が改めて詳しく調べたところ当初の人数の二倍近い敵がこもっていることが判明したのだ。これにより食糧庫のことはもはやその周辺の防御と考え合わせるともはや大規模な城といっても過言ではないことが判明した。水源の捜索は進んだようであるが今度は水源にたどり着いて工作するのは技術的に難しいことがわかり、この案も潰える。実に城を囲い始めてから二週間がたつ。俺のほうはというと相変わらず小城を落として回っている。徐々に小城や砦の攻め方というもののコツがつかめてきたのか早いときは日に二つは落ちるようになった。この二週間の間に18個の拠点をこちらにつけている。もちろん小林家の優秀な諜報部隊により城の中の様子が手に取るようにわかることも大きな要因であるが。俺の手元の兵は最初は三千人ほどであったが現在は二千五百人といったところか。七ヶ国全体としては二万を少し超えたところであろう。俺の戦は夜なかに強襲をかけるというのをひたすら繰り返しているだけなの特にかけることはない。
私は東海林の部下が持ってきた情報を見て驚く。どうやら開戦から一週間も経ってないのに七万人を超える軍勢が市川家から差し向けられているというのだ。七万人超す大軍をそんなにすぐに編成できるとは思ってもいなかったので想定外だったのだ。しかし東海林は気が利くのでこの軍隊は対小国連合用に組まれた軍隊だったらしいが松島家のほうが危険が高いとみて急遽こちらに回したというところまで書いてくれている。私と小坂は資料を読み終わると顔を見合わせて相談を始める。
「小坂様、これはすぐに対策が必要ですね。」
「その通りだな。でも敵の大軍の到着までに一週間以上あることは間違いないな。」
「そうですね。小国連合と戦うために東に軍を進めていため、こちらに来るのには時間がかかるようですね。」
「確か、わが方の軍勢は現在、6万弱だったかな。」
「はい。侵略軍を結集させてです。国内に残っている兵を増員したほうが良いかと。」
「それでは国内の防衛が手薄になってしまう。」
「特に仮想敵国というものは無いのでそれでも問題ないかと思われます。」
「岩田殿の気持ちもわからんではないが、しかし国内の政治家が許してくれない。」
「そこを何とかできないでしょうか。いくら貿易で稼いでるといっても市川家の国力を考えるとこの七万という軍隊は総力でありましょう。ここで叩いておけば後が楽になるのは間違いありません。何とかならないものでしょうか。」
「さすがに大規模な増援は無理だ。そもそもこの戦争ですら開戦までに相当、大きな悶着があった。これ以上の増援を承認することはハト派の政治家の派閥のメンツが丸つぶれになるから何があっても阻止されてしまう。」
「そうですか」
私は少し考え込む。兵力の結集事態は難しいことではない。となれば装備をこちらからできるだけ送り込み、前線を支援するしかないか。しかし私が考えこんでいると、小坂によって少しの沈黙は破られた。
「結集させるのは簡単なように今まで行軍させているからそのことは問題ない。しかし結集させたとしても前線に七万の軍隊の指揮官になれるものがいない。となると岩田殿に自らの部隊を率いていってもらうのが良いと思うのだがどうだね。」
私はさすがに驚く。松島家に来たばかりの者を大軍の指揮官にしようというのはいかがなものと思う。しかしこの機会を逃すわけにはいかない。
「分かりました。では後ろのことはすべて任しました。」
小坂は大きくうなずくとこういった。
「では結集の計画だけ立ててもらったら兵を率いて前線に合流してもらう。」
ここからは地獄だった。兵力はそこまで分散していないが大軍であるので出さなくてはならない命令書の量が大量なのである。私はいくつか指示を自分の軍に与えると作戦所を二人で一日ほど作戦室にこもり書き続けた。それがようやく終わると私は寝る暇もなく追い出されるようにして、自分の軍とともに前線に向かい行軍を始めた。