113話 演習
私が小坂に頼んだ演習の準備はしばらくの月日をかけて準備ができた。私が率いる農民軍と私の直轄兵からなる守備軍と小坂や松島家の軍人が率いる志願兵からなる攻撃軍に別れた。今回の演習は小高い丘を守備軍が守り、攻撃軍がそれを奪うというものだ。時間は日が出てからもう一度日が昇るまで。飛び具の使用は禁止である。私の今回の目標は志願兵の中から優秀な組を見つけること。それから農民兵の動きがどの程度のものなのかを確認することである。そのことを念頭に置きながら農民軍を配置する。農民軍の部隊の部隊長には農民軍の指導官を当てた。私の直轄軍も予備兵として手元に残しておくのではなく遊撃隊として常に演習場のどこかを動き回っている。指揮官には中野を、副官に黒田をつけた。手元には10人ほどの伝令兵がいる。今回の演習目的はすでにつたえてあるのでそれに沿って中野があちこちを動き回ってくれるはずだ。演習の前日の日が暮れる前に陣の配置を済ませるとその場で野営の準備をさせ休ませる。そして指導官たちに簡単に今回の陣の形と合図の種類と私からの指示があった場合、隊をどのように動かすかを伝える。その後、演習地の地形の確認を済ませた黒田と中野が戻ってくる。私は言った。
「二人とも地形はしっかりと頭に入れたか。」
中野が言った。
「もちろんです。明日は存分に働いて見せましょう。」
「それならよい。明日は早い。お前たちも休め。」
「分かりました。」
二人はそういって下がっていった。私は一人になると明日の予定を確認すると兵が持ってきてくれた早めの夕食を取ると眠りにつく。
次の日、日が出る前に起きると兵を配置につかせる。そして日の出を待つ。予想よりも兵の動きが良く準備がすぐに整ったため待ち時間が長い。兵の体が動かなくなることを防ぐため、持っている槍の素振りをさせる。緊張をほぐすためにも疲れない程度に兵士を動かさなければならない。特に演習で大怪我をするのは避けておきたいことだ。しばらくののちに兵士たちに槍の素振りをやめさせる。それからすぐに日が昇り始めた。さて松島家の軍の力を存分に眺めるとしよう。
まず最初に攻めてきたのは騎馬隊でだった。複数ヶ所から攻めてくる。陣を破壊してその後に歩兵隊が占拠していくという作戦か。こちらからは何も指示を出していないが、部隊の判断で農民軍は盾を出す。このくらいはさすがにできるか。私は何もせずに戦況を見張っていると騎馬隊の一部隊に隠れていた遊撃隊が横からぶつかる。すぐに騎馬隊の一部は崩れたものの先頭集団は後ろの様子は気にならないといった様子で前に進む。後ろの集団も遊撃隊の攻撃をかわしたものは速度を上げ前に追いつきそのまま農民軍にぶつかる。よく訓練された組である。丘のふもとではすでに槍を持った軍がすでにこちらに向かい始めている。騎馬隊のほうはというと農民の隊を蹴散らしている。しかしそれくらいではこの陣は壊れないようになっている。騎馬隊の足が止まったところで指導官たちの合図で騎馬隊を打ち崩す。4つの騎馬隊のうち、二つの隊はすでに反転していたため逃げられてしまったが残りの隊は漏らさずに捕まえる。つかまった兵はふもとに降りていきこの演習に参加することはもうできない。いくつかの隊に合図を出し、陣の大雑把な調整をする。その後、すぐに歩兵隊との戦いになる。騎馬隊に崩されたいくつかの場所は崩れてしまい、四段あるうちの最初の防衛戦の一部が壊れ始めた。しかし騎馬隊による襲撃がなかった場所は驚異的な粘りを見せる。また攻めてくる隊のうちいくつかは驚くような突破力で攻めてくる。しかしそういったところには防御線の間を自由に動いている遊撃隊が農民軍の援護にまわる。中には遊撃隊が援護にまわっても突破しかける組もあった。