112話 外交と内政(2)
僕はゆっくりと大通りを歩き自分の部屋に戻ると法案の訂正を始める。外交担当の塚田と内政担当の野村の意見をうまく織り交ぜながらどちらも納得するような法律にする。塚田の考え方や他国との信頼関係の上で必要なことはこの前に一緒に動いたときに理解した。もちろん最終的な相談は必要だがほとんど文句を言われずに作ることができている。野村とは煙草を吸いながら徹底的に話しをして向こうの考えを理解し、それがすむとこのように法案の作成をしている。眠気覚ましのミントの強い煙草を吸いながら法案の訂正を進めていると伝令がやってきた。
「失礼します。次の会議の日程が決まりました。3日後に宮廷の玉座の間にて行います。必ず出席されるようにとのこと。」
「分かった。こちらからの伝達は特にない。」
「了解」
そういって伝令の者は下がっていった。僕は席を立ち、窓を開ける。どうやら次の戦いが始まるらしい。そうなる前に仕事を終わらせなくてはならない。特に塚田から任されている条約の条文の作成は急いで終わらせなければいけない。戦争に巻き込まれることを恐れる国が結ぶのを拒否する可能性だってまだ残っているからだ。僕は缶の中に入っている眠気覚ましの煙草を一本取り出し、吸っている煙草の先に近づけ火を移す。そのまま徹夜で仕事にかかった。
3日後、僕は時間をかけて風呂で体を洗い念入りに洗ってもらった服を着て藤田や同僚たちがいる玉座の間に向かう。玉座の間はもともと皇帝が生活する場として設けられた部屋であり、安全性や気密性はほかのどの部屋よりもずば抜けて高い。なので今は主に重要な会議の室として使われている。ちなみに藤田はほとんどの時間をこの宮殿の外で過ごしているため今現在は藤田の部屋としての機能は失っている。僕が藤田の部屋に着くころには塚田以外の3人はすでに来ていた。久しぶりに見る藤田は少しやつれていた。しかしそれよりも吉田はこの2か月の間に何があったのかというようなやつれ方をしている。藤田が僕のことを見ながら言った。
「お前はだいぶ変わったな。煙草を大量に吸うようになっただろ。」
僕はこういった。
「匂いは完全に消したはずなんですけどね。まだ残っていましたか。」
「そういうことではない。昨日の夜、お前の部屋を見たら火事かとと思うくらいの煙が出ていてね。よく見ると煙草だったもので驚いたよ。もともとお前は吸わなかったと記憶しているが。」
「よくお気づきで。野村殿に誘われて吸うようになったのですよ。」
「まあ悪いことではない。何かあったときに気を落ち着けられるものを手に入れたということにしておこう。」
僕は気になっていることを言った。
「ところで吉田殿、何があったのですか。」
吉田と藤田は少しの間、目配せをする。しばらくしてから吉田が言った。
「少しな。厄介な敵と戦っている。」
藤田が続けた。
「俺の護衛も任せている。厄介な敵というのもそれ関係で正規の軍隊との戦いではない。」
藤田は僕に向かってこれ以上聞くなと目で伝えてくる。しばらくすると塚田がやってきて藤田の言葉で会議が始まった。会議はやはり次の戦のことでまた次の相手が我々の領地を囲っている統制派の領主たちが敵であることまでは決まっている。問題は西に行くか東に行くかである。もちろんどちらかに行けばもう片方がこちらを攻めてくるのは予想できる。だからどちらに攻めるほうが危険が少ないかを考えているのである。塚田が言った。
「現状、東に打って出るのが得策だと思われる。西の統制派の領地の西側には松島家があり、その松島家の動きがきな臭い。」
「松島家が動き出すことにかけるというのか。それはさすがに分が悪いだろう。」
野村が言った。僕も同意見である。松島家はこの間の大戦の時に単独の勢力としては最大であるのにも関わらず一切の動きを見せず、またその後の乱世の世になっても動きがない勢力である。ここで急に動き出すとは考えずらい。野村が続けていった。
「西に出るほうが良いと思う。東は小国が多く、どこで軍を止めるかがはっきりしない。その点、西は松島家の領土の手前で止まればよくわかりやすい。」
野村の言う通りである。東側は統制派かそうではないかはっきりしない日和見の小国がたくさんある。さらに城の数が多く攻めるのに時間がかかる。吉田が言った。
「東に行こう。そちらの方が何かと好都合なのだ。」
「敵のあぶり出しをやるのか。」
藤田の言葉に吉田が頷く。
「しかし」
僕が反論しようとするが藤田がそれを遮っていった。
「東にしてくれ。今回は無理にでもそれをやってもらう。お前らにまだ話せないことが理由になってしまい悪い。そのうち話す。それまでは待ってくれ。」
藤田のその一言ですべてが決まった。この後は会議の内容は僕たちが攻めている間の防衛計画と侵攻作戦の検討に移った。