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俺の戦記  作者: かな河
101/131

101話 松島領にて

 私は老人に連れられ主人がいるという部屋に入った。するとそこには小柄の老人がたっている。武道をやっているのだろうか。立ち振る舞いには隙が無い。一見かなり細いのだがしかしそれでいて筋肉質である。部屋の中に家具は小さな机一つと椅子が二つ部屋に入ってすぐのところにおいてあり、それから大きなスペースを開け刀と素振り用らしき木刀が一本ずつ立てかけてある。私のことを連れてきた老人が言った。

 「私はこれで失礼します。」

 そういうと外に去っていった。私は部屋に入ったすぐのところで止まり小柄な老人に向け頭を下げていった。

 「私が岩田 響で御座います」

 何か言わなければこの老人の雰囲気にのまれそうになった。老人が言った。

 「私は知っているかもしれないが小坂 翔太(こさか しょうた)です。そこの席に座ってください。少し話した方がよさそうですね。」

 そういって小坂は椅子に座る。小坂の声は穏やかで落ち着いた低い声であった。私に対しては机をはさんだ向かい側の席を指し座るように促す。私は促されるままに座る。老人が言った。

 「私はこの国で現在、軍事の顧問をやっています。しかし問題は私は武術の専門家であっても戦術、戦略といった物はほとんど学ばずにここまで生きてきたことにあります。確かに私はこの国の顧問であり、戦術など仕事の一環ではありますが代々我が国では学ぶものがおらず私の代のころには途絶えてしまっていました。ですのでそういったことができる人材を探し求めておりました。もちろんそのことを知り、私に職を求めてくるものは多くいました。しかし彼らは私の求めるものは持っていなかった。」

 ここで老人は一つ話を区切り一つ呼吸を置いてから言った。

 「負けたときに自分の腹を掻っ切て死んでもらう覚悟です。こちらはあなたを参謀に迎えいれこちらのすべてを教えるつもりです。あなたにすべてをかけるつもりです。あなたもこちらにそれ相応の覚悟を見せてもらわなければならない。」

 ゆっくりとした。しかし有無を言わせない、はっきりとした口調で言った。私は言った。

 「言いたいことはわかりました。もし負ければ腹を切りましょう。しかしこちらにも条件はあります。現在の軍制のままで本当に戦えるのかは疑問を持っています。それをすべて私の権限で変えることを許可していただけるのであれば、です。」

 小坂は即答した。

 「かまいません。もちろん私の権限でできる範囲になってしまいますができることはすべてやりましょう。」

 こうしてすぐに話はまとまった。その後は軍制についてやこの国の制度などについてを深く聞いた。それがすむと小坂は酒をもってこさせ私に飲ませつつ自分も飲み根ほり葉ほり私のことについて聞いてきた。家族について、自分の軍隊について、首都で何が起きていたのかなどたくさんのことを聞いてきた。結局はそのままそこで食事までとり丸一日話し続けることになった。




 俺は何もせずとも自然にでかくなる国を整理することに苦心しつつも週に一回に行われる七ヶ国同盟の会議などを通じ市川家の情報を集め対策を考えあう。もちろん毎回参加しなくてはいけないわけでなく、忙しければ参加しなくてもいいことになっている。それでもどこの国もできる限り参加しようとするので共通の認識はできる。今すべての国が共通して市川家について考えていることはこちらから攻撃するということである。しかしあまりにも我々に帰属してくる小国が多くどうしても内政に時間が奪われてしまったり新たな軍制を敷くのに時間がかかったりするためいつまでも開戦するタイミングがないのである。今や市川家に対してかなり脅威を感じているはずの吉岡家ですら何も言わない。しかしある日、週に一度の定期会議で珍しく全員が無機質な机と椅子しかない専用の会議室にそろったときに松本が言った。

 「ここらで一度、小国の吸収をやめ対市川家に専念しないか。」

 吉岡が言った。

 「それがいいと思う。そもそも最近は向こうから帰属してくる事例も少なくなってきたし、市川家の動きも活発になってきたしここらで全体で本腰を入れたほうがいいと思う。」

 全員が賛成の意思を表す。松本が言った。

 「ではこれから一週間の間に帰属しなければそれ以降は帰属を認めない、という条件を周りの国に知らせ、二週間後に内政を整えもう一度全員で集合でいいかな。」

 吉岡が少し不満そうな顔をしたものの目立った反論をすることもなく会議は終わった。どの国ももう少しこの平和な時間と何もせずとも膨張できるという快感に浸っていたいという欲望と市川家に備えなければという焦りの狭間で葛藤しているのだろう。

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