Scene-10 しざんけつが
「きゅーほほほ!」
四つ目の黒いのが再びカドの空を突進してきた。
――ふん、受けて立つ!
モーサンの戦い方と、役に立つかどうかは分らないけどゲームの知識を思い出す。
「基本は死角の取り合いだけど、急旋回時の失速には注意。位置エネルギーと速度は重力を介して置換可能。――よし!」
「(風もお忘れなく。このボレアには、星間の奴がいい感じに吹いてますよー)」
『だ、そうだ。――瑛音、星風へ乗るなら黄金酒を入手してからにしくれ。でないと死ぬぞ』
「お酒かー、飲んだことないなあ」
いいつつ足の置き場を再確認。
ふみ、ふみっ。
――うん、流石に地面ほどではないけど、キチンと体重を掛けてる感覚が返ってくるな。
よしよし。
ガーターベルトだから、センシティブな部位はモーサンに覆われてないのも助かる。
足とかは許す。
触りたければ存分に触って……くすん。
ただ流石にチクタク感覚を使うのは無理っぽいな。
地面ならともかく空で第三を使うと僕がすっぽ抜けるし、第四やテルミヌス=エストに至ってはモーサンがダッシュで逃げる。
でも普通に飛ぶ分の連動がよくなったのは間違いなし!!
空中戦では大きなアドバンテージだ。
モーサン越しなら、モーサンの尻尾が邪魔にもならないのもいい。
あと服装が程よく可愛かったり綺麗になっているから――写されても問題はない。うん。
「いや本当にそう? 毒されたかなぁ……まあいいけど。――いきまーす!」
ツバサをはためかせて一人と一匹と一枚でゴー。
まず――目の前まで迫っていた四つ目の突進を、最小の螺旋でシュカッとかわす。
うん、いい感じ!
そこから宙返りと旋回の連携で翻弄し、急接近して背後からプラトーの一撃を叩き込む。
それなりに腰の入った一撃が、黒い奴の力場をブチ破った。
打ったら即、離脱!
コッチの体勢を崩してまで追撃するような悪手は取らない。
四つ目の黒いのが激昂して振り向くと、こっちに罵声を浴びせてくる。
「ぎょほほほほー!?」
「(べー!)」
「ムキーッ!!」
返すモーサンの挑発に乗り、四つ目の黒いのが僕らを追ってきた。
そんな軽いノリでの戦いだけど……
奴は決して弱くはない。
普通の人間なら恐慌を起こすほどの濃い《神性》を持ってるし、力場の神話も侮れない。
荒士さん、井手上さんだってボコられてる。
これが普通の人間だったら、きっと為す術もないだろう。
だから決して侮らない――
そう思いつつ、プラトーで反発力の上から奴を叩き斬る。
お、いいのが入ったかもー
『おお、凄いな瑛音!』
「やっぱり腰が入ると当てやすい――なっと。おらおらおらーっ!」
「ぐもっ、ぐがごばっ……ばばばばばばっ!!」
プラトーの大ラッシュで、四つ目を右へ左へとブチ回した。
侮らず、一発一発に必殺の念を込めて!
そうやって打ち、斬り、薙ぎ払い――奴の《神性》その物を剥ぎ取っていく。
奴からの力場攻撃はモーサンがツバサが吹き飛ばしてくれる。
ニュートからの警告もない。
そうやって続けていくと神性が散って薄まり、まずカースティアズが限界を迎えた。
「きゃほ、ほほー!」
「――うぬ、な……何が起きたか!?」
身体の黒色が薄まった。
カースティアズ、千代松ともに目鼻立ちもハッキリしてくる。
目はまだ四つだけど。
ニュートが肩から前脚ちょこん。
『ふうむ、混沌が解けかかってるな。――これは誰かの手による、人為的な現象かね』
「えー、何のために?」
ただ誰か……ってのは分かる。
カルネたちしかいない。
連中の調査はまだ進んでないんだよね。
結社の人たちも頑張ってはくれてるけど、何しろ大正時代は何もかも人力だから。
ケイも事情はほぼ知らなかった。
――というか、彼女はかなり下っ端ではないかという疑惑が。
育ちはいいみたいだけど。
こうなったらダゴン秘密教団を敵に回す覚悟でマジに突っ込むしか……なんて考えてると、カースティアズと千代松が覚醒した。
ただ合体は解けてないから、すごいギコギコした動きになってるな。
「あ……う……」
「おお……お、お前は誰だぁぁ!?」
千代松がこっちを指さした。
ああ、服装のフォルムが変わってる上に空まで飛んでいるから、分からないんだな?
ならまた自己紹介するかー
「僕は、あやせ……」
「――あ、アヤセズエイトか。なんか記憶が飛ぶな……アスピリン持ってない?」
「知るかー!!」
惚けてる千代松に、プラトーで容赦のない一撃を叩き込む。
お、まだ反発力がちょっとある?
あと千代松だけだと不公平っぽいから、カースティアズにも。
おら!
「グワーッ! グワーッ!!」
「ぐげぇぇ!?」
「ううん……行けそう! モーサン、いっかい分離。――後で拾って!!」
必殺に構えたプラトーをチラっと見てから叫ぶ。
モーサンがOKサイン。
ニュートもフードの中で頷き――あ、フェイスカバーみたいのがピシャリと降りた。
そっか、カオは物入れにもなるのかー
白いナイトゴーント形態に戻ったモーサンは、ニュートごとインクが水に解けるかのように離れていく。
ニュートがフェイスカバーの内側から両前脚カシカシ。
爪は立ててない。配慮よし。
『瑛音、気を付けろよ! あと情報が欲しいから可能な範囲で観察を頼む』
「りょ! 頼まれたー」
そしてモーサンが去り際――パチーン。
またー!
「(ぺこぺこ)」
僕は千代松=カースティアズのマーブルと一緒に、カドの生ぬるい空気を落下していく。
向こうは、何故か手のイレズミ光線を使わない。
というかイレズミが無くなってる?
なら、見立てたとおり――今がチャンスだ、ここで決める!!
「境界よ、在れ――ヴァージ!!」
プラトーで一閃!
天から地へ、一直線の雷みたいな刃跡が走る。
千代松&カースティアズは、頭頂から股間まで縦に真っ二つになった。
神話との接触チャネルも切断!
よし、後はモーサンに回収して貰えば……え?
「ぬおおおっ……ぐおおーっ!?」
「オオォ――」
真っ二つのそれぞれが生きててる!?
二人は両側から片手づつ伸ばしあい――ガッチリと手を握りあった。
そのまま、べしーん!
「うそ、合体した!?」
「キョホホ……キ、キラレタ、ダト!?」
「は、離れては駄目だ。もっと、もっと……くっつけー!」
二つの半身は押し合いへしあいしつつ、タンゴでも踊ってるみたいにクルクル。
切断面からのズレ具合がキューブパズルみたいだ。
どうやら再合体を試みてるらしいけど――いやいや、できるワケないだろ。
プラトー舐めんな。
なのだけど、そんな胸中のツッコミは通じてくれそうにないようだ。
「ええい、往生際が悪いぞー!」
チク タク チク タク――チクタクチクタクチクタク
第四のチクタク感覚を蹴飛ばす。
一人だから問題なし!
そうしてプラトーの切っ先を、何もない虚空に――神話空間その物にブッ刺した。
謎のヒビ割れが生まれ、僕だけ落下速度がガクンと落ちる。
「お前たちがまだ存在できるのは、ここがボレアだからだろう? ――なら、カドを止めてやる!」
チクタク――ガガッ、バキバキ!
「――え?」
カドに潜り込んだ切っ先が盛大に滑り、空間その物を引き裂いて行く――って、いや待て。
ここのボレア、やったら脆いな!
ほんの少しカドの動きを狂わせるつもりだったけど……何だコレ!?
慌ててチクタク感覚を切るけど、生まれた亀裂が大きすぎた。
崩壊は止まらない。
事態に気付いたカースティアズと千代松も焦りまくり、トンチキな社交ダンスが激しさを増す。
どこからか朧気な太鼓と、甲高い笛の音色が響いてきて――
そこでカドが切れた。
「ぬおおおっ……ぐおおーっ!?」
「わーっ!!」
僕と半身二つが、空の真っ只中に放り出された。
く、雲の高さ!?
眼下には、月に照らされた丸い水平が広がっている。
風が凄い……寒いー、痛いーっ!!
「ニュート、モーサンー!」
『――瑛音、無事か!?』
風越しに、ニュートの声が微かに響く。
直後モーサンがフワリ。
再びガーターとタイツが白く変わっていく――
「……」
『瑛音、その満更でもないなって顔はよせ』
「我慢してただけですー!」
ぜいぜい。
それはそれとして、モーサンを着こむと風が平気になった。
善き。
スカートも風や重力に逆らって下着を隠してくれる。
モーサンが、それで良いんですよね――という顔をしてこっち見た。
だいじょぶですとも!
アニメとかだと鉄壁スカートつまんないなーとか思ったこともあるけど、実際に自分の身になると助かる。
それはそれとして――
「ニュート、ごめん。ボレア壊しちゃったみたい」
『テルミヌス=エストでもブチ込んだか? ――どのみち壊れたと思うから気にするな』
「あとさー、アレなに?」
指した先、ずっと下で、半身ずつのカースティアズと千代松がランダム回転しながら落下していく。
血や内臓が飛び散ってないし、服すらそのままだ。
そういう神話存在?
ニュートが肩に前脚をかけ、ぐいーと伸び。
『バラついたパーツがまだ動くか……ふうむ、カースティアズが過去に起こした事件で見たな。あるいは横浜の第三の男事件の際にも似た記録を見た。そういう神話存在なのだろう』
「あれかー」
カースティアズのは、シャッガイからの昆虫の技術だ。
ミ=ゴの技術も使ってそう。
――ん?
そういえばシャッガイからの昆虫って三体の個体が一つの身体に合体してるな。
何の意味があるかと思ってたけど、もしかして混沌になりたかったの?
「ニュート、もしかしてシャンの三位一体も何か関係が?」
『あり得るな! ――別々の神話同士を合体させ、新たな《神話》を作り出したか。神話の混沌合体だ』
「(こくこく、合体や融合による新存在の誕生は混沌の十八番ですねー。あと昆虫どもは混沌と言えません。融合も中途半端ですしねー)」
モーサンがヤレヤレと首を振る。
いや、首無いけどね?
そしてニヤリ。
でもアレは最初間違いなく《混沌》でした。あと四体倒せばエースと呼ばせていただきますよー的な顔をする。
いや、顔ないけどさ。
「前にニュートが言ってたね、混沌は地球種のアドバンテージであり、ビハインドだって。――でも混沌は去った。いまいるのは単なるアンデッド二体。――コレで今回の混沌事件は終わり?」
『瑛音、単なるアンデッドが残ってるぞ。二体もな?』
あー、そりゃそうだ。
見ると二体はまた空中で手を繋ぎ、必死に抱き合っている。
そしてジタバタ。
歴史側の存在に戻って、単なる腐乱死体や塵芥と化すような気配もない。
「しかし、しぶといな……混沌に関わるとこんな感じになるの?」
「(ですです)」
混沌のガチ敵対者であるナイトゴーントのモーサン、こくこく。
混沌勢力とは仲が悪いウルタールの猫であるニュートも、重々しく頷いた。
人類代表の僕は……はぁ。
「――ニュート、どこかに混沌の人体実験をやってる外道がいるってことでいいかな」
『そうだ。そして真相を掴み、その様な神話使いを闇に葬る役目は我らにある』
ニュートがニヤリ。
ついでにモーサンも、混沌が出そうだから着いてきますーみたいな顔をする。おけ!
「混沌かー、強いのかな?」
『今のままなら、しぶとい雑魚だ。何しろカースティアズの分霊と千代松がまったく混ざれてない』
「(ですねー、混沌としてはまだまだです)」
「なら、取りあえず――」
モーサンに合図。
意図を汲んでくれたらしく、OKサインからの――急降下!!
ナレハテた二体がグングンと近づいてくる。
半分ずつの二人が焦りまくってるけど、所詮は単なるアンデッド的な何かでしかない。
もう手も足も出ない!
『取りあえず?』
「ブチのめーす!! 覚悟しろ、ナイアルラトホテップの化身・冴えない中年! 弱点は、重いものを持つと腰がピキッとくる!!」
音すら越えてそうな早さで風を斬り、まずカースティアズの半身へ蹴りを叩き込んだ。
ズガン!
もの凄い衝撃が響いた。
慣性でカースティアズを磔にしたまま、次に千代松を蹴る!!
「アバーッ! ギエエエエーッ!?」
「ぐわぁぁぁッ!」
慣性で二人を張り付けにしたまま、地面――じゃない。海しかないな。
でも海はイヤだから……ってか、イプティックいそう。
なら船!!
井手上さん、荒士さんが乗っていた船がグングンと近づいてくる――
混ざってたので修正しました




