Scene-07 さいのめ
千代松とイレズミのコンビが慌てて怪ビーム放射を再開するけど、一度崩れたバランスを取り直すのは難しいようだ。
ついにはランダムに回転し始めて――頭が下になったり上になったり忙しそうだな。
「おおーっ、おお……な、何とかしろー!!」
でも何ともならないぽい。
千代松はムチャクチャに回転しつつ落下し、ついに甲板にベチャッと墜落!
だけど、ギリギリでブレーキは効いていたようだ。
まだ動く。
「ぐぐ……おおっ!?」
即座に荒士さんの投擲用チェーンも飛んできた。
ジャラララと絡まり、最後に顔面バチーン。
畳みかけるように奴の上へ――追撃のダイビングキック!
「喰らえ!」
「うゴげっ!?」
腹ばいに落ちた千代松が逆エビに反る。
それからパタリと倒れ……動かない? だいじょぶ?
爪先で突っつくけど、本体も手足も動かない。
ならば――よし!
「ふう……何とかなった。二人羽織だとこういうのが危険だよね。――でも今回は結果オーライ。ありがとう」
戻りつつ、マントへポンポン。
今回は防御を頼んだつもりが飛行になってしまった。――直前まで、僕が迷ってたからだ。
それで勘違いさせた。反省。
マント本人も息の合わなかったことを自省しつつ、誉められたことにはエッヘンと胸を張る。
いや、胸はないけどね?
「荒士さんも、ありがとう……ん?」
「……」
荒士さんに――井手上さんも? 二人とも、目を見開いてフリーズしてる。
ものすごく驚いてる?
何を……ああ、空を飛んだことに関してか!
前とデザインは一緒だけど、中は別物のマントをチラ。
僕に関することは深く追求しない――それが結社のルールだから、飛んだことについても何も言わずに受け入れてくれるだろう。
受け入れてくれるハズ……なんだけども、二人とも何か言いたげで?
それも強く強く。
二人は我慢しきれず、ついに喋り出した。
「あの、瑛音さま……尻のソレ似合っていたと思います。なので、つい凝視してしまって……あはは、す、すいません」
「――そう! タ、タイツをガーターベルトに変えられたのですね。とても大人びて見えました。お、お似合いだと思います!」
「え……ええっ!?」
スカートをガッシと押さえる!!
そっちかーい!
ていうか、見えてたのーっ!?
『意外と早くバレたな、ガーターベルト』
「うう……」
股間の関係で、こっちの方がまだ見栄えいいのと――その、楽なんで。
よ、用を足すときとかさ?
なので思い切って今回から……
ただ、その……倒錯的なのは自覚してますから……覗かないで、お願い。
うう……
やり取りを見ていたニュートが、かか、かかと猫笑う。
『顔が真っ赤だぞ、瑛音。――リム=ユウド・モーサンも、これからは瑛音のスカートにも気をつけてくれ。そうしないとプラトーを引き抜けん』
「よろ……あ、名前あったんだ! 僕もモーサンって呼んでいい? あ、モーサン=サンだよね!」
マント改めモーサンが、行動方針と名前のどっちにも快くOKサインを出してくれる。
あとニュートの通訳。どうやらモーサンだけでいいみたいだ、よろ!
ホッとしつつ、銃をホルスターへ戻す――
『――ん? 瑛音、銃をしまって良いのか』
「もう弾がないよー」
『ああ、なら仕方がない。――それと千代松がリブートしたぞ? 弾が無いなら次からはプラトーだ。気をつけろよ、特にスカートを』
りょー
うう、いっそ日比谷三角でこっそり撮影会やっちゃおうかな。
最初の一枚はダメージ少ない方が……
「お……おお、何という失態だ!? この役立たずがぁ!」
「(怒)」
紐の切れた凧状態の千代松が、イレズミへ絶叫。
ついでに文句も。
自省はいいと思うけど、その後ろに何で「役立たず」とか余計な一言を追加するかなー
二人羽織してるのに喧嘩よくない!
手の目はムカつきつつも再び怪光線を放射する。
あ、今度はリング状だ。
ビーム、ディスクときて、リングでさらに出力安定か。
どうやら飛行に対する学習も進んでいるらしい。――こいつカースティアズの分霊とかでなく、AIみたいな物かも?
で、そのまま飛び上がった。
その様を眺めつつ、ちょっと考えてから井手上さんをチラ――
「……」
彼女は既にレテの書を開いて何かブツブツ言っていた。
ブツブツの中身は呪文だ。
その目が神話の色を帯びると、イレズミをじぃぃぃっと凝視する。
見られたイレズミの一部がプチ、プチ――と消えていく!
イレズミ目も驚いてるな。
でも千代松は気づいてない。まーったく、何にも!
「わははは! 我は空の覇者、降魔院バルゼルッ!」
ああ『我ら』じゃなくて『我』かー
除外されたイレズミの目は――眠そうにウトウトし出しているな。呪文の影響かな?
すぐハッと目を覚ますけど……またウトウト。
睡魔に抗いつつ、有頂天で絶好調の千代松を見て――まあいいかと諦めたようだ。
ですよねー
気に食わない相手のために頑張る気は起こらないよね!
「――あん? 速度が落ちたぞ。もっと気張らんか、この役立たずめ!」
それがトドメの一撃となったようだ。
イレズミの目は最後にちょっとだけ薄目を開けたけど、プイと横向いてから閉じる。
そのまま完全に寝てしまった。
手の平の怪リングはディスク状になり、ビーム状に戻り、やがて――停止した。ぷすんと。
「さあさ、尋常に勝負――って、止めるなぁーっ!」
かーらーのー、悲鳴!
千代松へ飛びついた重力が、目に見えない必殺ホールドをガッチリ決める。
重力は無情である、慈悲はない……なむ。
徐々に落下速度が早くなり、千代松が絶望の表情を浮かべ――必殺の速度で甲板へズッバーンのグチャッ!
「ああ、あぁぁぁ-っ――ブゲばぶっ!」
最後のは悲鳴と言うより、肺に溜まっていた空気が外からの圧で絞り出された的な奴だ。
そして、ぴくりとも動かなくなった。
やっとかー
ふう……こいつ妙に頑丈だったなぁ。
後で結社に調べて貰おう。
レテの書をパタンと閉じた井手上さんも、荒士さんにもたれかかった。
フーッと熱そうな息を吐いてる。
彼女がさっきからブツブツと呟いていたのは、レテの書に書き込まれた呪文だ。
おそらく《スペル破り》あたりか。
それで神話の一部を破られたイレズミが、一時的に活動を停止したんだろう。
「井手上さん、ご苦労さま!」
労いに、素直にぺこ。
ニュートもウンウンと頷きながら、ゲートの方をチラ。
そして鼻で猫笑った。
その仕草が、大変可愛い!
『瑛音、ゲートの方もそろそろ限界だ。壊れるぞ』
「りょ! 意外に時間かかったなー」
カルネが泣きながら――って、いやいやマジ泣きだ。
そ、そんなに?
とにかく、ベソベソと必死に押さえていたゲートが限界を迎えた。
「ニュート、大正時代にガムテとかないんだっけ?」
『ご先祖的な物ならあるが、一般的ではない。用途も違うから常備はされとらんだろう』
あー、なるほど?
とかやってるウチに大きなヒビが左右から真ん中にまで達し、繋がった。
上下にもパキパキと広がって……最後にパッキィィンと良い音を響かせつつ全部が四散する。
『カルネの奴、最後にすごい顔してたな』
「え、どこ?」
破片が飛び散り、周囲に様々な異界の影が現れては消える。
果てのない階段の果てで燃えるモノリスの列、魔女の大釜みたいに歪み回る星渦、落ちた空に架かる極光――ん!?
(ふふ、お見事……)
パチパチ。
嫌みったらしい賞賛の拍手が、ゲートと共に砕けていく。
――い、今のは誰だ!?
とっさにプラトーを引き抜いた。
理由はない、直感!
ゲートが完全に崩壊して消滅した。
それと同時に、周囲の神性がドッと荒れ狂う!
『瑛音、神話同士の平衡が崩れたぞ!?』
「みたいだね!」
まずイプティックの混乱が頂点に達した。
るろおお……るらあぁ……
うわっ!?
雨がまた強くなる。灰色のヴェールで閉ざされた海の向こうから、あの呻き声が何重にも響き渡った。
歌!? 何かを讃えるような歌を奏でてるのか!
『瑛音、不味い。船がカドを巡り始めた……!』
「瑛音さま、千代松も……!」
ズバンッ! ズバンッ! ズバンッ!
ボロ雑巾みたいに甲板でベチャっとなっていた千代松の身体にも、新たなイレズミが刻印される。
今度は顔!
増えた分に手足のイレズミが増殖して繋がり、全身へと広がって――
「うがぁぁぁっ!!」
バチッと目を開け、千代松が飛び起きた。
なんか妙な感じで真顔になってるけど、目に意志がないような……?
「――サマ、ああ、いーふれいむぅ、さまぁ――コノちよまつ、アナター、サマーノー」
千代松がガタガタと震える。
まるでロボットみたいな口調で変なことを口走ったかと思うと……突然、スイッチが入った。
「ふふ……お嬢さま方、お初にお目にかかります」
う、顔がグシャゲてる!
口が閉じきらないので、ふにゃふにゃした口調になってるな……
そしてエア薔薇投げ。
え、な……なに?
千代松はしばらく海を見て――それからこっちを見た。
顔のイレズミが激しく蠢く。
あ……グシャゲた顔が元に戻ってく!
「薔薇の最後は海が似合う……そうは思いませんか、お嬢さま方?」
「は? 薔薇って……え?」
荒士さんがギチギチに警戒しながら、こっちに声をかけてきた。
井手上さんもだ。
「瑛音さま……このやり取り、さっきも見ましたよ。繰り返してる」
「――千代松について知ってることを!」
井手上さんが、レテの書から知識を引っ張り出す。
でも、それだけでもキツそう……!
「イーフレイム派の元下っ端です。数日前に裏組織との抗争により、手と足を切断されて……その、誰かが繋ぎ直したと」
「バラバラの身体を繋ぎ合わせたの!? 死体だったらフランケンシュタインの怪物だ」
『――瑛音、それでアタリかも知れんぞ』
ニュートの一言で固まる。
え、つまり……あっ!?
そういうことか、いわゆるフレッシュでアンデッド的な人造人間!
全然気付かなかった。
あのエキセントリックな言動も、単に人造人間と気づかれないようにするための演出だったかも知れない。
そうだとしたら大したものだよ!
カルネがここにいた理由にも一応の説明はつく――つまり、奴がコントロールしていたんだ。
『まだ確証はないし、何の神話かも分からん。――実力で調べるぞ、瑛音!』
「りょ!」




