表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十一話:ノシエス/ノマエ
88/113

Scene-11 ホワイトレイブン

 融合が解けて《混沌》が裏返った。

 それまで若先生の精神胎内にあったモノが、現実側へ逆流していく。

 神話存在も――

 大木みたいなザイクロトルクリーパーが電車から分離し、厚めのビニールみたいなナイトゴーントが散っていく。


 僕も電車から投げ出された。

 若先生は何か叫んでる。――あ、呪文か!?


「しぶとい!」


 とっさに顔とニュートをかばうのと、ゲートがフラッシュみたいに光るのが同時だった。


『瑛音、ゲートが発動している。――誰かが別のガラスから()()()を見ているようだぞ』

「僕にも見えてる。ニュート、あいつら……枢戸村にいた連中じゃない!?」


 枢戸村の事件で見た三銃士だか四銃士。

 でも結社や僕との戦いで人数は減り、いまはバンジとヒョウエという二人しかいない筈だ。

 だとするとバルギリスってヒョウエかな。

 で、なんか驚いてるような?


「――ニュート、ゲートを《幻視》してみる」

『ゲートハックか……ええい、急げよ!』


 落下を始めた電車の背を駆け、ねじ切れかけたレールに捕まった。

 ブラブラと揺れながら《幻視》を開始する。


 チク タク チク タク


「――駄目か。でも……もう少しで、何かが」

『瑛音、無茶は……あん? そうだが、いまちょっと忙しいんだが!?』


 へ?

 ニュートが誰かと会話してる……?


 自分で言うのもなんだけど、この状況で誰と。

 そもそも僕以外にニュートと会話できる人がいるの?


 幻視の方も微妙だった。

 やってるのは幻視その物でなく、レンのガラスが繋げる回線とでも言うべき物のハックだ。

 かつてゲートと繋がった先が、瞬くようにチカチカと映ってる。

 よ、酔いそう!


 辛うじて見えたのは、おそらく最頻度で繋がった先で――



 チク タク チク タク


「……??」


 見えたモノに困惑しつつ、《幻視》を解除(リリース)する。

 電車はそのまま落下し、濁流に突っ込んで爆発みたいな水柱を立てた。

 霧雨みたいのが頬に掛かる。

 水飛沫がここまで登ってきたらしい。


 あそこまで降りて行くのは、ちょっと難しそうだ……


 肩に掴まったニュートは――あれ、誰もいない。

 さっき会話してなかった?


『ぜいぜい――すまん、ちょっと同郷の奴と話し込んでいた。それで何が見えた?』

「えーと、()()

『何だって?』

「ゲートがもっとも繋がった場所だと思うんだけど……それが天井。見知らぬ天井っていうか」


 何だろうな。

 誰かの私室っぽかったけど、どうしてゲートにそんなものが映るんだろう。

 悩んでいるとニュートが頭をくるりんと回した。


『瑛音、それは()()ではないか。誰かの』

「寝起きの視界ってこと? ――うん、確かにそんな感じかも」


 ん……? んん!?

 レンのガラス、ゲート、混沌、融合に……まて、()()()

 そして連中はイーフレイム・エフォーの名を知っていた――

 あっ、もしかして!?


「……」

『瑛音、気になるようだな。なら、もう一度あそこ行って見てくるか?』

「あそこって、下? それは幾ら僕でも難しいよ」


 裂け目は広く深く、しかも底には濁流が轟々と流れている。

 パルクールだと途中で体力尽きそう。

 フリークライミングで崖をチマチマと降りてもいいけど――ん?


「なんだ?」


 自分がぶら下がってるレールの端に、何か黒いモノが引っかかっているのに気付いた。

 布……じゃないな、革?


「コレもしかして、レインコートの残骸?」

『ああ、まあ……瑛音、落ち着いて聞いてくれ。――()()()とは話がついている』


 誰と何の?

 疑問の声を上げようとした瞬間、ペコリとアタアを下げたような気配がする。

 ぶら下がってるコートが!


 これは、もしかして……


「なな、ナイトゴーント!?」


 さっき二人羽織してた奴か!

 反射的にプラトーで切り込もうと思ったけど、ニュートに止められた。

 肉球でぽんと。


『待て、話は付いてると言ったろう? ()()のよしみで、帰る前にちょっと手伝ってくれるそうだ。――報酬を要求されたがな』


 同郷ってドリームランドの!?

 ニュート、すごいコネ持ってるな。


 あと報酬って……コイツの要求しそうなものだよね。

 それって、まさか!?


「お尻を撫でさせろというなら断固断る!」

『誰がそんな約束をするか。――髪を梳かせてくれとさ。融合していた奴と違って、コイツはそちらが好みらしい』


 髪を……梳く?

 まあ、それくらいならいいけど……

 了承の意思を込めて頷くと、ナイトゴーントがニコっと笑う――いや、顔はないんだけどね。


 そのまま不定形化し、ボロけていた元のマントに同化してきた。

 コートからフードマントへ。

 袖がなくなって裾もツバサみたいに広がり、さらに体色が元に合わせて白くなった。

 何故に色も!?


 マントになった後、白い蝙蝠翼(バットウィング)みたいにバサリとはためく。

 尻尾みたいなパーツも伸びた。

 最後にフードがバサリと垂れ下がって、ニュートの定位置ができる。


「飛行の《神話》かー、いいかも!」


 ちょっとヒーローっぽいし。

 これでスカートがボロボロでなければ……いや、それはそれで?


『ふむ、悪くはなさそうだ。――たた、我らは此奴と《接触》してない。連携が取れなくなったら恐怖の二人羽織が待っていることを忘れるなよ?』

「りょ! ――ええとマントさん、はじめまして。ジャンプとダイブの補助を中心にお願いします」


 マントの端がひょいと動いて変形し、OKのフィンガーサイン。

 あらま器用?

 でも神話存在だから油断は禁物だ。

 自分で宣言したように、ハードな空中アクションをするときの補助だけお願いしよう。


 なので――

 掴んでたレールから手を離して落下する。


 翼がバサリと広がって風を孕むと、それだけで速度が落ちた。

 おお、いけるな。

 さらにグライダーみたいな方向転換――も、できる!


 しばらく降りてから、崖から張り出してた岩上にストンと着地した。

 これは使えるかもー


 改めて電車を見た。

 フロント側を濁流に突っ込んだままで、水飛沫がすごい。


 若先生は……いた!

 濡れ鼠になりながら、川縁の岩にどうにか這い上がっていた。

 大鏡を抱えてる。


『鏡はゲートだな。精神胎内にあったものが、お前の一撃で顕現してしまったのだろう』

「好都合だよ。あそこが何処にどう繋がってるか確認しよう」


「くっ、小僧が……!」


 こっちに気付いた若先生が、最後の足掻きを始めた。

 また呪文か。

 それに合わせるように、水中で巨大なチューブ状の《何か》がくねった。

 きっしょー!!


「巨大な水ヘビか、味が海老に似てる奴?」

『瑛音、ありゃザイクロトルクリーパーだ。頭を先にして、しかも泳いでる。始めて見たな」

「ええ、あいつ泳げるの!?」


「はははは! さあ行け、ザイクロトルクリーパー!!」


 ゴボゴボと川が沸き立った。

 きっしょい動きで濁流を割りつつ、巨木と蛇の合いの子みたいのが水中から迫ってくる。

 泳ぐ木に追いかけられる経験は初めてかも……


「ニュート、弱点!」

『すまん、特定の弱点はない。折れるくらい殴れば死ぬ筈だが』

「ですよねー!」


 いつものやり取り終わり!

 改めてプラトーを抜き、ズザっと構えた。


 ――おけ!

 おけおけ、大丈夫だからマントさん逃げないでー、お願い!!

 いま飛べなくなるのは不味いので!


「行くよー!」


 崖を蹴って大ジャンプ!

 ザイクロトルクリーパーは一度水中に潜り、潜行して――別の場所から踊り出てきた。


『ぼあー』

「あの怪獣みたいな鳴き声、こいつの素かー」


 ザイクロトルクリーパーの頂点にある口がグワリと開き、迫る。

 歯もあるので、しっかりした噛みつき攻撃だ。

 きっしょー!


 急角度で旋回し――ツバサまで畳んで、ギリ避ける!

 躱した直後に翼を開き直した。

 急停止からの螺旋旋回、そして急上昇!


 機動で空振りしたザイクロトルクリーパーは崖に突進し、岩肌に頭から突っ込んだ。

 轟音とともに、爆発みたいな水柱が上がる。

 崖が揺れて岩も落ちてきた。


 莫大な水飛沫が襲ってくるけど、マントがバサリと羽ばたいて大半を払い落としてくれる。

 ありがとう!


「ふう……しかし意外と頭悪いな、ザイクロ」

『だからこそ、シャンに奴隷化されたのだろうな』


 軽口を叩きつつ、上昇して崖に着地する。

 めり込んだ岩から身体を引き抜いたザイクロトルクリーパーが、再び水中に潜った。


「こいつ、水中の方が強いんじゃないのか」

『こういう亜種か、あるいは単に知られてなかっただけで元から泳げるのか。――ふむ、興味深いな』

「記録をもっと取れというなら断る」

『余裕がないのは理解してるさ。それより、どうやって奴を倒す?』


 え?

 どうやってって……


「そりゃ、テルミヌス=エストで……あ!?」

『そうだ、奴は《接触》されてない。それでもプラトーならばダメージを与えることもできるだろうが、それには芯に直接ダメージを与える必要がある。あの硬そうな樹皮をブチ抜いてな』


 崖にストンと張り付く。

 ニュートがスフィンクスのお告げみたいに、崖の上を見上げた。

 空は相変わらず赤黒いマーブルだ。


「なら対《神話》弾で――って、ないか。455弾もない。だったら……テ、テコの原理とか!?」


 こう……突き刺して、ぐいっと。

 硬さで言うならプラトーの方がずっと上だし。


『落ち着け、瑛音。――ほれ、双子に応えてやれ』


 へ? ――あっ!?


 崖の上から、景貴が手を振っていた。

 足元には地面と融合したみたいな清華がいて、全身でレッドナインを構えてる。

 どうやら手の痺れは治ったらしい。

 よしっ、ならブチ抜きはルガー弾に任せる。


 マントをはためかせると、崖の岩から飛び出した。

 ザイクロトルクリーパーが潜ってる辺りを飛んで――よし、食い付いた!

 奴はザバッと浮上する。

 その頭頂を指さし、崖上に大声で叫ぶ。


「景貴、清華、奴の頭のど真ん中に一点集中!」

「はい、瑛音さま!!」


 清華は躊躇しなかった。

 僕に噛みつこうとうとしたクリーパーの頭頂へ、レッドナインのルガー弾が叩き込まれる。

 三発撃って、ほぼ収束!

 撃たれてもリアクションはない、植物だから痛覚とかないんだろう。


「ありがとー、清華! 景貴も!」

『瑛音、テルミヌス=エストを使うならマントは脱いだ方がいい。余波でエラいことになるぞ』

「りょ! マントさん分離して」


 マントが「?」みたいな顔をする。――いや顔はないけどさ!

 まだ岩肌に引っかかってる若先生をプラトーで指した。


「あそこで再集結! おけ?」


 OKのフィンガーサイン。

 マントが水に落としたインクみたいな動きで、スルスルと離れていく。

 ――ニュートごと!


『おい、オレを連れて行くな!』

「ありゃ……ごめん、すぐ合流するから」


 ザイクロトルクリーパーの上に着地した。

 奴はブルっと震えると、再び濁流に潜ろうとする。


 不味い、加速で一気に――

 いや、それだと弾痕のところで止まれない!

 なら……こっちだ!


 チク タク チクタクチクタク――ギャリッ!!


 時空間のカドにプラトーを突き刺し、時間の流れを阻害する!

 空間すらブレ、視界がズレた。

 本来ならループを力尽くで止める技だけど、時間停止的にも使える。

 たーだーしぃ――


 時空の狭間に突き刺したプラトーを通し、数千の歯車が悲鳴あげたみたいな轟音が流れ込んできた。

 停止の反動!

 か、かか、身体の芯がし、しししび……


 でもデカブツの動きは止まった!

 一瞬かもだけど、十分。

 全力で頭部へ到達すると、清華の付けた弾痕を探す。――あった!


『ぼわー』


 不味い、また水に潜られる。

 早く!!


「せえ、のっ!」


 プラトーを両手で持ち、一気に突き刺した!

 狙いはルガー弾が抉った箇所だ。

 切っ先がささくれた樹皮を抜け、かなり奥までズガッと突き刺さる。


境界よ、あれ(テルミヌス=エスト)――ヴァージッ!」


 絶対時間の刃が形成され、不可視の《力》がザイクロトルクリーパーの内部へ流れ込む。

 それが芯を――割った!

 まるで雷に打たれたかのように、クリーパーの幹が大きく裂ける。

 バキバキとV字に!


 同時に、体温が一気に持って行かれるような感覚が襲ってきた。

 やっぱり二連続はキツイ……けど、まだ自分の足で立てる!

 きっとレベルアップの成果だ。


『ぼあ――』


 口が真っ二つになったザイクロトルクリーパーは断末魔みたいな叫びを上げると、最後の力を振り絞ったらしい。

 早回しみたいにアチコチから芽が生まれ、毒々しくもグロい華が咲き誇った。

 そして動かなくなった。

 川縁から立つ枯れ木に花が咲く。綺麗……かも知れないけど、花見には向いて無さそうだ。


 僕はそのまま落下するけど、濁流へ落ちる寸前に約束通り待っていたマントが再び巻き付いてくれた。


「ありがとー!」


 マントさんがサムズアップで礼に応えてくれつつ、無事に若先生の近くへ着地した。

 憎々しげにこちらを睨む顔は、老人みたいに見えた。

 ゲートは――よし、崩壊しきってない。どこかと繋がってる。


「貴様は……なんだ」

「僕は犠牲者だよ。――イーフレイム・エフォーが行った、《精神交換》の」


 相手は――意味を理解した。

 ああ、やっぱり。

 コイツは若先生の身体を乗っ取っただけの、別人なんだ。


 レンのガラスは何処へでも繋がる。

 おそらく精神内にも……

 あるいは、記憶の旧支配者ザーツ・ツァルムの力も借りたかも知れない。


 老人の顔だから、おそらく正体は――


「イ、イーフレイムはどうなった……」

「交換に失敗して勝手に死んだよ。イーフレイムの真似をした貴方も失敗する。これからね」

「よ、よせ! もう無駄なんだよ、こいつには正気なんて残っちゃいないぞ。そもそも、お前に何の権利があって……」

「権利なんてないよ、僕も貴方と同じさ」

「話しあおう!!」


 嫌だね、お断りだ。


 チン――



 終わった。

 ゲートは繋がりを無くし、消滅していく。

 実体ではなかったようだ。


『それが本来の若先生か』

「……」


 精神の死んだ青年がそこにいた。

 別の身体へ強制的に入れられても、平気な人間はいる。――けど、この人はそうじゃなかった。


「治るかな」

『……』


 ニュートが首を振る。


『カドを巡るぞ、瑛音。彼を連れて、双子のところへ戻れ』

「……」

『瑛音?』


 肩に登ってきたニュートの柔らかな体温が、首から頬にかかる。

 しばらくその暖かさに浸っていた――

もうちょっとあります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ