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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十一話:ノシエス/ノマエ
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Scene-10 ハブ・ナイン・ライブズ

『るううむ、るるぅむ……』


 ザイクロモドキからの《神話》の気配が強くなる。

 接触してないから自我を保てないのか……

 再び無機質な表情に戻り、口しかない頭部から種子弾を放ってくる。

 なんの!

 不味そうなのは、すべてプラトーで叩き落とす。


「このっ、このこのこの……このっ!」


 プラトーが命中するたびに種子弾が砕け、キーンとかパリーンみたいな硬質の音が連続して響く。

 スカートがほぼ原形留めてないので、動きやすいなっと!

 がるる!!


 電車外に反れたのは無視した。

 レールでは、ハズレた奴が次々と石棘の華を裂かせていった。

 本屋の横で喰らったアレか。

 電車の天井でトゲ華に咲かれでもしたら、移動できる範囲が狭まってしまう。

 そうなれば……!


「奴の口を塞げれば……もう一度、銃で!」


 左手のウェブリー・リボルバー・マークⅥで狙い、撃つ!

 種子弾を撃つために大口を開けたザイクロモドキの口内に、455弾が突き刺さった。

 撃ち損ねた種子が口内で発芽――しない、駄目か。


『瑛音、悠長に試す時間はなさそうだぞ。――あそこの川がラスだ、もう後はない』

「川?」


 慌てて先を見る。

 廃墟を抜けるカーブの先にあったのは――地割れ?

 線路が吊り橋みたいにぶら下がっている。

 底には水が激しく流れていたから、川といえば川かな。


「あそこに飛び込んで逃げるの?」

『逆だ。向こうがあそこで成長する可能性が高い。――奴は半分()()だぞ?』


 そうか、水か!

 いまザイクロモドキは上半身しかないけど、成長して下半身や翼が生まれたら……

 ぶるると震えた。ラスってそういうことか!

 徐々に逃げ場が狭まる中、定位置のフードからニュートが呟く。


『瑛音、加速で奴に肉薄できんのか?』

「蔦とかがね……加速中は曲がったり止まったりできないから、難しいよ」


 ふむ……と、ニュートが溜息。

 そして不敵に笑った。


『瑛音、危険だが最悪はカドを巡って離脱する』

「ごめん……最悪は当てにするかも。ニュートを危険に晒すのは嫌だけど」

『かかか、何をいまさら。お前の猫使いが荒いのは昔からだ。――だが、まだ足掻くのだろう? 最後まで付き合うとも、相棒!』

「ありがとう、相棒!」


 そこで銃の傷が治ったらしいザイクロモドキから、種子弾が再び放たれ始める。

 このっ――って、しまっ……迎撃しそこねた!?


 砕けきらなかった一発がすっぽ抜けたように宙を舞い、僕の目の前に落ちる。

 そこで発芽された!

 柔らかな芽や根のような物が四方へ一気に延びたかと思うと、次の瞬間すべて石のように固くなる。

 電車の屋根で石のトゲが咲き乱れた。前の時より棘がかなり長い!


「何の……うわっ!?」


 ギリ避けたかと思ったけど、スカートの残骸とかジャケットの端に引っかかった。

 即座にプラトーで服を切り裂いたけど、それで迎撃が疎かになった。

 種子弾がさらに二発、発芽する。

 電車の屋根に石棘の華が咲き乱れた、もう後はない!


 ぜいぜい……!

 銃には残弾が一発のみだ。

 服は――まあ、まだ残ってはいる。シャツ、伝線だらけのタイツにショートブーツだけだけど。

 もし変な目で見てる奴がいたら、後で憶えとけよー!


 電車は速度を緩めず、ガタンゴトンと揺れながらレールを爆走していく。

 地割れまであと――


「ふ、ふん、弾はまだ一発あるんだ、可能性の流れが尽きるまで足掻いてみせる」

『うむ。――ん? 瑛音、待て!』


 肩に登ってきたニュートの耳が、ピンと立った。

 背の毛も逆立つ。

 何が――そう意識を向けた瞬間だった。バーンという破裂音みたいのが廃墟の街に木霊する。


 銃声か――そう認識すると同時に、ザイクロモドキの開口部に銃弾が突き刺さった。

 さらに聞き慣れた声とエンジン音が響いてくる。

 ど、どこから――廃墟の奥!?




「――お兄さま、当たりましたわ!」

「よくやった、清華!」

「ふふん、当然ですとも。――瑛音さまー! いま参りますー!!」


 双子の乗ったオースチン7が、廃墟の合間から駆け下りてくる。

 じ、自力でカドを巡ったの!?


『どうやら援軍がきたらしいぞ、瑛音』

「ど、どうやってカドを巡ったんだろ。――それはそれとして、景貴、清華、無事でよかった!」


 ハンドルを握っているのは景貴だ。

 後部座席ではストックを付けたレッドナインを全身で支えた清華が、盛大にスカートを跳ね上げている。

 あわわ……あれ?

 電車と並走を始めたセブンの周辺だけ、幾何学が狂っているような気がする。


「なんか、セブンだけカドを巡ってない?」

『――違うな、双子の周辺だけ正常に戻っている。だが、どうやって……ああ、《牙》か!』

「牙って……千葉で手に入れた、猟犬の!?」


 そうか、逆角度がないからか。

 というか景貴、アレを持ってきてたのか。どんな影響があるとも限らないのに!


「瑛音さまー!」


 まあ……双子には今更かな。

 景貴が器用にセブンを操り、清華がレッドナインを撃ちまくる。

 牽制には充分だ。

 ザイクロモドキがまごついてる間に、周辺の華がすべて枯死した。

 ニュートがニヤリと笑う。


『瑛音、余裕か生まれたところで少々前の話をおさらいだ。――イース人より、どのような言葉を賜った?』


 チク タク チク タク


 耳の奥がチリチリと疼いた。

 無限に続くループの中で、イース人たちが言っていたレベルアップの意味を思い出す。

 時とは履歴であり、可能性であり、そして――


「《時》は流れない。現在、過去、未来という区分けは()()()()()()に過ぎず、ただ《プラトー》のみが真の体験をもたらす」


 正直よく分からない――というのは、ちょっと違うな。

 上手く言語化できないが正しいか。

 この、チリチリする()()()チクタク感覚を!

 ファンファーレやジングルはないし、メニューも開かないけど、レベルアップはちゃんとしている――


『おぼあー』


 撃ちまくられたザイクロモドキが、頭だと思わしき部位を振った。

 若先生としての意識がまた目覚めたか。


『おおー、いたくはなぁい、でもいたぁいー』

「しゃ、喋った!?」

「瑛音さま、あれは一体……!」


 景貴と清華が驚いてる。

 モドキはまずセブンの運転席にいる景貴を見て、次に後部座席で銃を撃つ清華を見る……ちょっと長くない?

 何だと思っていると最後に僕を見た。

 しばらく目が合う――いや、器官としての目はないんだけどね。意識としての目というか。

 そして二、三度器用に頷くと、種子弾の変わりに蔦を伸ばしてきた。

 僕に!


「コイツ、いま失礼なリアクションした気がする」

『大正浪漫に溢れる美少女すら凌駕する美貌ということさ、名誉と思っておけ』


 僕自身なら着替えや風呂とかで毎日みてますー!

 前から見る限りは子供の男だぞ、普通の!!


『るろおお……』


 腕みたいしてコッチに伸ばしてくる。

 細長いワサワサとした手付きというか、ツタ付きには、ある明確な目的があるように見えた。

 ある目的――だから男だって言ってるだろーが! がるるる!!


 とかやってる間にツターアームが迫ってくる。

 あれを構成する蔦の一本一本が、あの厄介な十八禁モードを備えているんだろうな……

 石の華とは違う意味で厄介だ。


「もう逃げ場がない――なら、作る。人類の諦めの悪さ、舐めるなよー!」


 あの感じだと、関節はなさそう。

 狙うなら神経や感覚器。

 とにかく重要なところを――だったら、あそこかな。

 喰らえ!


 ズヴァーン!

 ウェブリーから放たれた最後の一発が、狙った場所に命中する。

 そこは……僕の靴底の跡がある場所だ。でも一発ではとても足りない。――ので!


「清華、いま僕が売った場所へありったけ撃って」

「はい、瑛音さま!」


 リロードを終えた清華の全身がギチギチに緊張し、レッドナインと一体化する。

 ――銃声が連続した。

 ビシッ! ビシッ! っと、ルガー弾――百年以上たっても現役で使われている弾丸が、僕がさっき付けた弾痕からそう離れていない場所に次々と打ち込まれていく。


「四、五、六……最後っ!」


 レッドナインは全弾すべてが靴跡廻りに命中した、集中すごいな清華!

 怪物が苦痛に身をよじる。

 腕みたいに絡まった蔦が乱れてバラけた。

 混じってた人間部分の意志が、神話存在と混濁したんだ。


『るろぉぉ、るらあぁ』

「千駄ヶ谷御殿の奴と同じだ、人間としての部分が足を引っ張ってる!」


 チャーンス!

 チクタク感覚を蹴飛ばした。


 チクタク チクタク チクタク


 加速で主観時間が伸びる。

 狙いは――乱れたツタアームの万雷の槍列に一点だけ開いた突破口!


「隙は一瞬で十分だ!」


 疾走で蔦を越え、ザイクロの幹にズダンと着地する。

 よし――抜けた!

 そのまま垂直方向への加速疾走。

 電車はカーブを抜けて地割れに入った。重心が高いので、グラグラと傾く。


「有り難う、景貴、清華! そのまま逃げてーっ!」


 叫ぶと、双子を乗せたセブンの速度がガクリと落ちた。

 地割れ直前でターンしながら急ブレーキ!

 そこで止まった。


 電車は、吊り橋みたいになってたレールへ突っ込んだ。

 川へ落ちる――

 その寸前、もう一度チクタク感覚を蹴飛ばした。

 これが本番!!


「せぇの……おらーっ!」


 チクタクチクタクチクタク――ガキイッ!


「ぐ、ぐぐ……がががが!」

『ほう……これが今回のレベルアップの成果か』

「がぎぎ……!!」


 ニ、ニュートに返事をしたかったけど、そ、そそ、そんな余裕が……全然ないっ!

 電車は――地割れに落ちる寸前で停止していた。

 正確に言うと、落ちてはいた。

 でも落ちては戻って、また落ちて、戻って――それを何度も繰り返す。

 状況を興味深げに観察していたニュートがくるんと首をかしげた。


『ループ……ではないな。時間減速なら戻らんから、時間停止をミスったか?』

「せ、せせ、せいかくに言うとー、どれとも違うう……ぐぐっ!」


 ぐがぎぎ……!

 僕はプラトーの切っ先で時間と空間のカドを突き刺し、電車を含む空間全部の《時》を阻害していた。

 なんていうか……歯車につっかえ棒する感覚?

 それで歯車が空回りしてるというか。


 だから時間が()()()()――違うな。

 ぐぐ、詳しく言語化してる暇がなーい!

 歯車に異物の挟まったような音が、絶対時間の刃を通して直接身体の芯に流れ込んでくる。

 そ、その苦痛たたた、たるや!


『――で、これからどう逃げるつもりだ?』

「そ、そそ、想定してたのととと、動きが、ちが……うがーっ!!」


 怪物を停止させた時間へ磔にし、テ、テルミヌス=エストでトドメって、つーもーりーだったーん、だーけーどおー!


 絶対折れないプラトーは平気だけど、僕が駄目っぽい。

 そのうち反動で吹っ飛ばされ、れれ……えええっ! ひぃーっ!

 ニュートが苦笑いした。


『瑛音、僅かでいいからプラトーにエネルギーを与えろ。オレがカドを動かして何とかする』

「りょ……さやかー、そこから、プラトーをうってー!!」


 声を掛けられた清華は、悲痛な顔でふるふると首を振った。

 へ?

 ――あ、手が震えてる!

 そりゃそっか、あれだけ連射すれば……とか思ってたら、代わりに景貴がレッドナインを掴んだ。


「瑛音さま、代わりに僕が。――清華、支えて!」

「はい、お兄さま!」


 セブンの上から二人がかりで狙いを付ける。

 頼れるお兄ちゃんだ。

 僕の《神話》とは別に、景貴と清華がレッドナインで時間を止める――


 銃声!

 プラトーの腹に、ルガー弾が命中した。

 命中ってーか、掠った!

 剣は当然のように無事。だ、けど――しーびーれーるー!


『よし、カドを巡るぞ!』

「ざーいーくーろーとーるー、おーま……えっ! ちょっとはダイエットしろぉぉ!」


 合図と共にニュートがカドを巡り、プラトーがすっぽ抜けた。

 同時に、密度すら獲得してそうなほどギュッと凝縮していた時間流が一気に開放さる。

 その反動で、電車ごとザイクロモドキと僕らが吹き飛ばされた!

 空中に投げ出される。


『瑛音、着地は任せた』

「まかされたけど、その前に――」


 プラトーと加速で電車の背を奔る!

 周囲は《時》の渦動でメチャクチャだけど、僕は平気だ。タイムトラベラー舐めんな!

 電車に同化した奴はマトモに動けない。


「オオ――オ――!」


 奴の背でバサリと翼を広がった。

 ナイトゴーントのか。

 でも巨体に比べて小さく頼りなく、なにより混じりすぎでコントロールできてない。


『ああ、どうやってーうごかすのおー』

「諦めて《接触》しろ!」


 そんな時間はやりませんが。

 プラトーを構えた。

 絶対時間の刃が形成される――


 チクタク チクタク チクタク


境界よ、あれ(テルミヌス=エスト)――ヴァージ!」


 一直線の閃光がザイクロモドキを縦に引き裂いた。

 割れ、砕け、ガラスのように破片が降り注ぎ、最後にブラックブックが現れ――ない?

 え??


『瑛音、本体はアレだ!』


 ニュートの指した方向にあったのは――意匠を凝らした窓枠と、そこに嵌まってるガラス?

 向こうに映っているのはカドの向こうで――これ、(ゲート)か!?

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