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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十一話:ノシエス/ノマエ
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Scene-08 ブレスレス

 レインコート男は、ずだだだだ――と、鎌倉の林の中を駆け抜けていく。

 オースチン7でも追いつけない。

 ――あ、足から血が噴き出した。骨折したかな。


「それでもスピードが落ちないね」

『流石、神話存在。――きちんと《接触》しておけば、もっと普通に戦えたのだろうが』

「瑛音さま、後ろ失礼します!」

「ん? ああ、いいよー」


 清華が、延長ストックを付けたレッドナインを肩付けする。

 シートの背を貸してやった。

 景貴も、心持ち静かに運転していく。


「もう少し……いま!」


 凄まじい集中で絞り込まれた銃声とともに、清華のレッドナインが吠え――命中!

 しかも後頭部のいいところにだ。

 貫通はしなかったようだけど、着弾の衝撃その物は後ろ頭へ抜けたっぽい。

 ああ、完全に意識を失ったな。


「なるべくなら死んで欲しくはないな、事情を聞きたいから」

『少なくとも、ナイトゴーントは生きてるな』


 ニュートの言うとおり、男の背面から瘤みたいのがせり出してくる。

 のっぺぼうの人面瘡みたいなの。

 どうやら、それがナイトゴーント本来の頭部らしい。


「わははははは!」

 

 背から逆しまにせり上がった顔が突然笑い出すと、飛び移った枝でくるっと回転した。

 そのままこっちへ突っ込んでくる。

 中の人は意識がないようで、それが逆にナイトゴーントの動きを邪魔せずに済んでいるようだ。


『くけけ……かか、ははは――はーっ、ははは! ケタケタケタ!』


 うーん、でもヒョロい。

 プラトーや対神話弾を使うまでもなく、清華のレッドナインだけでも勝てそうな。


 ナイトゴーントは口もないのに笑い続けている。

 ああ、あのノッペラ部分ってスピーカーみたいになってるのか。

 ん?

 と、うことは――


「――景貴、車を停めて。二人とも頭を下げてー!」

「は、はい!」

「くけかかか、カァァァァーッ!!」


 ギャリィィィィーン!!


 うわっぷ!?

 顔から発生したスクリーチャー・ノイズが耳を通り越し、頭を直撃してくる。

 まるで爪が剥がれるまで黒板を引っ掻いたような音でえええー、ぎゃー!

 奥歯が抜けるんじゃないかって思うくらい浮き上がる。

 全身が総毛立った。

 周囲では、正常と異常がチカチカとモザイクし始めていく。


 ニュートをフードで庇いつつ、必死に状況を見た。

 ナイトゴーント側の顔がボコリと膨らみ、もの凄い速さで振動しているようだ。

 そこから異様な声を響かせているら、らら、しいー


「ノ、ノノイズ程度で――うわっ!?」

『瑛音!?』


 バッチーン!

 景気のいい音が、僕の全身から響く――って、尻尾の鞭かー!


 くそ、ノイズに加えて体勢がムチャクチャだから予測し損ねた。

 あの裏返ったシェー! みたいな変なポーズからだと攻撃が読み難い――うおわっ!?

 ぞくぞく……!


「いやぁ……あぁんっ!?」


 ――うわっ、変な声でたっ!?

 景貴と清華がハンマーに殴られたような顔をして、真っ赤に凍り付く。

 悪い意味でヤバイ、ちょっと待てー

 耐えようとするけど、我慢で、できない……かか、身体が敏感になってる。

 ぎやー、やめろー!


『瑛音、変な声を出すな。――いや、そうか。ナイトゴーントの()()()()攻撃か!?』

「これ、本屋で喰らったやつー、たた対処法を、ぷぷぷりぃーずぅ」

『奴らは尻尾でターゲットを無力化してくるのだ。普通は笑わせるだけなのだが……ううむ、今回のコイツはもしかして性的なエロ同人アタックなのか?』

「ぎゃーっ!!」


 ちょ……神話存在を相手に恥ずかしいリアクション取らされるとか、人生でトップ3に入るピンチかも!?

 何とかしたいけど、何とかできなーい!

 景貴と清華は――駄目か、真っ赤に凍り付いてピクリとも動かない。


「たた、対神話弾を……」


 し、したくないのに、こ、腰がくねるー

 くそ、油断しすぎたか……!

 それでも鞭の攻撃をどうにか避けつつ、何とかウェブリー・リボルバーを抜いた。

 プラトーは――駄目だ、抜けない。

 抜けるかー!!

 い、いま抜いたら、イースの超時空パノラマ羞恥劇場に最悪のページが加わってしまう。

 ガクガクと内股で膝を笑わせながら、銃の狙いを定める。

 さ、ささ、定めたいんだけどねー!


『瑛音!』


 頭の天辺に駆け上ってきた相棒が、前脚でパシーンと額を叩いた。

 肉球の感覚が少しだけ冷静さを取り戻してくれる。

 千葉の事件で知り合ったケンコーさんじゃないけど、猫には本当に鎮痛作用があるのかもー


『瑛音、合図したら引き金を引け!』

「じゅ、じゅうこうが震えて……」

『それも込みでオレが狙いを付ける、構わんな!?』

「りり、りょ!」


 オースチン7の助手席で、銃を構える。

 でも全身がガクガクと震える。

 内臓がマグマみたいにグツグツと煮えたぎる。体中から吹き出そうとしているみたいで――

 ぐぐぐ……!


『かか、かーっかかかか!』


 妙な笑い声とともに、また尻尾の攻撃が襲ってくる。

 バシッ、ビシッと鞭の一撃がが!

 とっさに銃を守るのが精一杯で――

 ぎにゃー!

 う、打たれた肩とか足から、感じたくないタイプの感覚ががが。

 こ、これをセンシティブな場所に喰らったら……!


『奴の攻撃を食らっても死なん、無力化されるだけだ!』

「人としての尊厳が死ぬってばー」

『すまん、そっちは後で回復してくれ。――いまだ、引き金を!』


 ペシンと額に肉球。

 とっさにウェブリー・リボルバーの引き金を絞った。

 どこ狙ってるのかサッパリですが!

 ニュートを信じて放った対神話弾は、目の前で翠の爆発を起こした。


『ぎぃっ!?』


 ナイトゴーントが叫ぶと同時に、小さな竜巻が襲う。

 くっ、翼か……!

 爆発かと思うような風が巻き上がった。どうやら、どこかに命中したらしい。

 状況を目に収めた瞬間、ゾクリと背筋が凍った。

 奴は胸を翠の炎に焼かれながらも、尻尾の鋭い一撃を飛ばしてきていた。

 狙ってるのは――てめー、股間かぁーっ!!


「なーんのぉーっ!」


 咄嗟に片足で尻尾の先を――蹴る!

 パシィンと漕ぎ見よい音が響き、尻尾が波打ってたわんだ。

 弾かれた一部が、お、お尻の下を、かか、かすった……けど、無事だ。

 尊厳を含めて!

 ついでに後ろの清華も無事だ。大正浪漫が溢れる美少女にこんなリアクションさせられるかー!


 代わりに僕のスカートが盛大に切り裂かれたけど、そのお陰で両足の自由度が一気に上がった。

 そのまま蹴り上げてジャンプ――から、腰も捻りつつのサマーソルトォ!


「ついでだーっ!」


 空中大開脚だけど誰もいないのでセーフ。

 ニュートを守りつつ海老反りでひっくり返えって、握ったままだった銃を――狙って、撃つ!


 ズバァン!


 空中で逆立ちするポジのまま撃った対神話弾の三発目は、ノッペラボウの顔面スピーカーに命中した。

 翠の爆発が炸裂し、ナイトゴーントが吹っ飛ぶ。


「どーだ!」


 翠のガンスモークが、僕の動きに合わせて弧を描いた。

 メチャクチャに破られたスカートをエプロンの前垂れみたいにまとわりつかせつつ、助手席に着地する。

 飛び上がったときとほぼ変わらない位置だ。




「ふぅ……」


 股間に集中していた血流は、身体中に散ってくれたようだ。

 お陰で頭も冴えてくる。

 ――とか思ってたら、盛大に捲れ上がったスカートが元に戻って、後部座席で齧りついてた清華の頭にフワリと被った。

 いけね!

 慌てて引っぺがすと、清華は――コテンと引っ繰り返った。


「お尻、お綺麗でございました……」


 清華が夜空の星になりながら昇天した。

 あのー、股間にはスカートの残骸があったし、別にタイツも敗れてないのですが。


「確かにパンツは特注のだけど、そんな大げさな。景貴、清華を……景貴?」

「……」


 景貴も潤んだ瞳できゅっとか、ぶるっとか……おーい、帰ってこーい。

 あなたノーマルでしたよね、景貴さん?


『瑛音、悩殺は程々に』

「僕はされる方だと思う。――あ、そういえばナイトゴーントは?」


 アイツもこっちに見惚れてたらテルミヌス=エストを叩き込んでやろうかと思ったけど、どこにもいなかった。

 それどころか周囲の景色が一変している。


『カドを巡ったか。しかし、いつの間に……?』

「鎌倉……じゃないな、東京?」


 建物は燃え、アチコチから黒煙が上がっている。

 周囲は瓦礫だらけの廃墟だ。


 関東大震災……では、なさそうだけど。

 こんな昭和っぽい建物はないし。

 どうやら位相の重なる異界へ転移させられたらしい。神話の度合いが信じられないくらい高い。


『これは特異点(ボレア)か。しかも、現世と幻夢郷(ドリームランド)を重ねて融合した。――ふうむ、中々やる。カドの使い方は悪くない』

「ニュート、後を追おう」

『おう。地面に奴の残した血痕がある、それを追え』

「りょ!」


 ニュートを肩に乗せたまま走る。

 灰と黒煙の異世界で、ただ一つの赤が点々と地を走っている。

 ナイトゴーントを着てた男が残した血痕だ。


「ニュート、さっきのだけど……どう思う?」

『千駄ヶ谷御殿のときと同じで、外部的な手段での《神性》獲得だろうな』

「モミアゲさんもそうだったけど、写本を縫い付ける奴か。――あれは、どういう手術なんだろう」

『おそらくだが、《混沌》だろうな』

「混沌?」


 それ、丹後丸事件のときにも聞いたな。

 人類側のアドバンテージであり、同時にビハインドであるって。


『瑛音、神は絶対であるが故に《秩序》である――これは分かるか?』

「身に染みてるよ」

『では、その秩序が乱れるときとは、どのような時だ?』

「ん……と、神様が複数いるとき?」


 自分を絶対曲げない存在同士が衝突したら、そりゃ戦争だろう。

 相容れないんだし。


『その通りだ! そして秩序同士を衝突させたり、融合させる旧支配者の総称が《混沌》だ』

「ああ、なるほど。旧支配者にとっても迷惑な奴?」

『宇宙が熱かった頃なら《旧支配者》を増やす良い存在だったのだろうと思うが、宇宙が冷え切った現在ではどうかな』

「ああ、なるほどね。でも反発と融合か……つまり、混沌が作るのは神話じゃなくて《神話大系》なんだ」

『おお、よい表現だ。――それより前方を注視しろ!』


 血の跡は瓦礫の奥へ続いている。

 奥には――鉄道?

 無事なレールが、廃墟のずっと奥へ続いているらしい。

 汽笛の音がやかましく響き始めた。


 直後、廃墟に溶け込んでいプラットホームから電車が走り出してきた。中にいるのは一人だけ――レインコート男!

 ええい、仕方がない。


「ニュート、掴まっててね」

『おお!』


 燃えさかる瓦礫をパルクールで飛び抜け、最後に大ジャンプをかまして電車の背に飛び乗った。

 そのままゴロゴロと連続の受け身回転で反動を分散。

 でも車輌は一両のみしかない。

 このままでは、端から落ちてしまう――


「なんの!」


 プラトーを引き抜き、ブレーキをかける。

 パンツが見たい奴は勝手に見ろ!

 ただし男だが!!

 何とか電車の慣性も吸収し、端ギリギリで堪えた。


「ふう……危なかった」


 スチャっとプラトーをホルダーにしまう。

 しまうともさ!

 電車はかなり速度を上げていた。

 長い髪が一気に後ろへ流れ、ズタボロにされたスカートの裾がはためく。

 ニュートが下をチラ。そして緩くカーブしてる先をジーッ。


『瑛音、電車を早めに止めよう。このレールがこの先にも続いているとは思えん』

「りょ!」


 ニュートを押さえたまま身を乗り出すと、逆しまに窓を覗き込んだ。

 レインコート男は運転席側のシートに倒れている。

 跳ね上げられたフードの下には――観月院の若先生だ。間違いない。


『――この匂い、やはり観月院の若先生だ。瑛音、中へ入れるか?』

「待って、ニュート。――よっと!」


 後ろにあった出入り口のステップに降りると、そのまま扉を開けて電車の中へ入る。

 落下防止用のホロが付いてないから簡単だ。

 木と布の車内は――百年以上前の小学校みたいな印象を受けた。

 百年以上前だけどさ!


「こんな大昔から電車があったなんて、なんか不思議」

『SLもまだ走ってるぞ。乗りたいというのなら良い線を案内してやろう。駅弁も込みで、タイムトラベラー冥利に尽きる奴をな』


 ニュートが喉をゴロゴロ。

 そんな余裕をぶっ込むくらい若先生はボロボロだった。でも、さっきそれで酷い目にあってるので慎重に!

 若先生は――まだ生きていた。まだね。

 こちらをチラと見ると、口がゆっくりと動き始めた。


「イースの民よ……」

「……!?」


 この人、イースの大いなる種族を知ってるの!?

 立ち止まると、銃と魔剣をいつでも抜けるように準備する。

 ――ちい、対神話弾がもうない!


「ニュート?」

『瑛音、この時代に瑛音以外のエージェントはいない。奴の言葉を待て。判断はそれからだ』

「りょ……」

「イースの民よ……どうか再び《時》を見せて下さい。――先の戦争で大勢が死にました。愚かにもです。未来、人は愚かさ故に滅ぶのでしょうか」

「え――先のって、()()()世界大戦のこと?」

『瑛音、こら!!』

「い、一次! つつ、次もあるというのですか!?」


 あ、しまった。

 興奮した若先生がごほごほと咳き込む。


 ニュートと顔をつきあわせる。

 この男が何が言いたいのかよく分からないけど――

拙作に反応いただけて嬉しいですー

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