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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十一話:ノシエス/ノマエ
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Scene-04 プライベートアイ

 チクタク チクタク チクタク


「ふーん、ほー」


 路肩に停めたオースチン7の運転席で使ってた《幻視》を切る。

 場所は街外れ。

 そこに建つ、ペンキの塗り直された洋風の白い木造一軒家を過去から視ていたワケだけど。

 家には鎌倉観月院という看板があるので、おそらく病院だろう。


『――瑛音、状況を説明してくれ』

「うん、なら時系列で」


 幻視を切ったことを察したニュートが肩に登ってきた。

 助手席と後部座席の双子も身を乗り出してきた。美少女顔の美少年である景貴と、普通の美少女である清華の双子だ。


「まず今朝、管理人さんがここへ運ばれてきた。なんかギックリ腰っぽい。それからしばらくして軍人崩れ四人がトラックで乗り付けてきて、病院からこそこそ出てきたレインコート男を拾って出て行った」


 双子もコクコクと聞き入る。

 二人の記憶力なら、メモはいらないだろう。

 ニュートが鼻ピスピス。


『――で?』

「しばらくしてトラックが戻り、レインコート男とマルガリーさんを置いて去って行った。――清華、銃はしまって」


 木製のケースに入ってるモーゼル・レッドナインを持ち上げようとした清華を窘める。

 まだいいよ。まだ。

 説明を咀嚼した景貴が真剣な顔で個人医院の建物を見た。

 こちらは分析者の目だ。

 ニュートが頭をくるん。


『マルガリーって誰……ああ、丸刈り男か。お前に指を折られた奴』

「軍人崩れさんの一人ね」


 大正時代、ワシントン軍縮条約に端を発する大リストラで大勢の軍人さんが職を失っていた。

 お陰で物騒な人たちを色んな場面で見かける。

 普通に働いてる人が大半なんだけど、中には駄目な仕事に就いてる人も……


「瑛音さま、こちらから襲撃しますか?」

「うーん……思うんだけど、レインコート男は《神話》使いじゃないように思えるんだよね」

『うむ、同意しよう。だが……』


 黒猫のニュートが猫目を細める。

 大変、格好いい。


「そう、だけど《神話》は使えた。つまりレインコート男の背後に黒幕のいる可能性が高い。――けど、今のところそんな感じの人は視ていない。だからもうちょっと詳しく調べたいな」

「はい!」


 ニュートと一緒にセブンから降りた。

 双子も着いてくる。


「病院だし、さっき飛び降りて足を捻ったとか理由を付けて診てもらおうか」

『それはやめとけ。お前の身体は少々特殊だからな』

「瑛音さま、敵と分かっている相手にお身体を触らせることには反対です。理由は僕が考えます」

「なら頼んだ。行こうか」


 観月院は二階建ての洋風建築だった。

 建物を一言でいうと――真新しくて古い文化財。時代を感じる部位がバグりそうだ。

 入ると玄関で靴を脱ぐタイプの建物で、横には受付の小窓があった。診察室から顔を出せるようになっているらしい。


『震災で建て替えたばかりのようだな。いい趣味だ」

「文化財っぽいのに新しいって何か変。――すいませーん!」


 でも返答なし。あれ?

 そのまま少し待っていると、白衣を着こんだ青年が顔を出した。多分ここの医者かな。若先生。


「な、何か……」

『瑛音、こいつ出版社にいた犯人と同じ匂いがするな』

「すいません、僕らは――」


 若い医師は僕たちを見てちょっと驚いたようだけど、見舞いという目的を告げると快く通してくれた。

 通されたのはカーテンで仕切られたスペースで、初老の男性がゴツゴツした腰を湿布だらけにして唸っている。

 彼が管理人さんだ。


「坊ちゃん嬢ちゃん、こんな格好ですまないね。ええと……その、どうかなすったかな?」


 面倒なので景貴を先頭に立てさせてもらう。

 頼んだ!


「実は……」


 景貴はいとも容易く事情をでっち上げていった。

 立石に水だなー

 曰く、妹への誕生日プレゼントに出入りの業者へ本を頼んだ。でも入手したと連絡があってから音沙汰がない……等々。


 途中、唐突に本の題名を清華に振った時は驚いたけど、清華は淀みなく『オズの魔法使い』と答えて乗り切った。

 双子のシンクロ凄い。

 おかげで管理人はあっさり信じてくれた。

 あと、もうあったんだ……オズの魔法使い!


『ちなみに明治時代に翻訳済みだ』

「へー」


 ニュートと、こそこそ。

 そういえば女の子が主人公の冒険物だし、清華なら読みそう。――というか、買ってくれという遠回しのおねだり?


「ああ、そりゃすまなかった。待ち遠しいだろうが、もう少し待っててやってくれんかな。いまちょっと大人たちが揉めててね」

「分かりました。――そういえば会社の扉が開けっぱなしでしたけど、大丈夫ですか?」


 景貴が本題に切り込む。

 肩越しに振り返り、これでいいんですよね――と、僕をチラ。おけ!


「なんだって? 会社にはまだ行ってないから鍵は掛かってる筈なんだが……てて。坊ちゃん、すまないが上着を……ああ、ありがとう」


 腰に負担を掛けないように上着のポケットをごそごそと探る。

 その顔がみるみる青ざめていった。


「しまった、落としたか!? こりゃ大変だ……ったー!!」


 起き上がろうとした管理人が、へちゃっと潰れる。

 慌ててさっきの医者が飛んできた。


「大丈夫ですか!?」

「ああ、若先生……てて、ちょっと電話をお借りできますか」


 そこからしばらく混乱が続く。

 焦りまくって電話している管理人さんの背中をぼーっと眺めつつ――


 チクタク チクタク チクタク


「お……?」


 過去のヴィジョンで、マルガリーさんが若先生から治療を受けてる。

 ですよねー


 今は若先生が出てきた奥の部屋にいるな。

 扉がちょっとだけ開いてるし、こっちを憎々しげに睨み付けてるっぽい。

 さて?


『犯人のうち二人がいるようだが、どうする?』

黒幕(オオモノ)を釣りあげたいから、一度引こう」


 ニュートも同意してくれる。

 隣では若い医者が心配そうな顔で管理人さんを見守っている。

 そのまま何気なく若医者に声を掛けた。


「病院って凄い匂いですね」

「え? ――ああ、今日は腰を悪くした人が来ているからね。貴方も足を捻ったりしたらいつでも来なさい」

「今日も高いところから飛び降りたりしましたから、きっといつかお世話になります。僕らはまだ当面鎌倉にいますから」

「はは、お転婆だねえ」


 パタン――

 奥でパタンと扉が閉じたけど、気付かないフリをしてやる。

 ふふん、どこで仕掛けてくるかなー?


 そういやって軽く雑談していると、管理人さんが電話を終えた。

 どうやら大事にはならなかったようだ。

 管理人さんを若先生に任せ――そうして引き留めたり、後を追えないようにしてから外へ出る。


「失礼しますー」


 外に出ると、清華が身をすり寄せてきた。

 こっちの耳にこっそり。


「瑛音さま、奥にどなたかおりましたね」

「いたねー」

「どこかで襲撃してくると思うのですが、人気の無い場所に行きますか?」

「ううん……もう少し引き回してからね。今日の宿って何処だっけ」

「由比ヶ浜にあるウチの別荘です。人手はそれなりに……」


 清華がニヤリと笑った。

 民間軍事会社どころか、会社が武装部門を持ってるような時代なんだよね。

 アメリカの自動車会社が私兵ならぬ社兵を使って労働運動をスパイしたり、ストライキを武力鎮圧したり……

 日本は流石にそこまで露骨ではないけれど、それでもちょっとした武装グループ程度は苦もなく集められる。


『――敵もな』

「ニュート、心読めたっけ?」


 双子は僕の言葉を待っている。

 ま、いいか。


「夕方までブラブラしてようか。鎌倉って何処か面白いところある?」

「八幡宮、大仏様、車があるのでしたら由比ヶ浜をドライブも。あ、それとお昼ご飯を!」


 景貴と清華がユニゾン。

 そういえば、そろそろ良い時間か。


「鎌倉って何か名物あったっけ? ――あ、ニュートも食べられるのがいい」

『待て待て、オレは人間の食べ物を直接食えない。それにオレが一緒だと入れない店もあるだろうから、三人で気にせず食べてこい』

「そっか……うん、ならお土産買うね。景貴、清華、八幡宮の方をダラーっと流してどっか良いところ探してみよう。どうせ食べ物屋は必ずあるし」

「さんせー! 行きましょう、瑛音様、お兄様!」

「肉がいいなあ」

「嫌です。綺麗なお店で甘いのがいいです」

「……」

「……」


 睨み合いの末、くるんと二人の首が僕に向いた。

 肩をすくめる。


「メニューに肉がありそうな、できるだけ瀟洒なお店さがそ?」

「はーい」「地図みますね」


 双子が今日一番ワクワクした顔をしている。

 皆でオースチン7を流しつつ、清華の気に入る外観に景貴の気に入るメニューを兼ね備える店を探す。

 そういう店は、鎌倉のメインストリートですぐに見つかった。

 セブンを停めて店の前まで行くと、清華が腰に手を当て店の面構えに合格点を出す。


「まあいいでしょう」


 景貴が腕を組みながら、メニューに合格点を出す。


「まあいいかな」


 そして最後の試練。

 何とかニュートの入店許可を取り付けた僕が、ほっと溜息をつく。


「お腹空いた……」

『ポン、ポン、ポンッ』

「ではここで!!」

「三人、お願いしますー」




「ふぅ……」


 林檎ジャム、チョコ、クリームと三つある大きなワッフルのうち、チョコのを平らげた清華が満足の溜息をつきながら紅茶を一口。

 実に様になっているな。

 ただ、明治のワッフルはちょっと大きい気がする。

 よく三つも食べられるなー


 横では、景貴がカツレツと大盛りご飯相手に圧勝している――うーん、マナーだけは完璧だな。

 ただ、ソースをかけ過ぎてるのが子供っぽい。

 ちなみに僕はハヤシライス。

 初めて食べたけど、辛くない! そーゆーものなのか。


「しかしこうしてみると清華ってお嬢さまだよね。可愛いや」

「あら……うふ。瑛音様、一口だけですよ?」

「あ、いや、そういう意味で言ったワケじゃ……ああもう、あーん」


 林檎ジャムたっぷりワッフルをテーブル越しに一口。

 ハヤシライスを食べてる最中の口直しにはちょっと甘いかな。


「おいひい……」

「……」


 景貴もちょっと興味を持ったようだけど、肉と油を美味しく食べるために甘みは余計と判断したらしい。お皿に集中しなおした。


『清華は貴族のご令嬢だからな。このまま育てば、アイドルみたいな立ち位置になる。結婚せず進学するなら、楽しいキャンパスライフを過ごすだろうとも』


 お店に無理いって入れさせて貰ったニュートは、椅子の下で大人しくしている。

 人間の食べ物は断固拒否している。

 それはそれとして!


「アイドル?」

『社会的地位のあるスーパーセレブだからな。未来のインフルエンサーさ』

「あれ、もしかして僕は凄い人と一緒になってる?」

『逆だ、逆。二人が偉大なお前と同席させて貰う栄誉を授かっている。イースの加護はそう簡単には貰えんのだぞ?』

「ねえ、ふと思ったんだけど――」


 内緒話の気配を察したニュートが膝の上に移動してくれた。

 こそこそ。


「双子の未来って明るいの……?」


 世界恐慌、日中戦争、軍国主義、第二次世界大戦、冷戦――あまり明るい未来が待っているように思えない。

 地位も、令和の現在に貴族がいない以上どこかのタイミングで廃止されているワケだし。


『――瑛音、ここはIF世界だ。フランスがロシアとの同盟に則って日露戦争へ参戦し、そのまま英仏が激突して大規模な多国間戦争に発展している異世界。その後の歴史は混沌の大渦だ、さっぱり分からんよ』

「欧州ではナチスとかが暗躍してる時代だよね。吸血鬼のマンガで読ん――」

『ない』

「え?」

『ナチスが正式に立ち上がるのは昭和だ。大正にはないぞ』

「あらら。そっか、大正って良い時代なんだな」


 世界的な軍縮とデモクラシーの発達で軍部の力は弱いし、令和から見ても普通に民主的。令和と比べても違和感がない。


『ただ未来は分からんぞ。英仏が争ったお陰で趨勢が変わってるからな』

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