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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十一話:ノシエス/ノマエ
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Scene-01 トゥ・テイキットイージー

 冬特有の突き抜けるような晴天下、なだらかな丘陵地をオースチン7の全力で駆け抜ける!

 競っているのは、江ノ島電鉄だ。

 お客さんを満載した二両編成の電車へ追いつき、追い越し……越して……もうちょい、あと少し――よぉしっ。


 カーブへ差し掛かる前になんとか追い抜いた。

 運転士や乗客の人たちが笑いながら手を振ってくれたので、返礼に指笛を吹き鳴らす。ひゅー!

 そのまま電車と別れた。


「あははは、勝った!」


 いつもの遠征スタイルで片手ガッツポーズ。

 フードの中で丸まっていた黒猫ニュートがちょこりんと顔を出した。

 可愛いなあ、もう。


『瑛音、しばらく道なりだ。海岸に出るまではこんな道が続くが、もう少し安全運転で頼む』

「ああ、ご免ニュート。安全運転りょーかい!」


 ニュートのナビで国道一号線を西へ西へと進み、藤沢にある結社の支部で少し休んでから、再び駿河湾に向けて南下している。

 目的地は千年前の首都にして現リゾート地、鎌倉だ。

 結社が鎌倉でブラックブックの僅かな手がかりを見つけたため、僕の《幻視》で調査することになった――というのは半ば建前かな。


「車の運転って面白いよね。令和にいた頃は自分でするなんて考えたこともなかったのに」

『運転は娯楽にもなる、存分に楽しむといい』

「うん、そうさせてもらってるよ」


 機嫌良く、愛車であるオースチン7を走らせる。

 これこそが鎌倉まで行く最大の理由――何てことはない、リブートとリフレッシュのためだ。

 今のところ仕事中が一番落ち着く。


 なにしろ、大正では存在しないモノが多すぎる!

 遊ぼうにも何もない。

 結社も察してくれてるらしく、色んな仕事を突っ込んでくれる。

 お陰ですっかりワーカホリックだ。


『――大正にもそれなりに娯楽はあるのだがな』

「歴史とか好きな人には浪漫の宝庫なんだろーけどさー」


 察したニュートがフォローしてくれる。

 こういう気遣いしてくれる相棒との会話には、本当に助けられているなあ。


「異世界転生した人は普段何して息抜きしてるんだろうね」

『そりゃ勿論、モンスター退治みたいな異世界ジョブそのものだろうな』

「ああ……って、いまの僕だ」


 ニュートがくっくっと笑いながら肩へ登ってきた。

 そのまま頭をくるんと回し、自分の額をコツンとぶつけてくる。

 ちょっとくすぐったい。


『それより、この前のイースの大いなる特訓はご苦労だった。残念ながらレベルアップにはわずか届かなかったらしいが、次の機会はすぐ訪れよう』

「あれ以上やられたら僕が死ぬ、狂うって! 延々走っていくエンディングはもう懲り懲りだよー」


 こないだレベルアップ名目で大特訓させられたばかりなのだ。

 八番出口というか、延々走ってくタイプのエンディングみたいなのを……

 ゲームなら平気だけど、現実では辛い。


『だが、そのお陰でレベルアップ目前なのだろう?』

「ステータスが出るワケじゃないから自分では分からないけど、そうらしいね」


 時間流がどーした、時間抵抗がこーした。

 なんとなーく掴めたものがある気はするけど、実技後の座学では時間極性のあたりでパンクした。ぷしゅう。


『危なっかしい使い方が矯正されたのなら喜ばしいぞ。それならば紛れもなく進歩だとも』

「エージェントとして正しく成長させてもらってるなら、嬉しいけーどーさー!」


 彼ら、彼女らが何を考えているのかはイマイチ分からない。

 種族が違うせいかとも思うんたけど、でもニュートとなら普通に会話できてるしなあ。

 ちょっと口うるさいけど、頼れる相棒との会話は楽しい……うん、そうだ。


「――こういう愚痴を聞いてくれるニュートがいてよかったよ。君がいなかったら僕は気が狂ってたかも知れない、ありがとう」

『かかか、お互い偉大なる種族に仕える身だからな。助け合っていこう』


 前を向きながら、指で頼もしい相棒の喉をカキカキ。

 ゴロゴロという響きが伝わってくる。


『――それはそれとして、次の橋を渡ってくれ。そろそろ眺めもよくなる』

「りょー」


 橋を渡ってしばらく走ると、丘の頂点で森が途切れて視界が開けた。

 冬の青い相模湾に、白い富士山がくっきりと浮かぶ。

 おお、キレー!


「この時代の富士山も綺麗だなー」

『ふふん、時代を肌で感じ取れるのはタイムトラベラーの役得というものだ。おお、街も大分復興したようだ』


 そこかしこに震災の爪痕は残っているけど、人々は既に生活を取り戻しているようだ。

 遠くには江ノ島も見えた。

 弁天橋は仮設桟橋になってるな。大橋はまだ架けられてないから、なくて正解。


「ニュート、目的地ってそろそろ?」

『まだかかるが、ゆっくり行こう。今日は鎌倉に宿が用意されているそうだ』

「りょーかーい、――ニュート、目的地について詳しく教えてよ」

「鎌倉町にある神倉出版だ。元々はカイロンの系列会社で、そこから妙な取り引きが浮かびあがったらしい。詳しくは到着してからの調査だ、それまでは相模湾のドライブを楽しんでくれ」

「りょ!」


 ハンドルを握りながら、歌い始める。

 車中ならラヴォアールでは封印しているカラオケレパートリーも思う存分歌える。

 そうやって唄っているうち、ふと思いついた。


「そうだ、ニュートも何か唄ってよ」

『ああん? ――お前が知ってそうなのは歌えんが』

「だいじょぶ、何とか合わせるからさ」


 ニュートがしぶしぶと歌い出した。

 渋い声に似合わず、曲は軽快なカントリーロック調の洋楽だ。

 ドライブには意外と合うなー


『♪Take it easy』

「♪てぃきっいーじ~」


 二人で唄いながら、車は鎌倉を目指す――



 古都、鎌倉町。

 ここが市になるのは、まだちょっと先のことだ。

 明治からはゾート開発も始まっていて、大正の今では横須賀線やら江ノ島電鉄などの鉄道も開通している。

 関東大震災後は文化人や文士が多く移住したことで、独特の発展を遂げつつある……というのはニュートの受け売り。

 そこの駅前広場に、オースチン7で入った。


「令和に比べて建物が低いねー」

『たがバラエティに富んでいる。よい町並みだ』


 駅は赤い屋根の木造建築で、なかなかお洒落だ。

 駅前の広場は現代と違って未舗装。

 その周囲には石造や木造の商店や、和風カフェっぽいお店が軒を連ねている。店名しか書いてない割にやたら大きな看板が渋いな。

 どこも戦争と震災の連続によるデフレに苦しんでるようだけど、未来とは違って町を発展させていこうという熱気みたいなものは感じる。

 もっとも――


「この何年か後には世界恐慌が来るんだっけ?」

『そういうのは迂闊に喋るな、瑛音。それより、せっかく鎌倉に来たのだから少し遊んでいけ。鶴岡八幡宮に参拝するか、大仏を見るか……由比ヶ浜に戻ってドライブの続きもいいぞ』


 ニュートがスンスンと空気の匂いを嗅ぐ。

 そして、ふと思いついたように笑った。


『そうだ、芥川龍之介が下宿していた洗濯屋でも見に行くか? 本人は給油で寄った藤沢にいるはずだが』

「え、芥川龍之介って生きてるの!? とっくに死んでると思っていた」

『生きてるとも、タイムトラベラー。大正の現在ならばな! もっとも冬が明けた頃には精神失調を起こし始める筈たから、サイン貰いに行くなら早めにな――っと、迎えが来たぞ?』

「瑛音様!」


 黄色い声が重なってかかる。

 振り返ると、瓜二つの少年少女が停車場前のカフェから飛び出してくるところだった。

 二人の後ろにはボディーガードらしい黒服のお兄さんたちが続くけど、心なしかげっそりしているように見える。よほど引き回されたのだろう……それはいいとして!


「あれ、景貴と清華? 今回の担当者さんが来てる筈なんだけど」

「私たちです!」

「瑛音様、ドライブはお楽しみ頂けましたか」


 セブンのドアに並んで手を掛けた少年と少女が首を突っ込んでくる。

 ゴシックスーツを着た美少女顔の美少年が景貴(かげたか)、ゴスロリな美少女は清華(さやか)だ。魔術結社幹部の孫にして、二卵性なのにそっくりな双子だ。


「気分転換にはなったけど……いいのかな、この二人で」

『能力自体に問題はない。令和で言うなら堂々のギフテッドだぞ』


 それはそーね。

 自分が二人の歳だった頃は、こんなに優秀じゃなかったし。

 子供を神話事件に巻き込むのは……なんてのも、今更だ。


 でも護衛さんたちの同行は断った。

 そもそもの話、オースチン7にはそんな大勢乗れないしね。ガチの小型車だし、後部座席が特に狭いんだよねー

 なので拠点と連絡先を聞いてから、帰ってもらう。


 そんな狭いセブンの後部座席でも問題がないほど小さなお尻をした清華が、グイっと乗り出してくる。


「どちらへ、瑛音さま?」

「まずは今回の仕事場を見ようか、神倉出版だっけ?」

「瑛音さま、せっかく鎌倉へ来られたのですから少々羽目を外されてはいかがでしょうか……」


 助手席に座った景貴が、心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

 でも対する清華は乗り気だ。

 イース人の試練を終えた後でぶっ倒れた僕を運んでくれたのはこの二人だけど、それに対する方針がまるで正反対なんだな。


「承知しました、瑛音さま! 事務所はまだ閉鎖されたままで電気や電話はまだ通ってないそうですが、通いの管理人さんがいる筈です。彼からお話を聞きましょう」

「瑛音さまは長旅でお疲れだぞ、清華」


 お兄ちゃんが、はしゃぐ妹をジト目る。

 妹も負けてはいない。

 顔面力はほぼ互角だ、なにしろ双子だし。


「景貴、先に仕事を終わらせよう。チャッチャと片付けるからさ」


 ちょいちょいと、僕の目を指す。

 この目に幻視(ファンタズマリコール)という異能力が宿っていることを、二人は知っている。

 景貴は少し不満そうだったけど、大人しく引いてくれた。

 渋々と地図を広げた。


「ご案内いたします、瑛音さま」

「よろ!」


 この二人を仕事に連れて行くには、もうひとつ理由があった。

 双子は、僕の幻視をブーストする触媒みたいな役目をしてくれるのだ。

 何でかは知らないけどね。

 なんとなーくタイムリープの基点にしやすいからと思ってるけど、確証はない。

 でも、この二人と一緒のときだけ使える『《初見殺し》殺し』は強力で――


「……」

『どうかしたか、瑛音?』

「いや、冷静に考えると『《初見殺し》殺し』って名前はカッコ悪い」

『その感想、イース人に聞かれないようにな。詳細な設定付きで候補を山のようにくれるぞ。おそらく純粋な好意で』

「うえー」


 げそーっとしつつ、双子を乗せたままオースチン7で鎌倉を走る。

 鎌倉の大通り、若宮大路は令和からは考えられないくらい和と洋がごちゃごちゃに混ざりあっていた。

 立ち並ぶ家々は、石や木、漆喰、煉瓦、コンクリートなど様々だったけど、大正という時代で統一が取れている――ように感じるのは、僕が令和から来たせいだろうな。

 そのまま大通りを楽しみつつ抜け、奥まった路地を幾つか越えていくと、風景がガラリと変わる。

 山だなー

 それでも、家はそれなりにあるけど。

 砂利の坂道をナビして貰いつつしばらく進むと、やがて西洋風の建物が見えてきた。


「瑛音さま、あちらの建物です」

「ええ、もう着いてしまわれたのですか」


 車を停めると、助手席の景貴が地図をグローブボックスへしまう。その合間に後部座席から清華がふわりと飛び降りた。

 ゴスなスカートが黒薔薇のように広がる。

 黙ってると美少女だよなあ……とか思う間もなく、降りた景貴が妹のスカートを直す。

 なおす――いえ、じっと見てたのは清華のパンツが見たいわけじゃなくてですね。めくった方がいいですかみたいな顔でこっち見なくていいから、そこの双子!

 てなドタバタ葛藤をやってる横で、ニュートが僕の肩に登って鼻をピスピス。


『ふぅむ……悪くない建物だ。よい本がありそうだ』

「瑛音さま、調査なさるのでしたらご自由になさって下さい。結社メンバー以外は誰もいない筈です」

「じゃあ、遠慮なくね」


 三人と一匹で人気のない建物に入っていく。

 内装は白い漆喰と重木のツートン。

 所々にアールヌーヴォー様式が取り入れられたお洒落な建物だった。


『――?』


 ニュートの耳がピクンと跳ねると、ひょいと天井を見上げた。

 僕も首を傾げた。


「――ねえ、管理人さんがいるはずなんだよね?」

「その筈ですが」

「……」


 チクタク チクタク チクタク

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