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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十話:死と罠とクローズドサークル
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Scene-07 サウンド・オブ・サイレンス

 カチカチ――


 猟犬がブロック玩具のような口角を組み替え、グワリと吊り上げた。

 こっちが決め手を持たないことを理解しているらしい。

 臭いし性格悪いし、どうしてくれよう。


「猟犬、憶えとけ。僕の相棒はとても腕が立つんだ!」


 そう叫ぶと、プラトーの切っ先をピタリと猟犬に合わせる。

 つーても手はないわけですが。

 すいません強がりです。

 さて、どうしたものか……顔が引きつりかけたときだった。


「綾瀬杜さん、分かりました。分かりましたよー!」


 二階から、バリケードを越え損ねたような音が響いた。

 穣司さんが駆け下りてこようとしてるらしい。

 ま、不味いーっ!

 僕のそんな思いなんてお構いなく、穣司さんが続ける。


「これは()()()()()()を可能とするモノで、それはつまり……あ」


 ガッシャン!


 間の抜けた声とともに凄い音が響いた。

 コケましたかー

 譲司さんが、やかましい音をたてて階段を転がり落ちてくる。

 手には安綱さんの本を持っていた。


 自分より、そちらを優先して守ってるようだ。

 悪い人じゃないんだけどなー


「仕方がない、僕が守らないと……」


 穣司さんは床で伸びてしまっている。

 猟犬も困ってるっぽいな。

 まーねー、僕も困ってるよ!

 でも、このまま見捨てるわけにもいかない。ラスイチの対神話弾を猟犬に向けようと――ん?


 あれ、猟犬は困ってるんじゃないぞ?

 嫌がってるんだ。

 もうこれ以上は無理、駄目だ限界だみたいに……

 でもあの猟犬がいったい何に?


 考えろ瑛音!

 いま一瞬だけヒントを掴んだ、これを引き寄せるんだ。


「いたた……あ、綾瀬杜さーん!」


 穣司さん復活。

 タイミング悪く、廊下の角からケンコーさんと咲良さんも戻ってきた。


「どうした、おい?」

「あそこを!」


 咲良さんが床に伸びている穣司さんと、猟犬を同時に見つけた。

 さらに不味いーっ!

 決め手がない状況で猟犬から三人も守れないぞ。


「探偵、そのまま犬……を押さえてろ。犬でいいんだよな、これ。――あ、ニュートちゃんは無事か!?」

「ニュートは少し離れてもらってます。穣司さんは転んで……」

「お前は胡散臭いところも多いが、良いところも多いな。その美点、誇っていい!」

「穣司さんのところには私が行きます……!」


 散弾銃で僕と咲良さんを守ろうとするケンコーさんに、下がってくれと叫びかけた口が閉じる。

 本気でニュートの心配してくれてる人は無碍にし難い。

 咲良さんは刀を構えつつ、すり足でジリジリと猟犬の周囲を回って穣司さんのところへ。

 隙のない動きだ。


 三人でティンダロスの猟犬を包囲するようなカタチになった。

 い、いいんだけど……ぐぐ!


 考えろ、考えるんだ自分。

 何だ――ティンダロスの猟犬について、さっき僕は何を掴んだ?

 本質的な曲線の存在しない猟犬について……


 ん?


 待て。待て待て、待って。

 そうか曲線と直線!

 ティンダロスの猟犬は本質的な意味で曲線を持たない。持たないからこそ、本能的に曲線を嫌う。憎悪する。

 つまり()()なんだ。


 もしそうだとすると……もしかして!?

 息を大きく吸い込み、あらん限りのチカラで叫んだ。


「咲良さん、僕と一緒に猟犬を押さえて下さい。ケンコーさん、その銃で撃って!」

「承知!」

「任せろ、探偵。その為に持ち出したオートファイブだ」


 ケンコーさんが即座に散弾銃を構えた。とっさに逃げようとした猟犬の足へ対神話弾!

 緑の爆発が猟犬の足を止めた。

 そこへ12ゲージの散弾が、鋭く叩き込まれる。


「ギャン!」

「ふん、犬も可愛いと思うが――猫には一歩及ばん!」


 ガォン!

 碧の爆発によって足止めされていた猟犬のアチコチで、散弾の火花が散る。

 ウェブリー・リボルバー・マークⅥの銃声よりずっと大きな銃声が響き、廊下中に何重にもエコーしていった。


SQUEAL(ギャアァァァ)!」


 猟犬から大きな悲鳴が上がった。

 その悲鳴すら苦しそうだ。

 よし、僕の想像は多分あってる!


「ケンコーさん、そのまま撃ち続けて下さい。咲良さん、弾込め中は僕と一緒にお願いします!」

「ええ、分かりました」

「こいつは五発連続して撃てる、二発目行くぞ!」


 ガォンと散弾銃が吼える。

 いい音!

 横では穣司さんが気付き、蔵の中へ飛び込んだ。

 猟犬相手に意味はないけど、詳細の分からないケンコーさんと咲良さんには安心できるだろう。


「咲良さん、カタナはとにかく大きく振りかぶって下さい。突撃するときは一緒に鬨の声をあげましょう。アイツに勝つため一番重要なのは気迫です」

「気迫……ええ、任せて下さい!」


 望んでいるのは気迫ではないんだけどねー

 咲良さんは提案に無言で頷くと、カタナを居合いスタイルで腰に溜めた。

 ふぉぉぉぉ――と、呼気を貯めていく。

 グッド!


 僕も銃をしまい、右手だけでプラトーを構える。こっちは次世界大戦で発達した片手軍刀術の突撃スタイルだ。

 その間も大銃声が響き続け、大きな廊下を何度もエコーする。

 猟犬にダメージはない。

 ――けれど、かなり参ってるのは間違いない!


「さすが野獣だ、しぶといな。――ふたりとも、次で弾切れだ。弾を込め直す間は頼んだぞ!」

「ええ、任せて下さい」


 咲良さんが頷いたのでアイコンタクト。

 先鋒は譲るのサインに、彼女はニヤリと笑い――


「ふおぉぉ……!」


 咲良さんの呼吸法はまだ続いている。

 あの細い体躯に、信じられないような量の呼気が収まってる。これはいい気合いが出そうだ。

 そこで撃ち尽くしたケンコーさんがリロードに入った。


「いいぞ、頼む!」

「――ッ、破呀(ハア)ァァァァッ!!」


 裂帛の気合いが爆発し、弾丸みたいに飛び込んでカタナ一閃!

 速さも凄いけど、声も凄い。

 叫び声だけで廊下の空気がビリビリと震える。しかも長い!


「アイエェェェ!」


 猟犬がついに情けない悲鳴を上げた。

 ふふん、やっぱり!


 猟犬が苦しんでいるのは、痛みにではない。

 カドのない場である曲線の極み――球状に広がる()()を嫌っているんだ。

 人間で言うなら悪臭みたいなものかな。

 これだけで倒せたりはしないだろうけど、嫌がらせとしては充分!


「それはそれでムカ付くけどーっ!」


 なんか臭いって言われてるようだし!

 気合いにツァンの声を乗せながらプラトーを叩きつけると、たまらず猟犬が逃げ出し――いや、逃げられてない。

 見えない鎖がピンと張って、猟犬が地面に叩きつけられた。


「ギャン!」


 慌てて目をこらす。

 猟犬を束縛しているものは――


「くおっど みーるむ がうでぃぅむ ゆごす――」


 廊下に、ラテン語っぽそうな詠唱が響いてきた。

 でもユゴス(Yuggoth)なんて使ってるところを見ると、ずっと呪文に近そうだな。


 振り返ると、打ち身だらけの穣司さんが倉から這い出してきた。

 手に持っているのは、さっきまで睨めっこしていた安綱さんの書物と――ムーンレンズか!


「綾瀬杜さま、無事ですか!?」


 あ、呪文モドキは中断しないで。

 続けて続けて。


 こちらの意を汲んでくれた穣司さんの口からは呪文モドキが続く。

 大変よい、グッド。

 猟犬は……あ、カドに吸い込まれた。


 ぎゃらららら!


 レンズの活性化と同時に、まるで鎖を巻き取るように猟犬が引きずられていく。

 ケンコーさんと咲良さんは、目をぱちくりしていた。


「犬が……消えた?」

「に、逃げたのでしょうか」


 逃げたというか……

 多分だけど、レンズが異常角度でティンダロスの猟犬を縛り付けてたんだろうな。

 一度、異常角度内を通ったのかも知れない。


 だからレンズの活性化とともに、猟犬は元の場所へ――最初に出た場所と時間へ飛ばされてしまった。

 戻された、かな。

 だとするとレンズを覗けば、そこに猟犬が出現した場所が映ってる筈。

 ついでに周囲をチラっと見る。

 屋敷はまだカドを巡ったままだ。ニュートも戻ってない。つまり猟犬は倒せてないし、退散もしていない。


 ――という話を、胸中だけで呟く。

 いつもなら口に出すところだけど、聞いてくれる相棒が留守なので!


 ケンコーさん、咲良さんは困惑しつつも武器は下ろさない。

 アチコチ覗いてる。

 僕も剣と銃をしまうと穣司さんの前へ。

 ヘタレてる穣司さんの前までくると、ちょこりんと腰を落とした。


 両足は閉じてね。

 女性的な動作にもすっかり慣れたなー


「それ、ちょっとお借りしていいですか?」

「あ……はい!」


 穣司さん、なぜか正座してレンズを貸してくれた。

 まじまじ。

 レンズは直径五センチくらい。

 重さ的に、あきらかにガラスじゃない。もっと軽く、そして強靭な何かだ……ん?

 鼻息が後頭部に掛かる。


「何か?」

「あ、いえいえ!」


 穣司さん、いま僕の後頭部あたりをガン見してませんでした?

 何かついてま――っと。

 咲良さんがそっと近寄ってきて、マントとシャツの襟元を整えてくれた。

 ああ、服が乱れてましたか。


 頭上ではケンコーさんが苦笑いしてる気配が続く。

 そして穣司さんが萎縮……いや、真っ赤になってるな。

 なんです?


「――探偵、それは爺様の遺品だ。死の直前までソイツを覗いていたそうだから、物騒なモノが見えるかも知れんぞ?」

「そうですね、ある意味で物騒なモノが見えると思います。少々お待ちを……」


 懐の遺言状を思い浮かべつつ、三人の顔を見た。

 この三人は真実を知ったらどう動くだろう。


 うーん……


「――いい人ではあるんだよね。それに一人は猫好きだし」


 賭けてみるか。

 でも念のため保険もかけておこう。


 今日ニュートとした、何気ない会話の中で出た内容を思い出す。

 現在から見れば過去とは――


「穣司さん、安綱さんが解き明かした秘密を僕も解いてみます。このレンズをよーく見ていて下さい」

「秘密を……は、はい!」


 初心者とはいえ、こっちはタイムトラベラーだ。

 素人が施した異常角度を弄るくらい訳もな――くもない! なんだこのパスタみたいにメチャクチャな術式は!?


「大丈夫ですか、探偵さん……飴ちゃん、いります?」

「だいじょぶです!」

「無理はしないで、お父様のものならば難しいでしょうし」

「爺様は猫が嫌いだった以外は完璧な人だったからな」


 えーそうですね、カンッペキに難しいですよ!

 こんのド素人がー!!

 素人あるあるだけど、自分の願望を術式に書くなー

 しかも書き方が雑!


 旧支配者にホモサピエンスのセンシティヴな機微を理解して貰うのは、すっごく大変なんだぞー

 僕がその証人だ。


 ぜー、ぜー


 しばらく大格闘を続けていると、やっとレンズの果てに映像が見えてきた。

 ぐぐぐ、細かいことが全然弄れなかった……

 それでも何とかミュートとカメラのオンオフみたいな機能は仕込めた。

 後は口で何とかしよう。


 浮かんだのは立派な執務室だった。

 ザンバラに乱れた老人が、レンズを――つまり半月後(こっち)を見ながら何か作業してる。


「前の満月だ。――この人が()()()安綱さんで間違いありませんね?」

「ええ!?」

「お、お爺さま……?」

「まさか――いや、本当に爺様じゃないか!?」


 穣司さんたちがレンズにかぶりついた。

 指先でシーッのジェスチャー

 レンズの音声はまだミュートし、こっちからのカメラも切っている。


 そうやって()()()()()()は断絶してますよー、というイメージをすり込む。

 おけ?


「呼びかければ会話ができますが、こちらが何時かは言わないで下さい。本人が死んだ日付も伝えては絶対に駄目です。それが会話するときの()()()です……」


 そう伝えると、三人が神妙に頷いた。

 上手く行きますように……ではミュートオフ、カメラオン。


「お父さま……お父さま?」


 代表して、穣司さん。

 ちなみに穣司さんは愛人……じゃなくて、第二夫人というか側室のお子さんだから、呼びかけは「お父さん」で正しい。

 穣司さんの言葉を受け、ケンコーさんと咲良さんもグイっと身を乗り出した。


「爺様、極楽では達者でやっているか!?」

「お爺さま……こちらは息災です!」


 うん、よいね。

 特にケンコーさんのリアクションは大変よい。グッド!


 ちなみにケンコーさんと咲良さんは従兄弟同士だ。

 ケンコーさんと咲良さんにとって安綱さんは祖父なので、「お爺さん」呼びは正しい。


 なので二人からみて穣司さんは叔父。

 ただし年齢では穣司さんが一番下になる……くらい、高齢ですっごい若い女性を妊娠させたんだろうなー

 大正時代のこういうところは好きになれない。


 ブツブツいいつつレンズは穣司さんに渡した。

 後はよろ!

 レンズの異常角度の向こうで、安綱さんも呼びかけに気付いたようだ。


「――ん?」

「おお、お父さま!」


 感動の親子対面。

 ただ……ですね?

 レンズに写る過去の背後からは、うっすら煙が漏れ出してきていますねー

 鋭角という鋭角から!


 ですよねー

 この日に、そこでお亡くなりになったそうですから、つまりそーゆーことですよね!

 うん、早めに切り上げよう。


「おお、おお――穣司ではないか。ならば、そこは未来なのか?」

「お父さま!」


 安綱さんは一瞬惚けたけど、すぐ正気に戻った。

 目に宿っていた狂気も薄れる。


「そうか、穣司もレンズの使い方を見つけたのか。――おお、おお! よくやったぞ。ずっと覇気のない役立たずかと思ったが、考えを改めねばならんなあ」


 目を細めて笑ったけど、目が欲望でギトってる。

 俗物的なお爺さんだな。

 さっさと枯れてくれれば、若い人たちがこんなに苦労することはなかったのに……


 ケンコーさんと咲良さんは、後継者云々という言葉に感動していた。

 二人は穣司さん推しなので当然だ。

 穣司さんは後継者の座より、父親の顔を見られたことが本当に嬉しかったらしい。いい人だ。


「ああ、このレンズの力は素晴らしい……お爺さまの死に目に会えなかったこと、ずっと悔やみ続けておりました。それが叶うとは!」

「穣司……ん? おい、穣司!」


 感極まった穣司さんは滂沱の涙を流し始めた。

 さらに安綱さんを拝む。

 いい人だ……いい人過ぎるんだけどね!

 ケンコーさんと咲良さんも、釣られて泣いている。


「すごい……死んだ筈のお爺さまを、また見ることができるなんて」

「死後の世界って本当にあるのだな」


 よし! 大変よい、グッド!!


 穣司さんたち、レンズの向こうにいる安綱さんが生きてると思ってない。

 まあ、ある意味で正しいよ。

 現在という時間軸から見れば、過去の安綱さんは既に死んじゃってる人で間違ってない。

 僕みたいなタイムトラベラーなら別なんだろうけど……


「爺様、穣司は親族一同で支えてみせますよ。任せて下さい!」

「いま会社は大変な時期ですけど、会社の皆と力を合わせて立派に建て直してみせます。だから安心して極楽から見ていて下さいね」

「いや、待て。極楽とはいったい……おわっ!?」


 安綱さんが煙に気付いた。

 そろそろだ。


「か、火事か!?」


 違うよー

 それはタイムトラベラーの天敵ですよ、お年を召した後輩さん!

 胸中の呟きが通じたのか、安綱さんが悟った。

 これは、決して出会ってはならないモノだと――


 その目に絶望の光りがチカチカと瞬いた。

 助けを求めるようにアチコチを見回したせいで、偶然に僕と目があう。

 でも、どうにもできず……


「そろそろ時間です」


 厳かに呟くと、穣司さんが恭しく土下座した。

 現在を生き、未来へと進む人間に相応しい笑みを浮かべながら――

 ケンコーさんと咲良さんも深々とお辞儀する。

 安綱さんは――ま、最後ぐらい好きな顔してていいと思うよー


 おけ!


 必死の形相をした安綱さんは、立派な封筒みたいのを取り出そうとしている。

 殴り書きなら間に合いますよー


 スラリとプラトーを抜き放った。

 人間には演算不可能な超高密度の魔術情報により、絶対時間の刃が形成されていく。



 チクタク チクタク チクタク




「え……ええっ!?」


 馴染みの超感覚――チクタク感覚が励起される。

 でも僕は()()使ってない。

 僕はここにいるのに、一体誰がチクタク感覚を起こしてるんだ!?

公募の原稿に苦戦中…

ピンと来なくて三作くらいをアッチ少し、コッチ少しとやってたら全然進まない(泣

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