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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十話:死と罠とクローズドサークル
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Scene-06 ローリング・サンダー

 結局、牙は見つからなかった。

 近付いてくるケンコーさんたちをやり過ごすため、仕方がなく二階へ戻る。

 ぐぐ……ちょっと身体が重いかも。


「ふぅ……」

『消耗しているようだが、大丈夫か?』

「まだまだ大丈夫!」


 そう、()()ね。

 でも決め手がないままズルズルとこの状態を続けていけば、そのうち限界が来るのは目に見えている。

 打開のヒントか、あるいは新たな戦力が欲しいな。

 どっちもあるなら、なおいい。

 悩みつつ二階のホールへ戻ると、意外に平穏な空気が流れていた。


 ガヤガヤ――


 意外と皆さん、馴染んでらっしゃる?

 でも気が緩みすぎてるワケでもない……ああ、皆は中央にいる穣司さんを守る気でいるのか。

 本人は、ホールのソファで何冊もの本を調べている。

 確かに頼りなさそうな人だけど、打開策を得ようと必死になっている様子は少しだけ頼もしくあった。

 そんな雰囲気が周囲へもプラスに働いているのかも知れない。


「これも一種の人徳かな?」

『御輿は派手で軽い方がいい……誰の言葉だったか』

「ニュート、辛辣ぅ」


 穣司さんが調べているのは、和綴じのノートみたいのだ。

 感じからするに、お父さんであるヤスツナさんの手記とか研究ノートだろうか。


『ふむ……良いものを読んでいる。オレにも見させてくれ』

「りょ!」


 護衛っぽい人に断りつつソファへ近づく。

 こっちから声をかける前に、熱中していた穣司さんが顔を上げた。


「ご無事でしたか……そ、その怪我は!?」

「服が汚れてるだけです、大したことはありません」

「本当に……よかった!」


 僕が座るより早くテーブルをぐるっと回ってきた穣司さんにハグ――というか、かなりマジな抱擁をされる。

 景貴がしそうなダイナミックな奴で、身長差で海老反り気味になった。

 あの……仕事中なんで。

 それと、そこまで貴方と親しくはなくてですね?


 そう考えたら、パッと離れてくれた。

 忖度力が高いな。

 その隙にニュートをテーブルにちょこりん。

 穣司さんは、真っ赤になって席へ戻った。


「すいません、つい……」

「お気持ちはありがたく。――ところで、その資料は?」

「先ほどのメモの内容が読み解ければと、父の日記やノートなどを見ておりました。ですが難航しておりまして……」


 ふむ……?


「献立のリストはありました?」

「ええ、一年ほど前から結構な頻度で。料理人が覚えている範囲では、その日に出たものではないそうですが」


 対面の僕に見せてくれるため、穣司さん自身がまとめたリストを引っ繰り返してくれる。

 サイクルは半月ごと……いや、ちょっとずつズレてるな。

 んー、ん? ――あ!


「もしかしてですが、献立のメモについて書かれた日は全て新月では? そして献立は――もしかして満月の日の物かも」

「え? ちょ、ちょっとお待ちを……!」


 リスト片手に穣司さんがバタバタと走り去る。

 料理人への聞き取りと、カレンダーを見に行ったんだろう。

 大正時代のカレンダーには旧暦も載っている。

 新月は旧暦の一日だ。


 なお大正のカレンダーは見難い。

 それも、すっっごく!

 日付が漢数字だから縦書きだし、上から下にかけてフォントが小さくなっていく番付表形式とか本当に止めて欲しい。

 ――ので、旧暦を調べるのは任せました!




 穣司さんが席を外すと、少し時間ができた。

 水差しの水を一口分もらう。

 まずニュートに、それから僕だ。


『ふう、ウマイ。それでさっきの話だが……月齢に気づくとは鋭くなったな。おそらく満月が送信日、新月が受信日なのだろう』

「えへへ、何となくね。――でもタイムトラベルに月は関係ない。何か心当たりある?」


 尋ねると、ニュートが資料に目を落とした。

 少し沈黙。

 不意に猫目が鋭く細められる。


『もしやムーンレンズか』

「確かに月だけど、あのレンズって時間に関係あったっけ?」


 確か、邪教徒たちが特定の旧支配者と接触するために使う物だったような……?


『加工次第だな。このレンズは光を屈折させて()()()()を作り出す特別な性質を持つから、時空を歪めることだってできる』


 異常角度……なるほど、猟犬が食い付く訳だ。

 ヤスツナさんも独力で至ったとしたら大した物だけど、この世に人間以外の存在がいることには至らなかったのは残念だ。


 考えつつ、飲み干したコップをハンカチで拭っておく。

 ニュートとの食器共有は双子すら良い顔しないから仕方がない。

 綺麗なんだけどね。


 ちゃんとしたご飯しか食べないし、お風呂にも入って、歯すら磨くし。

 爪切りは嫌がるけど……

 そう考えると、ニュートがささっと前足を隠した。


『瑛音、何か不穏なことを考えてるな?』

「なーんにも!」

『まあ、いいが……瑛音』


 ニュートがフードに引き上げろと、前足ちょこん。

 抱き上げると定位置へ戻った。

 そこへ、バタバタと穣司さんが戻ってくる。


「綾瀬杜さん、間違いありません!」


 そのまま話を聞く。

 穣司さん曰く、僕の予想は当たったとのことだ。

 最後に穣司さんに切り出す――



「遺言状の件なのですが……内容を確認したら、どうされますか?」

「父は敬愛しております。それが例えどのような内容であろうと――従います!」


 その言葉を発した時の穣司さんの目を確認する。

 ――判断が難しいな。

 穣司さんとしては後継者を別の人にするとか、そういうのを予想してるんだろうけど……


 猟犬からニュートが取り返した遺言状は、僕のポケットの中にある。

 書いてることは絶対ロクでもないだろうな。


「では、探索を続けます」


 そういって再び二階ホールを離れた。

 穣司さんは再び調査に戻った。

 裏階段からバリケードを抜けて階段を取りつつ、ぼそり。


「内容に従います、か……」


 こそっと遺言状を開封する。

 紙面には、達筆な文字が縦横に踊っている。


「……」

『翻訳いるか?』

「下のだけお願い。――上から殴り書きされてるのはいい」


 本来の遺言状の上からは殴り書きの文字が躍っている。

 どちらも同一人物の文字だけど、同一の精神状態で書かれた物ではなかったようだ。


『要約すると、研究を引き継ぐ者に後継者の座を与えるとあるな』

「その上にペンで殴り書きされてるのは――失敗した、助けて、歴史を変えろ」


 何の研究かは書いてないけど――歴史を変えろ、だもんな。

 レンズのだろうなあ。

 ニュートとしばらく見つめ会い、それから二人で溜め息。


『歴史を変えろねぇ?』

「下と上の遺言を合わせると、レンズの研究を続けてタイムマシンみたいなものを完成させ、ヤスツナさんが死ぬ運命を変えろと……できるの?」

『可能だが、何の意味もないぞ?』


 肩に乗りだしてたニュートがくるんと首をかしげる。

 耳とかが僕の頬を撫でてくすぐったい。


「ヤスツナさんは生き返らないの?」

『生き返らんぞ、最初から死ななかったことになるだけだ。――そして死ななければ遺言状にこんなことは書かん。書かないと言うことは……』


 ん? んん……あ!


「そっか、書かなければ歴史は変わらないんだ。でも変わらなければ遺言状は書かれてしまい……タイムパラドックスか」

『瑛音のような神話使いならともかく、素人の手になる歪な円環だ。ループへ入れば酷い事態となるだろうな。それに猟犬もいるし、我らも――』

「僕ら?」

『ループが出来上がるのをボーッと見てるだけか、瑛音?』

「まさか!」


 即答する。

 ただ……そもそもの話、穣司さんたちが歴史を変えようとするんだろうか?

 遺言に従うと言っていた穣司さんの顔を思い浮かべた。


「ニュート、穣司さんたちが遺言状を見たら()()を始めると思う?」

『可能性はあるが、断言はできんな』

「掴み難いよねえ」


 うーん……どうなんだろうな。

 それに猟犬も問題だ。

 アイツをナントカしないと、もっとずっと不味い事態になる。――から、探索を再開しよう!


「これ以上ここにいると、猟犬が出てきそうだしね……!」


 遺言状をしまうと、再び薄暗い一階ホールに再び降り立った。

 銃と魔剣を両手に構える。

 銃は残弾三発、すべて対神話弾。プラトーはいつも通り!


『瑛音、待て。ケンコーと咲良の気配が近くにある。それと……』

「あわわ」


 息を潜めて、そーっとカドから顔を出す。

 ――いた、いた。

 武器を構えたケンコーさんと咲良さんの二人が裏庭側へ通じてる廊下を曲がっていった。

 どっちもかなり消耗してる。

 ずーっと気を張りっぱなしなんだ。


「行ったみたい。――それで、何が()()?」

『……』


 油断なくあたりを見回しながらニュートの言葉を待つ。

 一階の廊下は薄暗くて人気がなく、そして――


 ヒタ ヒタ ヒタ


()()以外にも複数の気配があるようだ。見えないが、この屋敷にはまだ誰かがいるのかも……』

「ニュートはそのまま探っていて。僕は犬と戦ってる」

『すまん。――ええい、もっと余裕があれば!』


 ヒタ ヒタ ヒタ……グルル


 何処かの『カド』から、スルリと猟犬が出現した。

 油断なく銃と剣を構える。

 さっきと違いはない――いや、ある! すっごい怒ってる。


 まーねー、麻酔なしに歯を抜いたしねー


「行くよ、ニュート!」

『おう!』


 先手必勝!!

 一次大戦で発達した片手軍刀術を駆使し、猟犬の鼻面にプラトーを叩き込む。

 しかし空を切った。

 カドに潜った猟犬の気配を、ニュートが探る――


『瑛音、真後ろ!』

「りょ!」


 チク タク チク タク


 チクタク感覚を蹴飛ばし、加速をかけた。

 鋭角という鋭角に黒い火花みたいのが走って行くのを捉える。

 出現するのは――そこ!

 壁と床のあわせ目に出現した猟犬の顔面ど真ん中へ、対神話弾!


『ギャン!』


 翠の爆発で、カドから猟犬が吹っ飛ばさた。

 肩口のブロックが吹っ飛んで、小さなクレーターを穿ったようだ。煙まで噴いてるけど――駄目だ、致命傷には程遠い。

 残り二発では倒しきれない!


「ニュート、ちょっと提案。――君一人でいいから元のカドに戻って、レンズと関連資料を見つけてきてくれないかな。それがきっと打開策になると思うから」

『おま、そんな……!?』

「猫使いが荒くて御免ね。猟犬はここで僕が足止めする、絶対あとは追わせない……!」

『だ、だが特定のカドに二度訪れるのは大事で――ええい、すぐ戻る!』


 ニュートがフードから飛び降りる気配。

 意図を察知したらしい猟犬が、そうはさせまいと突っ込んでくる。

 行かせるかーっ!


 プラトーを構えつつ、僕も真正面から突っ込んだ。

 猟犬はカチカチと口元のブロックを組み替え、口角を吊り上げた。

 笑った――んじゃない!?


 口から直線が伸びた。

 何が――舌か!?

 ティンダロスの猟犬の舌は槍みたいに鋭く、長く伸びる。それがニュートの小さな身体をめがけて打ち出された。


「やらせない!」


 小さなパーツが幾つも連接した長舌の先端をプラトーではじ――ぐっ!?

 弾いた先端が跳ね回り、僕の左肩をザックリと切り裂いた。


『瑛音!?』

「早く行って!」


 ニュートがカドを巡る。

 右手のプラトーで舌を切断すると、そのまま蛇腹剣みたいな舌を掴む。


 離したプラトーは――はむっ!

 口で咥えた。

 猟犬の舌をギュッと押さえつつ、左手のウェブリー・リボルバー・マークⅥを叩き込んだ。


 狙いは目!

 翠の爆発が猟犬の片目を抉った――違う、抉ってない!

 額で受けられたか。

 猟犬の舌が、パーツごとにバラけて散る。


『グルル……』

「――ふっ」


 プラトーを口から右手に。

 左手のウェブリー・リボルバー・マークⅥはそのまま……残りは一発。

 左肩の傷は、軽そう。

 服と皮一枚程度かな……派手に血が出て、痛いけど、まだ頑張れる。


 さて、どうするか。


 まず――トドメを刺す方法がない。

 逆角度がない猟犬には、旧支配者との《接触》すら断つテルミヌス=エストが通じない。

 対神話弾ならダメージは与えられるけど、残りは一発だ。


 猟犬を退散させる方法も分からない。

 鋭角がない球状の空間を作り出せば退けることはできるけど、準備する時間はない。

 しかもトドメにならない――


 ティンダロスの猟犬がカチカチと口元を組み替え、口角を吊り上げた。

 ニヤリと笑って――

ちょっと間が開きそうです

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