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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第十話:死と罠とクローズドサークル
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Scene-05 ウィル・トゥ・パワー

 ケンコーさんと咲良さんの二人はバリケードを越え、裏階段を降りていく。

 玄関から見て左側、書斎などがある方へ向かった。

 さて、これからどうすべきか……って、そんなの一つしかないか。


「ニュート、あの二人より先に《猟犬》を呼び出そう!」

『構わんが、勝機はあるのか?』


 ニュートが肩に前足ちょこん。

 可愛いな、もう!

 小さいけど頼れる相棒の前足と、僕の指を重ねる。


「勝つ見込みは、ない。――だから、ニュートが見つけて。それまで何とか生き残る」

『ふむ……うむ、分かった!』


 バリケードをひょいと飛び越えると、階段をかけ降りる。

 そのまま人気のない方へ。

 さー、来るなら来やがれ!






 グルルル……


「――た、確かに来るなら来いって考えたよ。か、考えたけどもさ!?」


 廊下を曲がった先で急ブレーキ!

 真ん中でふてぶてしく待ち構えていた《ティンダロスの猟犬》と顔を突き合わす。

 猟犬は口に何かを咥えてて……


『瑛音、あれが本物の遺言状ではないか?』

「欲しければ取ってみせろってことか」


 カシュ、カカカ!


 猟犬の顔パーツに稲妻みたいなひび割れが走っていく。

 こいつ笑ってるな?

 みーてーろー!

 電光の早さでウェブリー・リボルバー・マークⅥを引き抜く――より早く、猟犬の姿が消えた!?


『瑛音、床と壁の合わせ目!』


 ニュートの警告がギリ間に合った。

 廊下の直線に沿って影みたいな火花が連続し、襲いかかってきた猟犬のアギトを間一髪でかわす。

 プラトーで反撃を叩き込み――すわっ!

 消えた!?


『瑛音、切っ先! プラトーの角度を利用されてるぞ』

「えーっ!?」


 プラトーのブレードを走るように出現した猟犬が、牙を剥く。

 のけぞらせて回避!

 僕の鼻先スレスレでアギトが空振った。


 その鼻先を――真下から蹴り上げる。

 仰け反りついでだ!

 もちろん効くわけはないけど、反動でバク転連続しながら逃げる。

 最後の着地で再び猟犬と対峙した。


「ぐがぎぎぎ……プラトーだと相性悪い!」

『瑛音、とにかく猟犬と戦い続けろ。攻略の糸口見つけてみせる』

「もちろん、そのつもりだよ」


 ダッシュ!

 プラトーで猟犬と切り結ぶ。


 カン、ギャリリ――ガキッ!


 牙を弾き、爪を流す。

 向こうの方がずっと強いけど、早さはこっちの方が上だ。

 ほ、ほんのちょっとだけど……


「ぐぐ……!」


 猟犬のアギトが何度も噛みかかってくる。

 その都度、僕のアドバンテージが削られていき、逃げ場の選択肢がなくなっていく。

 そしてついに――噛みつかれた!


「うわっ!?」


 ガキン、ガジガジガジ


 咄嗟にプラトーで牙を受けると、そのまま囓られる!

 し、心臓に悪いっ。


『流石プラトー、傷も付いてないな』

「でも、ちっ、力比べは不利なんだけど。ぐぐぐ……ニュート、弱点まだ!?」

『もう少し時間をくれ……』

「りょ!」


 近くから見ると、直線ベースの猟犬は意外と格好いい。

 超大型のオオカミ型だから、カラーリングは白ベース……か、なっ……ぐぐぐ!


「おりゃー!」


 押して押し、最後にフェイントッ!

 空中に踊った猟犬の下に潜り込むと、巴投げの要領で投げ飛ばした。

 噛みっぱなしのプラトーを支点に回転させる。


 猟犬は――困惑していた。

 何を困って……あ!

 そうか、直線と鋭角で移動する存在だから回転運動とかに慣れてないのか。

 なら、このまま頭をロックしたまま投げ飛ばし――て? え!?


 ビーン!


 猟犬の身体が停止した。

 そのまま落下。


『ギャン!』


 猟犬は鼻先から床に激突した。

 僕はすっぽ抜け、吹っ飛んでゴロゴロと転がる。

 ガバッと起き上がるけど、プラトーが……?


 ああっ、まだ噛まれたまま!?

 後ろでニュートが叫ぶ。


『見えた! ――瑛音、猟犬の後ろ足だ。そこに何か付いて奴は動きが制限されてる』

「まっ!?」


 紐で繋がれてる的な挙動は予想してなかった。


『オオ――オオオ――』


 猟犬がカドに潜る。

 即座に天井のカドから現れ、逆落としで僕に迫る。


「させるがー!」


 チク タク チク タク チク タク



 チクタク感覚を蹴飛ばす。

 オーバークロック!

 空気の壁にガンガンとブチ当たりつつ、瞬間移動のような高速移動で位置を入れ替える。

 そのまま猟犬を抱え――って、おま、変な触り心地だな!?

 どことなくプラトーに類似してる気もする……と、言ったらイース人が気分を害するか。


 加速のスピードを維持したまま、噛まれたままのプラトーを握り直した。

 そして――回転!

 そのまま猟犬を床に突き刺した。


『キャン!』


 ドシーンと衝撃が響く。

 再び玩具みたいな鼻面を叩きつけられた猟犬が激しく暴れる。

 ここは犬っぽいな。

 ――って、おい! プラトー返せ!!


 グイグイ引っ張るけど、引っかかって取れない。

 無茶な方向に引っ張られた猟犬が、明らかにムカつきつつ起き上がった。


『オオ――オオオオ――!』


 プラトーを引っかけたままの牙が迫ってくる。

 でも狙いが甘いぞ。

 寸前でかわすと、猟犬が何もない空間を囓る。


 バクン!


 反撃の前に、まずプラトーを取り返さないと――

 飛び出たままの柄にもう一度手を伸ばそうとした瞬間だった。

 ガクンと加速が消える。

 慣性でブーツが盛大に滑って、止まれない!?


「ひぇ!?」


 ま、まさかチクタク感覚が()()()()!?

 マジかー

 オーバークロックを強制的にリリースされ、勢いを殺せないまま壁に叩きつけられた。

 ニュート死守――え、いない!?


『フーッ……!』


 離れた場所に、黒い子猫がひらりと着地する。

 口に何か咥えてる?

 ――あ、猟犬が最初に持ってた封筒!


「ニュート、グッド!」


 猟犬も封筒を奪われたことに気付いたらしい。

 口惜しげに吼えようとして、噛んだままだったプラトーに気付く。


『グルル――』


 猟犬の双眸が怪しく光る。

 カチカチと音を立てながら口元のブロックが組み替えられ、マズルの口角が釣り上がるように変形する。プラトーを噛んでる牙にギリギリと力を込め始めた。

 込める、込めて――ガリガリ


『ガ……ガッ、ガガ?』

「ふん、プラトーが折れるわけないだろ」


 伊達に人類史に大項目持ってるわけじゃないぞ。

 それでも噛み砕こうと必死にガリガリやってる猟犬の牙を狙い、ウェブリー・リボルバー・マークⅥを叩き込んだ。

 455弾が歯茎と牙の付け根くらいに命中!


『ギャーンッ!』


 着弾の甲高い音とともに猟犬が吠える。

 麻酔の効きが悪いまま、虫歯にグラインダーを突っ込まれたような顔をしていた。

 痛そう――なので、同じ場所にもう一発!

 あ、ギリ外れた。

 ならもういっぱぁーっ!


『ギャン!!』


 火花とともに、レゴみたいな牙が欠ける。

 チャンス、ダッシュ!

 緩んだプラトーの柄をガシッと握ると、そのまま――


 チク タク チク タク チク タク



 再加速して引っこ抜ーくっ!

 マッハでね!!

 ギャリリリ――と、甲高い音と火花が猟犬のアギトから滝のように散っていく。

 プラトーが自由になった。

 返す刃で、猟犬の目にでも突き刺し――


 バクン!


 アギトが閉じ、またチクタク感覚が消滅した。

 加速が切れる!

 また同じように吹っ飛ばされた。


 一瞬だけ滑空し、それからドシンと叩きつけられる。

 いだーっ!?


 でも、猟犬も同じように吹っ飛ばされてるな。

 扉に突っ込んで、どっかの部屋に飛び込んでいった。家具とが引っくり返った音が盛大に響く。


「ぜっ、ぜー、ぜ……」

『無事か、瑛音!?』

「三つ目の奥の手は……しょ、消耗が……激しい……!」


 ニュートを定位置に戻しつつ、何とか立ち上がった。

 銃と魔剣を構える。

 プラトーは汚れてもいない。

 ウェブリーの弾は……ええと、次からは対神話弾か。

 残弾は三発!

 封筒はポケットにネジ込んだ。


 扉が吹っ飛ばされて生まれた四角い暗闇の向こうで、猟犬がバタバタと暴れてる気配がしている。

 まだ直線のカドに潜られる前にトドメを――いや、それは無理か。

 トドメを刺す方法がない!


 なら、せめて情報だけでもブン取らないと。

 特に足だ。

 そこがどうなってるか、もっとよく……ぜぇ、ぜーっ。


 息を荒げつつ部屋へ入ろうとしたところで、カドから足音が響いてきた。

 たぶん大人の男女。


「誰かいるのか!?」


 誰何の声は――ケンコーさんか。

 おそらく咲良さんもいる。


『ケンコーたちが来たぞ、瑛音』

「タイミング悪いー」


 部屋の中から、猟犬がカドに潜る気配がした。

 間に合わなかったかー

 いや、僕が満足に動けなかっただけかも……ふう。


「ニュート、一度逃げるよ」

『落ちた牙は拾っておけ。それと遺言状っぽい封筒も気になる、何処かで中を改めよう』

「りょ! ――あれ、牙は?」


         *


「葉山くーん、いるかーい!」


 誰もいない葉山邸のエントランスに、茂呂島の福々しい声が虚しく響く。

 太平洋を望む千葉の広い屋敷には誰もいない。

 何度声を掛けても反応がなかったので、業を煮やした三人が――というか、主に双子の二人が率先して入ってしまっている。


 幸い鍵はかかってないが……

 双子はあっち、こっちとチョコマカ歩き回り、瑛音の手がかりをさがしているようだ。


「ううん、どうしたものですか」


 茂呂島が首をかしげる。

 誰もいない理由は分からないが、いないこと自体に謎はない。

 鍵も掛かってないから普通に出ればいい。


 だが……全員が?

 やはり何のためにかが分からない。


 モーゼルレッドナイン入りのケースを背負った清華が、ホールの床に放り出されたままの箒を持ち上げた。

 さっきまで誰かが使っていたようだが……


「お兄さま、まるで直前まで誰かいたかのようですが」

「ああ、まるでマリーセレスト号のようだね」


 景貴の言葉に、清華と茂呂島も頷く。

 マリーセレスト号事件は、日本がまだ江戸時代だった頃に起こっている。

 茂呂島も聞いたことはあった。

 あったが――まさか?


「さて、皆さんは何処へ行きましたか……」


 茂呂島が再び首をかしげた。

 おそらく全員歩いてどこかへ行ったのだろうが、瑛音もいないのが気になった。

 理由として考えられそうなことは……


「鉱区で事故でもあって……皆が駆り出された?」


 あり得るが、その割に車は残っている。

 瑛音も行ったとしたら、きっとランチア・ラムダを使うだろう。

 放置するなんてことはあり得るのか。


「……」


 茂呂島が、多摩の奥地で遭遇した連中を思い出した。

 瑛音が一網打尽にした狂信者集団を。

 今回もまた、ああいう者たちが暗躍しているのでは――


 双子も捜索を止め、考え込んでいる。


「どう思います、お兄さま?」

「……ん?」


 カツン


「!?」


 廊下の奥から、かすかな音が響いてきた。

 即座に反応した景貴が走り出したので、清華と茂呂島が慌てて追いかける。

 向かったのはエントランスの右側、食道や台所、蔵、使用人部屋などがあるエリアだ。


「ひぃ、ふう……どうかいたしましたが、坊ちゃん!」

「……」


 景貴は廊下の真ん中にひざまずき、何かを拾ったようだ。

 持ち上げた物は――


「お兄さま、それは……ええと?」

「……」


 砕けた牙――にしては、角張りすぎている。

 素材も骨ではない。

 まるで、石と金属を混ぜ合わせたような……


 景貴はポケットに牙をネジ込むと立ち上がった。

 長い黒髪の美少年は、何かを考え込んでいる。


「お兄さま!」

「いま、そこに……犬がいた」

「犬?」

「ああ、大きいのがだ」

「――お二人とも下がって!」


 念のため護身用の小器を構えた茂呂島が辺りを見てみるが、何もない。

 ただ――確かに匂いは残っている。


「獣の体臭……?」

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