幕間-1
チン――
「葉山くんの家、誰も出ませんが……さて?」
福々とした青年が、木と金属でできた古くさい受話器を戻す。
結社メンバーの茂呂島だった。
茂呂島は周囲の役人たちに丁重な礼をいうと、いかにも地方然とした造りの町役場を出た。
「ふう……都心から離れると、電話を探すのも苦労しますねえ」
個人で引くには余りにも費用が高すぎるからで、庶民は電報で済ますか、大家や役所などで借りるのが普通だ。
ふと――未来から来たと主張していた少女を思い浮かべる。
「遠い未来では、個人電話なんてのがあったりするんでしょうかねえ」
個人専用の電話!
電話線がなくて済むなら、なお良し――いや、滑稽無糖ですかねと呟きつつ停めていた車に戻る。
「おおっと……」
周囲には遠巻きに人だかりができていた。
車が珍しいのもあるだろうが、後部座席に乗っている少年と少女が特級の美形であることも大きい。
映画スタァかと思われたのかも知れない。
「はいはい、ちょっとご免なさいね……見世物じゃないですからね。散った散った」
危ないからね――そう胸中で呟きつつ、野次馬を散らして車に戻る。
乗っていたのは伯爵家御令孫の双子だ。
二人の機嫌を損ねたら、ドイツ製の大型拳銃やら大振りのマチェットを振りまわしかねない。
茂呂島が瑛音に仕事を依頼したことを聞きつけた二人に、自分たちを現場に連れていけとネジ込まれたのだ。
大恩ある上司である村茉に話しを通し、あれやこれやの段取りを押さえ――そして双子の私物である物騒な武器の数々を持ち出し、こうして千葉くんだりまでやってきている。
「まあ、後で様子を見に行くつもりではありましたが……」
後で――つまり瑛音の仕事が完了した後、面倒な書類仕事とかを肩代わりするためにだ。
これまでは結社幹部の村茉が行っていたらしいが、今後は可能な限り自分がやるつもりだった。
瑛音の仕事が終わらないとは思っていない。
伯爵家から強力なバックアップを受けた変わったの専門探偵は、まだ子供だというのに凄まじい推理力を持っている。
過去の事実を、まるで見てきたかのように言い当てるのだ。
驚愕するしかない。
茂呂島は、彼ならば隠された遺言状を見つけるなど造作もないと確信していた。
して、いたのだが――
双子の兄である景貴が茂呂島を労い、結果を尋ねてきた。
美少女顔の瀟洒な美少年だ。
「それで、瑛音さまは何と?」
「申し訳ありません、電話がつながりませんで……」
その答えに、影絵から飛び出してきたようなドレスの妹――清華がクスクスと笑った。
神は細部に宿るとはよく言ったもので、一挙一動まで気品に溢れている。
兄に勝るとも劣らない。
――ので、茂呂島に不安がもたげてきた。
何しに行くのだろう。
瑛音の仕事を引っかき回しかねないのでは?
そんな茂呂島の心配を余所に、双子が頷き合った。
双子特有のシンクロで。
「瑛音さま……いつものように厄介ごとに巻き込まれておいでですね」
「茂呂島さん、後輩さんの家にご案内を願います」
一刻も早く――そんなニュアンスが籠っている。
悩んでいても仕方がないか……いざという時は自分が身体を張ってお止めしてみせる!
そう胸中で決意した茂呂島が、恭しく礼をした。
「承知しました。――では、疾く!」




