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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第九話:いきながらえたものは
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Scene-10 れんじし

 朝の気配で目を覚ました。

 昨日寝たままの場所にいて、上にゴザみたいのが掛けられている。

 凍傷寸前だった身体がちょっと痛痒いけど、幸いダメージ自体は残ってなさそう。

 なにより、一緒に寝てくれていたニュートが暖かかった。


「おはよう、ニュート」

『起きたか、瑛音。――飯の前に、風呂入ってこい』


 お風呂!?

 台所に行くと、大沢の姉さんがご飯を作っていた。冬なのに汗だくの茂呂島さんもいる。

 二人に挨拶。


「おはようございます!」

「ちょうど起こして差し上げるところでした、風呂を準備してあります」

「お米がもう少しで炊けます、お先にどうぞ」


 お風呂は茂呂島さんが頑張ってくれたらしい。

 井戸から何度も水を汲み、薪をたくさん拾ってきて焚いてくれたんだろう。

 そりゃ汗だくにもなるか。


 感謝!

 井手上さんや荒士さんを起こし、先にパパっと風呂には入って二人に代わる。

 ふいー、満足。


 茶の間に戻ると、涼むついでに庭を見た。

 冬なので緑は少なめだけど、物騒な感じはしない。あの《神話》は、ここからずっと遠い世界だ。


「……ん?」

「瑛音さま」


 白湯を持って茂呂島さんが入ってきた。

 ちょうどいい、鞄をゴソゴソ。


「どうぞこちらを。個人の遺品とお守り、それに朝倉さん――偉い人の日記です」

「それは……何処にあったのですか!?」

()()()です」


 それだけで納得してもらえたようだけど、一応顛末も話しておく。

 飢餓からの人食いに雪山姥(ユキンバ)――ウェンディゴ、そしてイタクァ!


「なるほど……」


 大沢家の人たちについて話すと、茂呂島さんがハンカチで軽く目元をぬぐう。

 彼もこの地の出身だから、消えた人たちと面識があったんだろうな。


「当時、祖父たちにもっと強く働きかけていれば……」

「結社とはどこで?」

「幼かった頃、大学主催の英語弁論大会で入賞しまして。村茉様からお声掛けをいただきました」


 なるほど、井手上さんの兄弟子みたいな人なんだ。

 その割には普段見かけないけど。


「ただ当時は増長していたんでしょう。この事件でも大口を叩きすぎ、空回りし、挙げ句に結社の名も漏らし……何もできませんでした」


 チラと台所を見た福々しい顔に、慚愧の色が落ちてくる。

 それから一歩下がり、床に頭をつけた。


「十年独自に調査を続けてきましたが、私では何の成果も出せなかった。それを、こんな短時間で。――感服いたします、そして感謝を!」


 あー、いや、僕のはインチキ(チート)なんで……

 それはそれとして!


「まだ分からないことがあります。クラミツ家の人はブラックブックなしにどうやって神話と《接触》したのか……」

『神話知識を伝える物は壁画や石碑、粘土板など多岐にわたるぞ。近隣の山に未発見の遺跡があったりするのかもかな』


 ニュートが、ぐいーんと海老反りしなから教えてくれる。

 うん、かわいい。


「なるほど、遺跡か。――ん? んん?」


 向こうから持ってきた赤い切れ端に目が止った。

 唐突に赤いモヤのゆらゆらした顔が浮かび、パチンとピースがはまっていく。

 事件の開始時まで遡って――そうか、宝探し!


 ここへ来るとき、そんな連中をこの廃村周辺で見かけた。

 吸い殻の件もある。


 連中が探しているのは、恐らくブラックブック?

 あるいは、とっくに見つけている可能性も……ちょっと調べてみるか。


「茂呂島さん、姉さんには内緒でちょっと頼まれて欲しいんですけど」




 特定は容易かった。

 来るときに見た、山に出入りしてた連中を《幻視》すればいいだけだから。

 煙草の吸い殻を残した奴らと同じであることも確認し、後を追って延々歩き回った末、やっと見つけた。

 森中に半ば溶け込んでいた、いかにもハンドメイドでーすって感じの小さな遺跡だ。

 小丘を掘って作った祠というか?

 かつてはもう少し開けてたかも知れないけど、今は枝振りのいい大木たちにのし掛かられ、見つけにくさに拍車が掛かっている。


 遺跡の奥には人の手で切り開かれた空き地があり、そこにキャンプ小屋みたいのが何棟か建っていた。

 偉い人の背後にいた連中用かな?

 でも中の人たちが気付いた気配はないから、無視。


 茂呂島さんが呆然としながら周囲を見る。

 通ってきた険路、奥のバラック、そして遺跡みたいの――最後に僕を見た。

 目に浮かぶ感情は……感嘆かな。こそばゆい。


「こんな……簡単に、見つけられるものなのですか」

「瑛音さまは特別なのです」

「考えるだけ無駄です。瑛音さまは()()()()お人であると感じましょう」


 井手上さんが自分のことのように自慢。むふーっと。

 荒士さんはジト目無表情のまま溜息をつきつつ、遺跡に新設されていた祠の南京錠をカキッと開けた。


 そこから石壁の玄室に入る。

 壁には文字と絵、真ん中には着衣のミイラみっちり。


 文字は偉い人の日記にあった奴か。

 ミイラは異形相というか、まるで鬼になりかけてるように見える。ウェンディゴ化に耐え切れず――ってトコかな。


 玄室の奥にある女性のミイラだけ、やたら汚い。

 女性の……ん?

 どっかで見たな、この不味いツラ。

 僕の肩から頭を出したニュートが、くんくん


『半分ほどは普通の死体だが、もう半分は中身をイタクァに連れ去られてる』

「カドの先で見たよ、この連中。――奥の女性がリーダー格だった」

『それだけ古い……ということは、それが最初の一人かね』


 茂呂島さんが膝を突くと、ご遺体の前で手を合わせた。

 僕も軽く黙祷。

 手前にある、ボロボロになった赤い服を着た少女のミイラと、その周辺のミイラだけにね!

 後でキチンと埋葬してもらおう――ん?


 ガタガタ、ひゅおおお……


「ニュート、奥のミイラが動かなかった?」

『先に壁の文字を解読する』

「よろ!」


 やがて、ご遺体に手を合わせていた茂呂島さんが顔を上げた。

 寂しさと安堵が混じった笑みを浮かべている。


「この十年ずっと《神話》を追ってきました。――やっと皆を弔えます」

「運び出しをお願いします。ここから、こっちです」


 一番手前にあった小さなミイラは、ボロボロになった赤い服を着ている。

 茂呂島さんにも分かったようだ。


 クラミツは放置。

 あそこに残る選択をした連中なんぞ、知ったことではない。

 もし戻ってきたらボコる……ん?


 ひゅおお――




「……」


 地の玄室に()()()と風が吹いた。

 もぞりという気配も。

 それとは別にワーワーというモブ声が外から響く。カッコボウヨミ。


『瑛音、何かがカドを回ってくるぞ』

「死か地獄かを選べと言ったのに、三つ目の選択肢を自分たちで作るか。やるね?」

『全部が本人の意志かは怪しいがな』


 風に耳を傾ける。

 確かに泣き叫んでいるような感じあるかも……?

 運び出しの盾になるため外へ出ると、いかにもな宗教的シンボルを付けた男女が湧いてきていた。

 リーダー格っぽいのがこっちに叫んでくる。

 僕を案内してくれた奴だ。――本人に自覚はないだろーけどね!


「罰当たりめ、それは我らがご神体ぞ!?」

「それはクラミツ? それとも――大沢家の方?」


 あ、真っ赤になって黙った。

 知ってやってるワケだ。

 ――なら、あなた方の運命は流れに任せるでいいね?


()()()()みたいだよ、ニュート」

『おう、いいぞ!』


 木々がわさわさと揺れる。

 地面が細かく震えだしているんだ。


 タイミングを見計らい――横っ飛びに避ける!

 最初は何も起こらない。

 だからだろう、激昂していた信者たち何人かが激昂したまま突っ込んできた。


「――逃がすな、やつらを捕まえろ!」

「それより玄室へ……」

「ご神体は無事か!?」


 ごちゃっと固まった信者たちの背に、風が()()()

 絶叫が聞こえたのは僕だけだったろう。

 続いてミキサーみたいな大音量が響き、地を割って――巨人が出現した。

 ウェンディゴ子……にしては小さいし、大分と老けて見える。

 オバンディゴさん?


 信者たちは動こうとしない。

 もう一度警告をあげようとしたら、信者の中で一番声の大きいのが叫んだ。


「我らの神が、ようやく顕現なされた!」


 まさに歓喜。

 声が聞こえた連中の足がピタリと止まり、全員が同じ狂気に染まる。影響されたらしい。

 まあ……神っていうのは正しいかな。

 旧支配者は神と言ってもいい。

 ただ、《接触》してない相手に目を掛けてくれたりはしない訳で……


「井手上さん、スペル破り(アジュアリート)を。――お前たち、そいつは人喰いだ。下がれ、逃げろ!」


 一応、警告はしてやる。

 僕らは井手上さんの元まで下がったけど、信者たちは――ダメだ、自分から近づいてる。


「かかかか、異形と化したアサクラの死体を見つけてから八年だ。いまやっと《力》を得ることができたぞ――お、あれ?」


 ウェンディゴは俊敏に手を伸ばし、リーダー格の男をひょいと持ち上げた。

 そのまま匂いを嗅ぎ――


「だから、それ人喰いだって言ってるだろうがっ!」


 ガリ、バキ、ボリボリ


 そんな音が響き、信者たちの上から血のシャワーが降り注ぐ。

 駄目かー!

 そして、そこからの歓喜の歌! ハレルヤ?


『全員が狂気に犯されているな。変な奴が、妙な方向性を与えたからだ』

「しょうがない……なら、行ってくる」

「瑛音さま、どちらへ!?」


 状況に着いてこられずキョドってた茂呂島さんがシャベルを持ったままあたふた。

 落ち着かせるよう、ニコリと笑いかける。


「あそこへ。僕の仕事が待ってます」


 そういってチクタク感覚を蹴飛ばす。


 チク タク チク タク チク タク



 ズガン!

 瞬間移動みたいなダッシュから、ウェンディゴの脛を蹴り上げる。

 足だけがパンチングボールみたいな勢いでブッ飛んで、()()()の巨体が引っ繰り返る。

 さっきまで僕がいた場所の横で、茂呂島さんが呆然と呟いた。


「い、いま何が……?」

「瑛音さまのお力です」


 井手上さんはニコニコしながらレテの書をパラパラ――らっ、とっ?

 ぐいっ!

 急にフードが引かれた。

 後ろに信者たち――いや、狂信者たちの群れが津波のようにのし掛かってきている。


「フードに触んな、ニュートがいるんだぞ!」


 加速込みで蹴飛ばし、薙ぎ払う。

 ちょっと強く蹴りすぎて一部とんでもない高さまで打ち上がったけど――まあいいや。

 たまには空もいいものだよ!


『瑛音、駄目だ。信者たちも敵と思った方がいい』

「加勢いたします、瑛音さま!」

「同じく!」

「井手上さん、荒士さん、ありがとう。後ろをよろしく!」


 飛び込んできた荒士さんの鎖がしなり、信者たちの目を連続で打っていく。

 井手上さんの身体が淡く発光し始めた。

 周辺の信者たちの髪が逆立ち始め、身体のあちこたを痛そうに押さえる者たちが続出する。


「カラカルの臣下たち(ミニオンズ)か。――ニュート、静電気だいしょぶ?」

『ミニオンズは我らを避けている、問題はない』

「おけ! なら僕は――」


 逃げ回りながらウェブリー・リボルバー・マークⅥを撃った。

 狙いはウェンディゴ!

 そして、そのまま乱戦へ入る。

 一人残った茂呂島さんはしばらく呆然としていたけど、やがて大きく頷いた。


「これが神話――いえ、()()()神話ですか。十年越しの悲願、成就せり! 立ち会えた幸甚に呪いと感謝を!!」


 乱闘に四人目が加わった。

 茂呂島さんを咥えた三人に背後を守られながら、銃をしまって剣を抜く。

 魔剣プラトー!


 連続だから逆角度を調べる必要はない。

 生意気にもこっちを威嚇してくる妙にショボいウェンディゴに、絶対時間の刃を突きつけた。


『オオォ――オオオ!』

「イタクァの幽閉地で選ばせた筈だ、お前はもう()()()の存在じゃない。境界よ、あれ(テルミヌス=エスト)――ヴァージ!」





 そうして、神話は風と共に去った――


 後に残ったのは、真っ二つの元ミイラ。

 そして信者たち。

 信者たちは――駄目かあ、逝っちゃって正気に戻らない。

 混乱が凄いな。


「しょーがない、全員殴って正気に戻す」


 武器はしまった。ステゴロでいいや。

 ついてこうようとする井手上さんは疲労困憊で目がぐるぐるしている。

 見かねた荒士さんが止めた。


「ハルさんは後で待機を。――よろしいですか、瑛音さま?」

「だいじょぶ。茂呂島さんは、ええと……」

「ぜぇ……ぜぇ……瑛音さま、私もお供いたしますっ!」


 茂呂島さん、朝から働きっぱなしなのに凄いな。

 そのうち痩せそう。

 ニュートが僕の後頭部をぺたり。


『いいのか、瑛音?』

「うーん……ああ見えて村茉さんの弟子筋だし、同意も取れたし、一度谷底へ突き落としてみようか?」

『お前、意外と脳筋だよな』


 信者の悲鳴は、結社が手配した警察があとを引き継ぐまで続いた――

読んでいただき、ありがとうございます。

公募原稿やってるので、しばらく間があきます。

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