表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第九話:いきながらえたものは
67/113

Scene-09 おおむこう

 井手上さんの魔術と同時に、荒士さんが鎖を放ってくれる。

 受け取った瞬間に手がまた動き始めるけど、端をウェンディゴの指に引っかけてブンとたわませる方が早い。


 そうやって空中でベクトル反転!

 くるっとネジった足のすぐ下を手が通り過ぎていき、最後にパーンと衝撃が響く。

 回避成功――ギリギリだったけどね。

 しゃららんと荒士さんの鎖を手繰って巻き戻し、再度ウェンディゴの腕に着地する。

 今度こそ!


 走り出すけど、ウェンディゴは僕を見てない。

 井手上さんと荒士さんのいる方をガン見したまま、動こうとしていない。

 何だ?


 井手上さんはスペルの反動で目を回し、荒士さんは彼女を屋根の陰へ引っ張っていこうとしている。

 ウェンディゴの脅威になりそうには見えないけど。


「ニュート、一体……」

『チャンスを逃すな、行け!』


 りょ!

 幸い、ウェンディゴは呆然として動かないから、確かにチャンスではあった。

 鎖も駆使しつつ、一気に走り抜け――



 ガクン――ズズン!


 おっと!

 今度は――地面に降りたの!?

 とっさに鎖を放つけど、ウェンディゴの体表で弾き返された。

 まず、引っかかるところがないっ!


「うわっ!?」


 そのまま庭へ落ちていく。

 高いっ!

 何とか受け身を取って、ダメージを可能な限り分散しないと――


 ズガッ!


 じーーん……ああ……いいかも。

 この冷たい痛み、一周回っていっそ気持ちいいかも知れない……とか、言ってる場合じゃなーくっ!

 辛うじてニュートだけは守り切ったけど、ダ、ダメージが大きい……


「――い、いつも思うんだけど、井手上さんのスペル名を考えてるのってニュート?」

『しょーもないこと言ってないで早く起きろ!』


 軽口を叩ける余裕があることを確認し合いつつ、何とかグルッと身体を回す。

 四つん這いから身を起こそうとすると、頭上から影が落ちてきた。

 ウェンディゴ……じゃない!?


「ま……まさか?」


 影の中心で燃えるような緑の光が輝き、地面にマダラのオーロラを作り出していく。

 ――うぷ。

 冷気が足から這い上ってきて、胃液が喉元まで駆け上がってきた。

 駄目だ、プラトーの防護も効かない!


「うぷ……ニュート、まずいかも。――この感じ、きっとイタクァが気付いた」

『奴から見える場所にいるんだから当然だろうな! 立てるか、瑛音!?』


 ぐぐぐ……

 ニュートが応援のつもりか、背中を踏み踏みしてくれる。

 き、気持ちいいけど、ぐぐっ!


 マーブルのオーロラは影を駆逐し始めている。

 周囲に雪が降り始めた。

 結晶が異様に白くて、ムチャクチャ胡散臭い雪が!


「瑛音さま、いま参ります!」

「――屋根のある場所から絶対動かないで!」


 ()()()静止が間に合った。

 飛び出そうとした荒士さんが寸前で動きを止めてくれた。それでいい!

 代わりに、手を伸ばしてくる。


 僕も手を伸ばすけど、届くような距離じゃない。

 代わりにさっきの鎖を投げ……投げたいけど、腰に力が入らない。

 それでも何とか……!


 しゃらん――ぽて


 駄目かー!

 何とか投げたけど、鎖はずっと手前に落ちてしまう。

 荒士さんは飛び出そうか迷ってる。

 その不安定な目線が、唐突にガチっと固まった。


 ウェンディゴか!

 さっきからジーッと何処かを見ていたけど、今は何を見てる?

 そっと振り替えると、奴は荒士さんを見ていた。


 荒士さんの、ちょっと下の方?

 お尻……のわけないか。

 ならお腹、腰?


「荒士さん、ポケットに何か入れてない!?」

「あの……えと」


 魅入られかけてる荒士さんの手がノロノロと動き、持ってる物を引っ張り出していく。

 隠し武器が多い――いや、マジ多いな!?

 やがて何か赤いモノを投げ捨てると、ウェンディゴの視線も合わさって動く。


 ――お守り! 姉さんの!!



「荒士さん、そのまま!」

「ひ……は、はいっ……」


 ウェンディゴの手がゆっくりと動き、落ちたお守りを掴む。

 その腕に鎖を絡ませた。

 お守りに頬ずりし始めたウェンディゴによって、肩まで引きずられる。

 肌ざりざりー!


「あだだだだだ!」

『堪えろ、瑛音。――ここは任せていいか!?』

「カドを巡る準備だよね? よろー!」


 ニュートがフードから降り、庭を走っていく。


 さて、後は僕だけど――手、足、腰、動く。

 頭も付いてる、大丈夫!

 ただ顔の真横に居るせいで、ウェンディゴがめっちゃ見てるような気がするけど。

 あと、頭上てっぺん方向から冷たくて物騒な視線が!


 ――い、一端忘れよう。

 両足を振って勢いをつけつつ、片手でプラトーを構えた。

 呼吸も合わせる。


 すー、はー……よしっ!


境界よ、あれ(テルミヌス=エスト)――ヴァージ!」

『オォ――オオォ――!』


 ムチャクチャな体勢から、絶対時間の刃が弧を描いた。

 今度は手応え!

 そのまま反動で空中に放り出される。

 咄嗟に手を伸ばし、何かを掴んだ――ような気がしたけど、ビリビリと音がして吹っ飛ばされた。


「ぐっ――がっ! てっ、いてててて!」


 庭に二回バウンドし、ゴロゴロ転がる。

 足、手、腰、背中、頭……ある、よし!


 即座にガバっと起き上がった。

 ニュートが縁側から声を張り上げてくる。


『瑛音、準備はいいぞ! 走れぇー!』

「りょ……おわっ!?」


 ドーン!


 真後ろから雷のような衝撃が響いた。

 イクタァの足か手、あるいは過去の犠牲者でも落とされた!?

 体温が急速に奪われ、足が先から燃えるように熱くなる。

 燃えてる!?


『瑛音、走れーっ! お前の真上に物騒なのがいて……そこに居続けると、本気で不味いことになる!』

「不味いことって――だろうね! ぐぎががが……え? なん……ぎゃあああ!?」


 ぐわっ!

 頭の後ろから赤の気配が広がった。

 目? 双眸!

 誰かが……いや、《何か》が真後ろから覗き込んできている。


 足から来るのとは別のチリチリ感覚は……冷気か。

 でも燃えるような感覚はない。

 代わりにパキパキと空気が鳴り響き、地面にペタリ、ペタリと足跡のカタチをした霜が降りていく。

 寒さが針のように肌へ突き刺さっていき、鳥肌が立つ。


 でも――身体は軽くなった!

 燃える足で、ニュートが待つ縁側に飛び込む。


『無事か、瑛音!?』

「お、お風呂はいりたい……」


 ガチガチガチ――ぜー、ぜー

 振り返ると、すぐ後ろにモヤのようなヒトガタが立っていた。

 モヤはそっと手を伸ばし、僕を指差す。


 見つめ合っていると、徐々に薄くなってカタチが崩れていって――やがて、消えた。

 お守りがポツンと残されたので、荒士さんの鎖で回収しておく。

 そこで、手の中に布の切れ端を握ってることに気付いた。さっきのビリビリという感触は、コレか。


「ニュート、今のは何だと思う?」

『何かを伝えたかったのかも知れんが……考えるのは後だ』


 そうね、ウェンディゴは消えたけどイクタァはまだいるぽいし!

 庭は赤から緑に変わっていた。

 ウェンディゴなら天井で遮れたかもしれないけど、イタクァだとどうなるかは分からない。


『早めに逃げるぞ、瑛音!』


 ニュートが井手上さんへネコパンチぺしぺし。

 反応あり、無事っぽい。

 荒士さんは意識があるけど、かなりフラついている。

 確かに、帰還を急いだ方がいい。


『よし、カドを巡るぞ!』

「ちょっと待って……そこの連中、死と地獄、好きな方を選べ!」


 逃げ戻り、隅っこでガタガタ震えていた亡者たちに声を掛ける。

 反応はない。


 ――ないね? ないならよし!

 連れ帰っても死ぬだけなんだけど、逆に言えば死ねるワケで。

 それが嫌だって言うなら、別にいいさ。


「おけ!」

『行くぞ!!』



 ニュートがカドを巡り――




「わあっ!?」


 皆でドサドサと薄暗い和室に放り投げられた。

 大沢の姉さんに案内された、あの家だ。

 夜らしく、薄暗い。

 辛うじて周囲を照らしてるのは……石油ランプがひとつ。キイキイと揺れている。


 もしかして、まだあそこに……そう思ったけど、悪い気配はない。

 ちゃんと帰れたらしい。

 部屋にいたのは――大沢の姉さんか。

 よかった、無事だったんだ……


 ただ知らん人もいるな?

 やけに福々とした恰幅の良い青年で、仕立てのいいスーツを着ている。

 百年後なら立派なオタクにもなれそうな外見というか。


「ええと……あなたは?」

「あ、怪しいものではありません!」


 声を掛けられた青年が酷く取り乱した。

 こっちをジーッと見て……なに?


『瑛音、プラトーをさっさとしまえ』

「――あっ、失礼しました!」


 剣を手の中でくるっと回して汚れを落とし、一挙で所定位置へしまう。

 慣れたものだ。

 ちなみに、プラトーはどんな物資とも化学反応を起こさない。静電気もおきないから、埃がまとわりつくこともない。

 なので、お手入れがとても楽――ごほん。


 服の埃も軽く払ってから、あらためて挨拶する。

 挨拶大事!


「僕は綾瀬杜瑛音と申します、夜分に突然すいません」

「あやせ――こっ、こちらこそお出迎えもせず!」


 青年は床をホバーみたいに下って入り口側へ移動し、流れるようなフォームで土下座。

 ん?


「姉さん、こちらは?」

「この村の出身で、茂呂島さんと。――たまたま、こちらに用事があったとかで」

「はい、茂呂島不二雄と申します。彼女とは幼馴染みでして……」


 姉さん真っ赤。

 茂呂島さんも満更ではない様子なので、そういう関係ですか――でも、ちょっと待って。


 もしかして、地元に明るい結社の人?

 目だけで尋ねると、茂呂島さんも目だけで恭しく頷いてくる。

 こくこく


 なーんだ、そーゆーことかー、あははは……はあ。

 家族や身内にも内緒で秘密結社のメンバーやってる人は大変ですね、っと。


 そのまま和室にひっくり返った。

 井手上さん、荒士さんも限界が近そう。無理もないけどさ。

 珍しくニュートもだ。


「すいません、明日までその辺に転がしといてください……」


 それだけ言うのが精一杯。

 ブツンと言う感じで、意思が落ちた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ