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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第九話:いきながらえたものは
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Scene-06 かくりよ

 真っ赤な――目!?

 双眸!

 誰かが……いや、《何か》が真っ正面からこっちを覗き込んだんだ!


 風呂からのぞき返された、アレか!

 不味い、距離を取らないと――


 パキィィン!







「――え?」


 気付いたら、壁や床が赤く染まっていた。

 夕日!?


 くっ……ととっ!


 目が回ってバランスを崩し、廊下に倒れ込んだ。

 でもすぐに起きる!

 手、足、胴体、頭――大丈夫。

 プラトーは手の中にあって、腰にはウェブリー・リボルバー・マークⅥが挿ってる。

 でもフードに相棒の重さはない。


「ニュート……?」


 そっと相棒の名を呼ぶけど、返答はない。

 場所は――さっきまでいた家の廊下だと思うけど、人の気配はどこにもない。

 不味いな、僕だけカドに置いてかれたっぽい。


「透明な奴は大体こーゆー、面倒なタイプが多いよなー」


 ブツブツ呟き、それから深呼吸。

 落ち着こう。

 まずは……靴を履いた方がいいか。どんな場所か分からないし。


 そっと廊下を――たんま、全力!!


 わわ、わ、和室の端からこっちを見てる奴、誰だぁ!?

 青白くてカサついてそうな肌に、ミイラみたいに細い手足。白く濁った目!

 生気が全くない、和風のゾンビか!?


 幸いなことに動く気配はないので全力で廊下を走り抜け、L字の廊下に飛び込む。

 玄関に出たらブーツを掴んで、飛び出し――


「うっぎゃああああ!?」


 いいい、いる、目の前に立ってる!?

 目と口は朽ちて穴になり、そこから赤黒い泥みたいな血を流してる。

 そしてアビサルな白い肌!


 ぎゃあああああ――と、腰を抜かすとでも思ったか。


 伊達に《神話》使いやってないぞ。

 地獄とかで釜ゆでされてそうな和風ゾンビめがけ、引き抜いたプラトーを一閃!

 僕の愛剣プラトー、《接触》魔術の極北!


「はぁっ!」


 ゾンビの腹を真横にズッパリと切断する。

 紙粘土の山みたいな感触だ。

 死んだかどうかは確認せず、玄関に置きっ放しのショートブーツを引っつかんで外へ出て――


 いや、待て!?


「ええい!」


 急ブレーキ!

 腹に大ダメージを受けたゾンビを蹴飛ばし、真っ赤に染まる室内へUターン!

 家の中をまだ確認しきれてない。

 もし万が一、ニュートや井手上さん、荒士さん、それに姉さんが残っていたら不味い。


 逃げても誰も見てないって?

 見てるよ、プラトーを通じて遠い未来の全人類が。使うと記録されるってのは、そういうことだ。

 そして撮影者であるイース人と、ニュートも!


 胸中で一人ボケツッコミをしつつ和室に飛び込んだ。

 カドを巡る前は何もなかったけど、今は覚えのない鞄やら服が散乱している。

 神話存在の類いはいないように見えるけど、念のため畳で前転する。


 プラトーを口に咥え、警戒しながら回転ブーツ履き!

 そうやってパパパとブーツを履き終えると、和室の中央から周囲を確認。


 雨戸は開いてる――というか、壊されてる?

 庭に人の気配はない。

 もちろん、猫の気配も!


「神話存在って、人を異世界とかに連れてく奴がいるよね……ここが、そんな場所の一つかな」


 日本舞台のホラーゲームかーい。

 うう……次は二階へ行こう。

 小走りに廊下へ出て、階段へ――向かう寸前なんとーく悪い予感がして、プラトーで前を払う。


 ガンッ!

 思った通り、刃に嫌な感触が響いた。


「やっぱりいるー!」


 ジャンプスケアで出現した和風ゾンビにプラトーをブチ込む。

 そうされるとは思っていなかったらしいゾンビが、人間くさいリアクションでバランスを崩した。


「おおおお、こ、この小童が……」

「喋れるんだ!?」


 気にはなるけど、それより室内確認が先――やっぱ待って、色々と確認しとこう。

 まず追撃の蹴り!

 さらにゾンビの着ている和服の端を掴んで、外へ放り投げる!!


「オオ――アァァ――!」


 狼狽えながら弧を描いた和風ゾンビが、ベシャっと庭に叩きつけられた。

 変化なし? ない……ね。


「ああ、おお……なんてことを!?」


 いや、随分焦ってるな。

 何かあるのかを知りたかったので、その辺にあってそれなりに質量のある――下駄を掴んで投げつける。


「あーした天気に、なーれぇーっ!」

「ぶぼっ!?」


 クリーンヒット!

 すぐ戻ることはないと踏んで、二階へ移動する。


「姉さーん、いたら返事を……うわっ!?」


 階段を駆け上がろうとすると、後ろから轟々と風が吹き荒れてきた。

 家自体がガタガタと揺れるほどの突風!

 浴びていると体温が急激に下がっていく。冷たくて、不快で、胃の内容物が逆流しそうになる。

 ぐぐぐ……!


 チラと振り替えると、顔に二の字に痣を作った和風ゾンビが庭でバタバタと蠢めいていた。

 浮かぶのは苦痛と……絶望!?


「神話存在があんな顔するのか」

「ああ、お慈悲を……ユキンバさまあーーーっ!」


 風はゾンビの周囲で螺旋を描く。

 冷たく、異様な風が!


 そして――()が振ってきた。


 で、デカイ!?

 ミイラみたに肉がすっかり落ちた巨腕は和風ゾンビをガッシと掴むと、そのまま空中に持ち上げて――


 空から異様な音が響いてきた。

 それが何の音か理解できるまで、少しかかった。


 ()()だ!

 何かが空にいて――って、そんなの一つしかないじゃん!?


「やっぱり()()()かー!」


 そのまま階段を駆け上がった。

 階段の先には小さな踊り場があって、その正面に木の扉があった。

 扉のガラスに人影は写ってない。


 せえ……のっ!


 ドゲシッ!

 扉を蹴るように開けると、本の山に埋もれた部屋へ飛び込んだ。

 書斎……かな?


「姉さん、いますか……?」


 きょろきょろ。

 念のため押し入れとかも開けるけど、本やガラクタくらいしかない。

 誰もいないようだ。


「いない、かな……? いないね? よし!」




 ふうと息を吐く。

 姉さんがいないってことは確認できたから、いいや。

 とりあえずヨシ!


 心持ち身体を隠しながら、窓の外を見る……


 何もいないようだ。

 空は赤く染まってるけど、太陽は出ていない。雲もない。

 まるでスクリーンみたいだ。

 耳を澄ますと、どこか遠くからトン、トンと小さな太鼓のような音が聞こえてくる。


「間違いなくカドを巡った先だ。こういう空間は、どこか別のセカイが地球に落としてる影なんだっけ」


 頼れる相棒の言葉を思い出す。

 ついでに無事も祈る。

 ただ……無事でいてくれと祈られてるのは、きっと僕の方だろうな。


 カドの移動ができるのはニュートだけだし。

 正確に言うと《ティンダロスの猟犬》たちもできるけど、会いたくない。

 何があろうとも断じて!!



 それはそれとして、分かることを確認しよう……


 投影されたセカイの大きさは……山の向こうくらいまでありそうだな。

 広いけど、丹後丸事件の時よりは小さい。

 あっちは旧支配者が二柱いたっぽくて、地平線の向こうまでずーっと続いている砂海と大海が投影されてた。


「なら、こっちは一柱くらいか。なら何とか……いやいや!」


 一柱でも厄介だから!

 生きて帰れるか、疑問符が付くレベルなんだよ。


 他には何か無いかな……

 念のため部屋の中を家捜しキョロキョロ。


 実際の二階を見てないから何とも言えないけど、壁や床には血で書いたらしき魔法陣とか、漢字やカタカナのスペルっぽいのが大量に書かれている。


 あとは大量の本!

 表紙の立派な本が多く、そうでないのも和綴じの高級っぽそうなのが多い。


 中は――




「読めない……うう、画像翻訳アプリがあれば」


 普通はここで書物を調べたりするんだろうけど、こっちは令和生まれだぞ!

 ぐぎががが……


 双子や井手上さんが書いた文章は読めるんだけどなー

 とにかくヒントを。


 デタラメっぽそうな魔法円とか、胡散くさい祝詞やら呪文やらが書かれた奴はぽいぽい捨てる。

 それより日記があれば……ええと?


 ――これか!


 座卓の脇に、質の悪い紙束が積まれている。

 明らかに手書きで、日記――違うな、きっと考えを纏めるためのノートだ。

 あるいは、錯乱しないためのものかな。

 日記の主はある程度の日数をここで過ごしたらしく、ちょっとした日記になってる。


 書かれている名は――朝倉六哉!

 例の偉い人か。


「普通ならここで全容が分かるんだろうけど……ぐぐ、読めない」


 なんだこれ、日本語なのに筆記体か?

 後ろは特に酷く、グニャグニャした線がページを埋め尽くしてるだけだ。

 せめて単語だけでも拾えれば……




 パラパラ……


「間違っていた――見落とした? ええと……明治に絶滅……違うな、何かが途絶えた? きゅう……いや、く、九羅密の一族が……皆は、連れて行かれた……」


 じっくり読む時間もなさそうだから、引っかかったらスッ飛ばす。

 ニュートか、せめて井手上さんがいれば。


「足が……燃える? 三つの月? お腹すいた、でも駄目……食べた、食べた、食べてしまった……帰る、必ず帰ってみせる……」


 ()()の話を思い出しつつ、パタンと閉じる。

 アレがこっち側の――つまり、神話の食べ物なのは間違いなさそうだ。

 材料は……まあ、アレだろーなー


「この日記は回収しておこう。鞄かりまーす――ん?」


 バン! バン!


 窓の外に手形が付きはじめた。

 来たかー


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