Scene-05 がんどうがえし
「とうちゃくー!」
ランチア・ラムダで国民的アニメの舞台みたいな田舎道を抜け、まだカタチを残した廃村へ入った。
井手上さんと荒士さんがラムダから荷物を降ろす。
ここは姉さんの故郷である岳郷村だ。
もう廃村になってるので無人だけど、ダム工事がまだ当分かかるということで様子を見に来る人がいるらしい。
姉さんもその一人で、知り合いに付き添って定期的に訪れているそうだ。
目的は行方不明の人たち探し……だろうな、きっと。
「――ん?」
森の合間に人影を見つけた。
猟師さん……にしては猟銃とか持ってない。代わりに木製のコンテナみたいのを背負ってる。
僕らに気付いたら、慌てて引っ込んでいった。
――はて?
大沢の姉さんに目で正体を尋ねると、しばらく考えてから自信なさそうに答えてくれた。
「きっと宝探しの人たちでしょう」
「宝!?」
狭山丘陵で宝――もしかして、トロールのボスでも探してます?
あるいは赤い海の怪物とか……
「探しているのは、おそらく太歳かと。――それが何かは分からないのですが、おそらくキノコだと思います」
「あー、なるほど……」
それなら分かる。
前に、お祖父ちゃんに茸狩りの成果を振る舞われたことがある。
キノコ嫌いが少し治る程度には美味しかったな。
念のため、ニュートにも聞いておこう。
『食べ物としての太歳は、いま言った通り巨大なキノコだ。漢方薬の材料だから高く売れるし、大きいのなら食いではあろうが……見た目が腐った肉塊の上に、不味いらしい』
不味いんかーい!
というか、グロくて不味いモノを口に入れた人がいたのか……
姉さんが説明を続けてくれる。
「明治の大飢饉の際、飢えずに済んだ家があったそうです。その家では、森で見つけた太歳を食べたと。それが何かは分からないのですが、肉のようだったと聞きました」
「村人全員が食べたんですか?」
「いえ……その家だけで独占したそうで。それで――その、相当恨まれたようで一人、また一人と村を去り、結局全員が引っ越してしまったとか」
姉さん、バツが悪そう。
でも食べ物の恨みは怖いって言うし?
「お恥ずかしい話です」
それでも話しは続けてくれる。
廃村の際、この話しに興味を持ったのが例の《偉い人》だったそうだ。
その偉い人――
井手上さんとニュートが電話で結社から聞いた筈だけど、詳しい話はまだ聞いてない。後で聞こう。
荷物を出し終え、肩に背負った荒士さんが姉さんに並ぶ。
彼女は人影の痕跡を目で追っているようだ。
「――その宝探しって、どのくらいの人が来てるんでしょうか」
「すいません、詳細までは。人目に付かないようにしている人が多くて」
「そうか、宝探しでしたっけ」
宝探しねー
まあ、森が荒らされた形跡はなさそうだし――ん?
ぞくぅ!?
「……」
『どうした、瑛音?』
フードのニュートがひょいと顔を出す。
一緒に空を見上げた。
「ニュート、いま空が笑わなかった? こう、嬉しそうに……にちゃあ、って」
『いや、オレには何も感じなかったが』
「うーん?」
「――こちらです」
考えている間に、大きなお屋敷の前に案内された。
玄関の鍵を開けてくれる。
なんかキョロキョロしてるな、姉さん。
「どうかしましたか?」
「いえ……知り合いが先に来ていると思っていたものですから」
ふむ?
まー、後で見てあげてもいいですよ……と、心の中で答えつつ、中へ入る。
「おじゃましまーす」
中は……百年前くらいの家だな。
いや、百年前なんだけど。
木製の雨戸がしまってるので、すごく暗い。
家の真ん中には、和室が田の字みたいに四つ。
集会場みたいで広くていいけど、住むとしたらプライバシー確保に苦労しそうだ。
あと、埃が凄い!
けほ……
「瑛音さま、ここでお待ちになっていて下さい」
「先に煤を払います」
荒士さんがトテトテと廊下を進み、バンバンと雨戸を開いていく。
雨戸が水平に開くのって斬新!
廊下はテラスみたいになっているらしく、庭に直で降りられそう。こういう作りは何って言ったっけな……
『縁側という』
「……ニュート、僕の心でも読んだ?」
井手上さんはくるくるとタスキを掛けつつ、掃除道具を探しに行った。
大沢の姉さんは和室を覗き、それから縁側の脇にある急な階段の前でこっちに会釈。
どうやら二階の様子を調べに行くらしい。
トントン――ギイィ
「建て付けが……ああ、もう!」
一人残った僕は――さて?
皆の邪魔をしないように気をつけながら、家の中を見て回りつつ――
「ニュート、詳細プリーズ」
『どこからだ?』
「なら、まず……偉い人かな」
『結社が調べた名は朝倉六哉。霊智学会系の新興宗教メンバーで、市井の民俗学者でもある』
霊智学会は、いわゆるスピリチュアリズム系の団体らしい。
なんてーの?
古代大陸がどーしたこーした、アストラル記憶が霊的進化で、偉大なるマスターがナントカカントカ――
中二かーい! と、ツッコミたくなる。
彼らが《旧支配者》に通じてるなら捨て置けないけど、結社もニュートもガン無視してるところから察して下さい。
ニュートいわく、大正時代の民俗学はガチなのと胡散臭いののごった煮だそう。
代わりにエネルギッシュな人たちも多いらしいけど。
くだんの偉い人――朝倉さんも結構な学があるのに民俗学にハマり、私費を投じて日本の古い伝承などの研究を進めてきたそうだ。
古代日本はスバラシイ国だった……と、言いたいらしい。結論ありきはどうなんだろうと思わないでもない。
――ちょっとキョロキョロ。
大沢の姉さんはいないけど、念のため田の字に列なってる和室の端っこへ……
日本の旧家ってプライバシーを全然守れないなー
こそこそ
「で、朝倉さんと結社との関係は?」
『無関係っぽいな。ただ地元のメンバーはいるから、そこから漏れた可能性を懸念している。そいつに連絡を取ると言っていたぞ』
「りょ! なら、宝探しの方だけど」
こっちが本題かな!
ちょっとワクワクする。
『十九世紀から二十世紀にかけ、何度か飢餓が起きているのは事実だ。時には人肉すら食べたとの記録が残っている』
「うええ……それで、太歳は?」
ニュートが説明を続ける。
視肉、封、肉霊芝など呼び名は色々あるそうだけど、食べても減らないという点で一致してる。
『伝説では不老長寿の霊薬にもなり、空も飛べるようになるそうだ。あと高級漢方薬の材料だから高く売れる。それで新宗教の連中が食い付いたんだろうな』
「空ねえ。これって神話的な事件?」
『分からん。《神話》と食べ物って縁が薄いのだよな……見た目が肉塊というだけなら思い浮かぶのもあるのだが、それを口に入れようという気になるかというと』
食べられそうな神話存在か……そういえば僕も知らないな。
精神存在であるイース人は何も食べないし、僕を含めた《神話》使いはごく普通の物を食べる。
ちなみに茸は、天ぷらなら食べられます。
「お風呂のモヤとも似てないよねえ。ううん――ん?」
「瑛音さま」
台所にいた荒士さんに、ちょいちょと手招きされた。横には井手上さんもいる。
二人とも不審そうな顔をしいる。
大沢の姉さんはまだ二階らしく、姿は見えない。
「どしたん?」
台所は一段低い土間。
土間には簀の子が敷いてあったので、二人とも素足だ。
「どうか……およ?」
掃除中だったららしい井手上さんが手に持ってるのは――煙草の吸い殻?
台所の隅に何本も山になってる。
感じからして、そこまで古くなさそうだな。
「宝探しの人たちが残したのかな」
「なんですか、それ?」
二人に説明。
終わると、なるほど食べ物ですかと強く頷く。
それはそれとして!
「井手上さん、荒士さん、この家に誰かいる気配はある?」
「庭にある井戸の周辺に消えかけた足跡があります。成人の男性で、おそらく四人。大荷物を置いた跡もありました」
荒士さんスラスラ。
そういえば、足跡を追えるスキルがあるって言ってたな。
井手上さんもホウキ片手に答えた。
「家の中にも若干の痕跡があります。二階は後で確認します」
「そういば大澤の姉さん、遅いね」
『――待て!』
ニュートが僕の肩でピンと耳を立てた。
井手上さん、荒士さんに警戒の合図を出し、自分もいつでも動ける体勢を取る。
『廊下の向こうから足音がするな……旅館の奴かもしれん!』
「……!?」
腰のプラトーを――引き抜く!
それで井手上さんと荒士さんも事態を察してくれたようだ。
二人とも《神話》を正しく警戒する。
息を殺し、耳を澄ます――
確かにペタ、ペタ……という音がする!
注視していると廊下の空気が徐々に冷たくなって、玄関から続いてる廊下に足跡がぺたり、ぺたりと滲み始めた。
ゴトリ――バン!
え……あ、二階から!?
姉さん!
「まったく、この建て付けの悪さ……!」
不味い、姉さんが二階から降りようとしているのか。
ええい――ダッシュ!
「瑛音さま!?」
「二階に行く。二人は一度外へ出て、縁側から援護お願い!」
「――承知!」
荒士さんが即座に反応し、井手上さんを引っ張っていく。
「姉さん、そのまま動かないで下さい!」
「え……何ですか?」
トントン
だからー、降りないでー!?
『ええい、仕方がない……瑛音、カドを巡るぞ! 気配ごと向こうへ連れて行く』
「りょ!」
ニュートが降りて、廊下をくるくると駆け回る。
ここでいう『カド』は、次元のチャネルに近い。こっちとあっちとのチャネル!
カドを巡ると見えないモノが見えたり、触れられるようになったりするから、対処がしやすくなる。
反面、向こうからも干渉されまくるけど!
『いいぞ、行く!』
ニュートの叫びと同時に――目の前が真っ赤に染まる!
風呂場のアレか!?
「!?」
関東大震災百周年に更新しようと思ってましたが、間に合いませんでした・・
あと、しばらくは毎日更新の予定です




