Scene-02 いらいまち
仲居さんに部屋へ案内してもらった部屋は二階にある広い和室だった。
もちろん猫可!
伯爵のコネを最大限使わせて貰いましたとも。
「さて、作戦会議!」
「ほへ?」
ずっと寝ていた井手上さんに最初から全部説明。
井手上さんは目の下の隈が薄くなってるな。
ほんの短い間だったけど、彼女の膝でぐっすり眠れたらしい。善き、善き。
「瑛音さま……あの人は悪い人なんですか」
「善悪は関係なし。どんな秘密が、どう漏れたかを確認するだけね?」
もし敵対者とかだったら結社の然るべき筋に連絡かな。
あるいは神話事件の犠牲者である可能性もある。もしそうだとしたら、優しくしておきたいよねえ。
井手上さんは僕と同じく後者、荒士さんは前者を疑ってるっぽい。
それぞれだねえ。
「瑛音さま、彼女に直接聞いてもよろしいでしょうか」
「こちらから余計なことは言わないでおこう。彼女からの依頼を待つ方向で」
こくこく。
方針を聞いた荒士さんが肩の力を抜くと、手の中で小さくまとめた鎖がジャラリと鳴る。
分銅鎖というテクニカルな隠し武器だ。
それ以外にも武器多数。
小柄なジト目ロリだけど、荒士さんは意外と武闘派だったりする。
「井手上さんは念のため《レテの書》の組み替えを。電話越しでいいから、村茉さんから対人関係のスキルを教えて貰って。ニュート、サポートよろしく」
「はい」
『おう』
井手上さんは座学レベルまでならスキルの付け替えができる。
座学だけでなく、ニュート経由でウルタールや外惑星のスペルも覚えられる。
魔術の域に達した特技だ。
そして僕だけど……よっと!
一挙で立ち上がった。
「僕は彼女がここへ来てからの動きを《視て》くる。荒士さん、護衛よろ」
「承知」
そういうワケで僕と荒士さん、井手上さんとニュートに別れた。
井手上さんはニュートを連れて、ここの事務所に設置されている固定電話へ。
僕と荒士さんは散歩……に、見せかけた《幻視》だ。
幻視――僕は、過去を視ることができる。
自由にとは行かないし、画像も粗くて音も無いけど、好きな場所に隠しカメラを仕掛けられるに等しい。
地味だけど、堂々のチート能力だ。
今日は双子がいないから幻視も第一段階までだけど、十分だろう。
さーて、まず何処から《幻視》しようかな。
くくく、何人も僕の目からは逃れられな……ん?
「ああ、ちょうど良かった」
――え?
和洋折衷の階段を一階へ降りて行こうとしたら、後ろから声を掛けられた。
あら、大沢さん。
旅館備え付けの浴衣に羽織の大沢さんは、和やかに――風呂桶を持ち上げた。
「皆さん、お食事の前にお風呂でも如何ですか?」
「え?」
「――はあ!?」
むぎゅ。
後ろから荒士さんにのし掛かられた。
彼女は顔を真っ赤にしてジト目を見開き、声に冷や汗を滲ませている。
大沢さんは取りなすように笑った。
「ああ、混浴なのを気にしてるんですね。いま泊まり客は女性だけですから、大丈夫ですよ」
大沢さん、そうフォロー。
あー、なるほど混浴……
令和だと法律上の関係からほぼ消えてるらしいけど、大正時代にはゴロゴロある。
水着やタオル着用とかのルールもない。
というか、僕がバスタオルと認識しているような幅広のタオルはまだ一般的でない。
輸入品ならあるから僕は一応使ってるけど、風呂の中までは……
チラっと荒士さんを見る。
ガチ震えながら、ふるふると頭を振った。
僕を見て!
うーん……戦闘要員でこれは不味いかもなあ。
それはそれとして種明かし!
「大沢さん、僕は男なんですけど」
「え!? そ、そうだったんですか……すいません、海外の人は見慣れていなくて。日本のお風呂、分かります?」
とと、大沢さんはまったく気にしてない。
子供の外見だしねー
あとは荒士さんか。
念のため端によって、荒士さんと二人でゴニョゴニョ。
「荒士さん、見られるのが恥ずかしいとか?」
「私の裸を見たいのでしたらご自由にどーぞ! ただ、え、ええ、瑛音さまの肌は……こ、この前の代官山で見た、成長なさった姿が目に焼き付いてて!」
「あー、あの……」
青年くらいにさせられたな、そういえば。
自分の感覚からいうと少女漫画のヒーローみたいなド耽美で、ちょっと無理だと思ったんだけども。
思い出したらしく、荒士さんも目を反らした。
――ふむむ?
大沢さんを振り返った。
「すいません、いまツレの一人が電話してて――」
後ろから安堵の溜息が響く。
一緒に入らなくても済みそうだと思ったらしい。
でも甘い!
「なので彼女が戻ったらいいですか。三十分後くらい」
「はあ!?」
「いいですよ。私の部屋はそこなので、待ってますね」
「ちょ、瑛音さま!?」
荒士さんに肩を掴まれてガクガクされる。
えー、泣くほど?
「荒士さん、そこまで動揺するようなら流石に不味いよ。積極的に見せはしないけど、慣れて」
「ええー!?」
荒士さん、動揺しまくってる。
そんなに?
だけど、荒士さんは僕と一緒に神話事件を解決しないと行けないワケで。
これも訓練の一環だ。
井手上さんとニュートが戻ったところで、事の次第を説明する。
話を聞いた井手上さんは即答した。
「わかりました、準備いたしますね」
平静。平然。
年の割によく発達したボディの持ち主である井手上さんだけど、僕や景貴の前で恥ずかしがることはない。
常に堂々と、むしろ見て!とばかりに肌を晒す。
やり過ぎではと思うほどに。
個人的には、狂気の後遺症もありそうだと思うんだけどね。
そういう精神障害は実在するし……
そんな心配を余所に、井手上さんは自分と僕の荷物を持ち、まだ動揺しまくってる荒士さんの首根っこをふん捕まえた。
ジタバタ。
「ちょ、お前は代官山の件を見てないからそんなことが……!」
「貴方もいつか殿方に肌を見せるのですから、いまから慣れておきなさい」
「見せるのは平気だぞ! ただ、その……」
「景貴さまや瑛音さまのような殿上人は、我らと同じ人間ではないと心得なさい」
「だから、あの坊ちゃんなら平気だってー!」
荒士さんがズルズルと引きずられていく。
強いな、井手上さん。
引きずられていく荒士さんの足先に、念のため声をかける。
「荒士さん、清華にはそういうことを言わないでね。景貴のリアクション次第では後ろから撃たれるよ。景貴が。――で、ニュートはどうする?」
『オレは散歩に出るから、窓を開けてくれ』
「いってらっしゃい……うおっ!?」
ひゅおおおお!
二階の窓から冷たく重い風が吹き込んできた。大きな山は見えないけど、なんていうか……吹き下ろし?
「寒くない? だいじょぶ?」
『……』
ニュートはしばらく風の匂いを嗅いでいたけど、やがて頷いた。
窓枠から外の枝に軽々と飛び移る。
流石、猫!
『――いってくる、暖まってこい』
「りょ!」
えー、それで結論から言いますと。
僕が駄目……
大沢さん、いや大沢の姉さんはマジ大人の身体でして。
彼女がセーターを脱ぎ、ブラを外した瞬間の衝撃は!
以後、背中を向けたままです……
ちなみに大正時代のブラにカップはない。
胸全体を押さえるバンドというか。
胸の大きい人のシルエットをスッキリさせる系のブラを思い出して貰えると分かりやすいかも知れない。
あれだ。
なので、脱ぐまで分からなかったです!
そのままパパっと脱ぐとプラトーと銃をマントで隠し、同じくパッと脱いでいた荒士さんと並んで風呂へ逃げ込んだ。
「先に入ってまーす」
「う……や、ちょ!?」
僕はいちおう腰にタオル。
荒士さんは細長い手拭いだけで、しかも隠すためには使わない。本当に見るのだけが駄目なのね。
風呂は風情ある石造りだった。
床にはカラフルなタイルが敷き詰められているので、結構新しいのかも知れない。
中途半端なシーズンなので、入浴客は僕らだけだ。
「――ん?」
首の後ろがピリっとした。
きょろきょろ。
だけど見た範囲では何もない。
うーん……ニュートが来たら後で聞いてみようかな。
荒士さんはそのまま風呂へ直行。
手拭いで手早く髪をまとめ、桶を持って風呂から直接ザバーっッ掛け湯。
後ろからのシルエットはすっきりしてる。
凹凸はないし、傷だらけではあったけど、ボディラインは綺麗で――っていうか、僕よりお尻小さいな!
うう……
「お先に入ります!」
「どぞー」
僕は洗い場へ。
シャワーはないけど小さな湯船があって、そこから手桶でお湯を汲むらしい。
備え付けのアメニティもなかったけど、こっちは手持ちがある。
腰のタオルを外して木の風呂椅子にぺたりと座りつつ、洗髪粉とかを持ってきてくれる井手上さんを待つ――
「ぶぼっ!」
え?
振り替えると、こっち向いてた筈の荒士さんが背中向けていた。
のぼせたみたいに耳まで真っ赤だ。
――僕? 背中とか、お尻?
いや、そこまで恥ずかしいものですか。
センシティブなところには見せてないんだけどなー
公募だと削るような部分ですけど、どうなんでしょうか
次回も似た感じなので日曜予定です




