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Scene-05 あけがらす

 プラトーを構える。

 綾女さんが飛んできて、荒士さんに肩を貸す。


「探偵さん、そのまま時間を稼いで下さいますか。考えがあります」

「りょ、そこ閉めて!」


 綾女さんは暴れる美紗緒ちゃんを母親ホールドでガッシリ押さえつつ、荒士さんに肩を貸して出ていった。

 表情からは他人を思いやる心が伝わってくるな。

 つくづくいい人だ――ってことは、普段はジコチューの上に悪い人なんだろうなー

 終わった時のことを少し考えるか。

 最後に荒士さんが肩越しにこっちを見て、扉が閉まる。


「さーて?」


 プラトーを構え直した。

 キリッと!


 プラトーは束まで単一の素材でできた両刃剣で、時の旧支配者(イース)が作り上げた逸品だ。

 真なる人類史に独立項目があるほど!

 なので――引き抜くと()()()()()記念撮影される。

 そりゃもー、情け容赦なく!

 しくしくしく……


「――おほん! 覚悟しろ、旧支配者!」

『オオ――オ――!』


 黒血から何本もの槍が突き出されるけど、プラトーで全切断!

 そのまま本体に刃を打ち下ろし、端を大きく切り裂さいた。――駄目か、手応えが全くない!

 切口の中も黒一色だ。

 内蔵も何もなく、言ってしまえば単なる泥の塊。


「ニュート、手応えがない」

『ううむ……明確な弱点があると言うことは、逆に言えばそれ以外の攻撃は通じ難いのかも知れん』

「コイツをどうにかする呪文とかはないの?」

『時間とクタアトくれ』

「ぐぐぐ……本気でそうしてあげたい気分。嫌だけど」


 水神クタアトは、旧支配者の知識を記したブラックブックのひとつ。

 そういうのを根絶することで、真なる人類史を正しい方向に修正するのがイースのエージェントたる自分の役目である。


 これは旧支配者であるイース人にも利がある話しらしい。

 なんでも「カブトムシは嫌」とか?

 意味はよく分からないんだけど――うおっと!


『気をつけろ、瑛音! 神話の気配が凝縮していくぞ……』


 キィィィィン!

 

 グネる《イブ=ツトゥルの黒血》の目が一斉に開き――光ったぁ!?

 防ぐどころか構える間もなく、黒血を中心にして次元が境界を巡る。

 これ……歪曲波か!


「うひゃあああー!」


 ぐぐっ、息がちょっと詰まる。

 デタラメにカドを巡るこの感じ――これ、もしかして《反転》か!?

 な、何が反転した?


 プラトーでカドを切り直す。

 それで視界と認識だけは元に戻った――ところで、気付いた。

 服がギチギチで、視界が高い!


 一瞬。

 ほんの一瞬だけ、元に戻ってないか期待した。

 令和の自分に……

 でも感触は《魔王》の身体のままだ。

 イーフレイム・エフォー、かつて米国に君臨した最悪の神話使いの。


「ないよねー、ですよねー!」


 ううう……

 でも何が変わったんだろう――うおっ!?


「ニュート、キミの毛が白いんだけど!?」

『にゃにい! それより瑛音、お前……もしかして成長したか?』


 えー!?

 慌ててダンスホールの鏡を見た。

 そこにあったのは――うっわ、美少女顔のガチ美青年っ!

 こ、ここ、この身体のまま成長すると、こんな……こんな、面倒くさそうな外面になるのー!?

 やめてー、返して戻してー!!


 ――ここまで、ほんの一瞬だ。


 でも旧支配者にとっては充分な隙だったらしい。

 足に触手攻撃を喰らった!


「……!」


 い、息が詰まる。

 肺を膨らませられない、口や鼻からも空気が入ってこない。

 これが《窒息》の神話か……!


「……!!」


 強制的な窒息のせいで、視界が黒くボヤけ始める。

 酸素切れまでのカウントダウンが始まった。

 幸い、動かないのは呼吸に関することだけだから、プラトーかウェブリーを……ぐぐぐ!


「――瑛音さま!」


 ドガッ、ザッパーン!


 扉が開け放たれるのと、パケツから水をブッカケられたのが同時だった。

 大した量じゃないけど――よし、神話が緩んだ!


「ぷはっ! ――助かりました」


 身体を捻って触手を跳ね飛ばし、飛び込んできた荒士さんと綾女さんの横に並ぶ。

 二人は呆然としていた。

 慌てて《イブ=ツトゥルの黒血》を見ると、水を掛けられた部分が溶けている。

 ああ、流水にはこういう効果があるのか。


 合点して向き直ると、二人はまだ呆然としていた。

 視線は何故か僕にガッチリと……ん? ああ!


「瑛音です、瑛音! 《反転》を受けて子供が大人に!」

「と、ということは……お、男だったんですか!?」


 見りゃ分かるでしょうに……という言葉は飲み込む。

 難しいですよねー

 僕がわざとスカート履いてるのもあるだろうし。


 ――それよりも黒血!

 バケツからぶっかけた水は効果覿面で、タールの身体がほんの少しだけ崩れ始めてる。

 でも、あの一回だけじゃ……

 そう思ってると荒士さんの後ろにいた綾女さんがバケツを渡す。


 バシャーン!


 そうやって次! また次!

 パケツは勝手口みたいなところから幾つも出てきて――

 ああ、バケツリレーか!

 平野家の人たちに使用人さんたちも総出で、ホール横のポート池から水を運んでくれているんだ。

 イケオジの平野さんも出てる。

 全体の指揮を執ってるのは、タスキにスカートカボチャの綾女さんだ。


「探偵様、事情は綾女から聞きました。ご協力いたします」

「あなた、あれなるは邪悪! 存在を許してはならりません!!」

『オオ――オ――!』


 黒血が叫び、身をよじる。本格的に崩れ始めた!

 同時に空間にヒビみたいのが走り、消える。

 旧支配者の力が次元と空間のカドから漏れ、消え、ぐるんと《反転》が元に戻った。


 僕の身体は――よし、元に戻った!

 中性的なショタボディではあるけど、あの胡散臭いイケメンより千倍マシ。

 ただ、服が凄いことになってるけど……


 荒士さんも華奢なジト目ロリに戻れていたけど、男性化と戦闘のせいで、こっちも服が凄いことになっていた。

 明らかに事案なんだけど、アチコチで悲鳴が上がり始めていて、ど、どれを先に処理すれば――むぎゅ!?


『瑛音、旧支配者を最優先!』

「ですよねー!」


 黒猫に戻ったニュートのネコパンチで旧支配者に向き直る!

 後は時間との勝負だ。

 意識のスイッチを蹴飛ばすと、チクタク感覚が第三段階でドライブする。


 チク タク チク タク チク タク



 これは《時》の神話の応用、加速!

 空気の壁をぶち破り、視界が溶け合って後ろに流れていく――


 そのまま高速でカーテンを引っぺがし、ベトベトになってた黒血を包んだ。

 端を丸めて持ち――

 ブン回しーので、ボート池にぃ……叩き込む!


 ズッバーン!


 巨大な水柱が立ち上がった。

 ワンテンポおいて、巻き上げられた水が滝のように降ってくる。

 叩きつけられた《黒血》が苦しみだした!


『おお、これもまた流れ水か!』

「とどめー!」


 チクタク感覚はまだ継続中!

 プラトーを構えて飛び込むと、黒血は最後の足掻きで触手を放ってきた。

 でも僕を貫くには遅すぎる。

 回避からのジャンプで剣を振りかぶり、空中で《神話》を発動させた。

 絶対時間の刃!


境界よ、あれ(テルミヌス=エスト)――」

『オオ――オ――!』

「ヴァージ!」


 再び水柱が立った。

 今度のは途中で勢いを失い、柔らかな水霧となって季節外れの虹を輝かせる。

 それも一瞬で消え――

 僕も水面に叩きつけられた。挙げ句に水中へ沈む。

 ですよねー!


「――ぷはっ!」


 バシャっと水面から顔を出す。


『大丈夫か、瑛音』

「――ふ、冬に水泳はキツイ」


 ガチガチと歯を打ち鳴らしつつ岸に泳ぎ着くと、待っていた荒士さんに出迎えられた。

 ああ、素っ裸に褌が眩しい……

 手を握ると、荒士さんが僕を引き上げてくれつつボソリと呟いた。


「なぜ女の服を?」

「別に。男だ女と区分けするルールがあるわけじゃないしさ」

「……」


 大正の人間にいまの答え方は卑怯だったかな……

 でも僕の目の届く範囲ではそうさせるよ。


 岸に上がると、荒士さんへ右手を伸ばした。

 頭を撫でられると思ったのだろうか、荒士さんは反射的に頭を下げ――差し出された手をまじまじと見つめる。

 握手を求められていると気付き、慌てて手を握ってきた。


「あの……」

「よろしく、荒士さん。僕は綾瀬杜瑛音。肩のこの子は相棒のニュート」

『うむ、見知りおけ』

「荒士です……荒士結実(ゆみ)


 最初はおずおずと、やがてすっと胸を張った。

 いいね。

 ただ何か着て欲しい……

 仕方がない、びしょ濡れだけど僕のマントを貸す。


「さっきは可愛いなんて言ってごめんね」

「いえ……嫌では、なかったです」

「さて――それじゃあ、さ?」


 ぐりん。

 振り向いた先で()()()()顔のオジサン――平野さんが呆然としている。

 反転が戻ったこ、旧支配者を見たこと、そして……美沙緖ちゃんを人質に取った綾女さんを見て、だ。


「お前たち、近づくな! う、動くな……!」


 綾女さんの手には拳銃があった。

 でも『水神クタアト』はないな……ふむ?


「――荒士さん、アレを何とかできる?」


 最後の試験というニュアンスを乗せる。

 荒士さんが頷いた。


「お任せ下さい、瑛音さま」

「よろー」


 さーて、僕はその間に……


 チク タク チク タク チク タク



 現場を離れ、用事を済ませてから戻ってくる。

 ふふん、こんなの楽勝だ。


 状況は一進一退。

 平野さんがお金を入れた鞄を、綾女さんに渡したところだった。


 その後ろで荒士さんが静かに、しかし素早く動く。

 綾女さんは美沙緖ちゃんを人質にしたまま、僕のオースチン7へジリジリと移動していた。

 その手に、細く黒い線が絡みつく。


「なっ!?」


 一投目で、その手から拳銃が消えた。

 二投目で、腕に巻き付いた。


 そのまま鎖がたわみ、戻る勢いで綾女さんの腕が裏返る。

 美沙緖ちゃんが解放された。


「美紗緒!」

「お父さん!」


 美沙緖ちゃんがダッシュで父親の元へ逃げた。

 二人でヒシっと抱き合う。

 綾女さんは、荒士さんに肘を決められて引っ繰り返った。


「離せ! 離さなければ、ブラックブックは永久に手に入らな……」

「ここにあるよ」


 ()()()取ってきた本を見せてやると、綾女さんが目を剥く。

 荒士さんも僕が手にした本を見て驚いてるようだ。


 くくく、僕に隠し事なんて無理だねー


「ど、どうやって!?」

「変わったもの探偵って言わなかったっけ。このくらい簡単だよ」

「ああ……」


 それから、後始末。

 綾女さんを官慶に引き渡し、善人たちのドラマを見守り、村茉さんに裏で色々暗躍してもらい――


 最後に一冊の本が残った。

 名は『水神クタアト』


「さて」

「さて、とは?」


 ギリギリ


「クタアトは処分するんで……!」

「本日、御身より封印命令が出たと認識しておりますが」


 ギリギリに、ギリギリで返される。

 意外と力は強い。


「却下!」

「封印書庫には既に手配済みです、担当が来ております」


 するんとクタアトが消え、村茉さんの手に収まった。

 荒士さんと村茉さんの連携だ。


「ちょっとー!?」

「瑛音さま、封印にご同意を頂いたとか。――この村茉、ご英断を嬉しく思います」


 有無を言わさぬ恭しい礼。

 しかも気を取られた隙に、荒士さんは後ろから羽交い締めされる。


「ブラックブックを破壊しないと、僕の仕事は終わったことにならないんですけどー!?」

『まあ……今回は本の知識が役に立ったし、一冊くらいは我慢しておけ』

「これで二冊目だよー! そうやって増えていくんだ、きっと!」

公募の原稿ががが……

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