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Scene-03 悪心と善心

 チク タク チク タク チク タク


 幻視――ファンタズマリコールは、過去を直接見ることができる僕の神話能力。

 実際に起こったことなら、簡単に――簡単に?


「あれえ?」

『どうした、説明を頼む』

「何か変というか……このトンチキな現象って、精神交換ではないかも?」


 じとーっと、目をこらす。

 ううん。

 ニュートがフードから肩へ上がって来た。


『どういうことだ?』

「変わった前後で同じ人間がいないんだ。姿形の変わらない人もいる。あと……うええ」


 ()()()()()()ものを見て幻視を切った。

 現在の風景――二階の廊下が戻ってくる。


『詳しく教えてくれ。それと……後ろに観客がいるようだが?』


 振り向くと、可愛らしい女の子がこっちをジーッとみていた。

 年頃は今の僕と同じくらいかな。

 背格好もそのくらい。

 顔は――さっき写真で見たな。この家の娘さんで、名前は美沙緖(みさお)ちゃんだっけ?


 目が合うと、真っ赤になってお辞儀された。

 どうやら気にしてるのはフードのニュートっぽく、上目遣いの視線がフードに釘付けた。

 そうだね、可愛いよねー

 頭もよくて頼りになるんだよ!


 そう心で呟いてあげたら通じたらしい。

 僕とニュートに会釈すると、彼女もペコンとお辞儀してから、ととと……と、去って行った。


『可愛いものだな』

「そうだねー」


 あの娘も可愛い。けどニュートも可愛いのだ!

 それは、それとして――ごほん。


「ニュート、『ちゃっと=あくあナントカ』って本を知ってる? 後妻っぽい人が持ってたんだけど。すっごい、悪人面の!」

『なんだ、そのAIみたいなの』


 美人だったけど、すごい悪人顔だったな。

 目には狂気の片鱗も。

 間違いなく今回の事件に関係している。

 意外と簡単に片が付きそう……なんて考えてる後ろで、ニュートが首をかしげながら記憶を検索する。


『ううむ……瑛音、Tを見落としてないか? おそらく正式名称は『CTHAT(クタアト)』だ。『水神クタアト』。本物ならば一級のブラックブックとなる』

「――あ、そうかも。なら後妻さんが今回の元凶ってことでいいのかな。()()()()?」


 腰に凪いだイースの魔剣プラトーの柄を軽く触る。

 人と旧支配者との《接触》すらも断つ魔剣だ。

 ややこしい相手だと一撃スパーンとはいかないけどね……


『処分したいが、シュライン・ケージと調整したいところだ。――だが、アレではなあ』

「アレねー」


 荒士(アレ)さんを思い浮かべ、相棒と溜息をクロス。


「先に後妻さんを中心に幻視しよう。幸い、彼女は姿形が変わってな――」

「あの……もし」


 大人の女性の声で急に呼び止められた。

 振り替えると、大正浪漫溢れるドレスに身を包んだ若い女性が佇んでいる。

 さっき幻視で見た、後妻の人!

 美人で善良そうな人だけど、目には……あれ、狂気の片鱗とか悪人色がない?


『瑛音、邪悪とか狂気は特に感じないようだが』

「あれえ……?」

「主人がご依頼した探偵さんですね? 先ほどはお迎えも出来ず、失礼をいたしました。――私は平野綾女(アヤメ)と申します」


 そうして、子供がするような勢いのあるお辞儀ぺこ。

 ――え? え??

 ボーッとしてからハッと気付き、慌ててお辞儀を返す。


「え、瑛音(エイト)です。こっちは黒猫のニュート……」

「あの、説明したいことがございます。できれば、ご一緒に来ていただけると――」

「はあ……」


 念のため銃と魔剣をいつでも抜ける準備をしていたけど、特に何もなく目的地へ着いた。

 一階の離れになってるダンスホールか。

 最初に受付やクロークとかに使うような小部屋があり、ホールはその奥になる。

 奥へ続く扉は『使用禁止』の札が張られ、さらに変な感覚が――って、封印の神話か!?

 警戒レベルをぐいーんと上げていると、綾女さんが懐から手紙を取り出した。

 そしてペコペコ。――やりにくいな!


「まずはこちらを。どうか、お預かりいただければ……」

「手紙ですか、これ?」

「事件の顛末を――真実を、したためております。警察より、貴方が相応しいと」


 手紙を受け取ると、綾女さんが解呪のスペルを唱えた。

 やっぱり《神話》使いか!

 古い歯車がお互いを削り合うような音が軋み、ダンスホールにかけられた結界が解かれた。

 ホールに充満していた黒い気配が、前室にも漏れてくる。


「うわっ!?」

『ち、血の臭い――に、してはおかしいぞ!?』


 刻印が描かれたホールの真ん中には、男女のバラバラ死体をコールタールで煮詰めたような物体が封じられていた。

 泥けた暗黒物質に包まれたのは、死体……か?

 そう思った瞬間、真っ黒な目がバチリと開いて一斉にこっちを向く。


『オオ――オオオ――オ――』


 口も!

 そして暗黒物質の表面がドクドクと脈動を始める。


「……!」

 

 無言でウェブリー・リボルバー・マークⅥのグリップに手をかけた。

 装填してるのは、対《神話》弾。

 だけどタールの化け物はその場から動く気配がなく――


『瑛音、床にも封印が施されている。あそこから動けんようだ』

「ニュート、詳細プリーズ……」

『その前に後妻の手紙を頼む』


 全身全霊でタール状の怪物に警戒しつつ、綾女さんの手紙を開く。

 綾女さん本人は――前室の隅で土下座していた。それも礼儀正しく真心籠もった奴を。

 調子狂うなー

 ニュートが肩から身を乗り出し、万年筆で書かれた内容とホールとを交互に見やる。


『――こりゃ《イブ=ツトゥルの黒血》か!』

「旧支配者?」

『正確には旧支配者《イブ=ツトゥル》の眷属、あるいは分離した一部が成れ果てたとも言われる。その神性は窒息と――反転だ!』


 は……ん、てん?

 窒息は分かるけど、反転って何だそれ。


「反転って引っくり返ることだよね。何かいいことあるの?」

『自分へ使うなら人による。美醜や賢愚、狂気と正気――色々だ。もちろん他人に使うこともできる』


 なるほど、そう考えると色々使えそうな気はする。

 ただ……


「ニュート……この旧支配者って、神話使いの思い通りにコキ使える?」

『まさか。何が裏目るかは賭けだな』


 ですよねー

 全身から善人オーラを大放射してる綾女さんをチラと見た。

 賭けた末がこの惨状ってワケですか。


 はあ……


 溜息をつきつつ封じられてる旧支配者を見た。

 封印は凄いものだけど、未来永劫アイツを封じておけるとは思えない。

 早めに何とかしよう。


「綾女さん、詳しい話を聞かせてもらえますか?」

「はい、懺悔いたします……どうか、私の話をお聞き下さい」


 土下座したまま、綾女さんが自分の悪事を喋り始めた。

 こういうところは楽でいいかも……



 ――そもそもは、結婚から始まったらしい。

 綾女さんが結婚した目的は、平野家の財産だったそうだ。

 然もありなん。


 だけど、結婚してみれば財布の紐はガッチリ固い。

 生活は美沙緖ちゃん最重点。

 これはもう、旦那を謀殺するしかないと思った綾女さんだったけど、逮捕はされたくなかった。


 そっすね……


 あるツテ、ないツテを辿った結果、最終的に()()()()から『不幸を操る本』を入手したそうだ。

 それが私家版の『水神クタアト』で、マジモノの《神話》に触れた綾女さんはゴリゴリと傾倒していったらしい。


「その業者の名前、どこかで聞いたことがあるような……」

『瑛音、千駄ヶ谷御殿の時に殺された兜町の処分屋だ。それで結社の網に引っかかったのだな』


 あー、いたいた。

 文子さ――違う。いまは某所で()()()の、誰か知らない人にくびり殺された人だ。


 遠い目をしている横で、綾女さんの説明がクライマックスに入った。

 第六サスラッタが十三でどーしたこーした……


 どうやら彼女には適性があったらい。

 業者すらも信じてなかった旧支配者の《神話》を読み説き、パーフェクトに発動した。

 そうして呼び出された《イブ=ツトゥルの黒血》は、初出なのに盛大な神話《反転》を発動し――


「封印を掛け、そのまま外へ出て朝日を浴びました。そのとき感じたのです、セカイは――何て美しいのだろうと!」


 綾女さんがキラキラした目で虚空を見つめた。


「……」

『……』


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