表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第七話:フライト・ナインティーン(2)
53/113

Scene-07 オーバーカム

 ぜー、ぜー!


 荒く息を貪りつつ、保管庫まで戻ろうと立ち上がった。

 でも一、二歩踏み出した瞬間に膝からガクリと力が抜け、プラトーにしがみつく。

 不味い、思ったよりずっと消耗してる。

 

 双子がすっ飛んできて支えてくれたので、どうにか船室には戻れたけど……うう、ニュートすら重い。


 船室内はちょっと抹香臭かった。

 桂の匂い袋か。

 中央に立つ桂が気功だかプラーナを込めた呪文を唱えると、エルダーサインが完成した。

 床の線が弱々しく輝き出す。


「瑛音さま、終わりました!」

「よし!」


 後はプラトーで……くく、手にも力が入らない……ええいっ!

 プラトーを口に咥えると床に突き立てた。

 それでエルダーサインは完成した――けど、当然床板には刺さらないから口で維持!


『瑛音、そろそろ崩壊の余波が来るぞ』

「ふぇ……?」


 ニュートの警告通り、大きな風が吹いてきた。

 室内なのに――そう思った瞬間、外から大きな音が響く。余波なのか船体もぐにゃりと捻れた。

 きた、幻想がカドを巡り始めた!


「ふぇいいー、はいいほほははに、はいひー」

「??」

「全員サインの中に退避、だそうです!」


 桂の通訳に目だけでコクコクと頷く。

 ぐぐ、口が小さいからプラトーを咥えるのも厳しい……って、おいぃ! 広くなった入口から、半欠けになった潜水服が!?


「我らの花嫁よ……」


 切断されたヘルメットの下からは、蛸と人間を煮詰めた様な不味い顔が覗いている。

 それがゴボゴボと喋って……って、喋れたの!?

 骨なさそうなのに。

 しかし花嫁ってやっぱり桂かな。

 いや待て、視線の方向は清華のような。――あ、まさかコイツ枢戸村の関係者か!?


「きゃっ!?」


 シュパッと風を切った深きモノ(タコ)の触手が、清華の足を絡め取った。

 引き倒されてスカートが盛大に巻き上げられ、タコから下卑た笑いが響く。

 このーっ!


景貴(ふぁへははー)!」

「清華、いま行く!」

「お兄様!」


 ドスッ!

 飛び込んだ景貴が触手にナイフを突き立てる。

 さらにルガーの残弾ありったけ!

 

 銃声が連続し、白い肉片と変な色の血が飛び散った。

 清華が触手の破片ごと自由になる。

 ――だけど、飛び散った血が景貴の顔を直撃した!


「……っ!?」


 倒れ込んだところへまた触手が伸びてきて、今度は景貴が絡め取られた。

 さっきと触手の肌色が違う……新手か!?

 入口にはいつの間にか、別の深きモノ(タコ)が――って、見た感じ(メス)

 今度は景貴が引きずられていく。


「いあ、いあ!」

「うわっ!?」


 今度は景貴が……早く助けないと!

 でもこっちはサインの維持で手一杯、銃を撃つ余力もない。

 清華はやっと立ち上がって、レッドナインに飛び付いたところだった。間に合わない。

 なら《初見殺し》殺し――駄目だ、チート切れっ。

 他になにか……!


「――いま参ります!」

(ふぇい)!?」


 激しく揺れる船床を飛んでいった桂が、突き刺さったままのナイフを拾って一閃!

 触手の縛めが外れ、景貴が自由になる。

 そのまま景貴の懐へ手を突っ込むと、単発銃を引き抜いて引き金を絞る。

 メスダコの顔面に照明弾の火球が直撃した。

 ――うわ、眩しっ!


「景貴さま、お掴まり下さい!」

「え、と?」


 まだ前が見えない景貴を抱きかかえた桂が、サインに転がり込んでくる。


「ああ――婿よぉ……!」

「花嫁よ……」


 蛸男、蛸女から、未練タラタラの声が響いてくる。

 しつこーい!

 横でやっと体勢を整えた清華が、深きモノ(タコ)たちへレッドナインを叩き込んだ。


「下がれ、化け物どもが!」


 一発一発に殺意を込めたルガー弾がタコたちに叩き込まれ、吹っ飛ばされる。


「――げふっ、ごぶ、おごっ!?」

「あがー!」


 二体が部屋から叩き出されると同時に、大きな()()()が来た。

 空間がゴソッと消失していく。――けど、サイン内は無事!

 ニュートがヒラリと床に降りた。


『これよりカドを巡る!』

よろ(ひょほー)


 ニュートがサインの中を駆け巡り始めた。

 周囲では幻想の崩壊が進んでいく。

 カタチを保っているのはサインの中だけ。ただ、視界は白い水みたいな霧で覆われた。


 何も見えない、聞こえない――


 無音の中、プラトーからはイース人たちの声が聞こえてきた。

 って、ハッピーバースデーの歌?

 シュールだな……


 そんなことを考えていると、白い空間に放り出された。

 ん? んん?

 前と同じようで、でも何か違う……あれ、地平線がある?


 キョロキョロしていると、目の前に五色の円錐が進み出てきた。

 いつもの人たち。


「だばた~、ん~だばだ~」

「?」


 ハッピーバースデーが終わったのか、今度は妙なスキャットを始めた。

 こっちの困惑には気づかず、赤いイース人が進み出てくる。

 

「違いが分かりますか、エージェント?」

「はあ……確かに何か違いますね」


 別にイース人さんたちが違う訳じゃないんだけど、何て言うか――ああ、そうか。

 この空間、いつもと違って方向がある。

 どっちがどっちかは、分からないけど……


「地平線がありますね。方向とかは分かりませんけど」

 

 答えると、赤い小円錐がズイズイズイと近寄ってくる。

 背を伸ばされたので、正座した。

 円錐頂点から延びるハサミ状器官が、へたり込んでる僕の頭の上に乗せられた。

 ――へ?


「オーサム! インプロシオンテ! マジヤッベツッ!」

「もしかして褒められてます?」


 というか、最後のは何だ。

 あとBGMが変わった。

 古いロボットアニメのオープニングだったかな……


「いまは動けないかも知れません。――ですが、あなたはもう目覚めた、エージェント!」

「??」


 しばらく考え、時間流を知覚したことを誉められてると判断した。


 時間流――

 今までは僕の経験だけから判断していた過去と未来を、時間その物から知覚できた。

 イース人から見ればレベルアップ……なんだろうな、きっと。

 その考えを肯定するように、でも慢心を諫めるようにイース人がハサミを振った。

 ちっちっちっ、みたいな。


「エージェント、まだこれらも分岐は続きます。()()()に備えるのです」

「はい……仕事がんばります」


 そっすね、これで終わりのワケないですよね!

 はあ……


 項垂れ、ため息をついたところへ、またハサミで頭をガシガシ。

 髪がくしゃくしゃだ。

 撫でるの気に入ったのかな……でも誉められているワケだから、悪い気はしない。


 やがてイースの《幻想》も切れていく。

 最後に皆で手を振ってくれた――ような?

 なんだかよく分からないまま、現実に戻ってきた。


 ()()の現実に――


 ま、コレはコレでいいか!


 周囲は幻想の中にいたときより、ずっと薄暗くなっている。

 これが現実のアラート号か。

 立ち上がると、プラトーについた涎を拭き取ってからソードホルダーに収める。


 皆は――無事か、よかった。

 清華は銃を抱きしめながらヘタり込み、景貴と桂は抱き合ったまま。

 ニュートはへちゃーとなっている。


「みんな、大丈夫?」

「――瑛音さま!」


 最初に立ち上がった清華が大丈夫ですと頷くと、景貴と桂に気付いた。

 兄を腕から引っ張り出す。

 僕もニュートを抱き上げたついでに、桂を揺り起こした。

 足でお尻を蹴り上げ――いや、手で肩にしとこうか。


「ここは……」

「アラート号の中。――ところでさ? なんであの時、景貴を助けに行ってくれたのかな」

「瑛音さまのお仲間だと……仲間を助けるのに理由は要らないとおっしゃっておりましたから」


 ふーん、ほー?


「まあ……いいか。ありがとう、ご苦労様!」

「あ……はい!」


 へばったニュートをフードに戻すと、景貴と清華にアイコンタクト。

 それから桂を振り返って、にっこり。


「じゃ、正式に捕虜ね?」

「あうう……」


 ズタボロのまま、桂が正座。

 景貴と清華が銃を構えたけど、それ以上は何もしない。感謝はしてるということだろう。

 桂が正座の姿勢から、頭を下げた。


「あの……『水の起源』を読ませて頂けないでしょうか。何でもします!」

「何でも、ねえ?」


 横で聞いていた清華がニヤニヤと笑いながら、僕にしな垂れかかってきた。

 桂を上から覗き込む。


「何でも……本当でしょうか?」

「はい!」

「――瑛音さまは、男性ですよ?」

「へ?」


 桂が僕の顔をみて、次に――スカートのお尻の辺りを見た。

 最後にまた顔。


「――え?」

「お尻大きくて悪かったな!」


 景貴も僕の肩に首を乗せてくる。

 清華はスカートをちょいと上げ、生足を擦り付けきた。

 大人の距離といいたいらしい。

 でも双子の歳だと逆に微笑ましい――と、思ってるのは僕だけなのかなあ。


「何でもなさるのですか、そうですか……ふふ」

「あ……いや、しょにょ……」

 

 桂は、顔を真っ赤に沸騰させて激しく動揺している。

 はいはい、そこまで。

 ブレイクすると、全員を伴って甲板に出た。


 外には、青い海と空が広がっていた。

 タコやビヤーキーの気配はすっかり消えていた。


 ()()……


 まあ、今はいいか。

 海の少し先には白黒ツートンの船体が見えた。日本郵船のエンブレムも。

 きっと丹後丸だろう、よかった……ん?


「おーい、瑛音さまー!」


 下から呼ばれた。

 慌てて甲板から身を乗り出すと救命ボートがいた。乗っていたのは蔵人さんたちか。

 目を回したままの井手上さんを肩に乗せ、掛けっぱなしだった縄梯子をヒョイヒョイ登ってくる。

 

 一瞬、()()

 けど何の問題もなく一行はアラート号の横へ着いた。ほっ。


「桂、井手上さんの回復を」

「はい!」

「瑛音さま、よくぞご無事で戻られました!」


 蔵人さんが感極まった変顔を晒して僕らの無事を喜ぶと、甲板に一冊の本を置いた。

 変顔はどこへやら、厳かに――

 本は厚い革表紙に近代の装丁で、エンポスのタイトルにはアルファベットで『アルス=バハール』と書いてある。

 これがブラックブック『水の起源(アルス=バハール)』か。


 そして蔵人さんとその部下さんたちが、一糸乱れず土下座した。

 皆は無言。

 だけど、空気だけはピーンと張って――

 減刑嘆願ってワケですか。


「封印と分析を。そのための部隊を正式に作ってください」


 おおと、どよめきが上がった。

 蔵人さんが僕を拝む。

 ――泣くほど嬉しかったんですか!?


「ありがたや、ありがたや……いつもならお慈悲など頂けませんのに」

「イース人から神託がありまして。次の()()に備えろと」

「おお!」


 ニュートがやれやれと顔を出す。

 

『なるほど……つまり、我らは無事にルートへ乗ったと言うわけか』

「エンディングへのね」


 バッドかハッピーかは、ボクら次第。

 ニュートが肩からニヤリと笑う。


『たどり着けぬまま、虚空に消えることもありうるぞ?』

「ゆっくりやるさ……っと、その前に!」


 ボクと同時に気づいたらしい蔵人さんが、チラと目配せしてくれる。

 頷くと、両側の双子を抱き寄せた。


「ふえ?」

「あ、瑛音さま……その、最初は優しく」

「全員、その場で伏せて!」

「おうおう、瑛音さまの命に従え!」


 空が唐突に陰り、船がゆっくりと大きく揺れる。

 何がが遥か頭上を通りすぎ、海中を何か巨大な影が横切っていった。


 それ以上は何もなく、やがて空と海は元に戻った。

 フードの相棒と一緒にそーっと周囲を確認。だいじょぶ?  ――大丈夫だね!

 ふう……


「ニュート、アレも僕がどうにかするのかな……」

『付き合うとも、相棒!』


 ニュートがニヤリと猫らしく笑う。

 蔵人さんに双子も何となく気配を察したらしい。ぐるぐる目の井手上さんと、彼女を介抱する桂も――って、だから何で桂も?


「まあ、いいか……ごめん、あとよろしく」


 ニュートをフードから出すと、アラート号の甲板にひっくり返った。

 限界ギリギリだった意識が心地よい闇に溶けていく――

やっと一区切り・・


だばだ~

タイトルは「めざめ」(おそらくカフェインによる物理の)

https://youtu.be/kU8FfM4HmMg

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ