Scene-04 ギャザー・アゲイン
『瑛音、無事を信じてたぞ!』
「ニュート、来てくれると信じてたよ!」
飛んできたニュートがフードの定位置へ収まった。
頼りになる相棒!
ひとしきり再会を喜び――さて、お仕事だ。
ロ号に収まってる水兵さんスタイルの双子に、ハイカラさん姿の井手上さんへ向き直る。
「景貴、清華、井手上さんも、来てくれて有り難う! ――景貴、墜落でも何でもいいから、機体を砂漠側へお願い」
「瑛音さま、ロ号はフロートがありますから海上でも……」
「この海は日比谷三角の地下駐車場と同じで、普通じゃない! 着陸は僕が何とかする」
「瑛音さま、井手上がそろそろ限界です」
「まだ、だいじょぶ、れすー」
不味い、大丈夫ではなさそう。
しかも黄色い布みたいのに覆われた腕が、後ろから伸びてきている。旧支配者が、ロ号を掴もうとして!
「景貴、全力で逃げろーっ!」
「はい!」
清華と井手上さんの上に覆い被さりつつ、ウェブリー・リボルバー・マークⅥを構えた。
焦りまくっていた双子たちも、弾かれたように反応する。
幸い、旧支配者たちの動きはもっさりしてる。
四大級の旧支配者にとって、冷えた宇宙は動き難いんだ。
「蜂に刺された程度には感じてよー!」
銃声二発が響く。
黄衣のヴェールに包まれた指先へ、初弾と次弾にセットしておいた対神話弾二発を叩き込んだ。
狙いは爪の真下、指先のさらに尖端。
――だと思う場所へ。
黄布に、ポッ、ポッと翠の点が灯った。反応は――反応はないか!
対神話弾でもダメか!?
そう思った瞬間に黄衣がぐわっと揺れた。
やっとか、反応おっそ!
そこへ大触手の旧支配者が突っ込み、両者が衝突する。衝撃で大海と大気がグワングワンと揺れた。
(オオ――オ――オオオ――)
――うわ、黄衣の旧支配者がコケた!?
大触手の旧支配者の上に倒れ込む。歴史上そんなの見た人類って、たぶん僕らだけかも!
呆然と見ていると、巨大な片足が相対的にゆっくり天を蹴飛ばし、黄衣が大きく捲れあがる。
そこで魔力と本能が特大の警戒信号を上げた。
これって――あのヴェールの中を見ては行けない気がする!
「清華、井手上さんと一緒にそのまま頭を下げて。景貴、後ろを見るなよ!」
僕が叫ぶと双子が弾かれたように頭を下げ、後ろから目を背けた。
本能より僕の言葉か。
いいんだけど、ちょっと好意と信頼が重いなー
『瑛音、お前もだ。さっさと頭を下げろ』
「りょ!」
ニュートが後頭部をタシタシと叩いてきた。
自分も目を反らして――う!?
旧支配者から目が、反らせ、なくて――ぐぐ、不味いっ!
『ええい、世話の焼ける!』
「あたーっ!?」
首がグキっと鳴って視線が外れた。
フードから飛び込んできたニュートが耳たぶを噛んで、しかもぶら下がるっ。
お陰で黄衣の中を見ずに済んだけど、優しさがなーいっ!
「ありがとー、ニュート!」
『どういたしまして、瑛音! あと井手上が本気で不味いぞ。こいつ、自分の脳が真っさらになっても《スペル破り》を止めんと抜かす!
「ぷしゅう……」
井手上さん!
後ろでは二柱が凄い格好に――だから見てない、見てないぞ!
巨体はくんずほぐれつしつつ地面に転がった。
叩きつけられて産まれた衝撃波が広がっていく。まるで核爆発みたいな規模だ。
余波を受けたロ号が、木の葉みたいに激しく揺れた。
機体のあちこちが悲鳴を上げる。
大股開いて必死に機体へしがみつき、ニュートに清華、井手上さんが振り落とされないように支え抜く。
ぐぐぐ……
「瑛音さま、これ以上は……」
「後は任せて!」
ロ号は体勢を戻せず、急角度で砂浜へ突っ込んでいく。
チートの見せ時だ。
ジェットコースターみたいに乱れるロ号の上を走り、機首に両手でしがみついた。
砂浜がプロペラと一緒に回転しながら物凄い早さで近づいてくる。
風でマントとスカートがバタバタとはためき、後ろへ吹っ飛ばされそうになる。
「いくよ、みんな……って、全員でスカートの中をのぞくなーっ!」
男の尻をみて楽しいかー!
ブツクサ呟きつつ、ギリギリまでタイミングを見計らって――機体を蹴飛ばして走り出す。
同時に意識のスイッチも蹴飛ばした。
チクタク……チクタクチクタクチクタクチクタク!
僕の主観時間の中で、プロペラの速度がガクリと落ちた。
風も鈍り、やがて止む。
代わりに密度を増した。まるで濃い水の中みたいで、波紋すら見える。
深海にいるような感覚だ。
――これまでは、ここからも底が抜けたみたいに際限なくチートを注ぎ込んでいた。
だけど、それでは駄目だ。
何度か使ってみて分かったけど、ブーストが効くのは時間の経過に関わる《加速》にだけだ。
加速の結果生まれる筈の速度は物理の壁で制限される。
この能力で僕が制御すべきは《時間》その物じゃない――《時間流》だ!
まずは流れを見極める!
チクタクチクタク――チクタク チクタク
絞り込むようにチクタク感覚を調整する。
無数の時間線が集まった《時間》その物は不安定でボンヤリした雲に過ぎないけど、流れは違う。
秩序とも言える指向性が、ちゃんとある筈……あるったら、ある――あった!
全部はとても無理だけど、それでも自分と触れてる物体の一部くらいは流れを感じられるっ!
「これを……制御するっ!」
自分の身体を通し、機体の時間流を調整して――よしっ、フロートで軟着陸。
逆加速を当ててブレーキ!
景貴と清華、井手上さんが潰れないよう全力でカバーしつつ、機体を減速させた。
ぐぐぐぐ……よっし!
チートを切ると、停めきれなかったロ号が砂浜をザザザと滑っていく。
これなら安全に止まれそうだ。
安堵しかけたところでガクっと力が抜け、機体から振り飛ばされた。チートの反動か!
「うわっ!?」
ええい、ニュートは死守!
砂浜をゴロゴロと転がってから、どうにか止まった。
「いてて……ニュート、無事?」
『うむ。見事だったぞ、瑛音』
「瑛音さま、無事ですか!?」
「だいじょぶ! 井手上さんに魔術を切るように言って!」
双子に答え、ついでに井手上さんを解放するように指示。
安心して立ち上がったところで蔵人さんのオープンカーが突っ込んできた。
旧支配者二体は、まだ浅瀬で組んずほぐれつ!
でも何だか様子がおかしいな――そう思った瞬間、閃いた。
活動の限界に達しようとしているのかも!
この《幻想》を破って元の世界に帰るチャンスでは?
「景貴、清華、よく来た! ――で、どうかいたしましたか、瑛音さま?」
「蔵人さん、旧支配者が《寝所》へ戻ろうとしています。今が再転移のチャンスかも!」
「ふふ……瑛音さま、丹後丸では既に帰還の準備整えておりますぞ」
蔵人さんニヤリ。
でも、直後にヘニャった苦笑いを浮かべた。
「ただ、私と部下だけでは魔術の実行が難しく……瑛音さまにお縋りするしか」
「蔵人さん、あのエルダーサイン出して下さい」
差し出された樹脂板に、そっと唇を近づける。
固められていた本物のエルダーサインへ《ツァン》の声を込めた。
前にも使った支援効果だ。
今回のは一回こっきりの《実行権限》付与というか。
「これでいけると思います。《丹後丸》と井手上さんをお願いします」
蔵人さんは、感服したような顔でサインを眺めている。
ちゃんと理解できているようだ。
やがて力強く頷くと、サインをポケットにしまった。
「承知しましたが、瑛音さまは?」
「僕は《アラート号》という船を戻さなければならないんです、双子を借ります!」
「イース人よりのご神託ですな? 景貴、清華、お前たちは神子のお役に立て!」
「「はい、お爺さま!」」
ロ号からテキパキと武器弾薬を降ろしていた双子がハキッと返事。
何故か桂も手伝っている。
彼女は、後部座席で白目をむきかけてる井手上さんを抱き上げようと手を伸ばし――
「にゃーっ!?」
へにゃった悲鳴が響く。
ドサっと砂浜に落ちた桂が、井手上さんに触れた手の平を振りまわしている。火傷?
「こ、この娘、頭の中で《神性》が荒れ狂ってます。早めに何とかしないと不味いことになりますよ!」
「桂が何とかできる?」
「お、お時間をいただければ……おそらく」
そっか、桂はカタチのない《神性》を払えるんだっけ。
うーん……そうか、ならいいかな。
このまま桂を見捨てて帰還する、帰る前に始末するという選択肢に取り消し線びーっ!
帰還後は――状況次第で、うん。
でも相棒にアイコンタクトすると、疑問形で見返された。
あれ?




