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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第七話:フライト・ナインティーン(2)
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Scene-01 デッド・バイ・デイライト

 蔵人さん運転するオープンカーは、砂漠果ての砂嵐をくぐり抜け――うげげ、ぺっぺっ!

 やがて荒れ地へと入った。

 ずっと奥には、石造りの都市が見える。都市……っていうか、廃墟か。


 蔵人さんは、そんな廃墟の一角に車を滑り込ませた。

 たくさんの盛り土があって、石材がデタラメに投げ捨てられてる場所で――ああ、違うか。

 これはお墓かな?

 車から降りると、皆で霊廟みたいな建物の影に避難する。


「ここは……?」

「何者かが《カルコサ》という都市を《幻視》したようですな。昨日そこの塚に座っていた死霊がそう呟いておりました」

「幽霊が出るの!?」

「左様。瑛音さま、ここでは夜ごと死霊を呼び覚ます風が吹き荒れますぞおぉ」


 蔵人さんは、()()()()()()()ロバルティンと書かれた石柱の横で幽霊の真似をする。

 そこに幽霊が出たのだろうか。


「砂漠では潜水服の怪人にビヤーキー、廃墟では死霊か。大きくて物騒な《幻視》だなあ」

「いやいや、その程度は序の口ですぞ。ここには《旧支配者》も出現します。しかも二柱もいて、どうやら激しく争っているようで……!」

「ええ!?」


 旧支配者同士が争うことはよくある。

 僕の雇い主であるイース人も間接的にそうだと言えるし、他にもちょいちょいそれっぽい話しを聞く。

 ただ、直接殴り合ってるところは見たことがない。

 というか、あったら大変だ。


「なら、僕らは神々の争いに巻き込まれたとか?」

「それを調べるのが我らの役目ではないですか、瑛音さま」


 蔵人さんがニヤっと笑う。

 ――後ろからも、いまはここにいない相棒の気配がする。


 そっか……そうだ!

 よし、仕事だ。

 蔵人さんとお互いの拳を打ち合ってから、その拳をそっと掴む。


「ただ蔵人さんは脱出を優先して下さい。僕と違って、あなたは大正時代に本来居るべき人ですから」

「冷たいですぞ、瑛音さま。まだ耄碌はしておらんつもりなのですがのう」


 悪人紳士みたいな顔したまま、蔵人さんが()()()()と拗ねる。

 景貴と清華の源流だなあ。


「あの……呑気に会話してるところ申し訳ないのですが、変な気配が……」


 (ケイ)が嫌そうな顔で周囲を警戒しながら、こっちにジリジリ寄ってくる。

 廃墟の奥側から、嫌な風が吹き出していた。

 陰が濃くなり、そのまま――じくじくと人のシルエットを建った。

 幽鬼の群れ!


(オオ――オ――オオオ――)


「これが死霊か」

「――死霊!?」


 対神話弾を使うのは勿体ないな……とか思ってると、後ろで桂が立ち上がった。

 僕らを庇うように前へ出るとガッシリと大地を踏みしめ、階梯を昇るように呼吸を整える。

 それだけで、桂の周りの空気が浄化されたように感じた。


「ふっ、ふっ……はあっ!」


 裂帛の気合いとともに死霊へ向けて手刀を打ち込むと、先頭の影たちが吹っ飛ぶ!

 へー、やるなー

 

 蔵人さんと一緒に後ろで拍手。ぱちぱち。

 気配が凝結したようなタイプの神話存在が相手なら、滅法強そうだ。

 千駄ヶ谷御殿で遭遇したシャンブラーとか。

 実体化されて殴りかかってこられたら、どうなるか分からないけど……


 彼女は今ので自信を取り戻したようで、シリアスな眼差しで黒さを増してきた空を見上げた。


「不味いな……《神性》の気配が強くなってくる」

「う、そりゃ不味い」

 

 神性に侵食されると、違う《法則》に支配される。そうなったら肉体や精神に大変異が起こりかねない。

 桂も頷くと、凜と響く声を張り上げた。


「ここをキャンプ地とする!」


 !?

 吹き出すの寸前で堪えつつ、思わず桂を見た。

 不審そうな目でこっちを見返してくる。――すいません、何でもないです。


「ああ、キャンプとは野営地とか露営地という意味だ」

「知ってるよ、王子さまスタイルになるんだよね」

「?」

 

 こっちの内心ツッコミをスルーし……というかおそらく気付かず、桂は安全そうな場所を慎重に選ぶと、枯れ枝でガリガリと線を引き出した。


 描き上がったのは円と――五芒星、その真ん中には目玉。

 最後に高級そうな匂い袋から何かの粉末をパラパラとまき、最後に何か呪文と印。

 地に刻まれた円が弱々しく光り出した。

 本当に弱いけど。

 じーっと見ていた蔵人さんが、ほうと感嘆の声を上げる。


「これは《古き印(エルダーサイン)》ですか。独特な魔術ですなー、これは面白い!」

「ああ、《神性》防御ですか。確かに独特ですね。でも、ここでも効くんですか?」

「証明済みですとも、瑛音さま」


 蔵人さんはニヤリと笑うと、懐から板状の樹脂を取り出した。

 中にはコイン状の何かが密封されている。表面には円と五芒星が刻まれ、中央には目。

 それを見た桂が本気で驚く。

 まーねー、そうそうお目にかかれないよね。()()には!


「まさか……それは、本物のエルダーサインなんですか!? ど……どうやってそんなものを!」

「南極のキングジョージ島に打ち上がった、巨大ペンギンの腹の中から失敬した」


 蔵人さん、ニヤリ。

 悪い顔になってるけど、ジッサイ悪い。

 手癖とか色々と!

 この人、丹後丸の件にも何か絡んでないだろうな。


「改めて紹介しとく。この人は魔術結社の大幹部で、綾瀬杜蔵人伯爵。僕らよりずっと魔術に精通してるよ」

「ええ……」

「蔵人さんにも改めて。こっちはダゴン秘密教団に所属するカイトー・ケイ。結社へ敵対してるけど、まだ殺さないで」


 ()()

 その意味はちゃんと理解できたようだ。

 主に桂が。


「せ、正確には病で伏している父の名代(みょうだい)で、実戦には一度も……!」


 その桂は「貴方は誰?」みたいな感じに、恐る恐る僕を見つめてくる。

 蔵人さんがズイっと前に出た。


「――こちらのお方こそは誰あろう、綾瀬杜瑛音さまである!」

「??」


 桂は、恭しく頭を垂れた蔵人さんと僕を不思議そうに見ている。

 そりゃそうだ。

 仕方がないな、ちゃんと自己紹介するか。


 腰のホルダーからプラトーを引き抜くと、桂が敷いた魔法円の一角にズガっと切っ先を刺す。

 弱々しかったサインが()()()()した。

 死霊避けプラス、僕なりの自己紹介。


「え……」


 幸か不幸か、桂は《プラトー》の正体に思い至ったらしい。

 この不思議な両刃剣は人の手によるものではない。それはすなわち――


「せ、《接触》の魔術は至高にして極北なんだぞ! それがノーリスクで、そんな簡単に使えて……使えて、なるもの……か」


 激昂し、最後にはメソメソと泣き出した。

 敵じゃなければ慰めてやってもいいんだけど……それはそれとして、別にノーリスクじゃないよ?

 詳しい説明はしないけどね!


 蔵人さんと、ぐずる桂をエルダーサインに引っ張り込む。

 死霊が濃さを増している。そろそろ不味い。


「そういえば、桂はどうやってこっちに?」

「船が転移に巻き込まれて……」

「船ねえ……積み荷は何で、何て名前の船?」

「あ、アラート号という船です。極秘で廻っていたので、表には出ていないと思いますが」


 アラート号と。ほほう?


「な……なんでしょう……」

「瑛音さま、悪い顔も似合いますな」

「こほん。――それで、積み荷は何だったの?」

「……」


 視線を泳がせた桂をどうしてくれようと思っていると、蔵人さんが唇に指を当てた。

 静かに! の、ゼスチャーだ。

 

「瑛音さま、しばしお待ちを。別件で何かが始まりましたぞ……」


 蔵人さんが、背後に広がる廃墟の向こうの()()を指す。

 そこに黄色い霧が立ち上り始めていた。

 いや……恐らく《塵》だな。黄色い塵。

 それが大量に集まって、集中して、平面的な何かを構成しようとしている。


 しばらく見ているとカタチが定まった。

 布状に広がり、シーツを被った幽霊みたいのが二足歩行的フォルムを取る。

 いや――でっか! 黄衣の……怪獣だか外星人!?

 それがふわりと移動を始めた。足音が響かないから飛んでるな、これ。

 黄衣の中は見えない。

 見てはならないモノなのかも知れない。


「何かの《旧支配者》かな……」

「おそらく《ハスター》に関わる存在と思われますなあ。――さっきも言いましたが、実は砂漠の奥にも同様の《旧支配者》がおりまして、大乱闘をしとるんですよ」

「えー?」


 叫ぶのと、海のように砂漠がザザと波立つのは同時だった。

 いや――水か!?

 ちこちから間欠泉みたいな水柱が立ち上り、水が砂漠を侵食していく。


 うげげげ、しかも海底からアビサルな触手が何本も立ち上がってきた。

 触手は透明で、その奥には無数の翠光が瞬いている。

 ――ヤマダのアレの本体か!?


 黄衣の旧支配者が触手へ突進していく!

 ずっと遠くで巨大と巨体、風と大波とが真っ正面からぶつかり合った。

 地響きが広がり、ここまで水と砂の衝撃が届く。

 慌ててマントのフードを被る。蔵人さんもジャケットを脱いで、頭から被っている。

 主に目隠しのためだ。


 アレは見ちゃいけない!

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[良い点] 大乱闘(SAN値)スマッシュブラザーズ!
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