Scene-06 ベイルアウト
不時着している飛行機へ向けてニュートが飛び出す。
見送りつつ、後ろにいた銃士の少女を目の端で追う。――数歩は動いてるか。でも腰が抜けてるな、あれ。
ええい、仕方がない!
少女の手を取ったところで、ギアの軋む音が響く。
ギシ、キャリ、キリリ……
後甲板を見上げると、二体目の潜水服怪人が現れる。
少女を追ってきた奴か。
でも狙いはビヤーキーっぽいな……と、そう思った瞬間だった。大翼が潜水服怪人へ衝撃波を放った!
ギャリリリ!!
衝撃波が散乱し、光弾もあっちこっちに飛び跳ねる。
余波を受けた砂が竜巻みたいに舞い上がる。
光弾が突き刺さった砂の海が連続で爆ぜ、僕にも、ロ号にも、そして相棒にも襲いかかって――
「伏せてて!」
「え……うぷっ!」
少女を引き倒して一緒に伏せつつ、ホルスターからウェブリー・リボルバー・マークⅥを引き出して一点に集中!
筒に火花が散り、明後日の方へ弾かれた。
反れた光弾がビヤーキーの一匹を巻き込む。血の飛沫みたいのがパッと散り、吹っ飛ばされた。墜落は――しないか。さすが神話生物。
あ、ビヤーキーに睨まれてる!?
ばらっ、ばららら……
ニュートが走り去った方向から、突然エンジンの音が響いた。
この音は……ロ号!?
慌てて砂丘を登ると、井手上さんがロ号から降りていた。こっちを見つて――って、いいから早く逃げてー!
井手上さんの身体が瞬き始めた。
ニュートは井手上さんの背中に乗って、クセ毛の後ろ頭を凄い勢いでピタピタと叩いてる。ああ、ニュートが《レテの書》に逃げるように書いたのか。
でも反応が遅い。まだ援護が必要!
ズバン、ズバン、ズバン!
残り三発を怪人とビヤーキーに叩き込む。こっち向け!
でも怪人は無視。
ビヤーキーの一匹には当たり、意図通りにこっちを向いて――っていうか、さっきからこっち睨んでた奴!
ギャピピ、ゲゲゲッ!
三つ叉になったビヤーキーの口から衝撃波が放たれる。
砂がリング状に爆発した。
ゴロゴロ転がって直撃は躱すけど、完全には躱しきれない。
い、いたた……!
僕が何をしてるかよく分かってなさそうな少女も、ボロボロだ。
「な、何を……」
「相棒のピンチなんだよ、奴らを気を削ぐ!」
「えー!?」
衝撃波の二撃目がくる。全身に激痛が走った。
少女と二人で折り重なるように砂の海に叩きつけられると、その上に爆発で巻き上がっていた砂がバサバサと降り注いでくる。
それで見えなくなったらしく、ビヤーキーは低空ギリギリを通りすぎていった。
マントで必死で砂を掻きだし、這い出す。
向こうでは、空と大地の二方向から熾烈な攻撃がロ号へ叩き込まれるところだった。
怪人の光弾とビヤーキーの衝撃波!?
機体がパラパラに砕け散り、衝撃で大量の砂がバラバラと巻き上げられた。その辺だけが真っ白に染まる。
井手上さんとニュートは――
「走れ!」
「は、はいっ!?」
ヘタリ込んでる銃士の少女に肩を貸し、生まれた隙を突いて砂漠へ走り出す。
信じてるぞ、相棒――
それだけ考えて思考を切り替える。今度はこっちが逃げて生き延びることに集中!
砂だらけで立ち上がった少女は、あわわしながら僕の腕に縋り付いてくる。
はーしーれー!
「あの……さっき女の子の姿が瞬いておりましたが、かか、帰れるのでしたら私も……!」
「僕は愉快な神様に仕えてる身だから、まだ逃げられない。仕事が無事に終わってから帰る方法を探すつもり。――そういえば、君はどうしてここにいるの?」
「あ、あなたもですか……!?」
そのとき頭上で月光が翳った。二つの風がぶつかり合って砂を巻き上げる。
ビヤーキーのペアか。
ギャリリリとギアも軋み、大翼を追ってるらしい怪人が光弾筒をこっちへ向ける気配が響く。音は二つ。
どうやら怪人二体も連携し始めたらしい。
ギャリリリリ――ドッパー!
光弾の雨あられが周囲に降り注ぐ。
幸い怪人のメインターゲットはビヤーキーなので、こっちは流れ弾だけ気にしていれば――うわっ、掠った! なな、流れ弾が掠った!?
足が空回って少女とほぼ同時に引っ繰り返ると、寸前まで頭があった位置を光弾が掠めていく。
ぎゃあああ!
流れ弾が砂のクッションに弾かれ、そのうち一発が目の前に転がってきた。
バチバチと光ってて……
「この弾……神話生物か!?」
ニュートがいないので正体は分からないけど、光虫? 小動物?
丸い身体は小さいけど脚は無茶苦茶多く、硬い外殻の中にぎゅっと丸められている――と思ったら脚がパッと開き、何かを追うようにワシャワシャ動いたかと思うと動かなくなった。
体殻が透明になり、そのままベチャっとグチャげる。
「それは、い、《イオド》の成れ果て……」
なんだ、そりゃ?
どうやら少女は弾の正体を知ってるらしいけど、後!
できるだけ砂に顔を沈めながら、打開策を求めて周囲を見渡す。
ここからどう逃げ切る!?
考えがまとまらないまま逃げ道を探していると、砂丘の向こうで砂がザッと散った。
何かがこっちへ――えっ、車!?
大型のオープンカーが砂丘の向こうから飛び出してきて、こっちへ向かってくる。
乗ってるのは大正浪漫を体現したようなオジサン……あ!?
「蔵人さん!」
「瑛音さまーーっ! もしかして、そちらにおりますかー!?」
片膝を立て、空いている方の手を必死に振った。
蔵人さんはすぐに気付き、変顔を晒しながら必死にステアリングを切る。流れ弾とビヤーキーの威嚇を潜り抜けつつ、オープンカーが砂を蹴倒した。
でも、まだずっと遠くて――ええい!
頭の中で意識のスイッチを蹴飛ばす。チートを発動させる何かがまだ溜まりきってない自覚はあったけど、一瞬でいいから発動して!
一度目――駄目!
二度目、さ、三度目、よっ、よん――よし掛かった!!
直後、空気のハンマーにぶっ叩かれた。
準備してなかったこともあって身体が滅茶苦茶に回転し、途中で奥の手――加速チートがプツンと切れた。やっぱり駄目か!
少女ごと投げ出された。
目の前には――蔵人さんが運転する大型オープンカー!
その後部座席に、少女と一緒に飛び込んだ。
「蔵人さん、出して!」
「瑛音さま、承知いたしましたぞ!」
蔵人さんは細かいことを聞かず、即座に車をUターンさせた。タイヤが砂を蹴飛ばす。
もう一匹のビヤーキーがこっちに来た。僕がダメージ与えた奴か。
「蔵人さん、武器ありますか!?」
「申し訳ありません瑛音さま、もうスッカラカンでございます!」
「あの、これ……」
足の下にいた銃士の少女が、後生大事に持っていたらしい銃を引っ張り出した。
古くさそうな――いや、大正だと最先端かな? スライドがない代わり、尺取り虫みたいな独特の形状をしたトグルがあるオートマチック。
これ詳しくない自分にも分かる、ルガーP08って銃だ。
「サンクス!」
「三発入っております!」
人肌でぬくい銃を受け取ると、ルガーの後ろに付いてる尺取り虫を引き絞った。
ガシャコンと音が響く。
残りありったけの体力を集中力に変換すると、こっちに向かうビヤーキーの治りきってない傷跡を狙って――三発!
ビヤーキーの高度がガクンと下がった。よし!
蟻と爬虫類と人間を掛け合わせたような怪物はフラフラと飛行した後、砂漠の果へ飛び去っていった。
不利を悟ったらしいもう一匹も後を追う。
潜水服怪人二体は筒を降ろし、戦闘を止めて棒立ちになってるようだ。ほっ。
「蔵人さん、ありがとう……助かりました」
「いえいえ、このくらい!」
大量浪漫を体現したイケオジがニヤっと笑う。
双子の祖父だけあって格好良くはあるんだよな、うん。
「ニュートと井手上さん、無事に戻れたかな……」
「あの……」
下から、そろそろ退いてくれと抗議の意志を込めた呟きが漏れる。
でも無視。
むしろ足に力を込め直す。
「え……あの!?」
「蔵人さん、ロープとかあります?」
「根城へ戻ればあると思いますが、何にお使いです?」
「結社と僕に敵対してる四銃士と名乗る連中がいるんですけど、その中の一人が僕の足の下に」
ぐいぐい。
「あうう……」
「四銃士のカルネって奴は清華を誘拐してました。景貴と助けましたけど」
「なんと!?」
「――あの、その」
「誘拐の目的は、清華に誰かの子供産ませるんでしたっけ? ここは使えないんですかねー」
ぐいぐい第二陣。
ついでにウェブリー・リボルバー・マークⅥをリロード。
最初四発が通常弾、残り二発は対神話弾。
「あの……仲間のことは、話せませんから……」
「メンバーはバンジとヤマダ、カイトーにヒョウエ。《結社》舐めんな。で、あんたどれ?」
割と本気で少女を狙う。
例えば少女がヤマダさんの娘だったら不味い。殺人は気が進まないけど禍根は即断っておかないとね。
心の中では、殺人への禁忌が長旅の準備をし始めている。
「か、海藤です……海藤桂」
「かいとーさん。呼び方は?」
「お、お好きに……」
「なら桂、僕は綾瀬杜瑛音。最初に宣言するけど、僕は神様の《神託》を最優先にして行動してる。次にハンドル握ってるオジサン、蔵人さんの生還。その次は生き残ってる乗客の生還。僕と君はその後。――この順で行動できるなら、僕らと一緒にいてもいい」
「いや、瑛音さま! 私より御身を……」
蔵人さんの抗議を、やんわり拒否する。
「僕はしょせん、この世界には元から存在しない人間です。一番最後でいい」
「あの……念のため聞かせて欲しいのですが、ここで異を唱えたら……」
「暴れなければ足でも折って捨てる。暴れたら撃って捨てる」
沈黙。長かったのか短かったのか。
桂さんは全身全霊をかけ、引っ繰り返された蛙のポーズを取った。
目が凄いな。
「な、何でも言うことを聞きます……どうか、お慈悲を」
「まずは知ってることを洗いざらい話してもらう。君はどうしてここへ?」
別作が某公募で最終まで残ったのでテンションが上がったり下がったり
こっちのは趣味なので更新は不定期になるかも
あと今回はAIを使ってみました
自分「クトゥルフ神話で、これこういう条件に当てはまるモンスター教えて」
AI「どうぞ」(色々な解説付き)
自分「てるてる坊主に形状が似てなくもない透明な生物いる? あ、なるべく一般的なやつで」
AI「どうぞ」
自分「ペンギンの鳴き声を真似てみて」
AI「アオー、アオー」(このとき上を向きます!とか真剣な解説つき)
いいですねー、これ
そのうち執筆の必須ツールになりそう




