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Scene-02 依頼と事案

「失礼しました、瑛音様。既にお着替えなさっていたのかと……」


 年齢は今の僕とさほど変わらないだろうけど雰囲気はずっと大人びて見える。

 艶やかな長い黒髪がとても美しい、美少女顔の美少年というか。

 転生した直後から、お付きと称してずっと付いてくる双子の兄の方。名は景貴(かげたか)

 妹の清華(さやか)は、いないようだ。

 兄妹はどちらも異様にフレンドリーなんだけど、なんと伯爵家の子息だ。伯爵。ファンタジーか。


「こっちは気にしないでいいよ、気楽にさせてもらう」


 そのままソファに戻ると、ふて腐れ気味にふんぞり返った。

 兄妹は性別も違う二卵性だけど、本人たちがわざと同じ格好をしてるときには親でも区別が難しい。

 でも仕事の説明は兄の景貴が担当だ。その辺はキッチリやる。

 どのみち下着はシュミーズで隠れてるし、タイツも履いているし――うん?


 ぞぞぞぞぞ!


「景貴、股間あたりを凝視するの止めて」

「失礼を」


 たまに怪しいかも知れない……まあ、それはともかく。

 《イースの大いなる種族》を信奉する魔術結社ウラテリスは、震災時にイーフレイムが起こした内乱で大ダメージを受けている。

 そこからまだ回復してない。

 双子も結社トップである伯爵の孫という出自を抜きにして、大事な戦力に数えられている。

 景貴が何となくグルグルしたような印象を受ける瞳をぱちぱちと瞬くと、木製のクリップボードに留めた書類をめくった。

 室内にパラリ――と、紙がこすれる音が響く。


「ごほん……では。先日瑛音様が回収しそこねたブラックブックについて、幾つか発見があります。まず、本は写本でした。盗まれたオリジナルを複製した物です」

「またかー、どうして人は魔術書の写本を作りたがるのか……魔術師になっても、別にいいこと無いのに」


 実感を込めて呟き、がっくりと項垂れる。

 多いよね、このパターン……


「秘した物に触れてみたい、曝け出してみたい――それが、人の本能かも知れません」


 パラリ、カチ――はらり


「写し取られた《旧支配者》はなに? それと仲介屋殺害は誰の仕業……な、のおっ!?」


 はら……ぱち、ぱち。するん。

 不穏な気配を感じて顔を上げ、目を剥いた。

 ズボンがない!

 ジャケットからはホワイトシャツの裾と西洋風のパンツ、用を足さなくなったサスペンダーの端が覗いているだけだ。

 男なのに、太腿の白さがとても眩しい!

 僕か!

 そんなとこ真似しなくても……ああ!?


 露わになった足の付け根から、幼くも生々しいラインが晒された。

 お尻のカタチは明らかに女だ!

 凍り付くこっちを余所に、景貴――じゃない、妹の()()が床のズボンと靴から足を引き抜いた。

 赤くて滑らかなパンツが露わになる。


「ちょ……妹の方!? 清華、何を……」

「――記されている旧支配者は《ザーツ・ツァルム》。盲目の燐光、無際限のコラプス、生ける不定の角度……写本にも、その名が書かれていると予想します」

「……」


 理性的な態度を崩さず報告を続ける清華を前にして、声が出せない。

 脱いだ意図がまったく掴めない。

 それはそれとして、《旧支配者》ザーツ・ツァルム!

 確か《宮殿》の旧支配者だ。

 正確には旧支配者の成れ果てというか。今の地球では完全実体を保てず、主にヒトの『記憶』に宮殿を建てる。

 その果てに、悪性願望を実体化させ――


「……」


 色々納得できない部分もあったけど、話自体はシリアスなので渋々と話を聞くことにした。

 清華が機械のように冷静に見えたこともある。

 普段はもっとハイテンションな性格なんだけど、今は獲物を狙うハンターみたいな目をしている。

 大正時代の常識はまだよく分からない部分があるし、案外何か意味でも……

 悩んでいると、清華が資料の続きを読み上げ始める。


「写本作成と日本への持ち込みに関わったと思われる人物をリストしました。その中の誰かが、襲われた仲介屋を雇っていた人物です」


 資料は見ようともせずスラスラと続ける。

 双子は子供だけど、その実務能力は決して低くない。


「最有力候補はカイロン商会という貿易会社の代表で、天知宗全という男です。主に欧州貿易で財を成していましたが、大戦終結とともに襲ってきた大不況と震災の連鎖により破綻……」


 はらり。

 肩からジャケットが落ちた。間髪入れず、シャツのボタンに手がかかる。

 胸元から一直線の肌色が!

 流石にドン引いた。どうやらズボンだけでは終わらないらしい。


「――する、筈だったのですけどね。存外しぶとく。ハゲタカたちに貪り食われながらも辛うじて生き残り、再び事業を拡大し始めています」


 ぷちぷち……はら。

 清華が完全にパンツとブラだけになる。

 パンツは赤い光沢のシルク製で、ボディラインにフィットするタイプ。ボクサータイプに近いかな。

 同色のブラは、スポーツブラっぽい。

 コルセットなどの矯正下着もつけていないので、令和の感覚でも割と普通の下着だ。

 なのでちょっと無理!!

 理不尽なエロはフツーに引くんですけど!


「――瑛音様、こちらを」


 え?

 背けた顔の前に突き出されたのは、厚紙のシートだ。

 何が……あ、物理写真か。

 写真には知的でエネルギッシュな、壮年の男性が写っていた。とても神話事件に関わるような人物には見えない。


「この人が……天知さん?」

「はい、写真は大戦勃発頃のものになります。経営は代理を立て、本人の居場所は特定できません」

「蔵人さんはなんて?」


 双子の祖父である綾瀬杜蔵人さんは爵位を持ってて、結社の偉い人でもある。

 この時代における僕の支援者だ。


「オーストラリアのポールピラミッド調査を終え、日本に戻られている途上かと。連絡はまだ届いておりません」


 二千万年以上前に太平洋に沈んだジーランド大陸(ジーランディア)の調査か。

 沈むずっと前、イース人がその辺にいたらしい。

 ちなみにジーランド大陸で沈まずに残った島々が『ニュー・ジーランド』だ。ニュージー・ランドじゃない。


「なら、僕が判断しないと駄目か……」


 溜息を一つ付くと、日常から非日常へ思考を切り替える。

 人だけが紡ぐ《歴史》の世界から、人が神の世界に住む《神話》の世界へと――


「仕方がないか。この天知宗全という人の家にいって、調べてみるよ。お供はいらないから車を用意して欲しい。この前のがいいや」


 決意を固め、立ち上がろうとして――白くて丸い壁にブロックされた。

 赤い薄衣に包まれてる。

 真っ正面に突き出されていたお尻が引っ込み、清華が再びこっちの方を向く。手には車の鍵を持っていた。

 どうやら、脱いだジャットのポケットに入れたものを取り出したらしい。


「どうぞ、あの車――オースチン7の鍵です。あれは貴方のファンより献上された車の一つで、結社は関係ありません。瑛音様の私物ですから普段から自由にお使い頂いて結構です」

「……」


 無言で寄り目になる。

 ストレス発散のために大声を出してるだけで、車一台って……投げ銭の比じゃないんだけど。

 そもそも男なんだけどな。

 ――こちらの困惑には気付かず、清華が続ける。


「武器、装備品は何時ものでよろしいでしょうか。必要でしたらお爺さまのコレクションからも色々とお持ちできますが。ベルグマン、フェドロフ、レッドナイン――」


 サブマシンガンやアサルトライフルの原形になった銃だったかな。

 特にレッドナインは双子の祖父である蔵人さんのお気に入りで、木製のケースが簡易の延長ストックにもなるギミックが付いている。


「街中なんだから物騒なのはいいよ。蔵人さんから貰ったリボルバーと《魔剣》だけで大丈夫。弾は通常弾と、専用弾を別に。ああ……それと、最後に二つ聞いていい?」

「はい」

「その……なんで服を脱いだの? それと景貴は……」


 聞いてはならなかったと気付いた時には遅かった。


「服は……貴方がそのようなお姿でしたので。聖なる神子にお仕えする身としては、主に合わせませんと……! こちらの下着……いかがでしょうか。瑛音様とお揃いとなるよう私も特注いたしました!」


 押さえていた感情が漏れ出してくると、喋り方がいつもの感じになってくる。

 ついでに、両目がぐるぐるし出した。

 この双子が狂気に片足突っ込んだ時によく見る目付き。


 清華はペタンと床に座ると、下品にはならないギリギリで身体を大きく開く。

 黒髪、黒目、白い肌――影絵の世界から飛び出してきたような清楚な美少女がするには、破壊力の大きいポーズだった。


 事案だーっ!


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