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ルルイエ浮上前の大正に転生しました、帰りたいです  作者: kaichi
第四話:ミズチノマレビト
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Scene-07 汐がしらつきすずかぜ

 ギョロっとした目をした蛙顔が一人、前へ出てきた。

 見た目は老人だけど肌が妙にヌメっとして、眼球の大きさが左右で違う感じ。

 長い間《神性》に晒されてきたんだろう。


「か、かか! 何処へ行く、小童ども。我らが一族のためにその腹を使ってやろうというのだ、喜んで差し出すがいいぞ!」


 リーダーの大言壮語を受けたのか、後ろで大合唱が始まった。

 ふんぐるいむぐるうなふ――いあ、いあ!


「――カルネの奴はどこへ?」

「かか、安全な場所へ移っていただいた」

「ふうん……ところで、ここには若い人や子供が来ていないようですけど?」

「……!?」


 言われたリーダー格の男が息を呑んだ。

 当たりか。


「この村の呪いはもう解けてるんですよ。だから呪われた子供たちはもう生まれない……おめでとうございます」

「こ、小娘……我らは神の末にて、神性の眷属! 水棲人種であるぞ!!」


 動揺したのはリーダー格の一人のみか。

 残りはよく分かってないな。


『ふむ……没落して辛酸をなめた世代は、あの呪われた容貌が逆に選民意識の元となったのだな。そしてリバースの選民意識をこじらせ、呪われた子供を増やそうとしている』

「焚きつけたのはカルネかな」

『カルネというか、ダゴン秘密教団だろう。ただ四銃士とかトンチキなグループは聞いたことがない。中二か』


 ダゴン秘密教団かー嫌だなあ、できれば一切関わりたくない。

 あとなんでダゴンにイグが関わってるんだろうな。

 こんなことをした目的も分からないし、これから調べるのが大変そうだ……


 ――なんて話しをニュートとしてるうちに、やっとリーダーの人が立ち直ったらしい。

 景貴と清華はとっくにバイクとセブンを準備し終え、僕の合図をジリジリと待ち続けている。


「か、かかか! そうだ……神は我らを見捨てない、見捨てるわけがない! これが証拠だとも」


 リーダー格の男がガンギマリした顔で無理やり笑うと、錫杖みたいなのを取り出した。

 遠くの方から太鼓を打ち鳴らすような音が聞こえてきた。

 ざざ……ざざ、と波音も響き、トンネルの奥から強い磯の臭いが漂ってくる。


 周辺に霧がかかった。

 濃いな!

 死んだ魚の匂いと、磯の匂いが塩水のスプレーみたいな勢いで撒き散らされる。


『こりゃ《レレイの霧》かね』

「何の意味が?」

『旧支配者との接触儀式用……なのだが、こいつら儀式しようとせんな』

「クトゥルフに関係するアーティファクトってこと? なら遠慮はいらないか」

「かか! かーかか、さあ、さあ――あ?」


 高笑いするリーダーの声に合わせ、イプティックたちが激昂しながらトンネルに雪崩れ込んでくる。

 だけどリーダーだけが気付いたようだ。高笑いから徐々に力が抜けていく。

 その視線の先にあるのは、プラトー。

 絶対時間の刃へ《旧支配者》の力を流し込むと、プラトーが非物質化して《時》が停止していく。

 僕の《魔術》だ。


境界よ在れ(テルミヌス=エスト)、《ヴァージ》!!」


 一直線の閃光で、時空を超越した刃が迸る!

 パキイイン――

 トンネルに硬質な音が響き渡り、錫杖の先端にあった石のリングが砕けた。

 余波を受け、筋肉の津波みたいに襲いかかってきた大量のイプティックたちが押し返される。


「馬鹿な!? 神より賜れたという()()()()の輪が……!」


 吹っ飛ばされたリーダーが顎と腰を同時に抜かしながら倒れ込み、その上にイプテックの大群が倒れ込んだ。

 大量の人間が岩にぶつかった波みたいに砕け散り、将棋倒しに折り重なる。


「ぎゅあーーー!」


 絶叫を無視し、ひょいとオースチン7の運転席に乗った。

 オープンカーは乗るのが楽でいいよね。

 助手席には清華、後部座席にはまだ目を回している井手上さん。バイクには景貴。


「景貴、清華、逃げるよ!」

「はい!」


 左手と左足で軽快にシフトチェンジし、そのままオースチン7を急発進させる。

 頑強なイプティックたちが人混みを退けてセブンに殺到する。

 大群の手がセブンのリアに触れる――ギリギリで掠め去り、イプティックたちが再び将棋倒しに折り重なった。

 その隙に車とバイクはトンネルを抜け、細い街道を突っ走っていく。


「ガエレ、モドレ! ああ美しき子種よ、孕み女よぉぉぉ!!」


 イプティックの誰かから声がかかる。

 だいじょぶだよー、すぐ戻ってくるよー、警察とか軍を引き連れてさ!

 そう胸中で返す。

 まあ、戻ってきたら村ごと逃げている可能性もあるけど、そのときはそのとき。

 セブンのアクセルをぐいーんとふかす。


        *


 セブンが去った後、トンネルの上の丘陵を這うように続く山道に三つの影が現れた。

 全員が軍用にも使われる青鹿毛の馬に乗っている。

 服装も全員同じで黒い詰襟に短マントを羽織り、腰には短いサーベルを差していた。

 先頭の二人は目深に被った軍帽で表情が隠れている。


「これはこれは……《イプティオのリング》を砕くとは」

「魔術師のようだが目的が分からんな……カルネ、どのような輩だった?」

「クソ生意気な小娘だったぞ……写真を入手してみせる」


 最後尾にいたカルネが、ボロけた顔で歯をギリっと軋ませた。

 丸刈り丸眼鏡が含み笑いをする。


「雪辱を果たす機会はすぐ訪れる……刮目して待て」

「……」


 だが、最後の一人は何かに苛ついて――

 やがて遠くから大量の車がやってくるのが見えてくると、人影は立ち去っていった。




        *




「みっけー!」

「いま参ります、瑛音さま!」


 まっ暗な山道で《幻視》を解くと、景貴と清華が飛んできた。

 柩戸村へ続く丘陵の山道だ。

 とっくに日は暮れ、灯りは僕の横にいた井手上さんの持ってるランタンと景貴の懐中電灯、そして――柩戸村の小さな入江にドンと陣取ったフリゲートから浴びせられる探照灯と、村を一斉捜索している軍人のライト!

 くく、軍や警察を動かせないと思ったか――というか、伯爵の孫というVIPに手を出してタダで済むと思ったか。


 ごめん、僕は思ってなかった!

 戻ったら本当に大事になってて心底驚いたよ……うん。

 凄いな、景貴と清華。


 で、諸処の仕事を全部終えた後、軍の後ろから《幻視》しつつ着いてきたワケだけど。

 カルネの後を追ってトンネルから始め、あちこちウロウロしつつ、最後にここの山道へ辿り着いた。

 双子が近づくと《幻視》が第二段階へ進んで、馬上の怪しげな三人組の顔がハッキリ見えるようになった。


「一人はカルネ、その他に仲間っぽい二人。服装同じで、全員が馬に乗ってる」

『瑛音、特徴は?』

「カルネ、スポーツ刈り、BLの相方みたいの。全員大人なのに学生服を着てる」

『似顔絵を頼む』

「うう……リアル美術は苦手だなあ……幻視した映像を念写できたら便利なのに――」


 この一言がよくなかった――そう気付いたのは一瞬後だった。



『――えーじぇんと、選択! 選択!』

「おわっ!?」


 足元で小さな三角帽たちに声をかけられ、驚いて腰を抜かした。

 イ、イース人!?


 気付くと周囲は霧に包まれていた。

 どうやら時間が凍ってるらしい。

 ここで自由に動けるのはタイムトラベラー種族と、タイムトラベラーだけだ。つまり目の前の円錐と僕!


『えーじぇんと、驚く、よくない! だから考えたー、これ可愛い?』


 わちゃわちゃと動く円錐たち。

 大きさは子供がクリスマスとかで被る帽子ぐらいか。この人たち、確か三メートルくらいあったような?


「ああ、えーと……はい、可愛いと思います」

『今度色も付ける! えーじぇんと、電磁波器官もだいじ!』


 えっへんと胸を張った――ようにみえなくもない。

 旧支配者が。

 駄目ってルールはないけど、ないんだけど!


「えーと、それで今日はどのような?」

「えーじぇんと、選択! 選択! どっちに行きたいー?」

「……」


 何を言われているのか考え……考え、考える。

 どっち?

 つまり……経験値をどう割り振るか、その方向性かな。帰還に至る道は一つじゃないってことだ。


「――ニュートと相談したいです」

「承知! 待つ! 我ら、待つ!」




 そうして再び時間が動き出した。


 ロードローラーが動き出すようなこともなく、普通にさっきと同じ夜の山道に戻った。

 景貴たちは僕を注視している。


「……」

「どうしました、瑛音さま!?」


 目の前にいた景貴から驚いたように肩を揺すられた。

 焦点の合ってない目だったんだろうな。


「イース人から神託があって……ニュート、経験値の割り振りってどうすればいいかな」

『なんだそりゃ?』

「ご神託!? イースの大いなる種族からのでしょうか!」


 横で恭しく膝を突いた景貴と清華を立たせる。井手上さんはよく分かってないっぽいな。

 ニュートが首をぐるんと回した。

 そうやって悩んだ末に、結論を出したらしい。


『つまり、レベルアップという奴か?』

「タイミング的に、ここで何か《力》を得ておけってことだと思う。きっとこの先に大事件があるんだろうね……」


 幻視で視た三人組を思い浮かべる。

 気は進まないけど、こっちのアドバンテージを潰すのも嫌だな。

 放置してもきっと勝手にやらかすんだろうし、いっそ先に仕掛けても――


 軍のライトが縦横する夜景を見ながら、《幻視》で見た三人を思い浮かべた。

四話おしまい

次は年末くらい?

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