Scene-10 ブラックブック・ハンティング
『こいつ、よく立っていられるな。頭の中を宮殿ごと吹き飛ばされたというのに』
僕の剣は旧支配者のチカラが直接、剣のカタチを取ったに等しい。
混沌である《接触》の極北だ。
これはイースだけの特別ではなく、旧支配者はこういう現し身や化身を作る。『本』もその一種だ。
だから読んだだけですぐ魔術を使えるようになる……使えるようにしてもらえる、かな。
――まあ、それはさておき。最後はどう締めたものか。
「うーん……」
剣は選択肢から外した。勿体ない。なら銃かな。
ちょうど一発残っているし……
こちらを睨む少女と、本を交互に見て――
バン!
トリガーを引き絞ると、本が弾け飛んだ。
「お任せを」
予想していたらしい景貴が懐から小瓶を取り出し、中身を本にふりかけた。
オイルか。用意いいね。
そのまま無慈悲に火を放つ。
「ああっ!?」
文子さんが断末魔みたいな悲鳴を上げて縋り付こうとしたけど、清華が銃で止める。
本は瞬く間に燃えあがり、生きているようにバタバタと喘ぐ。
彼女が心底口惜しそうに顔を歪ませる間にも本は焼け、溶け、拗けていき――最後には塵芥と成って完全に消えた。
文子さんがガクリと膝を突く。
悲劇のヒロイン――と呼ぶには、目付きが悪すぎるか。
『億万長者が一夜にして一文無しとなったのだから、心労は凄かったろう。気持ちは分かんでもない。だが、我らの《依頼人》を敵に回したのは不味かったな!』
「ゴメンね、これが僕の仕事だから。変わったの専門探偵の」
カチン。パチ パチ パチ――カチン。
「殺せ……」
物凄い顔でこっちを睨んだ――文子さんの腕を、弾込め直したウェブリーで撃ち抜いた。
「ぎゃああ!」
顔が驚愕に歪む。
なんだ、本当に撃たれると思って無かったの?
「今のは僕の腕の分」
ちょい、ちょいと腕を見せてやる。
もう治りかかってるから、与えた怪我は皮膚一枚くらい。
それでも血は結構出てる。
ウェブリーで彼女の額を狙いなおすと、媚びた笑顔が張り付く。こっちが普通に撃つと理解したらしい。
「あの……私は、何にも知らなくて……」
「その知らない振りを一生続けることができるなら、見逃してあげる。あなたは変な本を見つけてもいない。お父さんの死霊を実体化させたりもしていない。僕とも会わなかった。仮に警察が来ても黙秘――できる?」
「……」
媚びようとしていた目が、狂気すら塗りつぶす憎悪に色変わりする。
しばらくこっちを睨んで……最後に小さく頷いた。
深淵を覗いて尚、死ねず狂えず……か。
僕と同じなら可哀想に。
この人は長く……とてもとても長く、苦しむだろうな。
『――いいのか、瑛音。彼奴は金目の物を盗んでいる以上、それなりの犯罪には関わってる筈だが?』
「本は処分したし、今回の依頼は終わりでいいんじゃないかな。清華……狙っちゃ駄目だって。景貴も暗殺の手配とかしないようにね」
釘を刺すと、双子がぶーっと膨れながら武器を仕舞う。
景貴がベタっと寄り添ってきた。
慌てて清華もその背中からペッタリ。
近い、重い。
「よろしいのですか、瑛音様。アイツの過去を掘れば色々と出てきそうではありますけど……」
「そうですわ! 結婚だって内情はどのようなものか!!」
「黙ってろとは言ったけど、庇ってやるとは言ってない。警察には好きにしてもらって。彼女は僕たちを知らないんだから無関係の他人」
双子に理解の光が広がった。
「ああ……沈黙の誓いを守る限りは……ですね? ご手配いたします、瑛音様!」
「癲狂院の特別室をリザーブしておきます。特に暗くて深いところにある奴を――」




