宇宙クジラを目指す少年少女
宇宙クジラを目指す少年少女(恋愛要素あり)
この世界は海と空の境界が無い世界だ。
空には魚たちが水も無いのに空中を泳ぎ、人間が作り上げたコンクリートの建造物・・・文明のほとんどは海の底に沈んでいる。
どうしてそんなことになったかと言うと。
二十年前、地球には無数の隕石が降り注いだ。
中には地形を変えるほどの大きさ隕石もあり。
海で落ちた隕石により大規模な津波が各地で発生し。
地上には無数クレーター跡を作るに留まらず、世界地図そのものを大幅に変える破壊がもたらされた。
何より問題だったのが、北極と南極の氷が全て砕かれ溶けたことだ。
それにより世界の海面は大幅に上昇、世界は海に沈んだ。
後の世に「大崩壊」と呼ばれる大規模な世界変化が起こった。
人工衛星管理してる施設が破壊され世界情勢の不安定に伴い・
人々は宇宙に行かなくなった。
人工衛星はその機能を停止し、国際宇宙ステーションは隕石によって墜落した。
そんな、わずかに残った地上と人間が残った世界で人々は生きていた・
そして、何故魚が空を飛んで泳いでいるのかというと…
「餌やるからあっち行ってろ」
俺は空中をちょろちょろ泳いでいるグッピーという金魚とかメダカに。
持っていた麩を細かく撒いて追い払った。
隕石が降り注いだことでもたらされた新たな鉱物、それが飛行石とよばれるものだ。
その石事態はただの変哲もない石だけど水分子を反応させることで。
石は浮力を持ち空中を浮くことができる。
石はある程度使われると青い粒子となって海へと消えていく。
石油とかの化石燃料と違って大気を汚さないし、皮肉なことに水はそこら中にある。
理論上は水と石さえあれば宇宙航行も可能する。
今世界中がこぞってその資源を確保しようとやっきになっている。
将来的には石の分子構造を科学的に解き明かして量産されればいいなって思ってる感じだ。
さらにその石の成分が溶け込んだ水で生きている水生の生き物達は次第に空を泳ぎ始めたって具合だ。
えら呼吸の魚がなんで生きられるのかって話だが。
こればかりはたった二十年あまりで空気中の酸素を取り込める体に。
急速に進化というか適応したとしか良いようがない。
命の神秘ってすごい
そして俺は今、倉庫で飛行機の整備をしていた。
この飛行機は大崩壊で沈んだ博物館から引き上げた書籍に記されていた零戦という戦闘機だ。
設計図を見て解読して一から作り上げてきた。
俺の名前は空。
「ご飯、持ってきたよ」
背後から声が聞こえる。
振り返ると、一人の女の子がいた。
彼女は俺の幼馴染、名前は星海。
手にはお盆に乗せられた串焼きの鮎が乗せられていた。
天体観測が趣味で、星を見るのが好きな女の子だ。
倉庫で機械いじりして籠りがちの俺の世話を焼いてくれる中の良い幼馴染だ。
「ありがとう」
俺は、差し出された串焼きの鮎を頬張る。
シンプルに塩で味付けされていて美味い。
彼女とは昔、ある約束をした。
それはこの飛行機で彼女を宇宙へ連れて行くことだ。
幼い頃…。
二人で見たことがある…。
黒い大きな体、人サイズもある大きな目玉、どこまでも漕いでいけそうなオールのような手ヒレ。
星空を観察していた時に見た、子供のクジラ。
星空を楽しそうに泳ぐその子クジラに俺達は見とれていた。
そのクジラは俺たちを一目見ると宇宙の方へと旅だっていった。
そのクジラがどうなったのか、俺と彼女は知りたかった。
もう一度あの子に会いたかった。
「どう?できそう?」
「んー、あともうちょっとなんだけど…」
「この地方には純度の高い飛行石が無いからな、それに成層圏を離脱するためのカーボンも足りないっていうか無い、集めるには世界一周旅行が必要だな」
こいつを宇宙へ飛ばすための問題は山積みだった。
まず飛ばすための飛行石はこの地方だと隕石の被害が少なったので全然といっていいほど無い。
そして、機体強度も足りない。
成層圏、大気圏を離脱するときに発生する大気と機体の摩擦熱。
現在はただの鉄を主とした合金でしかないこの機体、離脱する瞬間に一瞬で燃え尽きてしまうだろう。
それを解決するためにカーボンナノチューブという丈夫な素材が必要だ。
そしてそれは大崩壊で技術も資源も限られてる現在だと貴重でおいそれと入手できるものではない。
それらを手に入れるため、実に世界を一周するくらい旅をしなければいけない。
正直現実的ではない…。
だけど、星海から放たれたのは意外な言葉だった。
「じゃあ、しよ」
「…まじか」
俺は思わず、驚愕の声を上げる。
表情もお前本気で言ってるのか?って顔だ。
だけど、俺は最初こそ否定的だったが。
幼馴染のその真剣な表情に。
次第に気持ちは変わっていった。
「そうだな、行くか世界一周旅行」
何もしなかったらそれこそ後悔しそうだ。
後で後悔しないように全力でやってみよう考えるのはそれからだ。
「じゃあさっそく二人分の荷物まとめなきゃ」
「星海も来るのかよ」
星海も行きたいと言ってきた。
正直、旅はどんな危険なことが起こるか分からないからついて来ない方がいいと思った。
だけど。
「むー」
だけど、星海の連れて行くって言うまで絶対ここから動かないモードに入ってしまった。
こうなると昔から言ってもこっちがうんって言うまで聞かないだ。
「分かった、乗せてってやるよ・・・どの道そういう約束だからな」
俺の方が折れてやらなければいなけい。
「当たり前じゃん、料理と機銃の腕は私が上だから」
「じゃあ頼むぜ相棒」
こうして数日後、俺と星海は二人で世界一周の旅に出た。
今日までに整備した零戦に乗り込む俺達。
エンジンを始動させて、轟音と共に機首のプロペラが回転し始める。
「行って来ーい」
「お土産沢山持ってきてね~」
「二人共ー、待ってるからなー必ず帰ってこいよー」
零戦はフワッと空中に浮き上がってゆっくりと上昇していく。
俺達は両親や地元の人達に見送られて旅立つ。
俺はそんな皆に窓から手を出して親指をグッと立てた。
旅の道中では様々なことが起こった。
旅先の現地人との交流。
自然の綺麗さに感動し、また自然の脅威に恐れた。
飛行石を巡る大国の思惑。
国同士の戦争に巻き込まれたり。
時には危険な賭けもした。
様々な国、人、景色、そこには人々の思惑や大自然の雄大さが見えていた。
沢山の貴重な経験をした。
そうやって、様々な国や地域を巡った俺達は。
飛行石を集め終わり、故郷に戻ってきた。
今は、飛行石を零戦に組み込み作業を行って。
宇宙を飛ぶための最終調整を行ってるとこだ。
明日はいよいよ本番だ。
「いよいよだね」
「ああ、明日こいつで宇宙を飛んで俺はあのクジラを見つける」
「俺じゃなないでしょ」
「そうだった、ごめん」
「じゃあ、二人で」
俺と星海は二人で苦笑、笑い合う。
彼女の笑顔は本当に可愛くて眩しくて大好きだった。
…一緒に旅をして気づいたことがある。
今まで幼馴染で一緒にいてそれが当たり前からだろうか。
彼女の笑顔がこんなにも愛おしかったなんて。
ずっと彼女と一緒にいたいと思った。
「そうだ言っておきたいことがある」
「何・・・?」
俺は自分の思いを素直に口にする。
「星海好きだ」
俺は彼女に好きだと告白した。
俺の言葉に彼女は。
「……」
「泣いてんのか?」
「泣いてない…」
顔を真っ赤にして手を顔を隠して。
涙を流して、顔を背けている。
「泣いてる」
「泣いてないってば!」」
なんかいつもの感じみたい言い合ってるな。
「…じゃあキスして、何年待ったと思ってる」
「おま…っ仕方ねぇな」
俺はぶっきらぼうに言いながらも星海に顔を近づける。
その瞬間、俺は顔を掴まれて引き寄せられ。
星海は俺の顔を正面で見て。
「私も空が好き、大好きだよ」
彼女の告白を受けた。
俺と星海は、零戦の傍でキスをし。
抱擁をして愛を確かあった。
そして出発の時は来た。
「いくぞ」
「いつでもOK」
エンジン(飛行石)に水を注入して始動させていく。
プロペラが周り、機体が空中に浮き上がり上昇していく。
「3・2・1…テイクオフ」
機体はあっという間に、成層圏の近くまで飛んで行った。
俺は操縦桿をギリっと握りしめ、機首を上げ機体をさらに上昇させる。
「成層圏に入るぞ、しっかり捕まれ!」
「大丈夫!二人なら出来るって信じてる!」
摩擦と衝撃で機体がガタガタと揺れる。
計器の色々な場所が以上を示すアラートが鳴り止まない。
大丈夫だ、俺と星海の二人なら。
いや…あの旅で培った沢山の人々の思いを乗せたこいつと俺達なら。
必ず出来るって信じてる!。
「成層圏離脱…成功」
揺れが収まり、辺りには静寂が訪れる。
俺達は大気圏の離脱に成功した。
「やった…やったんだよ私達・・・大崩壊以来初めて宇宙に出たんだよ私達!」
二十年前たどり着くことのなかった、宇宙へと到達したのだ俺達は。
「あ、ああ・・・それにしても…」
そんな感動もまたすぐに別の感動が襲ってくる。
「うわあ~…うん…星が輝いてる」
地上からみるのとは違う、満天に輝く星々たち。
そして…。
「…見て!あれ」
「あれは…」
見間違うことがない。
今は大人になったのであろうさらに大きな黒い体に大きな目。
あれは…。
「「クジラ」」
あの時の子クジラだった。
「また会えたな」