わたし達女子高生なのでおちむしゃって呼ばないでください
「この越智って苗字、嫌いなんだよね。いっつも話し終わった後に『で、オチは?』って言われるんだもん」
私の名前は越智あかり。高校二年生である。
新学期からしばらく経って、クラスメイト同士馴染んできた頃。
隣の席になった友達にそう打ち明けた。
「小学校のとき、国語の授業できつねが撃たれるとこの朗読をしたらね? 男子に『オチが暗い』って言われてみんなに笑われちゃった」
「やだ! これだから男子は!」
当時の恥ずかしさを思い出してしまった私の頭を、愛菜ちゃんがヨシヨシと撫でた。
ストレートロングのツヤツヤした髪に凛とした顔立ちの美人さん。
軽く抱きしめられて、愛菜ちゃんのボリューミーな胸部に埋もれた。
「愛菜ちゃん……くるし、い……」
「あぁ、ごめんね。実は、私も自分の苗字嫌いなのよね」
「そうなの? カッコイイのに」
愛菜ちゃんの苗字はむしゃさん。
武士の武に、何者の者で、武者さんと読む。
「忘れもしないわ……それは中学二年生のころ……」
愛菜ちゃんは静かに立ち上がり、朗々と語り出した。
さすが演劇部の期待の星。
教室の隅っこがステージに、太陽光はスポットライトと化した。
「英語の授業にAssistant Language Teacher、略してALTのチャーリーがやってきたの」
「うわぁ! 愛菜ちゃん、英語の発音いい…!」
「ふふん。ありがと。……そう、それでね、生徒は順番に自己紹介したの。チャーリーは一人一人に『サトーサーン! ナイッストゥーミィートゥー!』ってチャーミングに返していったわ。そこは『ミス』とか『ミスター』じゃないの? なんて思ったけど、みんなスルーしてたわ。張り切って『アイラブポケットモンスター!』なんてジョークを混じえながら自己紹介する男子、恥ずかしそうに『ハ、ハロー……』なんてモジモジする女子……どんな子にもチャーリーは優しく笑い返し、教室全体が和やかな空気に包まれていたの。そして、ついに……私の番が回ってきたわ……」
迫真の演技を混じえながら語る愛菜ちゃんにいつの間にか教室にいた全員が聞き入っていた。
「私は英語教室に通っていたし、堂々と、シンプルに自己紹介したのよ。『My name is Musya Aina』って。それにチャーリーはこう返したの」
誰かが固唾を飲んだ音がした。
「……『オーゥ! ムショシャーン!! ナイッストゥーミィートゥー!!』って」
「……」
一番前の席で自主勉をしていた真面目な男子が咳払いをしながらプルプルと震えているのが視界に入った。
みんなが沈黙し、愛菜ちゃんの話の続きを待った。
「わたし!! ムショ入ったことねぇよぉぉぉぉ!!」
愛菜ちゃんが険しい顔で力いっぱい叫んだ。
教室の端にいた女の子が化粧ポーチを落としてカシャンと音が鳴った。
黒板を消していた日直は黒板におでこを打ち付けている。
「そのあとは班わけして、会話の練習をしたの。でね、先生が班長にプリント取りに来てって呼びかけたわ。『ろっぱんの武者さーん』って。私、六回も何やったんだろうって、自分で自分の過去を振り返ったわ。六犯もあるなら七犯も変わんないだろうと思って筆箱の中のカッターナイフを見つめ続けたの……」
ダメだ。笑ったらダメだ。
教室に緊張感が走った。
机に突っ伏して寝たフリをする男子が増えた。
女子はタオルハンカチを口元に当てて涙目になっている。
その時。
ガラッ
教室の扉が開いて担任の先生が顔を出した。
「おーい! おちむしゃ! 図書委員の当番表が変更になったってよー!」
沈黙が降りた。
ピンと張り詰めた空気をぶち壊すように担任の先生が朗らかに笑った。
「あぁ! すまんすまん! 大体いつも二人一緒だからなぁ。つい並べて呼んじまったよ! でもいいなぁ! おちむしゃ! 呼びやすいよ! ほれ、これ当番表な!」
マイペースなおじさん先生は空気を読まずにさっさと教室から出ていった。
「おち……」
「……むしゃ」
私と愛菜ちゃんが交互に呟いた。
ヒュウウウドロドロドロ……なんて効果音と共に、頭に矢が何本も刺さった幸の薄そうなおじさんがこちらをゆっくりと振り返る姿を想像した。振り向いたそのお腹には刀が刺さっている。
「プフッ!」
もう限界だったのだろう。
誰かが吹き出したのを皮切りに、教室が笑いに包まれた。
中には笑いすぎて涙目になっている男子や、過呼吸を起こしている女子もいる。
それから私と愛菜ちゃん。
二人はおちむしゃ! と呼ばれるようになった。
★☆★
「女子高生に向かっておちむしゃはないわ」
夏休みが目前になったある日、学校帰りに繁華街まで来ていた。
バスターミナルからエスカレーターを登ったそこは広場になっていて、日によっては色んな屋台が出ている。
「たしかにちょっと恥ずかしいよね」
ベビーカステラを一口放り込む。ホカホカしていてとても美味しい。
「ごめんね。私が武者なんて苗字なばっかりに……」
「ううん! 愛菜ちゃんのせいじゃないよ! ほら、愛菜ちゃんも食べて! 美味しいよ!」
ベビーカステラを一つ差し出すと、愛菜ちゃんは綺麗な唇を開けてパクリと食べた。
どうしてこんなに綺麗な女の子がおちむしゃだなんて言われなきゃならないんだろう。
やっぱり、私の苗字が越智なばっかりに。
しょんぼりしながら愛菜ちゃんが飲み込む姿をぼんやりと見ていた。
「……やっぱり、こんなに可愛いあかりがおちむしゃなんて呼ばれて言いわけがない」
愛菜ちゃんが「よし!」と言いながら拳を空に突き上げた。
「早めに結婚して苗字を変えるわよ!」
「結婚!?」
突然の宣言に思わず大きな声が出た。
「そう! なるべく早くかっこよくて素敵な彼氏をつかまえて、早く結婚して、名字を変えるの!」
「でも名字が変わるのなんて、何年先か分からないよ」
「それでもさ、すっごい素敵な彼氏がいれば、おちむしゃって呼ばれてもいずれ名字が変わるぞって思えて気が楽じゃない?」
「なるほどぉ…!」
いかにもナイスアイディアを思いついたというような顔をしているけれど、私も愛菜ちゃんも彼氏はいない。
「でも私達……彼氏できたことすら、ないよね?」
「うっ」
私の疑問に愛菜ちゃんはたじろいだ。
しかしそれもつかの間、いつもの活気の良い表情で拳を作った。
「じゃあ良い出会いを探さないとね!」
「すごい! やる気満々だ!」
そもそも彼氏ってどう作るんだっけ?なんて思いながら愛菜ちゃんとハイタッチしている時、突然後ろから声をかけられた。
「へぇー? 君たち彼氏いないんだ? じゃあ俺らと遊ばない?」
「君たち可愛いねぇ」
「うぇーい」
振り向くとチャラチャラした格好の男性が三人いた。
彼氏はほしい。けれどそれは誰でも良いというわけじゃない。できれば真面目そうな人がタイプだ。
愛菜ちゃんはスポーツやってる人がタイプだって言ってたし。
愛菜ちゃんをチラリと見ると、やっぱりタイプじゃないらしく、険しい顔をしている。
「い、行こう! 愛菜ちゃん!」
愛菜ちゃんを引っ張って反対側へ歩き出すと、私の肩をチャラ男の一人が掴んだきた。
「待ってよぉー! いいじゃん、少しくらいさぁー」
「ひっ!」
顔を近づけられて息がかかった。タバコとお酒とキツい香水の臭いに先程食べたベビーカステラがこみ上がってきた。
「ちょっと! 離してよ!」
「ひひっ! めっちゃ髪綺麗だねぇ!」
「うぇーい」
愛菜ちゃんはチャラ男二人に挟まれて動けなくなっている。
これはピンチかもしれない。
怖い!
誰か助けて!
「ちょっと! うちの妹に何してるのかな?」
聞きなれた声が聞こえたかと思うと、肩が軽くなった。
顔を上げると、そこには私のお兄ちゃんが立っていた。
かなりガタイの良いお兄ちゃんはチャラ男達にはさぞかし迫力満点に見えたのだろう。チャラ男達の顔が青ざめていった。
「お、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんは私の肩を掴んでいた手を掴んでひねりあげた。
「イテテテテ! 離せよ!」
「うちの妹にちょっかい出して、タダで済むと思うなよ?」
お兄ちゃんはゴキゴキと手の関節を鳴らした。
さらに少し離れたところにはお兄ちゃんの柔道部の友達が数人、チャラ男達を睨みつけている。
「ひぃ!」
「い、行くぞ!」
「すんませんでしたっ!」
チャラ男達は一目散に逃げていった。
「大丈夫だった?」
お兄ちゃんは愛菜ちゃんの頭を撫でた。
「は……はひ……」
愛菜ちゃんは胸の前で手を組み、うっとりとした顔で返事をした。
目がハートマークになっている。
「なら良かった。それじゃ、俺らはここで。あんまり遅くならないうちに帰りなよ」
「うん、分かった」
「あ…ありがとうございました!!」
お兄ちゃんが友達と去っていく姿を愛菜ちゃんがポウッとした目で見つめている。
「あ、あかり……」
「愛菜ちゃん」
愛菜ちゃんは私の両肩をガシッと掴んで詰め寄った。
あぁ、これは。完全の恋する乙女の顔だ。
「あかりのお兄ちゃん! すっごく! カッコイイね!」
「う、うん? カッコイイかは分からないけど、自慢のお兄ちゃんだよ」
「お名前は? 年齢は? うちの学校の制服だったよね? 柔道部なんだ!?」
「ちょ、ちょっと待って、愛菜ちゃん! 落ち着いて!」
ほら! 越智が落ち着いてなんて言っちゃってるよ!
ダジャレみたいだね!
「あかりと同じで茶色い癖っ毛なのも素敵だし、背も高くて筋肉質で、睨みつけた時の目付きもカッコよかったわ!」
「そうかな? 目付きが悪いのは本人気にしてるんだけど……お兄ちゃんは優しいんだよ」
バス乗り場でバスを待ちながら、愛菜ちゃんにお兄ちゃんの事を根掘り葉掘り聞かれた。
名前は越智孝次。
学校は私達と同じ。学年はひとつ上の三年生。
柔道部の主将ですごく強いらしい。
頭が良くて大学の推薦が決まっているので、今は私の勉強を見てくれている。
「でも、すごく音痴なんだよね」
「そうなの? やだ……! 可愛い……!」
鼻歌ですら隣で歌われるのは我慢できないレベルだ。
しかしそんな欠点も愛菜ちゃんにはツボらしい。恋する乙女はよく分からない。
「私は音痴な男の人ってやだなぁ…」
「そっか。あかりは音楽やってる人が良いんだっけ?」
「うん。でもバンドマンじゃなくて、バイオリンとかピアノとか、吹奏楽とかそういう人が良いんだよね」
あと、お兄ちゃんでマッチョは見飽きてしまったので出来れば細身の人が良い。
「お願いあかり!」
愛菜ちゃんが拝むように手を合わせた。美人の上目遣いは効果が抜群だ。
「孝次さんのこと、紹介して!」
「いいよ!」
二つ返事でOKする。
お兄ちゃんであれば大事な親友を胸を張って紹介できる。
お兄ちゃんの意志は確認していないけれど、お兄ちゃんが黒髪ロングの長身巨乳好きというのは分かっているのだ。
直感的に、二人はとても相性が良いと思った。
その日の夜。
お兄ちゃんが照れくさそうに頭を掻きながら愛菜ちゃんについて聞いてきた。
「そういえばあかりも演劇部だったな」
「そうなの。私は衣装担当だし愛菜ちゃんとはそこまで話したことなかったんだけど、今年から同じクラスになって、今では親友なんだよ!」
「いや、去年の文化祭で『演劇部にすごい綺麗な子がいる』って話題にはなってたけど……まさかあかりの友達だったとは」
私は冷凍庫からお兄ちゃんが買ってきたであろうバニラアイスを取り出した。お兄ちゃんは『どうして俺のアイスを食べようとしているんだ?』という顔をしている。
「そういえば、愛菜ちゃんに今日のお礼がしたいからお兄ちゃんの連絡先教えてって言われたんだけど、どうしようかなぁ」
「どうぞ、お召し上がりください」
それからお兄ちゃんと愛菜ちゃん、二人が付き合うまでに時間はかからなかった。
たまに二人から相談を持ちかけられて、ニマニマとしながら話を聞いた。やっぱり二人は相性が良くてラブラブなようだ。
このまま結婚して、ぜひ愛菜ちゃんには越智という苗字になってほしい。大切な二人がいっぺんに幸せになってくれるのならば万々歳だ。
もしそうなれば私と愛菜ちゃんはおちむしゃじゃなくて、おちおちになるのか。
これはもう、おちおちのんびりしていられないね!
私も素敵な彼氏を捕まえなくちゃ!
☆★☆
愛菜ちゃんとお兄ちゃんのラブラブな様子を見守りながら季節は巡り、文化祭がやってきた。
演劇部では愛菜ちゃんがヒロインを演じることになり、私は大忙しで衣装を作った。愛菜ちゃんにふさわしい満足な出来上がりになったと思う。
「愛菜ちゃん、すっごく綺麗!!」
「あかりの衣装のおかげだよー!」
「これは、お兄ちゃんも惚れ直すね!」
「やだ! 緊張してきた!」
愛菜ちゃんが大袈裟に深呼吸するのをニマニマと見守った。
体育館のギャラリーは暗幕が貼ってあり一階からは見えにくいようになっている。演劇部がこれから使用する小道具などが置いてあり、照明係や着替え終わった演者のみんなが待機していた。
舞台では軽音楽部の演奏が終わり、吹奏楽部が準備をしているところだ。この学校は部活に力を入れていて、吹奏楽部も全国大会に出場するほどのレベルである。
「吹奏楽部、楽しみだね!」
「……そうかな」
愛菜ちゃんが苦い顔をしている。どうしたの?と尋ねようとしたところで演奏が始まり、慌てて口にチャックをした。
文化祭ではコンクール用の音楽ではなく、馴染みのある曲を演奏してくれる。
まず何年も続いている刑事ドラマの主題歌から始まり、その迫力のある音に一気に惹き込まれた。
次は高校生に大人気なアーティストの話題曲。私が好きな曲だった。客席から手拍子が鳴り、私も手が痛くなるほど夢中で手拍子をする。
観客が盛り上がってきたところに吹奏楽の定番曲が続く。みんな当たり前のように知っている音楽なのに、アレンジが加わりより格好よく聴こえた。
そして、四曲目はしっとりとしたバラードだった。去年大ヒットした恋愛ドラマの主題歌だ。
フルートの伸びやかな音色から始まり、木管楽器の主旋律が聴こえる。サビはその曲の良さをそのままに、吹奏楽の音が重なっていく。
そしてCメロにさしかかろうとした時、一人の男子生徒がトランペットを持って前に出てきた。
スラリとした背に猫みたいな瞳とツンとした鼻がすごく綺麗な。黒髪のマッシュヘアがミステリアスな雰囲気の男の子だった。
ネクタイの色から、その男の子が一年生だと分かる。
その男の子がトランペットを構えた。そして。
「わぁ……!」
その甘やかな伸びのある一音。切なくなるメロディーをさらに生かすような音色。
トランペットって、こんなに綺麗な音だっけ?
こんなに、胸が締め付けられるような。悲しくもないのに、泣きたくなるような。
胸の前で手を組んで、祈るようにトランペットに聴き入った。そのソロをずっと聴いていたいと思ってしまう。終わらないでと、願ってしまう。
やがて男子生徒のソロが終わり、一礼して席に戻っていった。
ソロは終わったのに彼から目が離せない。
そのままどんな曲を演奏したのか分からないぐらいトランペットの音をずっと注意しながら聴いていた。そうしていたら、あっという間に吹奏楽部の出番が終わった。
「……カッコよかったね」
吹奏楽部の片付けを見ながら愛菜ちゃんに話しかけた。愛菜ちゃんはまだ苦いものを食べた後のような顔をしたままだ。
「特にあのトランペットのソロの男の子、すっごくカッコよかった! トランペットってあんなに綺麗な音が出るんだって、ビックリしちゃった」
「……そうなんだ」
愛菜ちゃんは苦々しい顔のまま私の顔を見た。
「あかり、もしかして恋?」
「こ、恋……!?」
胸に手を当てる。
たしかに、今まで見たどんな男の子より輝いて見えた。あのトランペットの音を思い出すだけでドキドキする。
恋かどうかは分からないけれど、あの男の子と仲良くなりたい。どんな声で話すのか、どんな風に笑って、どんな物が好きなのか。
「……よく分かんないけど、あの人をもっと知りたいって思うよ」
「もう、それが恋じゃん」
私の返事に、愛菜ちゃんは苦笑した。その一言は私の心にストンと落ちてきた。
「じゃあ、とりあえず演劇部頑張ろう! あかり、衣装チェンジのサポートお願いね!」
「あ、うん! 任せて!」
演劇部の幕が上がった。
演目はロミオとジュリエットだ。愛菜ちゃんの演じるジュリエットと先輩が演じる男装ロミオの切なくも美しいやり取りに、観客席からはため息が聞こえた。
私の作った衣装は愛菜ちゃんが動く度にヒラヒラと煌めき、やっぱり彼女と親友になれて良かったと改めて実感したのだった。
音響も照明も全てがミスもなく終わり、舞台袖に降りてきた愛菜ちゃんに思い切り抱きついた。
「愛菜ちゃん! 愛菜ちゃんが親友で本当に良かった! 綺麗だったよぉ!」
「私も! あかりが親友で良かった! 素敵な衣装、本当にありがとう!」
興奮が冷めきらないままお互いに抱きしめあった。
そんなこんなで文化祭は大盛況で終了し、これからは日常が戻ってくると思っていた。
数日後。
愛菜ちゃんがあのトランペットの男の子を連れてきた。
「あかり、紹介するね。こちら武者春樹。私の弟」
「……ども」
私の口はしばらく開いたまま塞がらなかった。目がこれでもかと開いて、瞬きすら出来ない。
「えぇぇえええええ!?」
連絡先を交換させられた後、愛菜ちゃんが春樹くんの背中をバンバンと叩いた。
「あんたがあかりみたいな小柄でフワフワの髪の可愛い女の子が好きなことは知ってんのよ!」
「うっせぇ! 叩くな! バカ!」
「キエェェェ! 姉に向かってバカって何よ! このアホキノコ!」
私達兄妹と違って、そこまで仲良くはなさそうだ。しかし猫の喧嘩を見ているようで微笑ましい。
「あの、これからよろしくね?」
「……ウス」
話しかけると春樹くんの顔がみるみる赤くなっていく。それが不器用な春樹くんの性格を表しているようで、可愛くて。なんて愛おしいんだろうと思った。
それから数年後、越智家と武者家の結婚式が二回行われ、私と愛菜ちゃんは何年経ってもずっとおちむしゃのままだった。
そんなオチ。