1話 肉好き、食中毒で死ぬ
俺はお肉がとても大好きだった。生まれてこの方朝も昼も夜もお肉ばかり食べて育ってきた。親から野菜を食べろと言われても俺は頑なに肉を頬張り続けた。
なんでそんなに肉ばかり食べるのかって? 美味いからに決まってるだろ。じゃあこちらも聞かせてもらおうか。なんであんなに不味い野菜を食べるのか、と。
そんなこんなで俺は中学を卒業し、高校へと進学した。
高校生となり行動範囲が増えた俺は、今まで以上に肉を食うようになった。肉を食うために焼肉屋でバイトを始め、そこで得た金でも肉を食った。
その時の俺は肉を食うことが生き甲斐だった。この年になるともう親も俺に対して何も言うことはなくなり、歯止めが効かない状態に陥っていた。
そんな中、俺はある物に出会ってしまった。そう、生肉だ。
コイツとの出会いは衝撃的だった。バイト先で打ち上げが行われ時、今まで手を出していなかったユッケと言う食べ物に触れたのだ。それがあまりの美味しさだったのだ。俺の頬はもう消え失せてしまったのではと思うほどだった。
そこから俺の快進撃が始まった。日に日に肉を食う量が増え、焼き加減がレアになっていった。そして終いに俺はほぼ焼いていない生の肉ばかりを食うようになった。
時にはそれでお腹を下すこともあった。だがあの美味しさを得るためならば俺はどんな犠牲も顧みなかった。
そんなある日のこと、俺は一人焼肉に来ていた。
いつものようにお肉を軽く炙ろうとした手が何故かピタリと止まった。そしてその先にあるお肉に視線が釘付けになってしまった。そして悪魔的な発想が俺の頭を支配した。
もしこのお肉を頬張ったらどうなるのだろうか、と。
一度そんなことが頭をよぎるともう、他のことは何も考えられなくなってしまった。ああ食べたい、食べたい。一体どんな味がするのだろうか、それだけで脳がいっぱいになってしまったのだ。
そして遂に、
パクッ
俺はその禁断の果実を口に入れてしまった。
そこからの記憶は正直無い。あまりの美味しさに猛スピードでその場にあった大量の肉を平らげたことだけは間違いない。何故なら目の前に先ほどまであったお肉が消えていたからだ。
そして俺は更にお肉を注文し、食べ続けた。そして、死んだ。
薄れゆく記憶の中で聞こえてくるサイレンの音が俺にとっての最後の記憶だった。
「はっ! ゆ、夢!?」
はぁー、だよな。流石に生肉を食って死ぬなんってあり得ないよな。俺だってそんなに阿呆じゃ無い。でも、美味しかったなー、また夢でもいいから生肉が食いたいぜ。
「夢ではありませんよ」
「どわっ! だ、誰?」
びっくりして声のした方を向くとそこには綺麗な女性が立っていた。
「貴方は今、正式にお亡くなりになられましたよ。生肉の大量摂取によって」
「は?」
え、ちょっと待て。俺ってば本当に死んだのか? まだまだお肉食い足りて無いと言うのに……
「はい。そんな事よりも貴方、もっと美味しいお肉食べてみたくありませんか?」
「食べたいです!」
ん、でも俺ってば死んだんだろ? それなのにどうやってお肉を食うって言うんだ?
「安心してください。私が転生させて差し上げます」
「て、転生!?」