第八十四話 ダンジョンどうでしょう~鹿っぽいのも虎っぽいのも居た(但し魔物)ついでにお宝も~
「あの、節令使様大丈夫ですか?」
「あー全然大丈夫じゃない。だが私の事は気にしなくていいから。君らは自分らが生き残れるよう祈りながら進むことだけ集中してなさい。もうここから君ら私の事考慮しなくてもいいからね」
呆れと心配の入り混じった顔して近寄るトューハァトの面々に俺は疲労困憊隠さずな力のない声でそう答えた。
現在サイドカーの座席上でぐったりしてる。正直喋るのも億劫なぐらいに疲れた。
全力疾走しながら鉄の剣を力任せに振り回しつつ叫ぶという行動を三十分弱もやれば体力チートでもない限り疲れるわなそりゃ。
あの時は怒りに身を任せて感情の赴くままに行動したんだが、一しきり暴れて喚いたことで少しは冷静さが回復した。したらしたらで自分の愚行にちょいと自己嫌悪なわけで。
でも俺は謝らないぞ。俺の怒りは正当だし常識的に考えておかしなことは何一つ言ってないのだから。
恨めし気に前を歩くマシロとクロエを睨みつける。当たり前だがこいつらは微塵も疲れてなどいない。
しばし睨み続けれども疲労が一気に伸し掛かってきたのでそれも止めてやはり疲れを隠すこともせずにシートに頭を預ける。
思わず頭に血が上ってしまったがもう進むしかないという程度の現状認識は把握してる。
あとはもうどうにでもなれ。という自棄な気持ちはないものの流れに任すしかないという他力本願路線だなこりゃ。
眠るなり気絶なりして現実逃避したいがそうもいかん。
いや正確に言えば俺の身体が非常事態に反応し過ぎてそういうの呼び寄せてくれん。まったく我ながら融通効かないな。
物理的にも心理的にも逃避出来ずともなれば黙ってマシロとクロエの魔物ハンターっぷりを観戦するしかなかろう。
散々騒いだ末での分かりきってた結論。
しかしだよ、この期に及んで見苦しいと思われようが言っておかないとどんだけトンデモ事態に巻き込まれていくか分かったもんじゃないだろ?
俺の出来うる精一杯の抵抗だよこれ。知識スキルも力isパワーの前ではまだまだ無力すぎるよ。
とまぁ俺がボヤいてる間にも進みは続いており、差ほど時間を置かずに新たな部屋へと入る事となった。
踏み込むと同時に馬のような雄たけびが洞窟内に響き渡る。
待ち伏せでもしてたのか筋肉隆々な馬の化け物が左右から突進してきていた。その素早さは数秒後にはぶつかってそのまま殺されそうな勢いだ。
しかしながら数秒後に殺されたのは襲撃した側であった。
出現と同時にマシロとクロエが軽やかな回し蹴りをそれぞれの方角にいた馬の化け物相手に叩きつけ、その一撃で魔物は即死した。
アイテムボックスに放り投げられる前に一応確認してみる。
しばし調べてみると二本の直角の角持ったこいつはバイコーンという馬系魔物。当然Aにカテゴリーされている。
一頭でもランクの低い冒険者の百や二百は蹴散らすような難敵な筈なんだがなこいつも。
マンティコア遭遇と陰険刃物漫才で一時的に感覚が麻痺してるのかその程度の感想以上は浮かばなかった。普通に考えたら大物ゲットに少しは湧きあがるとこなんだよね。
トューハァトの面々も相変わらず顔面蒼白しつつも同じく麻痺してるのか確認を終えると無言でバイコーンをボックスに入れていた。
入れる作業は簡単だ。なにせどこか身体の先っちょをゲート部分に触れさせさえしたら自動で吸い込まれるのだからな。
先程のマンティコア含めて今までのやつも割とスムーズに回収できたのはアイテムボックスの特性のお陰ともいえる。
作業が捗るという意味ではありがたい筈なのに現状大した慰めになってねぇけどな。
完全に吸い込まれたので俺らは次の部屋目指して歩き出した。
この流れをあとどれだけやるんだろうな。
心身共に無事に帰れたらこのダンジョンは当面閉鎖してやる。解放許可?知らない子ですね!!
ギルド側が泣こうが喚こうが絶対使用禁止にしてやるからな!なんなら早急に火薬再生産させて真っ先に入り口爆破に使うのも辞さないからな!!
心の中で俺は固く誓いを立てるのであった。
現れては雑に死んでいくAクラスの魔物達を見続けてると感覚麻痺通り越して頭おかしくなりそうだ。
身の安全は保障されても心が死んだらあんま意味ねーんだけどなぁ!?常に付き纏う恐怖と異常な光景のダブルパンチで発狂とかマジないわ!
魔物の名前を幾つか羅列するだけでも、ビックアイアンゴーレム、ゴブリングレートナイト、一つ目オーガ、サイクロップスと上位種であるギガサイクロップス、ドラゴンタートル、ファイアーバジリスクなどが出てきた。
あぁそれとつい先程遭遇したマンティコアも二、三度出てきたよ。あれで終わったとは思ってないとはいえエンカウント率おかしくね?
どいつもこいつも野外で徘徊してたら即冒険者ギルトか地元の軍隊に討伐指令出される厄介なやつらだ。
魔物ならどれもそうだろうと思われるが、一部例外はあるが基本的にランク高い魔物は人間が住み着いてる地域に居るだけでも警戒されるし、放置してたら確実に何か仕出かす可能性が高い。去年のクラーケンが良い例だ。
魔物からすれば強ければ強いほどに人間を警戒する理由は薄くなるわけだ。大概の抵抗も自力で粉砕してのけれるのだからな。
そんなのがウヨウヨ居る洞窟内を現在進んでる俺らってなによ。場違いってレベルじゃねーよ。
溜息吐きつつ前を歩く美少女の皮被ったド畜生共を力なく睨む。
マシロとクロエは相手が何であろうと変化は相変わらずない。ちょっとした運動感覚でワンパンKOをして前を歩き続けてる。
「何が出てくるかも分からん初めて来る場所なのに怖くないのかお前ら」
嫌味ったらしくそう訊ねてみたものの、返答はというと。
「王都に居た頃行ってたダンジョンみたいなもんだしー。変な罠やギミックないだけ児戯と書いてヌルゲーと読むぐらい楽だわここー」
「くくく、ウィークオブウィークの有象無象。変わらぬ日々へのスパイシー消失」
「雑魚過ぎて欠伸出まくり。ってクロエも言ってるわー」
「……世の中の冒険者の九割九分九倫が聴いたら憤死しかねない傲慢な発言ありがとうよ」
チラッと周囲に控えるキィらに視線を向ける。今の発言を聞いて思う所もあるだろうと気になった。
しかし意外に無反応である。相槌も打たずに前を見て歩いてるだけだ。
あまりの格差に怒る気にもならないというよりもいよいよ精神的な限界迎えつつあるので感情が鈍くなってるのかもしれんな。
こんなとこで冒険者してると一生に一度遭遇するか否かの高ランクの魔物に立て続けに遭遇しており、尚且つ時間にして数秒とはいえ直に触れてるという貴重な体験。
ここまで蓄積した恐怖とも合わさって頭の中混乱の極みなんだろうな。ボヤけるだけ俺はまだ正気だったかもしれん。
けど少し困ったな。
こんなとこで発狂されても面倒だし、かといって合理的ではあるかもしれないけど物騒な手段を行使するとか人としての尊厳的に「ちょ待てよ」だしな。
何かこう一旦正気に戻れそうな景気の良さげなイベントこないものか。
石の棍棒振り回して襲い掛かってきたミノタウロスを蠅でも追い払う様な軽やかな平手打ちで叩きのめすマシロとクロエ、それを無感動に無言で淡々とボックスに投げ込むメンタル崩壊寸前な常識の世界の住人達を交互に見ながら俺は腕を組んで考え込んでいる。
願い虚しくその後も作業ゲーみたいな進行具合で進んでいき、ついに俺達は十七階層目へ足を踏み入れた。
そこも相変わらず出てくるのはAランク魔物。そして平坦な道と部屋。
相変わらず恐怖や緊張持続させたはいるが心の片隅に「飽きてきた」という今の立場考えたら罰当たりの極みな感情が芽生えだしたときである。
三回目か四回目かの部屋に足を踏み入れた。
敵意剥き出しに咆哮を挙げて牙を剥いてきてるのは虎頭のキマイラ。
他にもお馴染み獅子頭のやつも含めて二十頭前後のキマイラが屯していた。虎の方は一回りデカくもあるし変異種か何かであろうか。
巣か何かに踏み込んだのかと肝を冷やしたと同時に俺は群れの奥に鎮座している大きな箱の存在にも気づいた。
少し見た感じだと成人男性一人は軽く入れそうな棺みたいな長方形のもので、各所に錆びついたりしてるものの装飾施されたような個所も見受けられた。
おいおいこれもしかしなくてもあれかい?
ついに発見かいこれ?ダンジョンのお約束要素の一つの宝箱でいいのかい?
ようやく巡り合えたダンジョン探索における重要要素の一つ「お宝」というやつに俺は現在置かれてる状況を一瞬忘れた。
当面閉鎖する意思に揺らぎはない。永久的な閉鎖も視野にいれてるぐらいだ。
それでもいつかは他所から高ランク冒険者が訪れる機会があるときにそういった人らが来て甲斐があったと言えるようなモノは用意しておきたい。
どこまでも続くような深いダンジョン、強敵揃いな魔物、そして宝があるであろう宝箱。ダンジョン三銃士揃い踏みともなれば湧きたくもなる。
キマイラの群れから視線を離さず少しだけ横目で窺うと、先程まで精神的に瀕死だったキィ達も僅かに生気を取り戻して虚ろ気味ながらも歎声を発していた。
よしいいぞ。これで中身も苦労に見合う代物なら文句ないんだがさて。
場の空気を読まずに思案モードに入りつつあった俺が我に返ったのは室内に響き渡る断末魔が鼓膜を叩いたからだった。
見ると、俺が考え事をしてる僅かな間にマシロとクロエがキマイラの群れとの戦いを開始していた。
二十頭前後も居るから一頭ぐらいこちらに襲い掛かるかと思いきや、どうやらキマイラ達は白衣を羽織った少女と黒のゴスロリ姿の少女を真っ先に潰す脅威と本能で判断していた。
虎頭の咆哮と共にキマイラ達が一斉に飛び掛かろうとした瞬間、先制攻撃を仕掛けたのはマシロとクロエの方であった。
一番近くに居た二頭が真っ先に死んだ。氷の刃で串刺しと鋭い手刀一閃で頭から首元まで真っ二つであった。
それを合図に死闘が始まった。
と言いたいが正しく言い直すなら相変わらず一方的な完勝っぷりを二人が見せた。
他のAランク魔物と同じく一撃で絶命して斃されていくキマイラ。一分程で残ったのは虎頭のみである。
後日の調べで判明したのだが、虎頭のキマイラはやはり変異種の一つでありランクとしてはA+として準一級警戒レベルの強敵と目される存在だという。その強さはちょっとした規模の正規兵の軍隊も壊滅せしめる程とか。
人間からそれ程恐れられており群れのボスであろう虎頭も、しかし悲しいことにコイツラにとっては頭のデザイン違う程度の認識なキマイラの一頭でしかなかった。
一人でも楽勝なのに一応宝箱発見したという記念のつもりなのかわざわざ二人同時にパンチを叩き込みしめやかに即死した。
そのパンチの威力たるや、当たったのは横腹なのに衝撃強すぎて目ん玉飛び出るわ口から大量の吐血と臓腑はみ出すわで、耐性出来てる俺でさえ瞬間的に目を背けてしまったわ。
「さー雑魚は片付けたしさっさとお宝拝見しましょー」
「くくく、プライスオープンの鑑定団。ラッキーオアアンラッキーのラインの判断」
自分らの生み出した光景など微塵も気にせずマシロとクロエは軽やかな足取りで宝箱へと近寄った。
「まてまてまて!せめて俺らも立ち合わせろ同行者的に考えて!!」
慌てて俺らもキマイラの死体を避けつつ急ぎ足で駆け付けた。
流石に俺も今だけはバイクから降りて自らの足で近づいた。
間近で見ると疑いようもなく宝箱だった。
人一人入れそうな大きさ。それだけでも九割の期待と一割の不安が躍り上がるというもの。
通常のダンジョンだと想像通りの大きさの宝箱が基本であり、大きくても剣が一振り入れるぐらいの大きさだと聞いたことがある。
それらに当てはまらないともなれば、一体何が入ってることか。
一割の不安はといえば、ミミックとかの擬態系魔物の可能性もあるからだ。通常サイズでも存在してるのだからこのデカさで警戒するなと言う方が無理だろ。
或いはミイラ男でも潜んでいて開けた途端に襲い掛かってくるという線も考えられるな。
開ける前に俺がその可能性を告げてみるとキィ達は宝箱に触れてた手を引っ込めて顔を見合わせた。彼ら自身は経験はないが同業者がミミックの被害にあったことがあるというのだ。
どう確かめるべきか。と考えてたんだが、ウチんとこの空気読める癖に読まないド畜生二人は俺らの慎重な態度を嘲笑うかのように錆びた錠前をもぎ取ってみせた。
「なにしてんのお前ら――!?」
「今更ビビらなくていいじゃんー。ミミックでもゾンビ系でも出た瞬間ぶっ殺してあげるわよー」
「くくく、鎧袖一触オンリー。バッドなガードの笑うべき躊躇い」
「普通は警戒するもんなんだよ!?そういうクレイジーな余裕は二人だけのときにしてくれない!?」
俺ががなり立てるのを聞き流しつつクロエが無造作に蓋をひっくり返した。
さて何が出るのかと恐る恐る中を覗いてみて、俺は目を点にした。
一応言っておくが呆れた訳ではなく驚きのあまりだ。
宝箱の中身はお約束どおりにお宝が詰まっていた。この場合のお約束というのはありきたりな俗っぽい方である。
金貨、宝石、宝石が幾つも埋め込まれた装飾品の数々に金や銀の延棒、更には大粒の真珠などといったものがぎっしりと詰め込まれていたのだ。
あまりにも豪華な中身にキィらトューハァトの面々は口を大きく開けて絶句。しばし経過すると「嘘だろ」「えっなにこれえっ?」などと呟きつつ顔を見合わせて震え出した。
彼らと正反対にマシロとクロエは微動だにせずだった。。
中身を一つ二つ手に取って眺めはしたが「お約束すぎてつまんないわー」と言ってもう宝箱への興味が失せたのか顔を挙げている。
で、俺はと言うと喜びと困惑と打算が入り混じっている何とも言い難い表情で腕を組みつつお宝を眺めていた。
まず喜びとしては、ベタながらも苦労して進むだけの価値のあるお宝の存在が確定した事だ。
帰還してから数や質の鑑定はしなければだが、この場で見た感じだと間違いなく浪費さえしなければそれなりに贅沢しつつ一生遊んで暮らせる。なんなら孫とまではいかずとも子供の代ぐらいまで継続出来そうな額だ。
それも一人占めではなく、例えばキィ達のように五人編成のパーティーで山分けした場合だ。つまり数が少なければ俗にいう孫の代まで遊んで暮らせるも可能なわけだ。
その日暮らしの博打みたいな稼ぎ方してる冒険者にとっては絵に描いたような一攫千金の具現化。AやBの魔物相手してでも手に入れる価値は十分ある。
とまで考えたらこのダンジョンを売り込む際のお勧めポイントになるの確実だ。
様々な媒体でダンジョンの解釈は異なるもの。この世界においてダンジョンのドロップアイテム類は一度入手したら消えるものではなく、しばらくしたら同じものが同じとこに出現するという不思議な力が働いている。
なのでダンジョンの個性や特徴を挙げる際には「何階で何があるか」という点も重要なのだ。ただまぁ初心者向けや低ランク向けはどの国も似たり寄ったりのお宝ではあるがな。
ここまで言うと良い結果だけのように思える。
しかし俺としては素直に喜べもしないとこもあるわけで。
何故かって?あまりにも俗っぽいお約束な品すぎて宣伝するにはパンチ弱く思えるんだよ。
俺が密かに期待してたのはオリハルコンとかミスリルがぎっしり詰まってるとか、伝説とまでは言わないがそれに近いレベルの武具や魔道具の類だった。
前者は言わずもがなレア中のレアな金属類。これが毎回この量でドロップともなればちょっとした鉱山である。
国中どったんばったん大騒ぎ待ったなしだ。辺境のド田舎扱いのヴァイト州の価値も飛躍することだろう。
後者は売っても良し使っても良しで実用性で考えたら金貨より良いとも思える。
冒険者が全員金の亡者というわけでなく強さ求めてとかな目的ある人も居るわけでね。そういうのに需要は大いにあるだろうさ。
悪いとは言わない。身命賭けてここまで探索くるだけの価値はあるのだ目の前の金銀財宝は。
だがこれだとまだ当面封鎖の決断を撤回するには足りないのだ。
自分が贅沢な悩みを勝手に抱えてる自覚はある。
けれどここで浮かれるのは多分駄目だろう。ここまで来て怖い思いさせられるのならもう少し見返りが欲しいとこだ。
ここから先にそれがあると願いたいものだがさてどうなるかねぇ。
興奮の囁きを交わし合う冒険者らと既に興味が失せて「ねぇそろそろ仕舞っていいー?」と言いたげな顔をするマシロとクロエに挟まれつつ俺は気難し気な顔して顎を撫でるのであった。




