↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/184

第五十四話 交流x格闘技大会(準備開始)


「しかし節令使様は何をなさろうとしてるんだろうな。俺らにこんなの建てさせて」


「俺らみたいな下っ端が考えたってわからんよ。訓練でも給料も出るし、昼飯は重労働の分多く出るから悪くはねえ」


「そうそう戦争するよかこんなのやってるほうが平和で結構だよ」


「にしてもつい最近まで討伐対象だった連中と一緒に仕事する日がくるとはねぇ」


「あちらも同じ考えしてるだろうよ。まっ、仕事終わったら夕飯に酒が沢山ついてくるからいいけどよ」


「本当何がしたいのか節令使様は」


「祭りの準備とかいうが、こんなの作ってどうするんだか」





「……以上が設営訓練に駆り出された兵士の声だ。ちなみに我らの所も似たような感想だったぞ節令使殿」


「ある意味心は一つになってますけど大丈夫なんですかこれ」


「まっ、最初はそんなもんだろうさ」


 現場監督の一員として作業現場を巡回してたモモと平成からの率直な報告に俺は微苦笑浮かべて鼻先を掻いた。


 部族部隊を迎えた当日に思いついた事を実行しようと試みて既に十日が経過している。


 州都内にある大きな空き地のうちの一つは現在数百人の兵士らが木材運んだり工具を振り回したりと、にわか土木建築作業員のような有り体で働いていた。


 設営訓練。建築物建設経験を積ませる文字通りのものである。


 戦に出る際に自分の寝床やら陣地構築やら土木作業は避けて通れない。


 けれども工兵という専門職が確立されてない上に工兵みたいな事をするポジションが常に部隊に居る事がない場合が多々ある。


 という事情があるので、ある程度訓練する時間的余裕があるところでは大なり小なりモノづくりを経験させているのだ。


 まぁ俺の所は俺の所為で訓練と言うには些か規模も労力も割く時間も大きいが、そこは金と飯をいつもより融通させることで宥めておく。


 訓練と称して臨時会場造りをしている一角に設営した小さなテントに俺らは集まって作業を見物している。


 東京ドームとか武道館建築するわけではない。将来拡張は視野に入れてるものの、今回はひとまず千人ちょっとが座れるぐらいの野外劇場みたいな場所さえ即席に造れたらいいのだ。


 とはいえ立ち見用のスペースもある程度用意するつもりなのでそれなりの規模でやらなくてはいけない。なので大変には違いはないか。


 周囲の不安とまではいかずとも戸惑いを感じながらも俺はにわか興行師気分であちこち動き回る兵士らを見守るのであった。





 遡る事十日前の部族部隊宿舎応接室。


 呆気にとられる面々。マシロとクロエが口端を釣り上げて「へぇ」と呟く以上のリアクションしかとれずにいるようだった。


「か、格闘技大会ですか?」


 しばしの沈黙の後、ようやく平成が絞り出すような声で問うてきた。


 問いに対して俺は明確な意思をもって頷くと平成は再び何とも言い難い顔をして黙り込み、モモ達は意味を咀嚼出来ずに首を捻るばかりであった。


 予想してた反応とはいえ、そこまで頭おかしい発言したつもりはないんだがなぁ?


「なになにリュガはこんなとこでプロモーターのお仕事も兼任しちゃうのー?労働量増やしたくない割にはドM発想するよねー」


「くくく、無差別なヴァ―リ・トゥードオブ修羅への門へのウェルカムゴートゥー?」


「人を仕事中毒者とか血に飢えた興行師にするんじゃないよまったく」


 マシロとクロエからの遠慮ない言葉に俺は軽く舌打ちをした。


 まぁ確かに気持ちは分からんでもない。


 体術とか無手での戦い方の心得とかそういうのは昔からあるし武闘家という職業成立されてるぐらいには格闘技の認知度は低くはない。


 更に言うならば剣闘士を戦わせるコロシアム的なのもないわけではない。その筋の人らみたいなのが取り仕切って金儲けしてる話も幾度も聞いたきともある。


 だが、参加者全員素手で戦う、殺し厳禁等の幾つかルールを取り決めてと、この時代の人権感覚からしたらやけにヌルめな大会なんてやって人が集まるかという疑問はあるだろう。


 しかしだね、これはちとばかし杞憂と思うわけよ俺。


 なるほど人や魔物相手に斬った張ったが日常の中に溶け込んでるような世界ではヌルさは拭えない。かといってこの世界の住人全員が血や臓腑飛び散るようなの見たいスプラッター趣味の持ち主ではなかろう。


 そういう刺激強すぎるもの進んで見たいとは思わないが、何かしら刺激のあるものは見たいとは思う。


 矛盾じみた考えではあるが成り立ちはする。現代の地球でもグロやスプラッターは苦手でも格闘技やスポーツ競技としての殴り合いなら観れるしなんとなく盛り上がれるのと一緒だ。


 メインに据えるにはまだパンチ弱いが祭りの一環としてならやれると踏んだのはそういう考えがあるからだ。


 その中で部族の面々には準備から携わってもらい、試合にも何名か出てぶつかり合って盛り上がりに寄与することが出来たなら、住民の印象も少しは変わるかもしれない。


 あと個人的な打算でいうならヴァイト州の名物になり得るものを一つでも増やしたいというものがある。


 これから探せばこのド田舎ド辺境の土地でもイイとこは幾らでも見つかるとは思ってる。けれどそれだけをアテにしていても駄目だ経済考えたら。


 他所に関心を持ってもらい人を呼び込むには宣伝材料は多いに越したことはないのだからな。


 今回のアイディアはその為の一手だ。


 俺は目の前に居るモモらを見渡しつつ言葉を紡ぐ。


「戸惑うのは無理もない。しかしここは一つ私に任せてみてくれないかね。これが駄目なら改めて皆で良き案を考え直せばよいだけだろう?」


「まぁ確かにそうではあるが」


「それとも族長の娘殿や平成に今この場で良案はおありかな?」


「……その言い草は卑怯だと思うぞ節令使殿。そちらの提案飲むしかないだろう」


 俺の言葉にモモが気難し気な顔をしつつ頷く。それに倣って他の面子も顔を見合わせつつも同様の反応を示した。


 とりあえずの承諾の意思は確認した。では早速行動あるのみだな。


 俺は明後日までは休息をとってもらいそれ以降から訓練参加をモモらに指示した。ついでに来月までに格闘技大会の参加者を数名そちらから選ぶようにとも頼む。


 こちらも了承してもらったのを確認した俺は改めて労いの言葉をかけつつ席を立った。


 通常業務もあるが自分で立ち上げ決意したからにはしっかりやらんといかんな。まずは州都庁へ戻ったら資材管理担当など複数の部署へ声掛けして企画伝えないと。


「こんな異世界でジャパニーズお祭りおっぱじめる気とかさー。なーにー?今頃元の世界懐かしくなったのー?」


「馬鹿野郎俺が今更そんな感傷で物事動かす奴と思ってるのかよ」


「くくく、フェスティバルなセレモニーへの行進曲。古きを新しきへと変換せしめしオブティンな絆」


「言ってる意味は分からないが今後を見据えた大事な事業にするんだよ俺ぁ。だから茶化すんじゃねぇよ」


 笑いを堪えつつ揶揄してくる二人にそう言い捨てつつ俺は宿舎を後にするのであった。





 戻ってから各部署の役人呼び出して企画発表したら全員露骨に唖然とした顔して絶句しやがりました。


 一々説得するのも面倒だから金は出すから明日から準備の為の人員と物資用意しろと押し切って進めさせた。秋の収穫期目前とはいえまだ目前だから人手に余裕あるの把握はしてるからこその強権発動だわな。


 で、次の日俺はリヒトさんら地元貴族を招集した。


 とは言ったもののヴァイゼさんは未だメイリデ・ポルトの港町、ヴェークさんは銭湯と要塞事業の本格始動により州都と回廊を往復する日々だ。


 ザオバーさんももうすぐ東部の農場各地へ視察へ赴く予定のところをギリギリ捕まえる事が出来たが、多分今回のみの参加となってしまうだろう。


 そんなザオバーさんと基本的に州都内で仕事してるリヒトさんとヒュプシュさんの三人が俺の招集に応じて州都庁の応接室へと来ていた。


「御三方ご多忙のところ御呼びだてして申し訳ありませんでした」


「いやいやレーワン伯もご多忙だろうにこうして私らを呼ぶということは、また何か益のあるお話でもあるのでしょう?」


 俺が頭を下げるとリヒトさんが苦笑を浮かべつつも穏やかな口調でそう返してきた。


 他二人も好意的な反応と見て取れたので俺は内心一息吐きつつ椅子に腰かけた。


「それで、レーワン伯は今度何をやろうとしてますの?」


 ヒュプシュさんのもっともな問いかけに俺は昨日モモ達や役人連中に語った格闘技大会をメインにした祭りを州都で開催する計画を告げた。


 反応は当然ながら最初唖然としたものだ。しかし事の発端がこちらへ来た部族らとの交流深める目的というものと聞いて三人とも理解出来なくもないという風に変化を生じさせる。


「なるほど。こちらの手の者が来訪の話を掴んできてたので部族側との交流は覚悟してはいましたが、すぐにでも始めるべきものですか」


「そうです。しかも来年からは今年やってる事が本格的に動き出すとなると年内にある程度済ませておきたいのです。今年も数か月ですからね」


「ですな。これから収穫含めて冬備えを行っていくから我らも気に掛ける余裕差ほどありませぬし、やるなら今しかなさそうですか」


 ザオバーさんが思慮深けな表情浮かべつつ顎髭を撫でる。彼の言葉に頷きつつ俺は話を続けた。


「節令使と節令使府が主催の形をとりますが、基本的には私個人が費用出しますのであまり官の色合いは出さないよう心がけるつもりです」


「なる程、上辺だけでも節令使ではなくレーワン伯個人が行う催しと謳っておくだけでも変に勘繰る者は少なくなりますな」


「節令使の私が言うのもなんですけど、娯楽の類にあまり官が口出しすると面白味が薄れますからな。こういうのは民が自主的に盛り上げていくからこそと思うのですよ」


「しかし費用はレーワン伯が出されるとなると私らを呼んだ理由とは?」


「率直に申し上げますと、この催しに一口乗りませんか皆様方」


 リヒトさんの初歩的な疑問に俺は明快に初歩的な返答を出した。


 いうなればスポンサー集めだ今やってるのは。


 俺だけでも余裕でやれるが、今後の継続も視野にいれるとなると毎年そこそこ出費出るのは考え物だ。


 いや利益は出るだろうが今の州都及び周辺の町村の人口だと最大利益挙げてもプラマイゼロに落ち着くだろう。数年後の人口と経済的成長次第ではあるがそれをアテにして駄目だったときが怖い。


 未知なる部族との交流や地域活性化の名物造りをお題目に挙げてようが多額の金を出すからには慈善事業気取りはしてられん。やるからにはプラスにしないと駄目だ。


 なのでスポンサーから資金募ってリスクの分散化を図る。そして上手い事利益出てきて相手側に「やれば儲かるやつだこれ」と思わせて更に投資させる。繰り返していけば規模の大きな、近隣でも有名な催し物へと成長していくことだろう。


 ただいきなり各方面に金をせびろうとするには時間が足らない。開催予定日考えたらあと一か月半でどれだけ地元の金持ち連中口説けるか未知数だ。俺だって暇なわけじゃないし。


 そこで今回は地元貴族の皆さんのみに絞って頼んでみるのだ。ヴァイゼさんとヴェークさんには近日にでも俺が直接かこの面子のリーダーポジのリヒトさんに頼むかして話をつける予定。


 いきなり大金出してもらうつもりはない。今回は俺が八割出して五人には残り二割出して貰えれば御の字だ。


 なんなら俺が九であちらが一でも構わない。主目的は彼らをこの企画に引き込むのが目的だから。


 さてどうしたものかと顔を見合わせる三人に俺は毎年行われる盛大な祭りがどれだけ人と金が動く可能性を秘めてるかを語った。


 この辺りは俺が前世の頃に見聞きして中には体験した日本の催し物の数々を念頭にいれてのものだった。中世の素朴さがまだ色濃く残ってるやつよりも俗っぽくも商業的。しかしだからこそ熱の入れようが違ってくるし様々な試みをやる価値がある。


 無論欠点も幾つもあるが今はわざわざ水差す要素を言う気はない。そんなことはやりだしてから気づいていってもらえればいいのだ。


 半信半疑気味に耳を傾けていた三人であったが、熱弁が功を奏してきたのか次第に興味の色を濃くしていき、やがて熱心に相槌を打ち出してくれている。


「……確かにこれが上手くいけばこの地にも魅力的な所があると他所へ誇れそうですな」


「それにこのご時世ですし、明るい話題を提供するのも私達のような者らがやるべきことなのでしょうねきっと」


「武器を使うより素手での戦いならまだ女子供への見世物になるかもしれませんね。お客は多いに越したことはないですから」


「他国は分からないですが王国内ではこのような催し物を大々的に開催したという話は聞きません。王都でもやってないようなことをこのヴァイト州でやって成功させることは、ここにとってとても誇らしいものになりますよ確実に」


 とにかく押せ押せで口説く算段なので自信ありげな顔して断言してみせる。何かやるときは先駆けが慎重通り越して弱腰だと誰も付いてきてくれないのはどの世界どの時代も同じな筈だ。


 勝率高いだけで100%成功なんて保証なぞない。だって初めてやることなんだから未知数で決まってるでしょう常識的に考えて。


 一歩間違えたらペテンもいいとこだが、失敗したそんときは俺の軍資金から出した分を詫び代含めて弁償して平謝りすればいいだけだ。


 などと内心では半ば開き直った考えをしてることなどおくびにも出さず、俺は節令使としてやり手の伯爵として彼らに耳触りの良い言葉を並べ立て続ける。


「官営賭博も開きましょう。官がやるからあまり巨額は賭けられなくても、人数呼び込めば儲けになるのは確実ですよ」


「節令使自らそこを挙げるとは悪魔的発想……!」


「会場は入場券購入制にしますが、券と引き換えに会場内で売る飲食物一品半額販売。ただし物販は通常より一、二割増し料金。それをお祭り価格として前向きに押し出していくとか」


「無料ではなく半額という匙加減、確かに入場券購入するぐらいならそれぐらい出す余裕はありましょうな」


「値上げしても一割や二割。余程の倹約家でない限りは場の空気で買いそうなギリギリのものですわね。その分出させるだけの条件を売る側が満たさないと不評となりますけど」


「そこは私も考えますし、皆様方も売るならばこういう機会にでもというのを是非に。楽しさに引っ張られて財布の紐を緩くさせられたら勝ちでしょう」


「なるほどレーワン伯は本当にそのさり気ない貪欲さは商人でない事が惜しいというか、同業者としては安堵といいますか」


「いやいや皆様お間違えないように。あくまで私達は山岳部族含むこの地に住まう者らの共存共栄の為に身を粉にして働く身でございますぞ」


「はっはっはっ、節令使殿とはいえ年少の者に諭されてしまい私らお恥ずかしい限りです」


 と言って俺らは喉を鳴らして笑い合う。ここだけ切り取れば完全に悪徳代官と悪徳商人の白々しいやりとりであろう。


 それだけこの企画の成功した時の想像が楽しい証拠ではあるので、俺やリヒトさんらはやや妙なテンションのままにその後小一時間程あれこれ議論を重ねていくのであった。


 あとは不在の二人にも話を付けないといけないけど、この調子なら反対はしないだろう。一度は改めて全員集まって話すべきだろうが当面はリヒトさんに任せて俺は他の事に当たるとしようか。


 とにかくもまずはスポンサーゲットだぜ。

次回更新8月20日(木)詳細は活動報告にて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。