第三十一話 はじめてのせんそう(中編)
今回は騎兵を主力にしており、また輸送部隊に所属する人員も荷物の詰まった荷台に飛び乗ってる形なので移動速度は速い方だった。
州都を発ってから三日ほどで地図上ではツアオ平原の端に当たる部分にまで到達出来ていた。
入植どころか道の整備すらも行われてない土地なので、部族側が通ると思われる幾つかの土剥き出しの道を除けば大草原が広がってるだけである。森も丘もなく足首ぐらいまでの長さの草が生えてるだけの。
俺の思い浮かんだのはテレビとかで見覚えのあるアフリカのサバンナだ。
暑さもあってそのイメージが強いというのもある。ただまぁ俺の知ってる野生動物というより魔物が潜んでいそうなのが異世界クオリティなのだが。
地図や偵察でおおよその位置確認を済ませた後、俺は旗下の軍勢に移動を命じた。
付近を数十分程彷徨っていると、南東側を見張らせていた騎兵の一人が報告へやってきた。
「あの先に王旗とレーワン家の紋章の旗を高くはためかせた陣地らしき場所を発見しました」
兵の報告に俺は頷くとすぐさま伝令を走らせて方向転換を指示。旗を立ててるという陣地へ急行した。
さして時間もかからず、俺達は友軍の建設してる陣地前へ到着。そこには約一週間ぶりに顔を合わす昔馴染みの部下もあった。
「坊ち……節令使様お待ちしておりました!御覧の通り、歩兵三〇〇、節令使閣下の私兵部隊三〇はこの陣地内に全ておりますぞ」
「うむご苦労。それで、陣地構築はどの程度進んでる?」
挨拶もそこそこに俺はターロンに問いかける。彼は自分の背後に控えていた兵士の一人を前に通した。歩兵部隊の隊長であり陣地構築の責任者だという。
畏まる相手に俺は頷き返しつつ再度問うてみた。
「節令使様のご指示を受けてからすぐさま取り掛かりましたが、まだ七割といったところでしょうか。柵を立てられるだけ建ててそれに沿うように穴を掘ってというのだけで思ったより時間取られた次第で申し訳ありませぬ」
「いや、ご苦労。人集め含めて十日弱の急場凌ぎにしては最低限の事は出来てて悪くはない。兵士らにも苦労かけさせてるがもう少しだけ頑張ってもらいたい」
恐縮する歩兵隊長を馬上から見つつ俺は傍に居た騎兵の一人に声をかけて輸送部隊の方へ向かわせた。
しばらくして兵士は荷車を曳いた馬を伴って戻ってくる。不思議そうな顔してそれをみる歩兵隊長に俺は再度声をかけた。
「酒と食料を積んである。陣地構築に携わった兵に今晩振る舞ってやれ。それと後日特別手当も支給するので戦が終わった後に参加した兵の名簿を提出するように」
俺の提供に歩兵隊長はしばし声も出ず呆然としていたが、我に返ると声を上ずらせながら謝意を述べ、自分の周りに居た部下らにそのことを大声で伝えた。
瞬く間に伝搬していき、歩兵らは土と汗に塗れた顔に喜色を浮かべて歓喜の声を上げだした。
うんうんこれぐらいでモチベ回復してくれるならありがたいもんよ。口にもしたが最低限の備えは完成してるからあとは持ち込んだブツが上手く設置出来るかどうかだな。
見るからに機嫌良くした兵士らの笑顔に迎えられつつ俺達は陣地内へ入っていく。
陣地の形はいわゆる円陣というものだ。
本当なら時間かけて全軍収容出来るようにといきたいとこだが、三〇〇人で僅か十日ちょっと。しかも塹壕用の穴まで掘らないといけないから無理ゲーである。おまけに長期間運用でなく今回の戦の間だけ維持出来ればいいお手軽系ときたもんだ。
なので陣地内に入ったのは俺を除けば、俺を護衛する私兵部隊五〇、輸送部隊三〇〇と伝令要員として騎兵五〇。残りは陣の周辺にテントを張ってもらい待機ということに。
それでも七〇〇人近くが陣内に居るのでやや人口密度が高めなような気がするが仕方がないだろうな。
中央にある節令使個人に用意されたテント前まで到着して俺は各々に荷物を下ろして小休止した後に集合するよう声をかけて一旦解散させた。
出入口部分を全開にしてる割にやや蒸し暑いテントには簡易ベッドと即席で作られた木製の椅子に小さなテーブルがあった。俺は自分の荷物をベッドの上に放り投げ、椅子とテーブルを外に引っ張り出す。
日陰部分にそれらを置いて腰を下ろしつつ団扇を扇いで風を送る。ここでようやく到着したことで一息吐けれる実感が湧いてきた。
空を見上げると快晴である。晴れるのは悪くないがじっとしてても暑さのあまり汗が流れ出るから勘弁してもらいたいもんだ。
片手で扇ぎながらもう片方の手で革袋に詰まった生温い水を飲み干してると、隣のテントにバイクを停車させたマシロとクロエがこちらへやってきた。
「暑いわねー。火を付けなくても目玉焼き焼けそうなぐらいな暑さまいるわー」
「くくく、灼熱炎熱地獄熱。舞い上がりし炎暑の息吹が地上をパラサイト」
「……言う割には俺らより暑そうにしてなさそうなのはなんでだよ」
俺の質問に直接は答えず、二人は無言で自分の上着の裏側をチラッと見せてきた。内ポケットの中に何か入ってるのでよく見てみると、携帯の薄型充電器みたいなのがあった。耳を澄ますと微かに聞こえてくるプロペラファンを回す音。
「おいそれ携帯扇風機なのか。いやでも手で持つやつとか首にかけるやつは知ってるがそんなのあったか現代日本に」
「多分今はないわねー。これ私のお手製特別性なんだなこれが。ほらほらコンパクトで便利っしょー」
何をサラッと発明してるんだお前は。力だけでなくそういうこと出来るとかなんでもありすぎんだろ。
「もうツッコミこの際置いといて、それ俺にもくれよ」
「悪いなリュガ、この携帯扇風機は二人用なんだー」
「くくく、現世の住人郷に入っては郷に従えし逃れられぬ定めの星よ」
「私達と違ってリュガはこの世界の人間になってるんだからちゃんとそれに合わせたほうがいいよ。と、クロエは言ってるわー」
「そのやりとり春にもやったよな!?見せびらかしにきただけとか張っ倒すぞテメェら!」
「まぁまぁステイステイ。代わりに冷たい飲み物あげるから落ち着いてよ節令使様ー」
そう言ってマシロが木製のコップを差し出してきた。渋面作ってそれを受け取った俺はコップの冷たさに俺は軽く驚く。どうやら先日のように氷魔法(極小)使ってその場で冷やしたらしい。
溜息吐きつつ俺は一気の飲み干した。腹ただしいが先程飲んでたぬるま湯寸前のと違って冷えた水の五臓六腑に染み渡る感は犯罪的である。
俺のそんな姿を見つつマシロは太陽の眩しさに目を細めた。
「それにしてもこんな暑いとこはさっさとおさらばしたいけど、モモっちや平成太郎らは今はどうしてるのかな」
「タイミング良く動いてれば今頃山を降りる準備してもしてるんじゃねーかな。あっちはこちらがここまで準備して待ち構えてるとは知らないから編成とかそこまで考えずに済むし、こっちと違って本拠地は近いから補給の事そんなに考える必要もないしで」
ついでに言えば略奪すればいいとか思ってそうなのでそもそも補給という発想がなさそうではあるが。
この辺りはこちらもというより中世水準の文明だと兵站とか補給の考えが差ほど確立されてないから「あっちよりかマシだ」レベルになるんだけどな。
常に万単位の軍勢動かすようなものでもないので兵站全般は割と雑でもなんとかなってる世界だ。
つまり現地の町や村で買い取るとか略奪とかになるわけでここでの補給というものは。
俺もまだまだ改革始めたばかりなので今回ばかりは集められるだけ集めた荷車に物資を詰め込めるだけ詰め込んだという方法をとっている。それでも精々十日程で食いつぶしてしまう程だが。
それだと不安定さが常に付き纏うので今後を見据えると兵站の整備と徹底管理は軍的にも重要となるだろうから落ち着いたら着手していきたいところではあるな。
まっ、あれだ。やらなきゃいけない事が減る気配見せない現実に頭を掻きむしるよりも今は目前の戦だな。
俺はコップをテーブルに置いて勢い良く立ち上がった。目の端にチラホラと小休止から戻ってきた兵たちが映ってきたから俺もそろそろ動かんとな。
到着から二日が経過した。
あれから俺は兵士らに引き続き陣地構築と相手を罠に嵌める為の餌の準備を命令。主力である騎兵らには大山脈方面を主に周辺偵察を徹底的にさせた。
戦前の情報収集等の準備は基本かつ重要というのもさることながら、これを機会にツアオ平原やその近辺を改めて調査して地図を更新しておきたい。
なにせ今使ってるこの方面の地図は最後に更新されたの二十年近く前とかだったんだぞ。変化に乏しい所だからって手抜きすぎんだろうが。
お歴々の怠慢を内心罵りつつも表面上にはおくびにも出さずに俺は兵らを鼓舞してまわり作業を急がせた。
その甲斐あってか陣地は塹壕として利用可能な穴を円陣全域掘ることが出来た。馬防柵も作らせたが、木材がまったく足りないので一周分用意できただけマシなクオリティ。ある程度は有効だろうが相手側も主力が騎兵でないことをお祈りだな。
俺はそこに州都から用意してきた物を備え付けさせた。
ギルドマスターに平身低頭しながら頼み込んで作らせた品の一つである多発火箭。ロケットランチャーのご先祖様ともいえる火矢の多連装発射装置だ。
理想としてはそれこそロケットランチャーみたいなの欲しいとこだが、今の時代の技術力では無理なのと時間がなかったという点を踏まえて先端に槍を括りつけて火薬の爆発力で飛ばす基本的な火箭にした。
一度試射はやったが大体射程距離は五、六〇〇mとほぼ地球のと同じぐらい。命中精度も似たようなものでよろしくはない。
これを運用するにあたってそれは予想してたので精度に関しては数で補う。出発ギリギリまで納品待ちしていたが完成されたのは五台のみ。
俺はそのうちの四台を陣地の大山脈方面へ設置させ残り一台は反対方向へ設置させた。万が一敵が迂回してきた場合の備えなのだが複数同時発射で使うの前提だからどこまで通じることか。
加えて投石機も三台用意した。こちらは事前に作っていたものを一旦ばらして輸送して改めて組み立てたやつだ。コレで投げるのは石ではなく火薬や陶器の破片詰めた大玉である。
陣地から一㎞ちょっと離れた場所に設置する罠の方はと言えば、こちらは知略というほどでもない単純なもの。物資集積所と見せかけて近寄ってきた連中を爆薬で吹き飛ばすというやつだ。
これで一網打尽に出来るとは思わない。しかし経験した事のない大爆発である程度死傷者出たら動揺するだろうからそこを騎兵使って削っていけば勝てる筈だ。
なので持ち込んだ火薬のうち五〇㎏程はそちらにて使用。
火薬の詰まった木箱のまわりに砂や土を詰めて食料入り袋に偽造させたやつを乗せていく。あまり詰みすぎると爆発力が削がれる恐れあるから配分に気を使ったがどうにか完了して布を被せて周りに柵や天幕など用意してそれっぽく仕上げてみせた。
この二日間はそんな事していてあっという間に過ぎていった。
二日目の昼には最終確認も終えて戦に備えて兵士らは身体を休めだしていた。
そんな中で迎えた二日目の夜更け。その日はやや遅めの簡単な夕食をマシロとクロエ、ターロン他数名の護衛らと摂っていたとき。
あとは本当に相手が来るのを待つばかりであるが果たしてどうなることか。
などと思いながら焚火に当たりつつ食いちぎった干し肉をお湯で流し込んでいるときであった。
「節令使様急報でございます!」
兵士の一人が見るからに息を切らして汗だくな同僚を伴って俺らの所へやってきた。
所属を問うとその兵士は夕方近くに偵察へ繰り出していた一隊の者だった。重ねて方角も訊ねると大山脈へ続く通路方面。
俺はお湯を満たしたコップをテーブルに置いて腕を組んだ。これはもう予感でなく確信だろう普通はさ。
「大山脈の麓に多くの灯りが燈っておりました。おそらくは大人数があの場にて野営してるものと思われます」
思ったとおりの報告だったので俺は驚かずに「そうか」とだけ告げ、ひとまず偵察から戻った兵らには休息を命じて下がらせた。
ようやく来たか。
持ち込んだ物資は行軍時に消費されてるものも含めてだ。なので正直な話もう数日経過してもこなかったら陣地に最低限の人員残して補給のために一旦撤退も視野にいれたところなので待ち望んでいたといえばそうなるわけで。
恐らく連中もモモ達からの情報を貰って少しぐらいは用心してるだろうから夜襲の心配はなさそうとはいえ、明日にでも数を頼んで攻め込んでくるだろう。
ならばこちらも遅くとも早朝には迎撃態勢整えとかないとな。
これをもって恒久的な平和とかいう寝言は言わないが当面の西方の安定を決めていきたいもんだね。
俺はターロンや近場に居た伝令役の騎兵らに陣地の外で野営してる騎兵らの隊長達を呼んでくるよう命令した。
大局的、或いは歴史や戦記小説的には小規模な戦であるが、俺にとっては前世含めて初めての戦争となる。
今までは冒険者と魔物の激突に立ち会ったことは幾度もあるがそれですら双方合わせて百行くか行かないかの数のものだった。今回は規模が十倍以上になっただけとんでもない体験することになる。
戦争と縁がない国で二十六年の生を経てこっちで二十四年の大体は割と平和にやってきたというのに、どうして俺はこんなとこでこんなことをしているのやら。
憮然とした心情が頭の片隅で浮かんだが、同時に浮かんだそれに対する返答が俺のささやかなセンチメンタルな気持ちを粉砕した。
こんなとこでこんなことしないと俺の今後の人生お話にならんからだろうが。いいからキリキリ仕事せいよ。
我ながらこの思考はどうかと思うわぁ。
今後の更新予定に関しては1月30日付の活動報告を読んで頂くようよろしくお願い致します。
次回更新は2月6日(木)の夜予定です。




