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第百ニ話 勇 英雄の憂鬱(後編)

 それからの日々はジェットコースターのように目まぐるしいものだった。


 あの騒ぎの後、王様は「早速我が騎士団でも腕の立つ二人を一蹴するとは流石ですぞ勇者様」と凄く喜んでた。


 そのお陰で俺のちょっとした部屋抜け出しを許した兵士の人達も特に怒られずに済んだらしいので、その時の俺は黙って王様の延々と続く褒め言葉に頷くのであった。


 召喚された翌日はそんな出来事から始まって、そこからしばらくはお城で働く学者の人とか大臣の人とかが入れ代わり立ち代わりやってきては俺にこの世界やこの国の事を説明していった。


 ちなみにレギーナさんとティアさんは出会いのときの騒ぎを切欠に俺の護衛騎士を命じられ、堂々と俺の傍に居るようになった。


 俺みたいなののどこが気に入ったのか分からないけど、強い上にお城の事含めて色々知ってる事を教えてくれるのはありがたかった。


 まぁ俺に意味もなく引っ付いては俺越しに喧嘩するっていうのを日課のように繰り広げるのにはげんなりしてるけど。


 騎士の仕事もある筈なのに張り合うように俺の傍に居る二人に熱い視線注がれつつ俺は覚える事に必死になってた。


 言いたい事は色々あったけど出鼻挫かれてしまったし、自分でも王様達に言ったところで仕方ないぐらいは分かる。


 今は大人しく勇者とかいう立場をやりつつ機会あれば帰り方含めて言っておくべき事は言っておきたいな。


 当時の俺は自分の不幸を嘆きながらもまだどこかで楽観的な考えを持ってたのかもしれない。


 勇者という貴重で凄い立場の人間がちゃんと意見したら聴いてくれる筈。


 勇者ならばこれから凄い力に目覚めていって自力で帰る方法生み出す筈。


 根拠もない願望に縋りついて現実を直視していなかったかもしれない。


 様々な事を学習して、色んな魔物と戦っていき、この世界の人々を知ろうと自分なりにコミュニケーションとって。


 なんで自分なのだろう?


 忙しさで考える余裕もない。という言い訳で思考停止して。


 本当に元に戻れるの?


 勇者という皆を救う立派な立場であろうとする事で自分の当然の嘆きや怒りを誤魔化して。


 このままで本当にいいのかな?


 どこまでが自分の意思でどこまでが望まれるがままでという線引きも不確かなまま日々が過ぎていく現実を漠然としか受け入れてないのに。





 こんな気持ちを抱え続けつつあれから一年が経過していた。


 あっという間でもあるけど体験したものの質量が濃すぎて数年ぐらい過ぎ去った感じすらする変な気分だ。


 まだまだ日本とこの世界のギャップに戸惑ったり悩んだりすることも多いけど、来た当初よりかは慣れてきた自分が居る。


 ただ匂いに関しては瞬間的に反応が顔に出ないようになったぐらいで根本的にはある意味一番困ってる。


 マトモな風呂もなく基本的に大きく深いタライみたいなとこで水浴びか湯あみ出来ればマシ。石鹸もあるにはあるけどなんか油っぽさが強くてイマイチスッキリしない洗い心地。


 それでもレギーナさん達みたいな動き回って汗よく掻くような仕事してる人らは身体洗おうとする意識あるだけいい。特にレギーナさんやティアさんなど一部女性陣は俺の世界の話をしたときに身体を綺麗にする事情を知ってから頻度が上がってた。


 問題は王様達みたいな身分高い人とかなんだよなぁ。


 この世界が俺のとこでいう中世とかそういう辺りの時代で無茶苦茶身分や生活に差があるのは見聞きして直にも感じて知っている。


 普通の人達がお風呂毎日入って当たり前な生活出来るわけないし、だから俺からしたら不潔に思えてもある程度仕方がないんだっていうのは分かるつもり。


 けれど形なんでもいいからお風呂用意できるお金と入浴する時間ありそうな王様とか貴族とかがそうしないのが不思議でならないんだよ。


 気になる都度に質問はしたんだけど「身体から穢れを護る為」「己を甘やかす背徳であるから入るなと司祭殿が言うから」「高貴な者は元々清らかなのだから頻繁に湯に浸かる必要があまりない」と訳の分からない理由が返ってくるだけだった。


 レギーナさん達に訊ねてみると一応全員が全員そういうわけではないらしく、家にバスタブらしきもの置いてる貴族や富豪は居るし着替えをマメにしたりして彼らなりに清潔には気をつけてるらしいんだけど、俺からしたらもう少しなんとかして欲しい。


 あと匂い程じゃないけど食事も最初の頃はあまりにも大味すぎて食欲失せた。今ならインスタント食品でも涙流して貪り喰いそうなぐらいに日本の食べ物恋しい。


 こっちは魔物と戦う回数増えていったり馬や馬車に乗って長距離移動したりと動き回ればその分お腹すくから少しずつ慣れてはいってると思う。


 未だに数日に一回は日本で当たり前のように食べてた物の数々が夢に出てては起きた時にガッカリしてしまうけどね。


 とまぁ適応力とか順応性とかそういう単語と差ほど縁がない普通の高校生にとって嫌だなと思うことが尽きない。


 けど、悪い事ばかりがあったわけじゃなかった。


 この世界でも友達……いや、正確な表現でいうなら仲間ともいうべき人達との出会い。







 まずディクシア・フォン・ラーイトとアリステラー・フォン・レフト。


 ディクシアは今年で十八になる見た目は王道RPGで騎士やってそうな見た目のイケメンだった。


 ただ見た目がそうなだけで性格は貴族と言われなければ気づかないぐらいに陽気でグイグイくるいわゆる陽キャというか。


 俺としてはそんなとこが日本に居た頃の友人思い出させて親しくなる切欠になったというかね。


 なんでもラーイト伯爵家の三男坊だけど跡継ぎになる見込みもないと早々に見切りをつけて騎士の道を選んだという。武芸の才は人並み以上にはあったお陰で去年王宮騎士団の一員に任命されたとか。


 もう一人のアリステラー、通称アリスはそんなディクシアの恋人。レフト男爵家の次女だったがディクシアと同じく家族の中で微妙な立ち位置に居心地悪さ感じて女ながらに剣を手に取って騎士の道に進んだという行動派。


 グリーンの髪をショートカットにした活発そうな見た目を裏切らず恋人と同じくそれなりに才能あったお陰で若いながらもレギーナさんの部下の一人として加わり今に至る。


 そんな二人が俺に話しかけてきたのはこの世界にやってきて一か月弱経過して、確か三回目ぐらいの魔物討伐のときだった。


 少しずつ自分の力を実感していく最中。十数匹の魔物を斬り捨てた直後で一休みにと座り込んでるときだった。


 アイツらはいきなりやってきて気軽そうに片手を挙げつつ名乗り上げてきたんだった。


「こんにちは勇者様!俺ディクシアっていう者なんですけど、ちょっと話したいと思って声かけたんすけど今大丈夫ですか!」


「ちょっとディクシア。あっ、こんにちは勇者様。私はアリステラー。アリスと呼んでくださいね」


「は、はぁ……」


「ではお言葉に甘えてお隣失礼しますね勇者様」


「本当にすみませんねうちのディクシアが。では私も」


 物怖じしない底抜けな明るさ感じさせる笑顔で俺の隣に座り込むディクシアとそんな彼を窘めつつもちゃっかり同席するアリス。


 そんなグイグイくる感じがここ最近(一部除く)悪い意味ではないとはいえ距離置かれてる気分味わってた俺にはなんか笑えるぐらい少し嬉しい事だった。


 なんか久々だなこういう学生同士みたいなノリ。


 思わず頬が緩んだ俺を見てディクシアが目を瞠った。


「おやようやく笑ってくれましたね。勇者様なんだか鬱々としたお顔されるの多かったから」


「……そんなにですか?」


「えぇまぁ俺とアリスは少なくとも護衛の一員に任じられてからずっとお近くに居たからそう見えてたんですけど」


「確かにいきなり知らない世界来てやったことない事色々やらされてますからね俺」


 苦笑を浮かべつつそうぼやくと、ディクシアとアリスは気の毒そうに肩を竦めあった。


「勇者様も大変ですよね。心細いってゆーか、関係ないウチんとこの国で凄い使命背負わされてるっていうか」


「まぁ俺らみたいなのが勇者様の手助けになるか知らねえですけど、愚痴ぐらい聞いてあげますから。なんなら駄弁り相手ぐらい勤めて差し上げますよ」


「また調子のイイ事言っちゃって。まぁ私も彼と同じ気持ちです。私たちの為に頑張ってくださろうとしてるお人の助けに少しでもなれたら光栄ですから」


 気の良さそうな笑顔を浮かべてそう語る二人を俺は眩しさを感じつつも神妙な顔して頭を下げた。


「ありがとうディクシアさん、アリスさん。その気持ちだけでも本当ありがたいですはい」


「あー、俺やアリスの事は呼び捨てでいいですよ。他愛ない話する相手に一々肩ひじ張る必要ないですって」


 陽キャのグイグイくる感じすげぇな。これがコミュ力高い奴の踏み込みか。


 日本に居た時ですら人との付き合い方も平凡だった俺はタジタジになりつつもなんとか彼の要望に応えられた。


「……じ、じゃあよろしく、ディクシア、アリス」


「よろしくされました。じゃあ俺達も勇者様を名前で呼んでも」


「あっディクシアヤバイ。あっちからレギーナ様とトレラン様が怖い顔して走ってきてる!?」


「マジかよあの人ら最近そういう気持ち解放しすぎじゃね!?嫌だねぇ独占欲強すぎたら寧ろうっとおしがられて嫌われるってーのに」


「余計な事言わないの!?ほらなんか聞こえたからか剣に手をかけてるし!?」


 殺気だったレギーナさんと半歩後ろから追いかけるティアさんが接近してきたのをみて慌てふためいて立ち去る二人。


 そんな様子が本当におかしくて懐かしくて。お互い鎧や武器を身に付けてなければ高校生だった頃のノリを思い出させてくれて。


 だからなのかそれ以来俺の方からも話しかけたりして今ではレギーナさんやティアさん除けば一番気の許せる騎士カップルかもしれなかった。







 次にレギーナさんやティアさん以外に俺にグイグイ迫る人がまた増えた。


 あれは召喚されて半年ぐらい経過しての頃に王宮の一角での出会い。


 グレイス・フォン・ホリネスさん。


 アラスト教という宗教の人で聖女と呼ばれる凄い人だという。


 元はホリネス子爵家の令嬢だったんだけど、傍若無人で我儘でと同年代の人達からは「悪役令嬢」と陰口叩かれるぐらい悪い印象振りまいてたらしい。


 見かねた両親がアラスト教の修道院に叩き込んで性格矯正させてもらおうとしたところ、治ったどころか才能開花。瞬く間に頭角を現していって更生完了と同時に聖女の一人に任命される逆転ホームラン。


 色がつきはじめた頃の紅葉みたいな薄めの赤色の髪が印象的な、見た感じは確かに聖女様と思える穏やかそうな見た目の女の人。年齢もレギーナさんやティアさんと同じだとか。


 そんな聖女様も最初は俺に対してちょっと疑いの目を向けてきていた。


「ご無礼お許しくださいませね。ですが、神と信徒の為にこの身この力捧げる者としては直接真偽を確かめねばなりませんので」


 自分達が出会った時の言動を棚に上げてグレイスさんの発言に不快そうに威嚇するレギーナさんとティアさんを宥めつつ俺は彼女と対峙した。


 半年も経過したら召喚された直後よりかは俺に対して疑いの目を向ける人は激減した。


 というより露骨に行動に出したのレギーナさんとティアさんだけだったしね。まぁそれがあったから正面からいちゃもんつける人が出る事なくなったかもしれないけど。


 なので面と向かって俺を怪しんで直接確かめようとしたのは彼女で三人目。


 そして方法も二人と同じくとても攻撃的なものであった。


「その御力が本物か否かをこの場で証明してみせてくださいませ!」


 言うと同時にいつの間にかメリケンサックみたいな籠手を着けた手で俺に正拳突きをかましてきた。


 まともに当たれば鼻は折れるし歯は折れるしで大惨事待ったなし。


 けれどもこの世界で半年も鍛えられてきた俺は召喚初日のように慌てふためくことなくグレイスさんの正拳突きを強く横に払った。


「やりますわね!ですがその程度ではまだまだぁ!!」


 聖女ってなんだっけ?と、とても疑問に思うぐらいにグレイスさんは次々とパンチとキックを俺に浴びせてくる。


 俺はそれを一歩も動かずに右へ左へと払ってあしらう。反撃せず黙って防御に徹しての上で。


 周囲が息を呑んで見守る中、十数度目の拳をいなされたグレイスさんは驚愕と無念に顔を歪ませながら膝をついて床に拳を叩きつけた。


「ここまで圧倒的とは読めなかった!この聖女の目をもってしても!!……くっ、殺せ!」


「いやもうそういうのいいですから。こんな事でしませんから俺」


 半年経過してアリスやお世話してくれるメイドさん達みたいなのが普通だと分かっていても、この世界の腕に覚える系女子は負けたらそう言わないといけないルールでもあるのかという疑問が消えないんですけど。


「圧倒的な力を持ちながらなんと寛大なお心をお持ちになられて。こんな御方を疑った自分の不明を恥じ居るばかりです」


「いやそこまで言う程ではないと思うんですけど」


「ご謙遜を。一歩も動かず私の体術を容易くいなしたではありませんか」


「いや、あれは……」


 だって野外とか百や二百は余裕で入れる広い部屋とかならまだしも、横に数人並んだら防げる狭い廊下の一角だよここ。そんなとこでお互い暴れたら周りに被害出るの目に見えてるわけじゃん。


 更に言えば俺の左右にレギーナさんとティアさん、俺の数歩後ろにディクシア達が居たんだから回避なんて無理すぎるよ。


 だから決してグレイスさんが思ってるようなものでなく、単に踏みとどまって対応するしかなかっただけだから。


 ちゃんと言うべきか否かと数瞬迷った。


 けどそれが隙となった。


 俺が沈黙を破るのを先んじてグレイスさんは俺の手を両手で包み込みつつ熱い眼差しを向けつつこう言ったのだ。


「勇者様。いえ、ヒデオ様。私、貴方様という御方をもっと知りとうございます。無礼を償う形でもよろしいのでぜひヒデオ様の御傍に居る事を認めて頂きたいのです!」


「えー……」


 流れがほぼレギーナさんとティアさんと同じだった。狙ってやってるのかと疑いたくなるぐらいテンプレだ。


 あぁこの人も悪い人じゃないけど物凄く面倒そうな感じの人だ。三人目だよ三人目。


 どうして俺はこうもこういう人にばかり好かれるんだろうか。もしかして勇者という存在はこの世界ではそう運命づけられてもしてるの?


 俺の左右で鬼のような形相で眼前の相手を威嚇してる女騎士団長と女対魔人。昔のワルっぽさを思い出したかのように二人を睨みつける聖女。


 前と左右で渦巻く見えない火花と情念に俺は困惑するしかなかった。





 経験ないような人間関係に翻弄されつつも、それでもこのひと時は勇者という使命に追われる自分にとって大切なひと時だった。


 理由はどうあれ自分なんかを好意的に思って接してきてくれてる人達。


 世界とか国とかそんなのの命運は大きすぎて未だに実感出来ない。だから今の俺を支えてるのは、せめて身近な人たちを守れるぐらいには強くありたいという気持ち。


 なんで自分なのだろう。


 自問自答は止まることなく自分を苛み続けてるけれど。


 それでも自分はこの世界に呼ばれた勇者として何か守りたいと思えるようにはなってきてるから。


 たとえこの先に何が起ころうとも、育んできた想いや仲間達を精一杯守りたい。





 突然異世界に来て色んな出来事を体験して仲間達との出会いがあって。


 去年の今頃には想像出来なかったなぁとか思い出振り返りつつ、俺は先程王様から渡された大きな宝箱を仲間達と自室にて見ていた。


 なんでもヴァイト州という遠い所に居る節令使とかいう偉い地位に居る人が俺にプレゼントとして贈ってきたとか。


 それと同時に俺はそのヴァイトとかいう所で双頭竜とかいうデカくて強いドラゴンを倒してる事になっており、近いうちにSランク冒険者の肩書を貰えることになっていた。


 いやそれ駄目なやつじゃないのかなぁ?


 ドラゴン倒したの別の人なんでしょう?それを俺が勇者だからって手柄横取りとかしていいものなの?


 それ以前に俺が王都とケーニヒ州の各地以外行った事ないの知ってる人は知ってるんだからバレたら問題になるんじゃないの普通。


 俺が素直にそう打ち明けると、レギーナさん達も同意見らしく全員が困ったような顔して腕組んだり額に手を当てたりしていた。


「陛下や宰相閣下らがヒデオの勇者としての評判高める為に行ったのだろうが、確かに道義的には少しばかりな」


「実際少しどころではないですからね。ヒデオ様を快く思わない不逞な輩が攻撃の材料にしかねないものなのは誰の目にも明らか」


「ヒデオさんが悪いわけではないのにこんな事で足の引っ張りあいが行われる可能性生じてしまうのは情けない限りですわ。本当に上の方々は……!」


 三人は苦々しさを隠すことなくこの件に憤慨しており、ディクシアとアリスも口には出してないけどズルさを拭いきれないからか口をへの字に曲げてコメントに困ってる風だった。


 やっぱりこの世界の人達からしてもアウトかこれ。


 けどこうやってプレゼント贈られたと同時に王様がその件を口にしたということはもうコレ決定事項なんだろうな。何が何でも俺を最強の勇者みたいなのにしたくて。


 本当勘弁してもらいたいんですけど。


 確かに自分が他より違って強いのはこの一年で自覚し出したけどさ、こんなプレッシャーかけられるようなことされてもありがた迷惑ってやつだよ。


 されたらされるだけ些細なミスもアウトになりかねないとか無理だから。強くはなっても俺のメンタルそこまで変わってないから。


 まぁもうこうしてプレゼント貰った以上は批判も受け入れろってことなんだろうけど。


 あぁ嫌だ嫌だ。


 深い溜息を吐きつつも俺は鉄製の宝箱の蓋を開ける。


 中に入ってたのはキラキラ光を発する一振りの剣。


 それと一通の手紙だった。


 多分ヴァイト州節令使って人からのか。どうせ剣贈りますので何卒よろしく的な期待に満ちた事しか書かれてないんだろうけどさ。


 興味はないけど礼儀として一応目を通しておこうと手に取って中を開く。


「えっ……」


 そして俺は軽く血の気が引く感覚を覚えたのだ。


 力が抜けていく感覚もしてきた。誰も居なかったら震えながら床に座り込んでたかもしれない。


「ヒデオ?」


「ヒデオさん?」


 レギーナさん達が突然固まった俺を訝しんで声をかけてくるのは聞こえてる。


 けれど、いまの俺には応える余裕はまったくなかった。


 だって、これって。





『前略、イサミ ヒデオくんへ。


 突然こんな世界にやってきて災難だったな。その事に関してはとても同情する。いやホントマジでウチんとこの馬鹿共が申し訳ない。


 だが今の俺にはキミを助けてやる力とかそういうのが無い。せめてもの助けにと剣を贈らせてもらう。気休めでもないよりマシと思って使ってくれ。


 コレとキミの持つ力とやらで頑張って生き延びてくれ。もしお互い無事に生き延びれたら会って話でも出来たらいいな。


 とにかく今は余計な事を考えずに自分が生き延びる事だけを考えろ。この国のロクデナシどもに好き勝手に利用されないよう気をつけろ。


 ヴァイト州節令使 リュガ・フォン・レーワン伯爵』





 漢字、ひらがな、カタカナ。


 懐かしい日本語の文字が並んでた。話を聞きかじった人がなんとなく書いたものではない、古風な感じもない、書き慣れたように読みやすい今風な文字がそこに書かれていた。


 なんで。


 俺の頭の中にはその言葉で一秒ごとに埋まっていく。


 自分以外にも日本人が居るかもしれない喜びもある。


 だけど同じぐらいに、いやそれ以上に「なんで」という動揺が驚きが俺の全身を震わせていた。


 リュガ・フォン・レーワン。


 一体何者なんだ。





 俺がその謎への答えを得るのはまだ先の事。


 そこへ至るまでに俺は地獄を見ることになる現実を俺はまだ知らないでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふと思ったが彼はポテトチップスに遭遇すべき。ぜひ遭遇すべき。リュガ君とこの店で売ってるんだし。
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