王子様は死にたくない
どうしてこうなったのだろう。
ただ、死にたくなかっただけなのに、どうして。
僕はとある国のとある王子。眉目秀麗才色兼備、歩けば貴婦人は振り返り、微笑めば誰もが頬を染める素敵な素敵な王子様。
…という設定のキャラクターだ。僕がプレイしたゲームではそうだった。
僕は乙女ゲーのメイン攻略キャラの王子に転生したらしい。
それに気づいたのは5歳の時、婚約者である悪役令嬢の名前を聞いた時だ。ゲームの世界では学園生活から物語が始まるが、この世界では自分も1つの命。スキップ機能は未実装、インベントリも鑑定もないこの体は、王子として教育を受けてきた。
たしかにこの乙女ゲーは好きだ、すごく好きだ。いくら好きと言っても、攻略対象そのものに転生するなんてついてない。鏡を見ればため息が出るほど大好きな王子がいるが、それが自分となると喜べるわけがない。
ああ、大好きな王子様。乙女ゲーをする男なんて気持ち悪いと言われながらも、貴方に会いたくて僕はスタートボタンを押すのです。画面越しの貴方はキャラクターで僕は女の主人公だけど、それでも僕は貴方を愛しておりました。愛する者と1つになりたいとはいいますが、1つになりすぎです。
そして僕はこのゲームの結末を知っている。
王子は主人公と結ばれない場合、ルートにはよるが暗殺されてしまうのだ。暗殺シーンが辛すぎて、そのルートはそれ以上すすめず、結局僕は王子ルート以外クリアしたことがない。
王子が死ぬとは、つまり僕も死ぬということだ。共に生きれぬなら共に死する方がとも考えたが、自分とは言え王子の体を死なすなど考えられない。あと好きといっても心中はさすがに無理、自分の命かわいい。
それを回避するには、主人公と結ばれなければならないのだ。ルートによると言った通り、主人公が別の攻略対象を選んでも必ず暗殺されるわけではない。しかし、他人と主人公をくっつける工作をするくらいなら、自分がとっととくっついてしまった方が遥かに楽だ。
だから僕は、主人公とくっつくためにこの日を迎えたのだ。
婚約者である悪役令嬢の断罪イベント。一世一代のこの日を迎えるまで、本当に苦労した。
なにせ主人公といったら、無垢で可愛らしいどころか、無知で脳みそお花畑で全く何も学ばない。ゲームであったらそれもキャラ性として好きになれるが、自分と結婚する女がこれかと思うと頭が痛くなる。
悪役令嬢は普通に良い人だし、結婚するなら断然こっちの方がいい。もちろんどっちにも恋愛感情は抱けないが。
自分の命が関わっている以上、そこは我慢しよう。命あっての物種、死んだら元も子もないのだから。
歯の浮くような臭いセリフを頑張って吐き出しながら主人公の肩を抱き、悪役令嬢に婚約破棄を告げた途端、衝撃が広間全体を襲った。
よろめきながら上を見上げると、煌びやかな天井は崩れ、その穴の向こうの夜空に人影が見えた。
「(なんで別ゲーの魔王が乙女ゲーに出てくるんだ!!?)」
まわりが衝撃で固まっている一方、僕は違う意味で固まっていた。
あの魔王は、僕のお気に入りのRPGに出てくる愛しの魔王様その人だ。あまりに愛しすぎて姫なんて助けず延々とラストバトルでダンスってるぐらい、愛しい人だ。
え、王子様?それは違うゲームだしノーカンノーカン。
「待って!!!♡」
その魔王が悪役令嬢をつれて遥か空の向こう側へ飛び立つとき、思わず叫んでしまった。待ってくれるわけもないが、愛しいキャラを見たらそう言ってしまうのは仕方がないだろう。ああ、いっそ悪役令嬢に転生したかった。
どのみち悪役令嬢には退場してもらうのだ。それが処刑だろうと追放だろうと誘拐だろうと、変わりはない。あとは王子と主人公がくっついてハッピーエンド、僕の生存確定ルート。騒ぐ騎士たちに助けは必要ないと告げると、僕の頬に強烈な痛みが走った。
「あたしが助けにいきます!」
そう叫んだのは、僕をゴミを見る目で見下ろす主人公だった。まわりの制止も聞かず一人城を飛び出す彼女に唖然として、そして悪寒が走った。
このままだと主人公と結ばれない。
つまり死ぬかもしれない。
すぐさま主人公の後を追いかける僕は、神に叫んだ。
ただ死にたくないだけなのに!!
これにて乙女ゲー異世界転生してきた4人のお話はおしまい。
ただそれぞれの心境を描きたかっただけなので、特に続きは考えていません。
数ある『異世界転生』で『乙女ゲー』で『悪役令嬢』な小説の中から、この作品を読んでくださった方に感謝いたします。